会話にずれが生じている
調べれば調べるほど、シシリアのわがままには理由がちゃんとあった。
むしろ、子供の視点だからなのか、大人の私達が気が付かない事に気が付いて、それをわがままということで解決していた。
「すまなかった」
「……何をいきなり謝っていますの?」
わがままが過ぎると何度も怒鳴ったことを詫びたくて、家に帰ってすぐにシシリアに会いに行くと頭を下げた。
「君をわがままと言って悪かった」
そう言ってもシシリアは首を傾げてきょとんとし、しばらく考え込んでハッとしたように目を大きく開いた。
「べ、べつにわたくしは旦那様が娼館に行くことが嫌と言っているわけではありませんのよ!」
「は?」
「ただ、その節度をわきまえてくださればと、それを旦那様がわがままと思っていらしたのは残念ですが、わかってくださったのならいいですわ」
娼館とか八歳前の子供が言う言葉ではないと思うのだが、私の妻として母上やマリティア様に色々教えられているらしいからそのせいだろう。
母上もだけど、マリティア様は元王女という事もあって教養や気品もさることながら、何も知らない顔をしながら政治や政情を把握していたり、色々な裏事情を隠していたりするから侮れない。
よく考えれば、シシリアは国王陛下の姪姫であり、息子しかいない国王陛下に可愛がられている姫君でもある。
「……なんで私なんかと婚姻したんだろう」
「っ! な、なんですの? 離婚なんてしませんわよ! 旦那様はわたくしを愛して大切にしてくださらないといけませんの!」
思わず口に出た単語に、大きく見開いた目が潤み始めている。
なんだかんだ言っても八歳前の子供に私は何を言っているんだ。
いや、本気でどうして婚姻したんだろうとは常々思ってはいるが、家の勢力バランスとか政略とかもあるんだよな。
とはいえ、どう考えても婚姻するには早いと思うけど、シシリアのひいお婆様、つまり前々王妃様が五歳で嫁いでいるという前例があるからと押し切られてしまった。
この婚姻もわがままだが、なんか理由があるのだろうか?
王子の婚約者になるのを嫌がっていると言われたが、シシリアの事だからもしかしたら他にも理由があるのかもしれない。
「何か言ったらどうですの? それともやっぱりわたくしのような子供はいやだと今更いうつもりですの? 絶対に離婚なんかしませんわよ!」
「大丈夫だ、そんなこと考えてないから」
「ほ、本当ですの?」
「ああ」
「ではどうして急に……」
「いや、今まで私も周囲にいろいろ言われて君を誤解していたと反省したんだ」
「誤解と言いますと?」
「君がわがままだと誤解していた」
「誤解なんてないと思いますけれど、でも、旦那様が浮気についてご理解くださってよかったですわ」
「君はどうしてそっち方向に話を持っていくんだ」
どうにも話に齟齬が発生しているように思えてならない。
「旦那様の性欲を解消することは白い結婚のわたくしには無理だから、娼館に通うという話ですわよね。家のメイドなどに手を付けないのでしたらわたくしはかまいませんわ」
「は!? メイド!?」
「ナターシャというメイドが旦那様に秋波を送っているとお義母様に聞きましたわ。もっとももう解雇されて居りますけれども」
「そう言えばそんな名前のメイドがいたような気もするが、メイドに手を出すなんて面倒な事はしないさ」
「でしたらよろしいですわ。今後も娼館はともかく、メイドなどの奉公人に手を出さないようにしてくださいませね」
はあ、何をどう話しても私の性事情の話になってしまうな。
「……もしかして、自分が子供だという事を私が思っているよりも気にしているのかい?」
「当たり前ですわ。いまさら何を言っておりますの? 旦那様との年齢差は婚姻した時からわかっておりましたわ。ですから、娼館通いの事もわたくしは広い心で受け止める覚悟で居りますのよ」
「そ、そうか」
とりあえず、シシリアとはもっと話し合う機会を作るべきだな。
本当に、色々と話し合わないといけなさそうだ。




