捕まるのは業腹だ
自称聖女の神聖名は、marrie reincarnation。
marrieは平民によくある神聖名だが、reincarnationは違う。生まれ変わり、再来、転生などの意味を持つこの言葉は、この国では別の世界から来た者の意味を持つ。
異なる世界から来訪せし者は、混乱と滅亡と、ときに繁栄をもたらす。
かつてのリインカネーションは、世界中で遭遇即殺の対象だった。現在もうかつに動くと一瞬であの世へ送ってもいいと思われている国もあるらしい。
幸運なことに我がぽややん国、もといコランダム王国では御伽噺の登場人物ぐらいの認識である。
いつの時代かの”名読み”が即殺はあまりに酷いと思ったようで、リインカネーションとは別にリンカネーションと発音するようになった。実際は同じなんだけど、イが入ってない方はこの世界に馴染んでるとか何とか言い募ったらしい。
おかげで発見即時殺害はやらなくなったようだが、代わりに発見次第、各国に通達の上、死ぬまで監視対象に。
どこへ行くにも兵隊さんがぞーろぞろついてきて、リンカネーションと丸解りの状態になってしまう。
「でも助かったよ。僕の力は貴族にしか通じなくてね」
また王城に戻ってきてしまいました。場所は王弟様のお部屋です。
王弟毒殺未遂、本当は王弟(偽)睡眠薬で寝ている間に誘拐事件は無事に幕を下ろしたようです。
聖女ちゃんは、監視対象に名を連ねると供に、なぜか王城で貴族へのお仕事割り振りと作業補助をすることになったようです。取り巻きはしばらく監視の上、通常業務を続けるようです。
今回は、貴族の事を思い余った末の犯行であり、一度の過ちで人としての将来を奪うのはうんぬんかんぬんとかでこうなったようです。大臣さん含め、皆さん反省してやらかした相手に誠心誠意土下座の上、賠償等々されたとか。
それで許されちゃうとか、さすがほわほわぽややん国! 87年ほど牢屋を使用していない実績は伊達じゃない。
「君がかつて居たであろう世界に比べれば、ここはずっとお手軽らしいからね。四則演算? できれば平気だし」
聖女ちゃん、四則演算できてよかったね。
そして大捕物になったのは、主犯格の聖女ちゃんが平民のせいでサトリが発動できず、面倒なので一網打尽を狙った為とか。何という巻き込まれ損。
「元同郷人がご迷惑おかけして申し訳ありません………」
正直、殺されるかと思ったが大丈夫だった。むしろ転生者の件、王弟様以外にバレてない。
王弟様が語るに、王弟というのはある種の役職だそうな。
特殊部隊を率いる人に王の弟という役職が付与されるらしい。
王族軽いなぁ……。
「やっぱり女の子はいいよね。男だと、どうしても権力やら武力やらにときめいちゃって、めんどくさい事しようとするしさ」
ほっぺたを膨らませながらお茶を飲むというリス並みの妙技を見せる王弟様。何となくだけどサトリ系を王弟に抜擢してる気がする。教会所でもパルブンテの時も精神干渉系はいないと聞いてたのになぁ。
あと、窓の外から熱く見守るお嬢さんたちは逃げたほうがいい。
愛玩動物の真似をわかっててやってるあざといさんだから、絶対地雷。
「そういえば、君って本名名乗ってないよね?」
ギクっとする。それはトップシークレット。だめ、考えちゃだめだ! 相手サトリ!!!
yggdrasill everyone's-godmotherとか絶対教えん。つか、なげーよ!
「へぇー、リインカネーションは入ってないんだね。君は神聖名にマザーが入ってるんだ。どういう意味?」
やばい、英語読める!?
「どこの国も平和なのにさ、良かれと思ってなんだろうけど、リインカネーションは色々しでかしてくれるよ。逆にきな臭くなったらリインカネーションが発生したって直ぐに分かるよね」
くっそ王弟様かたくなにリ"イ"ンカネーションって言い続けるなぁ。
そんなことよりマザーを知ってて意味知らないとかありえない! 今すぐ去んでください!
今こそ我に最強の力を!!
「サトリって何? 今度ゆっくり教えてね。大事な仲間になるんだし」
は? 今何を仰いましたか? 名読みの仕事だけでも膨大なのにさらに特殊部隊に入れと?
「正直にリインカネーションだって言ってもいいんだよ」
くっそ。こいつがラスボスだったか。
とりあえず知らないだろう単語をチョイスして、思考は速めに。
読み取り速度が追いつかない勢いで考えれば何とかならないだろうか。
必死でサトリへの対抗策を考えていたら王弟様がクスリと笑った。
「その反応は初めてだな。なかなか好感だから、名前教えてよ」
「嫌です」
いやです。godmotherとか名前が強そうすぎて嫌だ。
あと、サトリってか、精神干渉系に本名とか危ないフラグしか見えない。
ともあれ国としてふわふわでもボロボロでもサトリがいれば何も問題ないよね。今までサトリ系統を使って要所をちゃんと押さえてたんだね、この国!!
「この国のこと、憂いてたよね?」
それとこれとは全く別である。現時点で最早憂いはなし!
君子危うきに近寄らず。
「ふーん? まぁいいや。この力が何かわかっていて逃げようとしないのは本当に面白い」
ひどくご機嫌に、軽やかな足取りで動き出した王弟様が、退出してくれるのかと思って警戒しなかったのがまずかった。
「僕、できる子なんで」
そういって私の唇をペロっと舐めてきた王弟(”様”とかもう必要ないだろ!)は今すぐ星の彼方にまで吹っ飛べばいいと思う。
「今度は君が王妹になるかもね。そうなれば君もダイアモンドでおそろいだね?」
何それ? 結婚したら同じ苗字になるよね的な意味なの? ホントに吹っ飛ばしてやろうか。むしろ跳べ。
月に1度以上隕石が降ってくる世界は全然イージーモードでもぽやぽやでもなかった。むしろ緩急がありすぎて気を抜いていた自分が恨めしい。余裕のときこそトラップを疑わないといけなかったのに。
「妖女が嫌なら今代は名読みの熟女にすれば?」
さしあたり真の切り札を切るなら今かな。
うん、きっと許されるはず。
amber=琥珀:天然樹脂の化石(摩擦帯電)
jet=黒玉:水中で化石化した樹木
ice-monster=樹氷の異称
diamante:スペイン語等でダイヤモンドのこと
diamond=ダイヤモンド:炭素同素体の一種
yggdrasill=ユグドラシル:世界樹
godmother=名付け親等の意味があるが、主人公は意味をしらなかったのでゴッド姉ちゃんやウルトラマンの母的なニュアンスで嫌がっていた。




