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異世界アプリgate -異世界に行き来して成り上がる -  作者: 白い鴉
第三幕

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27/27

27.GETEの真実

 夜明けに異世界に戻ると、ガルドが宿の前で腕を組んで立っていた。


 誠の顔を見て、短く言った。


「無事でしたか」


「無事です。向こうにいました」


「囮のスマホは持っていかれましたか」


「確認します」


 部屋に入ると、テーブルの上に囮のスマホはなかった。持っていかれていた。


「持っていかれました」


「……偽物だとバレたでしょうか」


「まだわからないはずです。使用できなければ、そこで初めて疑います。ただし鍵がかかっているということにしてあるので、少し時間がかかると思います」


「その間に何をしますか」


「DECTECTを試します」


 誠はGATEを開いてDECTECT機能を確認した。昨夜解放されたばかりの機能だ。


 説明文を読む。「APPRAISEで取得した情報を元に、対象の現在位置をリアルタイムで追跡できます。追跡対象は最大五名まで登録可能」


 ヴィラン・ハルクはすでにAPPRAISEで情報を取得していた。試しにDECTECTの登録画面を開いて名前を入力すると、登録完了の表示が出た。


 MAPを開く。王都の地図に、一つの新しいアイコンが光っていた。


「……ヴィランさんの位置が見えます」


「本当ですか」


「王都の東側。宿に戻っていますね」


 ガルドが少し目を細めた。


「それは、ずっと追えるということですか」


「登録している間は追えます」


「便利すぎますね、その道具」


「…本当に」


 誠はDECTECTに他の工作員も登録できるか試した。ヴィラン以外の工作員はAPPRAISEで取得していないので登録できない。今後、接近できれば追加できる。


  ◆


 その日の昼、誠はアリアに相談した。


「少し調べてほしいことがあります」


「なんですか」


「先人の転移者について、ギルドの古い記録に何か残っていないですか。百年ほど前の記録です」


 アリアが少し驚いた顔をした。


「……先人の転移者というのは」


「伝承に出てくる、異界の知識を持った人物のことです。王都の古書店にそれらしいものを見た気がするので」


「ギルドの記録については確認できます。ただし百年前となると、保存状態が良くないかもしれません」


「構いません。どんな断片でも」


「なぜ今、それを調べるんですか」


 誠は少し考えた。


「帝国との件で、ある仮説が浮かんでいます。先人がいればその記録と照合すると、何か手がかりが出るかもしれない」


「わかりました。調べてみます」


「もう一つ、一人で探すより、詳しい方がいた方が速いですね。誰か詳しそうな人いませんか」


「エレナさんの方が詳しいと思います。連絡を取ってみてください」


  ◆


 その午後、エレナと一緒に王都のいくつか古書店を訪ねた。


 北区の路地裏にある、小さな店だった。看板もない。エレナが知っている店らしく、迷わず入った。


 店主は七十代の老人だった。エレナと顔見知りらしく、にこやかに迎えた。


「エレナ様、珍しい。今日は何をお探しですか」


「百年ほど前の記録を探しています。特に異界の者に関する記述があるものがあれば」


 老人が少し考えた。


「……そういうものが一冊あります。ずっと売れ残っていた本ですが」


 奥から持ってきたのは、羊皮紙を綴じた薄い冊子だった。カバーに文字が書いてある。カメラで翻訳すると「東の賢者の記録・写本」とある。


「写本ですか」


「はい。原本は別の場所にあるようですが、これは写したものです。百五十年ほど前に作られたと思います」


 誠はページをめくった。カメラの翻訳を使いながら読んでいく。


 内容は、ある旅人の記録だった。その旅人は「東の果て」から来たと言い、見慣れない道具を持ち、様々な知識を持っていたと書いてある。


 誠は少し前のめりになった。


「エレナさん、これです」


「どんなことが書いてありますか」


「大飢饉の時代に現れたこと、荒れた土地でも収穫できる農法を教えたこと、食料の保存方法や輪作の概念を広めたこと……」


 誠は読み進めた。


 後半のページに、こんな記述があった。


「賢者は言った。『私は遠い世界から来た。この世界に何かを残したいと思った。しかし私の力には限りがあり、長くはいられない。次に来る者のために、これを記す。急ぐな。焦れば失敗する。信じられる人間を作ることが、全ての基本だ』」


 誠は少し止まった。


「次に来る者のために」


 エレナが隣でその文字を見ていた。


「……田中さん、これは」


「先人が残したメッセージです。次の転移者に向けた」


「つまり、田中さんはこれを読むことを想定されていたということですか」


「そうかもしれません」


 もう一ページめくると、最後の記述があった。


「私は今日、この世界を去る。道具はもう使えなくなった。しかし道具が消えても、私がここで作ったものは残る。それで十分だ」


 道具が使えなくなった。


 誠はその言葉を読んで、少し考えた。


 先人もGATEのような道具を持っていた。しかしその道具は最終的に使えなくなった。


 GATEも、いつか使えなくなる可能性があるということだ。


「田中さん」


 エレナが静かに言った。


「この記録の旅人、田中さんと似た部分がありますね」


「どこがですか」


「困っている人の前に現れて、現地にない知識を使って助けた。田中さんも同じです」


「私は商売でやっていますが」


「動機が何であれ、結果は似ています」


 誠は少し考えた。


 農業の知識で飢饉を救った先人。衛生品と商業知識で王都を変えようとしている誠。分野は違うが、現代の知識を異世界に持ち込むという点では確かに同じだ。


「……偶然ではないかもしれません」


「田中さん、あなたはここに来るべくして来たのかもしれません」


「それは少し大げさな気がします」


「そうでしょうか」


 誠はもう一度、最後の記述を読んだ。


「急ぐな。焦れば失敗する。信じられる人間を作ることが、全ての基本だ」


 信じられる人間を作ること。


 アリア、エレナ、ガルド、ミラ、ヴェルノ、オーレン、セン・ファル、さやか。


 誠の周りには、今それだけの人間がいる。


 先人のハジメは、それを作れたのか。飢饉の中で、信じられる人間を作れたのか。


「店主さん、この冊子を買いたいんですが」


「構いません。ただし値段は少し張りますよ」


「いくらですか」


「銀貨五十枚です」


 五万円相当。高いが、惜しくない。


「買います」


  ◆


 宿に戻って、ガルドとミラに記録の内容を伝えた。


 ミラが目を丸くした。


「つまり、田中さんの前にも同じような人がいたということですか」


「そうです。百五十年以上前に」


「その人はどうなったんですか」


「道具が使えなくなって、この世界を去ったようです」


「去ったというのは、死んだということですか」


「戻ったのかもしれません。どちらかは書いていません」


 ガルドが低い声で言った。


「旦那の道具も、いつか使えなくなりますか」


「可能性はあります」


「その時はどうするんですか」


 誠は少し考えた。


「その時はその時で考えます。今はまだ使えるので」


「……それはそれで、旦那らしい答えですね」


「あまり先のことを考えても仕方ないので」


 ミラが尻尾をぱたぱたさせた。


「でも田中さん、一つ気になることがあります」


「なんですか」


「帝国の件と、先人の件は関係があると思いますか」


「考えていました。帝国が田中さんの道具に強い関心を持っている。その道具と似たものを、百五十年前に先人が持っていた。帝国はその記録を持っているかもしれません」


 ガルドが言った。


「帝国の建国神話に、空から降りた賢者の伝説があると聞きました。エレナ令嬢が言っていましたよね」


「そうです。もしその賢者が先人と同じ存在なら、帝国は百五十年以上前からその記録を持っていることになります」


「つまり帝国は、田中さんが先人と同じ存在だと気づいている可能性があるということですか」


「あるいは気づきかけている」


 ミラが少し真剣な顔をした。


「田中さん、それは危ないんじゃないですか」


「危ないです。ただし、帝国が気づいているとすれば、なぜ今まで強引な手を使わなかったのかという疑問もあります」


「なぜだと思いますか」


「道具の機能を理解したいから、だと思います。道具を奪っても、使い方がわからなければ意味がない。だから観察して、研究して、理解しようとしている」


「……それが経済工作の本当の目的ですか」


「一つの目的かもしれません」


  ◆


 翌日、アリアがギルドの古い記録を調べた結果を持ってきた。


「百二十年前の記録に、一件だけ関連する記述がありました」


「どんな内容ですか」


「当時のギルドマスターが残した日誌の写しです。内容は、東から来た旅人が大飢饉の際に農業の知識を持ち込んだという記録で、その旅人は数年活動した後に突然姿を消したと書いてあります」


「数年、ですか」


「はい。その間に輪作の方法と、食料の長期保存の技術を広めたと書いてあります」


 輪作と食料保存。誠が広めたものとは違う。しかし現代の知識を使って人々を助けたという点では同じだ。


「その旅人の名前は書いてありましたか」


「……ハジメという名前が出ていました」


 誠はその名前を聞いて、少し間を置いた。


「ハジメ、ですか」


「はい。そう書いてあります」


 誠はしばらく何も言えなかった。


 エレナが隣で小声で言った。


「田中さん、同じ名前ですね」


「……同じです」


「偶然ですか」


「……わからないです」


 アリアが少し不思議そうな顔をした。


「田中さん、何か思い当たることがありますか」


「少し。整理が必要です」


 誠はSTORAGEに今日の情報を入力した。先人の名前はハジメ。百二十年前に活動。飢饉の時代に農業知識を広めた。数年後に姿を消した。


 GATEは誠のスマホに突然現れた。誰が作ったかも、なぜ現れたかも不明だ。


 しかし、先人も同じ道具を持っていて、同じことをして、道具が使えなくなって去った。


 そして名前が同じだ。


 誠は少し天井を見た。


 これは偶然ではないかもしれない。


 GATEが誠に与えられた理由が、先人の「続き」をするためだとすれば、GATEはそのために設計されたことになる。


 「次に来る者のために」


 先人のメッセージが、また頭の中で響いた。


  ◆


 その夜、現代のアパートで誠はさやかに電話した。


「少し聞いてほしいことがあります」


「どうぞ」


「今日、面白いものを見つけました。百五十年以上前に、私と同じようなことをした人間の記録です」


「同じようなことというのは」


「異世界に行って、知識を広めた人間です。飢饉の時代に農業の技術を持ち込んで、多くの人を救ったようです。そしてその人間の名前がハジメというんです」


 電話の向こうで、さやかが少し黙った。


「……ハジメ、ですか」


「そうです。日本語っぽい名前です」


「それは……どういうことだと思いますか」


「わかりません。偶然かもしれないし、そうじゃないかもしれない」


「田中さんが二人目以降の転移者というですか」


「可能性としては、そう考えられます」


 さやかが少し間を置いた。


「田中さん、それって怖くないですか」


「怖いというより、不思議な感じがします。自分が何かの続きをさせられているような」


「でも田中さんは、自分で選んで動いてきましたよね」


「そうです」


「だったら、GATEが何を意図していたとしても、田中さんがやってきたことは田中さんのものだと思います」


 誠は少し間を置いた。


「……さやかさんはそういうことを、すっきり言いますね」


「田中さんが難しく考えすぎるので」


「そうかもしれません」


「先人のことは、これからゆっくり調べればいいじゃないですか。今は帝国の件があるんでしょう」


「そうですね」


「田中さん、一つだけ聞いていいですか」


「どうぞ」


「先人の記録に、最後はどうなったか書いてありましたか」


「道具が使えなくなって去った、とだけ書いてありました」


「……田中さんの道具が使えなくなったら、どうしますか」


 誠は少し考えた。


「その時はその時で考えます。ただし、今はまだ使えます」


「使えなくなる前に、やりたいことはありますか」


「たくさんあります」


「全部やってください」


「努力します」


「努力じゃなくてやってください」


「……わかりました」


 さやかが少し笑った。


「おやすみなさい、田中さん」


「おやすみなさい、さやかさん」


 電話を切って、誠はGATEを見た。


 先人のハジメは道具が使えなくなって去った。誠はまだ使える。


 では今、何をすべきか。


 先人のメッセージが答えになっている気がした。


「急ぐな。焦れば失敗する。信じられる人間を作ることが、全ての基本だ」


 信じられる人間は、もう十分にいる。


 あとは、急がずに動くことだ。


 誠はノートを開いた。


 明日からやることを書く。DECTECTで帝国工作員の動きを把握する。帝国との交渉の場を作る。貴族ルートの販売を続ける。特区の設立を進める。


 そして先人の記録を、もう少し深く調べる。


 帝国の建国神話に「空から降りた賢者」がいるなら、帝国はその記録を持っているはずだ。帝国の中に、先人のことを知っている人間がいる。


 そこに繋がる糸を引けば、GATEの謎に近づけるかもしれない。


 めんどくさい。


 でも、気にならないかといえば、嘘になる。



─────────────────────────────────────────

       次話予告:第28話「帝国への潜入」

     DECTECTで把握した帝国工作員の動きから、

     帝国内部の連絡拠点が王都にあることが判明する。

     エレナとともに、誠は帝国の急所を探しに動く。

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