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境界の娘 ~人ならざるものと生きていくのも楽じゃないけど、それなりに楽しくやっています~  作者: 狐のボタン


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籠の鳥



ほっとする温かさと落ち着く匂いを朧気な意識の中感じていたら、唇に触れる柔らかい感触。

”子狐丸…“そう声に出したかったけど塞がれてて…。


「瑠璃、大丈夫?」

重たい瞼を開くと私好みの美形がこちらを心配そうに覗き込んでた。子狐丸に膝枕されてる…。

「…ごめんね、ありがと」

気恥ずかしさでなんとかそう答えるのでいっぱいいっぱいだった。

「無茶し過ぎ! 妖力減ってたの自覚してたでしょ?」

怒られました…。心配かけたのだから無理もないね。

「でも…私ができるのはあの方法だけだったの」

「瑠璃らしいよ…。僕も全部見てたし、聞いてたからね。瑠璃が気を失っている間に説明しといたから」

「ありがと。さすが子狐丸だよ」

今は帰りの車の中で、もうすぐカフェにつくらしい。


「お、起きたか! ったく無茶しやがって。でもよくやった!」

雪乃さんも褒めてくれた…。よかったぁ…。

「迎えも呼んでおいたから、帰ったらゆっくり休め。 明日は紗千が迎えに来るんだろ?」

「そうですね、お約束しましたし…」

お世話になったお礼を伝えるためのご挨拶だから、すっぽかすわけにいかない。



カフェに着くと既にアヤメさんが迎えに来てくれてて、すぐに車を乗り換える形で帰宅。

運転手さんは知らない女の人で、私がぐったりとしていたせいで挨拶もできなかったけど、また会えるよね。

「お嬢様、あまり無茶をなさらないでください…」

「ごめんなさい…」

いつの間に情報が?怒られてばっかりだよ私。



今日はアヤメさんが夕食を用意してくれてたから美味しく頂いたあとお風呂でゆっくりして、自室へ。

ちょうどアヤメさんが別の部屋に行ってて居なかったから、子狐丸を部屋に招き入れた。

「子狐丸、今日は心配かけてごめんね。 約束した通り話そっか?」

「うん。話すだけ…?」

えっとそれは…内容次第といいますか…。話し合いの結果次第というか…。


「瑠璃、どうしても辛い?」

「うん…。正直二度と経験したくないくらいには…。 でも! いつまでもそう言ってられないのもわかってるのよ…?」

「僕も無理にしないって約束したから、瑠璃が本当に嫌なら我慢するよ。でも、今日みたいに妖力を使うなら考えないと、また倒れたりするよ」

「だよね…。まだ自分がどれくらい妖力を使っても平気なのかわからなくて…。強く願うと使い切っちゃう勢いで減ってるみたいなの」

「強い力を使えば相応の妖力が消費されるけど、確かに瑠璃は消費が激しいね。燃費が最悪」

そこまでですか…。でも実際倒れてるからそのとおりなのかも。


「使いたい力に合わせて消費する妖力を調整する訓練が必要かもしれないね」

「それってどうやるの?」

「いくつか方法はあるけど…」

「お嬢様、おみえですか?」

「は、はい!!」

アヤメさん!? どうしよう、咄嗟に返事してしまったけど、子狐丸を隠れさせる?でもどこに!?


悩んでるうちに扉を開けてアヤメさんが入ってきてしまい…。

私が”はい"って返事しちゃったもんね。


「子狐丸様、昨晩も申し上げましたが…」

「アヤメさん、私が話をしたくて部屋に入れたの! だから子狐丸を叱らないで…」

「わかりました、お嬢様がそう仰られるのなら…。ですが、そろそろお休みのお時間です。子狐丸様もご自分の部屋へお帰りください」

「はぁ…。わかったよ。 瑠璃、また明日ね」

「う、うん…」

あっさり引き下がったね、子狐丸…。少し意外。



子狐丸が部屋を出ていったのに、アヤメさんは私の部屋に残ったまま…。 何か私に用事だった?

「お嬢様、いくら子狐丸様とはいえ殿方をこのような時間に寝室へ招き入れるのは褒められた行為ではありません。いいですか?お嬢様は九城家の次期当主様です。来月には宗家継承の儀式を控えておられ…」

「子狐丸は恋人です! 今まではいつも一緒に寝てましたし…」

「今までは今までです。これからはお控えください。そもそも年頃のお嬢様が…」

「うるさいなぁ…! 私の勝手でしょ?ただ話をするために子狐丸を部屋に入れてアヤメさんに迷惑がかかるの?」

どうしてそこまで指図されなきゃいけないの?本当に話をしてただけじゃない。何もやましいことなんて…

「……お嬢様、失礼します」

アヤメさんは謝ったあと、私の頬を平手打ちした。


なんで…?どうしてぶたれなくてはいけないの?

…両親と変わらない。結局どこにいても私はこんな目に合わなくてはいけないのね…。


「お立場をお弁えください。お嬢様は九城家の次期ご当主様という尊きお方です。軽々しく殿方に心を許すなど言語道断です!」 

「………」

私にとって信じられるのは子狐丸だけだった。なのに…九城ではそれさえ許されないと言うのね。 

当主なんて望んでなるとでも思ってるの?東雲にいた時は疎まれて、次はまるで九城に囚われた籠の鳥。挙げ句またぶたれて…。

私が何したっていうの!?


もういい。九城なんて知らない。

「子狐丸!! 来て!」

「お嬢様!? 何をなさるのですか! 手を上げたのは謝ります! ですから…」

「うるさい!!」

「瑠璃!? どうしたの?」

すぐに来てくれた。子狐丸…。

「ここから連れ出して! もう九城なんて知らない!」

「瑠璃…」

「子狐丸…?」

「ごめん…それはできないよ」

え…?今、なんて言ったの?

「子狐丸…? なんでよ!?」

「僕は九城の家に伝わる刀なんだよ?」

ああ…。子狐丸も私が九城だから…だったんだね。当然か…。

「そう…。わかった。 もういい…」

「瑠璃?」

「お嬢様!」


二人を突き飛ばすように部屋を飛び出し、そのままエレベーターホールへ向かう。

無駄に広い部屋のせいで玄関までどれだけ時間かかるのよ! ホント意味わかんない。

こんな部屋大っきらい!!

 

ようやく玄関にたどり着き、エントランスへでてエレベーターのボタンを押す。この階専用みたいなものだし、当然この階に止まってるからすぐに乗れる。

「瑠璃、まっ…」

子狐丸の声が閉まるエレベーターの扉に遮られ、エレベーターはどんどん下へ。


扉が開いた先は地下駐車場だけど、車が出れるのなら人が出られないわけがない。

車に乗りながら見た景色の記憶を頼りに出口に向かうと、シャッターが…。

なんなのよ! どこまで私の邪魔をするの?

「開いてよ!!」

そう叫んだらシャッターがひしゃげるように弾け飛び穴が空いた。

妖力でこんな事も出来るんだ…。


外へ飛び出してアテもなく走る。

あんな場所にいるくらいなら外のがマシ!


でもどこに行こう…妖魔界? だめだ…あそこは子狐丸も来れるし、よう子ちゃんもいるから確実に子狐丸に伝わる。


じゃあ…迷い家?


子狐丸は言ってたよね、私が願えば何でも叶うって。迷い家さえ抗えないと。

「シキ! 私をそっちに連れて行って!! お願い!」

そう叫んだ瞬間、目の前に広がるのは境界。ありがと、シキ。


「瑠璃!! どこに行くの!」

なんで追ってくるの?見捨てたくせに。

「…さよなら、子狐丸…」

何か子狐丸の声が聞こえたけど、もうその声に私を引き止める力はなかった。

だってあの子は、迷いもせず私じゃなく九城を選んだんだもの。








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