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境界の娘 ~人ならざるものと生きていくのも楽じゃないけど、それなりに楽しくやっています~  作者: 狐のボタン


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季節はめぐり想いもめぐる



こちらに移住してかれこれ数カ月が経過。カレンダーがないからはっきりしないけど一年はたってないと思う。秋の紅葉と冬の雪も見て、そろそろ桜が咲きそうなくらい温かくなってきた。


この数カ月の間に何度も境界がひらいて、私ができるお仕事もしたし、毎日のように子狐丸から妖力を貰って訓練もした。

扱い慣れれば物語の魔法のように便利なものではあるけど、自力で妖力の回復ができないから、やれることは限られる。それでも便利は便利なのよね。影に洗濯物とか家事を手伝ってもらったりとか…。



この数カ月の間、子狐丸とも多少の口喧嘩くらいはしても、仲良くやってきてる。

海での出来事があってから子狐丸も無茶はしなくなったし、言えばちゃんと休みもくれる。


我慢させてしまってると思うのだけど、前みたいに倒れるほど辛い、みたいな様子もなく。

もしかして飽きられた?…ううん、いくら何でもそんなはずないよね?

でも、あれだけ我慢できなかった子狐丸が落ち着いてるのは…。まさか外で?

だとしても私に負担をかけないためにって理由なら責められないし、うーん…。


考え事をしていたら、庭で鍛錬をしていたはずの子狐丸が戻ってきた。普段より短いね?

私に力で負けないようにって毎日鍛錬してるのに…。

「瑠璃、奈子がきたよ」

ああ、お客さんね。って…

「え、大丈夫なの!?」

お引越しの後、しばらくして奈子さんは身ごもった。最近はだいぶお腹も大きくなってきてるのに、動いて大丈夫なんだろうか。

玄関まで迎えに行ったら元気な奈子さんの姿が。

身ごもってからはずっと大人姿でいるから、本当にお姉さんって感じで。

「遊びに来たで!」

「それはいつでも来ていただいて構わないんですが、大丈夫ですか?お腹大きいのに…」

「今は安定してる時期やからな、運動もせなあかんのよ。 うちからここまではいい距離やし」

「それでしたらいいんですが…」

お茶を出して休んでもらいながら世間話。


「増築してから使い勝手はどない?」

お引越しの手伝いをしたお礼にと、源さんに寝室を増築してもらったのよね。玄関開けてすぐプライベート空間っていう状況から開放されて、安心して休めるのが本当にありがたくて。

「なんの不満もないくらい最高です」

「ダンナが聞いたら喜ぶわ。 また顔出したってな」

「はいっ!」

ご近所になってから前以上に行き来する機会もふえて、私も少しは源さんと話せる様になった。今なら二言三言くらいは返してくれる。


「もし何かあったらいつでも声かけてくださいね。食事くらい作りますし」

「ありがとうな。そんときは頼むわ〜」

幸せそうな奈子さんを見ているとお母さんになるってこういう事なんだって少しだけお勉強させてもらってる。

実際に自分が…なんてのはまだまだ想像もできないけどね。


しばらく一緒に過ごした後、奈子さんはまたお散歩がてら帰っていった。

前みたいに走っていかないのがお母さんっぽい!


奈子さんを見送る視界の端っこに、見慣れたしっぽがチラチラとしてる。

「子狐丸は外で何してるの?」

庭の隅っこに座り込んで…

「うん? だって奈子と瑠璃が話してるのを聞いちゃうのも悪いと思って」

それで外にいたのね。気を使わせてごめん…。


こうして子狐丸の様子を見るに、今までと変わりもないと思うんだけど…。

まさか“私に飽きた?”なんて聞けるわけもなく。

我ながら面倒くさい性格してるなと思う…。がっつかれたら困るくせに、それが無くなったら無くなったで不安になって。

「はぁぁぁぁぁ……」

「すっごいため息。どうしたの?奈子と何かあった?」

「ううん。奈子さんとは何もないよ。 私も少し近くを散歩してくるね」

「う、うん…」


家を出て街とは逆の方へ歩く。海のある方向へ…。もちろんそんな遠くまで行くつもりはないけれど。

こちらへ来てからいくつか季節がめぐり、今は心地よい気温で、こうやってお散歩してても寒くもない。

冬には経験のないくらい雪が積もって大変だったっけ。妖怪の人達総出での除雪作業はすごかった。



………何してるのあの子は。

「子狐丸。ついてくるなら隠れてないで近くにおいで?」

「いいの? なんか一人になりたいのかと思って…」

草むらから顔を出した子狐丸はびっくりした顔でこちらをみてる。


確かに一人で考え事をしたいっていう思いもなくはないけど、コソコソついてこられてたら落ち着かないし。

かけよってきた子狐丸が隣に並んで歩く。

「私が貴方達の気配に敏感になったの知ってるでしょう?なんでバレないと思ったの」

これも訓練の成果なのか、前より明確に存在がわかる。特に子狐丸は…。

「だってなんか心配で」

「近場のお散歩くらい平気でしょ」

「元気ないから…」

お見通しですか…。


「ねえ子狐丸、貴方は他の女の子に興味はないの?」

「ないよ!」

「そう?男の子って結構浮気性だったりするじゃない。ほら、学校の先輩も彼氏に浮気されてたし…」

「僕はしない! もしかして瑠璃、他に誰か気になる人がいるの!?」

「………」

私? そんな相手どこにいるっていうの?


「嘘だ…瑠璃が浮気!?」

「ちょっと子狐丸!? 私そんなことしてない!」

「じゃあさっきの無言は何!」

「あれは…」

「ほらそれ!!」

「ちがくて! そんな相手どこにいるの?って考えてただけ!」

「瑠璃は街でも人気だし、買い物に行けばあちこちで声かけられてるよね」

「お店の人ね。もう常連みたいになってるんだし、それくらい普通じゃない?」

「その中の誰かと…?」

「無いってば! そうやって疑う子狐丸こそどうなのよ!」

「してない!」

「ふーん…。街に行けばよくお姉さんにお礼言われてたりするよね?」

「肉とかいつも分けてるし」

「私のもそれと同じでしょ…。 って、ああもう…ごめんなさい。悩んでたのは私の身勝手なわがままなの!」

「どういうこと?」

こんな不毛な喧嘩をしてしまうくらいなら…と、悩んでいることをそのままぶつけた。



「そんな心配してたんだ…」

「勝手よね、私って。求められすぎても文句言って、求められなくなったら不安になって…」

「正直なことを言えば、我慢はしてるよ。でもそれは瑠璃が大切だからだし、もう泣かせないって決めたからだよ。瑠璃を失う恐怖に比べたら我慢なんて苦にもならないって思い知ったから」


ああ…私が奈子さんの家に家出してた時か。

子狐丸は私を見つけられなかったんだもんね。

奈子さんの力によるもので、家に招き入れた相手を保護できる。つまり追手とかからも見つけられなくできるそうで。私はその力で守ってもらっていたと後から聞いた。

よく考えたら子狐丸が追ってこないわけがないんだし、見つけられないはずもないのに…。あの時はそんなことを考えてる余裕もなかった。


失う恐怖を味わったから耐えられるようになった、ね…。

なんか可哀想なことしてしまったね。

「ねえ子狐丸、もし我慢しなかったらどうなるの?」

「え? ここですぐに押し倒してる」

「わかった! わかったから、本当に外ではやめてね。 じゃあ飽きたりしたわけじゃ…」

「僕が瑠璃に飽きると思う?毎日一緒にいられて、受け止めてもらえて幸せなのに」

「そっか…。じゃあ私の勝手な思い過ごしなんだね」

「そうだよ。 それとも僕が外で誰かとしてきたほうが瑠璃は安心するの?」

「…ヤダ。 我慢させすぎてて子狐丸が辛いならそれも仕方ないのかなって少し思ったけど、やっぱりヤダよ…」

「しないから! 泣かないでよ…」

「ごめ…ん…想像したら耐えられなかった…」

ほんと私は身勝手だ。こんなに独占欲が強かったなんて自分でも知らなかったよ…。ちょっとショック。


「ねえ子狐丸、一つ提案してもいい?」

「うん?」

「たまにだけど、私から”今日は子狐丸の好きにして“ってお願いしてもいい…?そうしたら私も安心できるかもだから…」

「…瑠璃、今のセリフもう一回言って」

「私も安心できるから…?」

「その前!」

「子狐丸の好きにしてってお願いしてもいい…?」

「…やばい、瑠璃可愛い。帰ろう?すぐ帰ろう!」

「え…ちょっと…子狐丸!?」

今って意味じゃ…とか言える雰囲気じゃなさそうね。

抱きかかえて飛ぶまでする!?

でも…いっか。不安も消してもらえそうだし。








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