ミヤビという少女の話
ミヤビという少女について、すこし、話す。
ミヤビは、僻地にある小さな村で暮らす、十三歳の女の子だ。
好きなことは読書で、仕事が休みだと、日がな一日、家で本を読んでいる。歴史書や哲学書、小説など、読む本のジャンルは日によって様々だ。彼女は、とにかく読むことを好んだ。
中でも、幻想的な世界が舞台のおとぎ話が、彼女のお気に入りである。この現実世界とは異なる社会で生き、この現実世界とは異なる考え方をする人物たちによって繰り広げられる物語には、心惹かれるものがあるからだ。
物心ついた頃から、一度として村の外に出たことがなかったため、自分の想像しないかたちで成り立っている社会秩序や、そんな生活環境を背景にした独特な思考をもつ人物らの物語というのは、新鮮で、純粋な気持ちのまま、どこまでも楽しむことができた。同じ物語を繰り返し読んだりするので、一言一句、内容を覚えてしまうほどであった。
彼女にとって読書とは、外で走り回り、身体を動かして遊ぶことよりも、心安らぐ娯楽なのだ。
ミヤビの容姿については、差し当たり、美少女であることを説明しておく。
無論、道ですれ違えば誰もが振り向く、一度見たら顔が忘れられないような絶世の美女というわけではないのだが、話しているとなぜか心地よく、場が和み、いつのまにか気を許してしまうような、愛嬌のある容姿であった。
目は、つり目気味だが厳しさはなくて、むしろ、何事にも動じない、彼女の堂々とした面を感じさせる親しみがあるので、好感が持てる風だ。
鼻は小さく、しかしおかげで、凛々しい目元と優しげな口元とを、見る者を魅せる絶妙な間隔で結んでいて、ミヤビという女の子を、美人に仕立ててくれているという愛らしさがある。
口はゆるやかに弧を描くように細い線で伸び、これもやはり、彼女の可憐さを表す重要なパーツとして役立っている。笑った時には、わっと豊かに拡がり、哀しんだ時にはきゅっと鋭く結ばれる。彼女の内でもっとも優勢となった情を前面に押し出してくれるので、これが魅力的に映らないわけがない。人は皆、ミヤビの外見による魅力の虜になる。
体格は、小柄で華奢である。すると、細い手足のためか、仕草一つ一つが細やかで、そのうえ繊細っぽさがあるので、病弱な文学少女、吹けば消えゆく残り火のような儚さをもつ、淑やかな様を想像するのだが、実のところ、彼女はそれほど控えめな性格というわけでもない。
年相応の好奇心があり、新しい物事への興味は尽きず、学ぶことを楽しむ、健全な少女なのだった。
ミヤビには、兄が一人いた。歳はそれほど、はなれていない。背は高くなく、痩せ気味で、なのに村では、力仕事ばかりを手伝っていた。
彼は、ミヤビのことを何よりも大切にし、どんな時でも味方になってくれる頼もしい存在だった。
時々、過保護がゆえに、他人と衝突したり、なりふり構わなくなってしまうことがあるのだが、それは、ミヤビを大切に想ってくれているからこその迷走であって、皆も理解していた。
ミヤビからしてみれば、その気遣いはありがたいものであるし、疎ましいだなんてまったく思っていなかった。
当然である。
彼女は護られるべくして、護られているのだ。
それは、この世界が誕生した時からの決まりごとのように、何者にも否定できない事実だった。理のように揺るがせないものだった。
ミヤビは生まれた時から、この世界に終末をもたらす存在となるまで、つまり、十三歳まで、なんとしても生きていなければならなかった。そのためには、彼女を災厄から退け、何事からも守り抜く守護者の存在が必要であった。その役目を、彼女の兄が担っていたのだ。
どんなことがあろうと、妹の味方でいる。
ミヤビの兄は常々、そう思っていた。どんな不幸に見舞われようとも、必ず傍にいてやろう。何者かに攫われるようなことがあれば、世界の果てまで追いかけて、奪い返してやろうという気概だった。もはや、ミヤビを護ることを生きがいとさえしていた。
ところで、ミヤビの両親はというと、彼女が顔を覚える前から、既にいなかった。
その理由を、ミヤビは知らない。彼女の兄や、彼女が暮らす村の村長は知っているのだろうが、明るい話にはならないと察して、訊いたことはなかった。
この手の話は、もう少し、自分が大きくなってから、あちら側から教えてくれるだろうと、なんとなく思ってもいた。
そんな気遣いに、子どもらしからぬと、兄や村の大人たちは微笑ましく感じていた。ミヤビは、自分のことを早熟なのだと認めてはいなかったが、彼女のそんな態度さえ、大人びているなと、周りの皆は感心していた。
さて、そんなミヤビだが、あくる日、誘拐事件に巻き込まれてしまう。
突然、村に訪れた、眼帯をした謎の男に連れ去られてしまうのだ。
途中、あの災厄の象徴ともいわれる「魔法使い」なども登場し、それから、新たな出会いがあり、別れがあり、紆余曲折を経て、世界に終末をもたらす存在となってゆく。
わけなのだが、ひとまずは、ミヤビが「マガツ区」という不思議な街にやってきたところから、話を始めようと思う。




