断片的な記憶 3
「人間と魔法使いは、共存できると思いますか」
またしても、ミヤビとの会話が脳裏に甦ってきた。
早く彼女を取り戻したいという思いが、そうさせているのかもしれない。
これは最近の記憶だった。ミヤビが攫われるほんの数日前のことだ。
「無理だと思う」と、僕は応えた。会話を否定したかったわけではない。現実問題、不可能であると考えた。
「本当に無理なんでしょうか」
そう言ったミヤビは、哀しそうな顔をしていた。
彼女は他者の不幸話を聞いて涙を流すことができる、素敵な感性を持っている。魔法使いと人間が仲良くできないことを、何かと不憫に感じたのかもしれない。
ミヤビは温厚な性格であり、平和主義者であり、とても優しい子なのだ。
「たとえば、みんな仲良く、一緒に暮らせるかどうかってことだよね」
「そうです。まったく諍いのないとまではいかなくても、互いをわかりあえるくらいに仲良くはできないものでしょうか」
ミヤビは、この世界での人間と魔法使いの現状について、心を痛めているのだろう。
飛来した隕石の影響――と、いわれているけれど、真相はわかっていない――により、「魔法使い」と呼ばれる怪物と化した者たちは、変わり果てた姿と共に手に入れた破壊的な力で、大陸中の街や村を襲って回っている。
行動原理や目的は不明だが、人々の生活を脅かしていることには変わりない。
人間にとってみれば、なんとも迷惑な話だ。意味もわからず、平穏な暮らしが崩壊していくわけなのだから。
そこで、人間たちは魔法使いに対抗する策を考えた。
それこそが、「勇者」と呼ばれる大いなる力だ。
「勇者」の力に選ばれた者たちは、魔法使いと闘っている。
人間と魔法使いは、明確な敵対関係にあるのだ。
「難しいかもしれないね」と、僕は言った。
人間と魔法使いとでは会話が成り立たない。彼らがどんな言語体系を有しているのか定かじゃないし、仮に言葉を交わすことができたとしても、心を通じ合わせることは不可能だろう。そう、僕は考えていた。
両者は見えている世界が違うのだ。
「人間はこれまでに――この世界が誕生してから今の今までに、多くのものを生み出してきた。けど、魔法使いはそういったのを壊してばかりしている。これは人間と魔法使いの決定的な違いだと思うし、人間と魔法使いが相容れない理由でもあると思う」
「創造と破壊ですか」
「うん、そうだね。人間は創造しているし、魔法使いは破壊している」
「こうは考えられないでしょうか」と、ミヤビは口を開いた。「魔法使いの破壊は、世界を元のかたちに戻そうとしている、というのは」
「元のかたち?」
「はい。世界に人間が誕生して、多くのものを創造した。もとの姿よりも歪になってしまったわけです。だから、それらをすべて破壊して、元のかたちに戻ろうとしているのかもしれません」
ミヤビの想像力は、おとぎ話のように突拍子もなく、それでいて面白い。僕は驚かされてばかりいる。
「そうなってくると、魔法使いの誕生は偶然じゃなくて、たとえば、この世界の意思のようなものによる策略だったってことになるのかな」
「散らかったお部屋を掃除するような感覚なのかもしれませんけど」
「人間と魔法使いが、両者とも存在している今の状況のほうが、この世界にとっては都合がいいのかもね」
そうはいっても、やはり魔法使いは恐ろしい存在である。
そう思うのは、僕が人間であるからだろうか。
彼ら魔法使いは、世界を破滅へと導く怪物だ。災厄の象徴なのだ。それに違いはない。
けれど、ふと思うこともある。
魔法使いたちの意思はどこにあって、何を目的として生きているのだろう、と。
「魔法使い」という存在には、まだ謎が多い。もし、人間と魔法使いが共存、あるいは、仲良く暮らすことができるのだとしたら、それは世界に、真の意味での平穏をもたらすことにはなり得るのだろうか。




