【20話】デート
まるで追い出されるかのようにして、王都へとやって来た二人。
どうしてフィオは、あんなにも必死だったのか。
という疑問は残るものの、そのことについてじっくり考える余裕が今のエレインにはなかった。
隣を歩くリファルトを、チラッと見上げる。
王都の街を横並びになって歩く。
しかも、二人きり。
誰がどう見たって、これはデートだろう。
恋している相手とそんな状況になっているエレインは、とても気が気ではなかった。
デートに来たということがもしメイドたちに知られたら、また噂が大きくなってしまうだろう。
噂されるのは別に嫌ではないのだが、とにかく恥ずかしかった。
そんなことを思いつつも、エレインはリファルトの手を見つめる。
(あとは手を繋げたら、完璧なのにな)
デートといったら、やっぱりエスコート。
せっかくなら一緒に手を繋いでみたい、なんてことを考えてしまう。
「エレイン」
「はいっ!!」
恥ずかしいことを考えていたエレインは、それはもうビックリ。
軍隊の兵士ばりに、気合の乗った返事をしてしまう。
リファルトは一瞬だけ怪訝そうな表情になってから、
「どこか行きたいところはあるか?」
と、口にした。
「……いえ、特には」
急にそんなことを言われても、何も思いつかなかった。
リファルトと一緒ならどこへでも、という気持ちはあるのだが、それを口にするのは恥ずかしいので言わない。
「それならば、俺に付き合ってくれ。君に見せたい店があるんだ」
「……分かりました」
私に見せたいお店って……、と思いつつも、エレインは返事をした。
リファルトに連れられてきた店は、ジュエリーショップだった。
店内には、宝石をあしらった指輪やネックレスが飾られている。
そのどれもに、びっくりするくらい高価な値がついていた。
どうやらここは、富裕層向けの店のようだ。
「ここが、リファルト様が来たかったところですか?」
「ああ」
「そう……なんですね」
どうもスッキリしない反応になる。
リファルトの答えに納得いっていなかった。
普段のリファルトは、外見を着飾ることをしていない。
着飾る必要がないくらいに美しい、というのはさて置き。そんな彼が、宝石類に興味があるとは思えなかった。
それなのにどうして、ジュエリーショップに行きたいと思ったのか。
とてもじゃないが、エレインには見当がつかなかった。
「エレイン、この中で欲しいものはあるか?」
「えっと……それはどういう?」
「せっかく君と出かけられたんだ。プレゼントをしたくてな」
いやいやいや! 、と全力を首を横に振るエレイン。
(そんなの悪いわ! もちろん、嬉しいけども!!)
以前にも、ルビーのネックレスをプレゼントしてもらっている。
嬉しい気持ちもあるが、たて続けにプレゼントを貰うなんて、流石に申し訳なかった。
それに、とっておきのプレゼントはもう受け取っていた。
「リファルト様と一緒に王都に来られたこと。それ自体が、私にとっては最高のプレゼントのようなものですから」
リファルトの頬が、一気に真っ赤に染まる。
逃げるようしてエレインから顔を背け、「なんという破壊力だ」、とボソッと呟いた。
「え、遠慮はいらないぞ」
「別に遠慮はしていませんよ」
「さぁ! 何でも言うがいい!」
「……あの、私の話聞いてます?」
「俺に任せろ!」
(…………完全におかしくなってしまったわ)
照れているのだろうか。
リファルトは話を聞いてくれなくなってしまった。
欲しいものを言わなければ、この問答は一生続いてしまうような気がする。
「それでは、一つだけよろしいでしょうか?」
元のリファルトに戻すため、エレインは彼の願いを聞くことにした。
店から出てきた二人は、ガッチリと手を繋ぎ合っていた。
お互いに顔を赤らめながら、恥ずかしそうにしている。
エレインがねだったものは、高価な指輪でもネックレスでもなかった。
『私と手を繋いでくださいませんか?』
というのが、エレインの願い。
ここに来てから願っていたことを、叶えてみたいと思ったのだ。
「俺みたいな男と手を繋ぎたいなんて、君は変わっているな」
「そんなことはありませんよ。あなたと手を繋ぎたい女性は世の中に大勢いるはずです。だってリファルト様はその……とても素敵なお方ですから」
手を繋げたことで舞い上がってるエレインは、ちょっぴり気持ちが大きくなっている。
普段なら恥ずかしくて言えないようなことでも、今なら口に出してしまえるのだ。
リファルトの頬がさらに赤くなった。
頬だけでなく、耳たぶまで真っ赤になっている。
(照れているのかしら。ふふふ、可愛い)
可愛らしい姿に、エレインは微笑ましい気持ちになる。
二人をピンク色の空気が包んだ、そのとき。
「二千年前の危機が、今再び起ころうとしている!」
「我らが助かる道はただ一つ。深き闇を消し去る、輝かしい光。それを崇めるのだ!!」
道端で大きな声を上げているのは、白いローブを着た複数人の男女だ。
彼らの周りには人だかりができていた。
盛大な拍手と歓声をもってたたえている。信者かなにかのようだ。
照れていたリファルトの表情は一転。
訝し気な表情を、白いローブの男女たちへと向ける。
「この王都で、大々的に声をあげるようになるとはな……。輝光教も、ずいぶんと大きくなったものだ」
輝光教というのは、光属性適性者を崇拝している宗教集団だ。
光属性魔法の素晴らしさを世に伝える――というのを目的としているらしい。
一昔前では小さな団体に過ぎなかったが、今ではかなりの勢力を持つようになってきている。
いくつもの拠点を、各地に置いている。
近頃、王国の治安は悪化の一途を辿っていた。
不安がった国民が、続々と輝光教に入信しているようだ。
輝光教の主な活動内容は、街頭演説とビラ配りとなっている。
しかしそれは、表向きの話。
輝光教に関しては、こんな黒い噂もある。
光属性適性者を信奉している彼らにとって、闇属性適性者は憎むべき存在。
闇属性適性者を排除対象とみなし、秘密裏に殺害しているらしいのだ。
(恐ろしいわ……)
輝光教の存在に、恐怖を感じずにはいられない。
噂が本当であれば、闇属性適性者であるエレインは殺害対象。
いつ襲われてもおかしくない。
それに、エレインだけではない。フィオもだ。
同じく闇属性適性者である彼女も、エレインと同じ状況にいる。
もしフィオが襲われるようなことがあったら。
想像するだけでも恐ろしい。手のひらが小刻みに震えてしまう。
「大丈夫だ」
エレインの手を握るリファルトは、ギュッと力を強めた。
「フィオもエレインも、必ず俺が守る」
力強くて頼りがいのある言葉が、全身を温かく包んだ。
感じていた恐怖が、どんどん薄れていく。
「ありがとうございます」
これほどまでに、勇気を貰える言葉はない。
心を込めて、エレインはお礼を言った。
読んでいただきありがとうございます!
面白い、この先どうなるんだろう……、少しでもそう思った方は、↓にある☆☆☆☆☆から評価を入れてくれると嬉しいです!
ブックマーク登録もよろしくお願いします!