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第66話 こんなのは奇跡でもなんでもない

 魔王は自分の体験をウィルスレインに淡々と告げる。


 それはまるで今まで私に話せなかった事を、彼を通して私へと伝えるかのように。


「……我の『願い』が神々に届いたのち、我は再び異世界の佐藤 啓介の身体に乗り移る為に、魔導師の元へ精神体を送った。そして機を見計らい彼の『ディメンションゲート』に巻き込まれた。すると必ず我も佐藤 啓介が産まれた時に遡っている状態で目覚めるのだ」


「それはおそらく魔王殿の『願い』の効力であると推察されるな。橘花 美来を救う為、幸せにする為、という願いを佐藤 啓介として叶えさせる為に」


「そうかもしれぬし、そうではないかもしれぬ。そこはよくわからぬ。だが、毎回我も啓介として乳呑み児からやり直せるのは好都合だと思った。だが……」


「上手く行かなかったのだな?」


 魔王はギリっと奥歯を噛み締める。


「……二回目以降から、美来ちゃんが我を異常ないほどに避けるようになってしまったのだ。それでも我は陰ながら彼女を救おうと孤軍奮闘したが、やはり何度繰り返しても聖王の『願い』が強いのか、美来ちゃんは16歳の誕生日を超える事は出来なかった」


 それもそのはず。


 だって私は啓介くんが私を殺したんだと、ずっと思っていたんだもの。

 

 私は啓介くんの事を凄く、凄く想っていたのに。


 彼に裏切られたと思っていた。


 だから彼から離れるように行動したんだもん。


 でも。


 でも違った。


 違ったんだ。


 ねえ、魔王。


 貴方は私を嫌っていたんじゃなかったんだ?


 私は貴方と出会って、貴方が啓介くんだとわかったあの日から、今日までずっと聞けなかった事があるの。


 それを聞けたのなら、私はもうこのまま目覚めずに永遠の眠りについても構わない。


 聞きたい。


 私の口から直接。


 でも、声が出せない。


 身体も動かせない。


 どうして意識だけはこんなに加速するように、目まぐるしくたくさんの事が頭の中をよぎるのに、身体も口も動かせないの?


 私の身体はどうなってしまったの?


「……む? な、なんだこれは!?」


 私の想いが心に膨らみ始めた時、ウィルスレインが声をあげた。


「どうしたのだウィルスレイン!? メイリアちゃんの容体に変化でもあったか!?」


「……身体自体の損傷は私と魔王殿の魔力によるヒールで、おおよそ回復してきていた。しかしメイリアくんの身体は免疫不全によって魔元素による毒性が身体中に蔓延していた。こればかりはヒールなどではどうにもならなかった」


 ウィルスレインが私の身体を見ながら、まるで信じられないモノを見るかのように声を震わす。


「ステージ4になると瞳が紫がかるのは脳に深刻な魔元素ダメージを蓄積しすぎた結果だ。特に感情を司る脳の思考が画一的かつ偏向的になり世の中の全てを敵だと思い込み、攻撃するようになる」


「そんな事は我とて知っている! それがどうかしたというのか!?」


「その状態が悪化すると、通常であれば私のヒールすら根本的に受け付けなくなるのだ。さっきまでがまさにその状態であったのだが……突然、私のヒールへの抵抗感が激減した」


「な、何!? ウィルスレインそれは、どういう事だ!?」


「……こんなのは、見た事がない」


 ウィルスレインが目を見開いて、私の顔を覗き込む。


 その様子が()()()()()()()


 私は薄らと、瞳を開く事ができたのだ。


「だからなんだというのだウィルスレイン!? ハッキリ申せ!」


「瞳の色が……戻っている……」


「な、なんだと!?」


「魔王殿……喜べ。彼女には……」


 ウィルスレインは顔中に疲労とそれによる大量の発汗の中、それまで強張っていた表情を和らげ、


「メイリアくんには、奇跡が起きた」


 そう、魔王へ告げた。




        ●○●○●




 ――私が崖下に倒れてから相当な時間が経っていたようだ。


 私がようやくまともに周囲を見渡せる頃には、日が沈みかける夕焼けの赤みが辺りの景色を染めていた。


 今、私たちが歩いているのはフォルクハイム家の屋敷があった高台から数十メートルも下に位置する森の近くの大きな河川。


 この大河川は穏やかな水が海まで続くように流れていて、この河川敷に魔王と私の仲間たちが馬車ごと待機しているとの事で、私たちは仲間のもとへ戻る為にここを歩いていた。


 とは言っても正確に言うと私は歩いてはいない。


「メイリアちゃん、本当に具合悪くない? 変な気分になったりしてない?」


 魔王が私に尋ねる。


「もう平気ですわ。何回言えば気が済むんですの……」


「それならいいんだ。もし疲れたらすぐ言ってね? 休憩してキャンプにするよ。まだ、ガーラングたちの待つ馬車までは半日以上かかると思うからさ」


「全然平気ですわ。だから貴方はさっさと歩きなさい」


「はいはい」


 魔王は小さく笑った。


 全く、この魔王は何を言っているんだか。


 私が疲れるわけがない。


 だって私は――。


「ははは。それにしてもメイリアくんは実にお姫様抱っこが似合うな」


 魔王の隣を歩くウィルスレインの言う通り、私は魔王の両腕に抱えられたままなのだから。


「う、うるさいですわ。ウィルスレインは余計な事を言わなくていいんですの」


 私は顔を真っ赤にして、彼らから目線を背けた。


 私の意識が回復してから数時間。


 私の身体は一時、崖から身を投げたダメージと『MIDS(ミッヅ)』の加速度的進行にて瀕死の重体となっていたが、ウィルスレインと魔王の魔法と、不思議な作用によって一命を取り留めた。


 本来ならステージ4以降にまで免疫不全に陥った身体が元に戻る事はあり得ないそうなのだが、突如私の身体は急激に回復したらしい。


 ウィルスレイン曰く、現段階なら『MIDS(ミッヅ)』ステージ1〜2程度だろうとの判断だ。


 奇跡だ、と彼は言っていたが、私にはこれが奇跡なんかじゃないと思った。


 何故なら私はやはり、16歳までは死ねない運命なのだから。




 そう、私が生き延びたのは奇跡なんかじゃなくて、きっと聖王の『願い』と言う名の『呪い』のせいなのだ。




 


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