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第64話 魔王と少女の物語

 ここから語られるは魔王の口から話された事実。


 佐藤(さとう) 啓介(けいすけ)という男の子として生きる事になった魔王のお話。


 サタナイルは16歳の成人の日に、神々から魔王を語る事を許された。


 そしてそれと同時に精神強奪(ソウルジャック)という特殊な魔法を扱う事も可能となる。


 そこで魔王サタナイルは並列思考を可能とする魔法を使い、いくつかの精神体を魔族たちの住む土地、ゾルディニアに送り、そしてひとつの精神体は世界を巡りながら見聞を広めていようと考えた。


 そのひとつの精神体はなんの因果か、とある孤高の魔導師のもとへと辿り着く。


 その魔導師はサタナイルにとって興味深い魔法の研究を行なっていた。


 小さな孤島でその魔導師はただ独り、時の流れと空間、そしてそれに関する魔元素の在り方について日夜研究に明け暮れていたのである。


 精神体のままでは当然その魔導師とコミュニケーションを取る事は不可能だったが、その研究を傍らで覗き見ている事は可能だった。

 

 サタナイルの精神強奪(ソウルジャック)は無差別に誰にでも乗り移れるわけではなく、二つの制約がある。


 ひとつはきちんと身体の持ち主との契約を事前に交わしている事。


 そしてもうひとつは、まだ身体に精神が宿る前の生き物である事だ。


 なのでこの魔導師の身体に乗り移れるわけではなかったが、サタナイルは別にそれでよかった。彼の研究を見ていられればそれで満足だったからだ。


 その魔導師はずっと独りでいる為か、妙に独り言が多い。また、動物は好きなのか、数匹の猫や鳥を研究室内に放し飼いにしていて、それらに話しかける癖が特に多かった。


 更にはサタナイルには意味不明な言葉や単語を話す事があったが、彼の傍にいる日々が続くうちに気にならなくなっていった。


 そんなある日。


 魔導師は一世一代の大魔法をテストする日が来たと独りで大はしゃぎしていた。


 愛猫や愛鳥に自分の研究の何が凄いとか、何が特別だとかを楽しそうに話していた。


 それを聞いているうちにサタナイルもなんだか楽しくなってきて、間近でその研究を見ていた。


 魔導師の大魔法とは、通常の転移魔法を更に進化させ、物質を更なる別の位相空間、言うなれば別次元へ転移させてしまうという本当に聞いた事もないような魔法であった。


 その魔法名を魔導師は『ディメンションゲート』と名付けた。


 それを魔導師はまず、テスト的に小石などで試していった。


 そしてその小石は魔導師の魔法を受け、その場から消えた。


 魔導師は言った。


 この魔法は成功の有無を判断する方法がない、と。


 なので見た目だけでは、対象の物質をその場から消し去る魔法という事になるだけだった。


 とは言ってもそれでも驚異的な攻撃魔法だと思ったが、サタナイルにはどうしてもその魔法の結果が気になって仕方がなかった。


 そこで自分の精神体がその魔法に巻き込まれたらどうなるかを試してみようと考えた。


 魔導師には結果はわからずとも、魔王にはわかる。


 魔王にその結果がわかれば、いつの日かこの魔導師へ自分の行方がどうなったかを伝えに来れば良いと考えたのだ。


 そして魔導師が再び『ディメンションゲート』を使用した時、サタナイルはその精神体も魔法効果の中へと共に飛び込んだのだ。


 すると精神体の意識は瞬間、暗転。


 それから幾ばくかの間が空いたのち、次に魔王の意識が目覚めると、見た事もない世界。


 そう、そこは異世界。


 産まれたばかりの佐藤 啓介としてその精神は宿ってしまったのである。


 魔王にはこの現象とこの世界についての理解は及ばなかったが、これもまた良き経験だと考え、彼はそのまま佐藤 啓介として生きる事を決意する。


 どちらにせよ一度肉体に宿ってしまった精神体は魔王本体の魔力的に16年のリミットまでは宿ったままとなるので、この世界で生きる他選択肢はなかった。


 この異世界、日本という国は自分の世界とは違い、魔元素がほぼ無い事に驚かされたが、魔法というものがない分、科学力がとてつもなく発達している世界なのだと理解した。そしてサタナイルはこの平和で科学的な世界をどんどんと好きになっていった。


 啓介の中身は16年生きた異世界の魔王。


 なので啓介は歳の割には大人びていると多少気味悪がられる事もあったが、彼の両親は非常に人格者だった為、魔王こと啓介は日本でも健やかに成長していった。


 成長につれて彼が鏡を見るたび、自分の顔が魔王サタナイルの顔に近づいているのがわかった。これは精神強奪(ソウルジャック)の影響がじわじわと出ているせいだろうと魔王にはわかっていた。


 だからこそメイリアは魔王と出会った時、すぐに彼の顔が誰だかわかったのである。


 そんなとある日。


 啓介が5歳になった頃。


 近所に住む橘花 美来という女の子に非常に興味を持った。


 近隣に住む同世代の子供は数人いたが、中でも橘花 美来という女の子は、言動、行動、態度が自分と同じく大人びていて、本当に5歳の子供とは思えなかったからだ。


 好奇心旺盛な魔王は、彼女に話しかけた。


 そして気づけば非常に仲の良い友達になっていた。


 啓介も美来も互いに5歳児同士とは思えないほど、会話の意思疎通が優れていたので二人はすぐに打ち解けられたのだ。




 そして日本で年を重ねていく内に、魔王は彼女の凄惨な境遇を知っていく事になる――。




 


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