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第49話 ヒーローなんていない

 ――暗い。


 意識が朦朧としている。


 あれから一体どのくらいの時が経ったのだろうか。


 記憶がおぼろげだ。


 私は一体、今どこで何をしているんだっけ?


 いえ、そもそも私は一体誰だっけ?


 混濁した記憶が断片状になっていて、状況が全く理解できない。


 思い出せ、思い出せ。


 ……そうだ。


 私は自身の死のさだめの障害であると思われるウィルスレイン卿を殺害すべく、フォルクハイム家に取り入ろうとグウェインに近づいた。


 その結果、私はグウェインの私室に閉じ込められた。


 それからあの身の毛もよだつ変態のオヤジに、私は追い詰められ、そして――。


 ああ、そうだ。思い出した。


 彼が私の身体を強引に掴み、私の衣服を無理やり脱がそうとしてきたので私が抵抗の色を見せると、彼は思い切り私の頬を叩いたんだ。


 その衝撃で私は身体ごと壁に打ち付けられた。


 それでも私が逃げようとすると、彼は何か注射器のようなものを私の腕に刺して、妙な薬液を体内に入れられたんだ。


 それから意識を失って……。


「ふうッー。ふぅー。……ちょっと薬が強かったかな?」


 グウェインの荒い息づかいと声が聞こえる。


「……ぅ……あ?」


 釣られるように私は声を出そうとしたが、呂律が上手く回らない。


「お、目覚めたね?」


 私がようやく薄目を開くと、眼前には恐ろしい光景が広がっていた。


「ひっ……!」


 私は思わず声を裏がして身体を強張らせた。


 目の前にいたのはグウェインだが、その彼は白のブリーフ一枚を履いているだけで、全身は醜い肉体を剥き出しにするかのように裸で立っているのだ。


 反射的に距離を取るべく動こうとしたが、身体は何かに縛り付けられていて上手く動かせない。どうやら両手両足を広げられたまま壁に括り付けられているみたいだ。


 更にそれだけじゃない。身体全体が妙に肌寒い事に気づいて自分の身体を見ると、私も下着一枚だけを残されて裸にされていた。


「マリアちゃん、まだ睡眠薬が切れたばかりだって言うのに、すごい元気だねぇ! わ、私も釣られて元気になってしまうよ! はあッ! はあッ!」


 怖い。


 冗談ではなく心の奥底から恐怖を覚えた。


 男に無理やり貞操を奪われるのは、私の総人生では初めてではないが、この肉体では未経験だ。


 それにまだこの若さでそんな行為をさせられた事はない。


「でも、まだマリアちゃんの身体には触ってないから安心して? 私はねぇ、意識がない子を無理やりやるのは好きじゃないんだ。だから、マリアちゃんが目覚めるまで、マリアちゃんを拘束して、邪魔な衣服を脱がせただけだからね?」


 どうやら私の身体はまだ無事らしい。


 だが、危険な状態であるのには変わりはない。


「グ、グウェイン様! わ、私に何をなさるおつもりなんですの!?」


「ぐふ、ぐふふふッ。な、何をって……楽しい事だよ? 大丈夫、殺したりまではしないし、もし壊れかけてしまったとしても、回復魔法ですぐに身体は治してあげられるからね? 私はこう見えても『聖光』系の回復術も得意だからね」


 言いながら、グウェインはその顔を私に近づけ、臭い息を吐きかける。


 私は涙目になりながらも、込み上げる吐き気をなんとか堪えた。


「お、お願いです……。酷い事はおやめください……」


「ひ、酷い事なんかしないよ? それに言っただろう? 身寄りのないキミを私が面倒を見てあげようって。その代わりなんでもすると言ったのはキミだろう?」


「そ、それは、そうですが……。掃除とか家事とか、身の回りのお世話とかそういう召使いとしてという意味ですわ!」


「そんなのはいらないんだ。私はキミがただ大人しく私のオモチャになってくれれば良いんだよ……ッ」


 そう言ってグウェインは私の胸元の肉を強引に摘むように掴む。


「い、痛ッ!」


「……キミは実に可愛らしい。私がこれまで拾った中でも最高レベルのオモチャだ」


「は、離してッ! だ、誰か……ッ!」


 助けて。


 私は思念でも声でも助けを呼んだ。


 だが、やはり私の思念は魔王には届かない。


 私は愚かだった。いざとなれば思念で魔王さえ呼べばどうとでもなると思って気持ちが大きくなっていた。


 浅はかすぎたのだ。


「助けなんか呼んでどうするんだい? ここは私の屋敷だ。キミの味方なんていないぞ?」


 それでも。


 私は叫ばずにはいられなかった。


 魔法も使えない、身体も動かせない。


 絶対絶命のピンチ。


 こんな状況で都合良く現れるヒーローなんて、いない事などとうの昔に知っている。


 私が一体何回、何十回と人生をやり直し、そして殺されてきたか。


 そして死の間際に助けを呼ぶ事は何度もあった。


 でも、ただの一度もそういう場面で誰かが私を救ってくれた事などない。


 ヒーローなどいないし、運命は残酷。


 そんな事は私が一番良く知っている。


「さ、さあ……そろそろ、マリアちゃんの大事なところを確認させてもらうよ……? いいね……!?」


 グウェインが更に息づかいを荒くして、私の下半身へと手を伸ばす。


 嫌だ。


 嫌だ嫌だ嫌だ!


 誰か助けて。助けてください。私を助けて。


 助けて。




「助けて、啓介くんーーーッ!!」




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