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第48話 身の危険

 ――私がグウェインと行動を共にしてから数日後。


 リドルク村の視察と調査を終えたグウェインは、私を馬車に乗せオルクラ大陸東部フォルクハイム領にある、フォルクハイム家の屋敷に連れてこられていた。


「さあ、入りなさい……はあはあ」


 グウェインに案内されるがまま、私は辺りを見回しつつその部屋へと入って行った。


「……ふう、ふう。とりあえず、少しの間ここで待っていなさい。私が戻るまで大人しくしているんだよ? す、すす、すぐに戻ってくるからね? た、楽しい事が待っているからね?」


 グウェインは興奮気味に息を荒げながらそう言い残すと、私をその部屋の中に閉じ込め、重々しい鉛の扉を閉めて外からガチャン、と鍵をかけた。


 その部屋は石造りの床と壁に檻の着いた小さな窓がひとつだけあり、室内は粗末なベッド、小さなテーブルと椅子、そして簡易のトイレだけがある、まるで牢獄のような所だった。


 そして室内からはえもいわれぬ悪臭に包まれていて、私は思わず顔を歪める。


(ここは……おそらくグウェインの趣味部屋……)


 粗末なベッドの上には、私と同年代の普通の少女ならまず理解に及ばないような卑猥な器具が乱雑に置かれていて、ベッドにも穢らわしいシミや血らしき物が至る所に見受けられる。


 彼がこれから私に行おうとしている行為の事を想像すると、怖気と吐き気に見舞われた。


 私ではグウェインに勝てない。あのデイトルトでさえ瞬殺されてしまったのだ。私ではどう足掻いても彼を倒せる方法はないだろう。


(でも……大丈夫……私は、私には魔王たちがいる……)


 しかし今は魔王に思念が送れない。


 このフォルクハイムの屋敷に入った瞬間から魔王との思念のやりとりが遮断されてしまったようなのだ。


 主従契約では基本どこにいても従者と思念のやりとりが可能になるわけだが、あまりにも遠すぎたり、思念を遮断する特殊なジャミング系の魔法結界などを介すると、思念が届かなくなる事があるらしい。


 おそらくフォルクハイムの屋敷にそのような結界が成されているのだろう。


 少々の不安を覚えたが、今も魔王は私のすぐ近くまで来てくれているはず。


 この屋敷に連れていかれるまではずっと思念を飛ばしていたし、いざとなればなんとかなる。大丈夫だ。


 それに私には死のさだめがある。


 16年目で死ぬ運命以外、基本的に死ぬ事はないはずだ。


 私はまだ8歳。


 まだ……大丈夫……。




        ●○●○●




 すぐ戻る、と言っていたグウェインだったが、私をこの部屋に閉じ込めて数時間経ってもまだ帰ってこない。


 おかげで私としては色々調査と考察に時間を回せた。


 ひとまず魔王との思念のやりとりは未だ不可能。


 加えて、この部屋は更に特殊な結界が施されているようで、私の魔法もここでは使えなくなっている。


 唯一私ができるのは、常時身につけている両手の白いグローブに仕込んでいるオルクステン鉱性のハンドワイヤーを扱う事ぐらい。


 いつもであれば他にも私が作った様々な小道具などもあるのだが、その手の物をしまってある荷袋は仲間の馬車へと置いてきてしまった。


 だが、もし不意をついて私が上手くここでグウェインを殺せたとしても、それではこの潜入になんの意味もなくなる。


 私の目的はウィルスレイン。


 そしてフォルクハイム家の血筋の者を消す事。


 もしグウェインだけを運良く処分できても、ウィルスレインにバレてしまえば警戒されてしまう。


 それでは駄目なのだ。


 なんとかしなければ。


 なんとか、フォルクハイム家に取り入らなければ。


「ふんふーん」


 私が思い耽っていると、牢獄みたいなこの部屋の外から階段をくだる音と共に鼻歌のようなものが聞こえてきた。


 グウェインが帰ってきたのである。


「お待たせぇー、マリアちゃん」


 私は思わず身体を硬直させる。それと同時にガチャン、と鍵が解かれ、ギィっと重たい扉が開かれた。


「すまないねぇ、ちょっと息子と話し込んでいたら遅くなってしまったよ。ふう……ふう……!」


 鼻息を荒くしてグウェインがじりじりと私に近づく。


「お、おかえりなさいませ……グウェイン様……」


 私は少しだけ後ずさりつつも、精一杯の笑顔で答えた。


「ひ、ひとりきりにさせてごめんねぇ。記憶喪失だったっけ。寂しかったろう? わ、私がマリアちゃんの寂しさをすぐに忘れさせてあげるからね!」


 彼の興奮具合が半端ではない事はその息づかいや、下半身から見て取れる。


 身の危険を強烈に感じた。


 そうだ、私は何を勘違いしていたのだろう。


 確かに私は16年目まで死ぬ事はないのかもしれないが、16年目までずっと地獄のような日々を送らせられてしまう事は大いにありえるのだ。


 もしこの男が私の身体をめちゃくちゃに弄んだとしても、私を死なせないようにするかもしれないのだ。


 何故、そんな簡単な事を見落としたのだろう。


「あ、あの! グウェイン様!」


「んー? なんだい?」


「ウ、ウィルスレイン様は今、このお屋敷におられるのですか?」


「息子か? いるが、それがどうかしたのかい?」


「わ、私は、ウィルスレイン様にもご挨拶をしたいと……」


「うんうん。もちろんさせてあげるよ。私の息子は自慢の息子だからね」


 それを利用して上手く外に出られれば、魔王と連絡が取れるかもしれない。


 そうしたらこの屋敷からは一旦脱出して、策を練り直そう。


「でも」


 私が微かな希望を見た直後。


「それはね? 私との初めての遊びがここで終わってからだよ……ぐふ、ぐふ……ふふ、ふふふふふッ!」


 身の毛もよだつ声としぐさ。そしてその思想。


 私の身体はまだ8歳。


 こんな男にオモチャにされたら、とてもじゃないが壊されてしまう。




 どうすればいい。どうすれば……私はどうすればいい!?






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