第47話 フォルクハイム家のチカラ
「さぁ、来い! 変態魔族め!」
グウェインも剣を構え、
「言われなくてとも! 死ぬが良い、変態貴族め!」
そしてデイトルトが自慢の爪を振りかぶり、変態同士の戦闘が開始された。
(さあ、お手並み拝見ですわね)
私はデイトルトに「彼の技量も確かめろ」と命じてある。
それは私たちの力が果たして上級貴族にどこまで通用するかを調べる為でもあった。
とは言っても噂ではグウェインはフォルクハイム家で最弱と聞いている。反してデイトルトは三魔貴族と呼ばれる魔族の中のエリートだ。
大したデータは取れないかもしれないと思った。
だがデイトルトも馬鹿ではないので、それらも加味して手を抜きながらも、それなりに戦闘を長引かせてくれるつもりのはず。
そう、私は思っていた。
しかし。
「……ッな!? 消え……!?」
デイトルトが思わず声を出す。
爪による振りかぶりでグウェインへと襲い掛かったデイトルトが射程圏内に入った瞬間、グウェインの姿が消えたのである。
(えッ!? あのデブはどこ!?)
私もキョロキョロとしていると、
「っふん、遅いッ!」
というセリフと共に、デイトルトの背後に現れたグウェインは瞬時に携えていた剣を横に一閃。
「ぐっ……ふ……!?」
デイトルトの身体は腹を中心に上半身と下半身を真っ二つにされ、たったの一瞬でグウェインに斬り飛ばされてしまう。
「ば、馬鹿……な……! お、俺がこんな人間風情に……」
「う、うそ……こんな事って……」
デイトルトは演技ではなく驚愕した表情で倒れ、私も釣られるように驚きの声をあげていた。
「……身の程知らずの魔族風情が。私を舐めているからだ!」
グウェインはスッスッと、剣に付着したデイトルトの血を振り払い、そしてキンっと鞘に収める。
信じられなかった。
こんな取り柄のカケラすら無さそうなデブのオッサンが、あんな動きをするなんて。
いえ、きっとデイトルトが手を抜き過ぎたに違いない。
だからグウェインというオッサンが凄いように錯覚させられただけなのかも。
と、私が思っていると、
「ぐふ……も、申し訳ございません……メイリア様。完全に俺の……負けです……」
デイトルトが悔しそうな顔で血反吐を吐く。
「魔族の中には身体を切断した程度では死なない者もいると聞く。ゆえに、私のコレで完全に存在を消し去ってやろうッ!」
グウェインは声を荒げると、
「悪に鉄槌を! ディバインイレイサーッ!」
聖なる光によるエネルギーの咆哮をその手から打ち出し、地面に倒れ込んでいたデイトルトを完全に消し去ってしまった。
そのエネルギー量はとてつもない熱量であり、少し離れていた私の衣服ですら、焼けかけてしまうほどであった。
「な、なんですの……この力は……?」
私はあまりの事実に思わずそう口にすると、
「ふふふ、驚かせてしまってすまない、お嬢ちゃん! 私の力に見惚れてしまったかな!?」
相変わらずノリも見た目もふざけたオッサンだが、私はおかげで少しだけ目を覚まさせてもらった。
彼はフォルクハイム家では最低クラスであっても、元々公爵だった貴族。
フォルクハイムの名は決して飾りなどではないと言う事を、まざまざと見せつけられたのである。
「さあ、もう安心だ! 悪は滅んだ! お嬢ちゃん、キミの名前を私に教えたまえ!」
デブのオッサンが白い歯をニカッと輝かせて、地面にへたり込む私に手を差し伸べる。
「あ、ありがとうございますグウェイン様。私の名はマリアと申します」
私はその手を嫌々ながらも取り、適当な偽名を名乗りあげる。
「マリアちゃんか! キミは一体どうしてこんなところで魔族に襲われていたのだ?」
「じ、実は……」
●○●○●
私は事前に計画していた通り、自分は名前以外を覚えていない記憶喪失の少女である設定をグウェインに告げた。
どこから来て、何故ここにいたのかもわからないし、頼れる身よりも無い事を伝えるとグウェインの目はいやらしくギラつかせながら「自分と共に来ると良い」と言ったので、私は想定通り彼に着いていくと頷く。
魔王には状況について思念で伝えてあるので、特別彼らも私も慌てるような事はしなかったが、魔王から聞いた話では、デイトルトが想像以上に落ち込んでいたらしい。
デイトルトは分身体だと本来の実力の半分も出せない。
だが、それでも仮にも三魔貴族。彼は半分以下の力しか無くとも人間風情に遅れを取る事などないと思っていたのだが、それは予想外に裏切られてしまう。
しかし問題なのはそこではない。
(魔王も言っていた。フォルクハイム家最弱とまで言われるグウェインですらあの実力。そうなるとフォルクハイム最強とまで噂されるウィルスレイン卿を、私たちが本当に打ち倒せるのかどうか……)
少なくとも私ではどうやっても倒せない。
おそらく本気の三魔貴族でもウィルスレインを相手にするのは難しそうだ。
となると、こちらの戦力で打てる最善手はもはや魔王サタナイル以外、ない。
思念では「聖王本人以外には負けるつもりはないよ」と豪語していた魔王だが、果たして本当にそうだろうか。
魔王は封印を解いた時、私に言っていた。外で伸び伸び強くなれる聖王になんか勝てっこない、と。
それはあながち比喩なんかじゃなくて、聖王の実力はそれほどまでに卓越しているというのだろうか。
そうだとするなら聖王の継ぐ子として在るフォルクハイム家のウィルスレインにも勝てないかもしれない。
私は……私たちは、選択を誤っただろうか。
時期尚早だったの、だろうか。




