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第30話 薄暗い目的

「このガキ、とんでもねえ奴だ」


 私を荷物のように肩で抱えている男が憎々しげに呟く。


 山賊どもに捕まってから、小一時間ほど。彼らの仲間のひとりが使える転移魔法にて、今この場所に私は連れてこられた。


 転移魔法が使える山賊の男は、他にも強制睡眠系の魔法も扱えるらしく、それを私に掛けて私を眠らせた。


 と、私は彼らに()()()()()()


 私には睡眠系魔法の効果を無効化するアンチマジックまでは使えないが、体内を巡る魔回路に強制興奮系の魔元素を円滑に満たす事で、睡眠系魔法への耐性としたのである。


 初めての試みだったが存外上手くいき、私は襲われた眠気に対し、強い興奮作用によってその効果を薄めさせた。


 そしてそのまま眠ったフリをした。口は塞がれていたが目元はそのままだったので、薄らと目を開いてこの周辺を見回してみる。


 石造りの冷たい廊下。明かりはところどころに置いてある松明でわずかにその壁面を照らし、外部からの光や音が及ばない場所のように見受ける。


(どこかの地下かしらね……?)


 私が思うと、


「それにしてもナイフみたいなもんはどこにも持っていなかったな。一体このガキ、どうやってダレンを刺したんだ……?」


「いや、それよりもこんなガキ、今までガボル村にいたか? 俺は何度かあの村に偵察や侵入してるが、見た事ねえぞ……?」


 山賊どもが私の事に関する会話をし始めた。


「そんな事はどうでもいい。それよりこれが丁度良い潮時かもしれねぇな」


 と、山賊の頭が言った。


(潮時……?)


「潮時って何がっすか、(かしら)?」


「村長が言ってやがった事だ。偶然だが、ありゃあ現実になるんだよ」


「か、頭! そりゃ一体どういう事っすか!?」


「そりゃあな、ボスの素行の悪さにフォルクハイム家の者が目をつけ始めたって事よ」


「フォルクハイムってまさか……あの聖戦士ウィルスレイン公爵ですかい!?」


「そうだ。ウィルスレインが本格的に動き出せば、もうどうにもならねえ。その前に俺たちはボスとの縁を切らねえと、俺たちも一緒に捕まっちまうぜ」


(なんですって……!? あのウィルスレインが……)


 私は大人しく彼らの会話に耳を傾ける。


「んじゃあこのガキを届けたらもうこの山賊まがいの稼業も終わりっつー事っすね」


「そういう事だ。けどな、どうせなら破滅するボスから色々頂こうと思わねえか?」


(かしら)、そりゃあ一体……?」


「くくく。俺たちにやらせてきた事をネタにゆすって、大金を頂いてから縁を切らのさ。そうすりゃあ俺たちゃしばらくは遊んで暮らせるぜ」


「なるほど! ガキを渡すついでにボスから金をゆするんですね!?」


「ばーか。ガキも渡さねえよ。さっき言ったろ? 最悪な飼い主のところに売りつけるって。その人なら、今のボスよりももっと高額で女を買ってくれて、しかも絶対にその悪事が聖王にもバレねえのさ」


「どういう事っすか!?」


「聞いて驚け。そりゃあな、なんとフォルクハイム家の引退した先代、ウィルスレインの父親だ」


「え!?!?」


「さっきフォルクハイム家が目をつけたって言ったろ? ありゃあな、俺が手を回したんだ」


「か、頭が!? なんでそんな事を……?」


「簡単な話よ。今のボスは元々頭の悪い小悪党だ。俺たちへの金払いも悪いし、ほっといてもいつかどっかでボロを出して自滅する。そんな奴よりも、もっと力のある奴がボスになってくれた方が俺たちも安泰だろ?」


「それがウィルスレインの親父だってんすか!?」


「そうだ。ウィルスレインの実親、グウェイン・ラニ・フォルクハイムは中々に下衆な趣向を持ってやがってな? このガキみたいな女子供を弄くり回して遊ぶのが何よりも大好きな、生粋の変態だ。アイツは聖王とも繋がりが深いだけあって、テメェの悪事を多種多様な方法で揉み消しまくってやがるのさ」


「じゃあ今度から俺たちはフォルクハイム家がバックにつくって事っすか!?」


「そういう事だ。だから、今のボスとはさっさと縁を切って、このガキを連れてフォルクハイム領に移動する」


 山賊どもは私が聞いていることなど知る由もなく、次々と秘密を漏らしていく。


 それにしても驚かされる。まさかあのウィルスレイン卿の父が、そんな下卑た行為をしていたなんて。


 貴族にあるまじき卑劣な下衆。


「さて。とりあえず事を起こす前に腹ごしらえでもしようぜ」


 山賊の頭が言うと、


(いった!)


 私は乱暴にドサッと床に投げ捨てられた。


 どうやらこの地下室が彼らの秘密の拠点らしい。


 周囲にはこれまで彼らが集めた金銀財宝、希少で高価な調度品、良質な毛皮に絨毯など様々な資産があった。


 そして数々のテーブルに山賊たちが席に着いて、それぞれが食事の準備を始める。


「さて、てめぇら最後の晩餐だ。今日でこの屋敷の地下生活からおさらばする!」


 山賊の頭が木の酒樽から注がれた地ビールを持ち上げて言った。


「ここで最後の晩餐を済ませたら、明朝、俺はボスのところに最後の挨拶に行く。てめぇらは俺たちの荷物を運び出せ。いいな?」


「「ぉおおーーーーッ!!」」


「よし! んじゃ、ボスの破滅と俺たちの成功に、かんぱーい!」


「「かんぱーーーい!」」


 こうして彼らは各々、楽しそうに食事を始めたのだった。




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