第31話 リーガンブルク男爵
「……よく眠っていますわね」
私は薄目を開けて周囲の様子を伺ってから、ゆっくりと身体を動かす。
山賊たちは最後の晩餐を済ませ、みな眠りに落ちたようだ。
「さてっと」
私がこれからやる事。
それは、
「コイツですわね」
山賊の頭。
この男をここから連れ出して、私の手駒とする事である。
しかし大の大人を少女一人の手で運び出すのはさすがに骨が折れるので、私は思念を飛ばして魔王を呼び掛ける。
(サタナイル。サタナイル。来ておりませんの?)
私の呼び掛けに少し間を空けて、
(いるよ、メイリアちゃん)
魔王からの返事が来る。
どうやら魔王はしっかり私を探し当てて来たようだ。
私はここに連れて来られる前、魔王に思念で「私が連れさられた先を探し出して、私が合図するまで近くで潜んでいなさい」と命じておいた。
主従契約を結んだ際の特殊な能力付与のひとつに、互いの位置情報を常に把握できるというものがある。これは実に便利だが、反面隠し事もできないという意味でもあり正直鬱陶しいのだが、今回はそれが役に立った。
ちなみに三魔貴族たちとガイルとフランクはガボルの村で待機してもらっている。あまり大人数で動くのは潜入や盗聴には向かないと踏んだからである。
(どこにいるんですの? 姿を見せなさい)
(うん、わかったよ)
魔王が思念でそう返事を寄越すと、
「ひっ!?」
私の眼前、本当に目の前で突然、魔王サタナイルはその姿をパッと現した。
(ば、馬鹿! いきなり目の前に現れないでくださらない!? ビックリして思わず変な声をあげてしまいましたわ!)
(だって姿を見せろって言うから……)
魔王は『暗黒』属性の『ヒドゥンシャドー』という魔法を使い、影の中へ隠れていたのである。
私もこの魔法については割と得意でよく知っている為、魔王もおそらくそれを使って潜んでいるんだろうなとは思っていたが、まさか私の影の中に入っていたとは思わなかった。
(そうだとしても、もうちょっと離れたところからゆっくり出てくるんだと思ってましたの! そんないきなり目の前に出てきたらビックリするでしょう!?)
(んもー、メイリアちゃんはワガママだなあ)
(そう言う問題ではないですわ! ひとまずサタナイル。貴方に仕事をしてもらいますわよ)
驚かされてしまった事に若干腹を立てながらも、私は魔王に山賊の頭を連れて行くように命じるのだった――。
●○●○●
「ほう? その娘が今回のガボル村の使者とな?」
指にゴテゴテとした金銀の指輪を沢山つけた、太った男の下卑た声が薄暗い地下水路の空洞内に響き渡る。
「はい、ボス。気は強いですが、中々の上物でしょう?」
「うむ。少々幼いのが難点だが悪くないな。ジリング、よくやった」
男が言っているジリング、というのは山賊の頭である男の名である。
そして私は両腕手首を身体の前に出す形で拘束されたまま、悲痛な表情で俯いている。
この地下水路はリドルク村からリーガンブルク領周辺に続いているもので、内部は様々なところへと通じているらしい。
そこで私のように捕らえられた娘たちは皆、こうやって売られるようだ。
「……? どうしたジリング? 娘をワシに寄越さんか」
「その前にボス……、いや、リーガンブルク男爵。少々聞きたい事があるんですが、良いっすかねえ?」
「こんなところでワシの名を呼ぶな馬鹿者! 誰が聞いておるかわからんだろうが! ……で、なんだ? 金なら先程渡しただろう? あれ以上は出さんと毎回言っておるだろう」
「ボスは俺たちに何故、ガボル村からの使者を襲わせて金品を要求したり女子供を攫わせてたんすか?」
「は? 何を言っておるんだジリング。そんな事、貴様も知っておるだろう?」
「いや、ちょっと忘れちまって。もっかい説明してもらっても良いすか?」
「面倒な奴だな。村長を丸め込んでガボル村をワシの領地にする為だと言っとるだろうが。あの村には信じられんような宝が眠っとるらしいから、それを掘り起こす為だ」
「ああ、そういやそうでしたね」
「なんだ貴様? まさかその宝を山分けにしろと言いたいのか? そうなら、無理だぞ。貴様との契約はあくまでワシの指示範囲内だけの話だ。だいたいこんな平和なご時世で戦いや喧嘩くらいしか脳が無く、仕事もロクに出来ないお前たちを拾ってやって、山賊稼業を仕込んでやったのは誰だと思っとる? ワシが様々な知恵を教えてやらなかったら、貴様たちなんかとっくの昔に兵士に殺されておったのだからな」
「はい。充分よくわかってます。ボスがいなければ俺たちはガボル村の住民が聖王へ助けを求めに行くのを邪魔して、ついでに人身売買までしちまう、なんて思いつかなかったっすからね」
「そうだろう。わかったならさっさと娘をよこせ」
「最後にもうひとつ。リドルク村の税金が異様に高くなってますがこれは聖王様の指示でしたか?」
「は?? なんでそんな事を聞く? 関係なかろうが!」
「いや、異常に高いんでなんかおかしいなあー、と」
「ワシの領地でどういう政策をしようとワシの自由だ! 聖王など関係ない! それがどうした!?」
「……くっくっく。いや、なるほどなるほど」
ジリングが笑う。
釣られて私もほくそ笑んだ。
「そんなら、あんたはもうおしまいだよ。この強欲デブが」




