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第二十五話

 だが、ここで困った事になった。


 「そういえば、あの人の年収は、月収で車、一台買えるほど、もらっているとアラバに聞いた事があるのう」


 レフィーユと代わって正面に座った、このイワト・ゲンゾウである。


 「アラバ…ああ、あのウワサの…」


 当然の事ながら、イワトには自分の正体を教えていない。


 つい、いつもの調子で返答してしまいそうだったので、それを抑えていると、イワトの視線が自分の頭を見ているのだろうか、少し上を向いていたので法衣をずらして深く被る。


 すると上から下へ、イワトが視線と顔を動かしていたが、物珍しさでこちらを見ているワケではなく。


 ただこんな状況下で落ち着けない自分が闇を使って、座高を高くしたり、低くしたりを繰り返していた。


 「…何にしてるのよ?」


 そして、丁度、一番高くなったところでレフィーユに呼ばれたセルフィが入ってきた。


 「この椅子はどれくらい高くなるのかを試してみたくなりましてね」


 「それアンタが伸ばしているのでしょう?」


 「ええ、そうとも言いますね」


 「どうして『ほっ』としてるのよ?」


 この心境は、ここにいる誰にもわからないだろう。


 「セルフィさん、ようやく、この漆黒の魔道士も裁かれる時がやって来ているから『ほっ』していると、このジング…」


 セルフィもそれはないと理解しているのか、それを無視しながら聞いてきた。


 「ふん、それで、どうして私を呼んだのかしら?」


 「どうしてって、わかるでしょう?」


 「わからないから聞いてるのよ!?」


 『バンッ』


 隣で取調べをしてるという独特の音が止まった。多分、聞こえたのだろうかと見えない隣に目を向けて視線を戻すと、セルフィはホントに心辺りはないのか半ば睨みつけられていた。


 「セルフィさん、貴女に心当たりはないのは当然です、きっとこの男のでまかせだと、この…」


 そう言う途中で、その男を指を差しながらセルフィに答えた。


 「いや、前に、貴女の言い方をすると『最重要巡回区間』というのですか?


 そこで調べモノをしていた際に、その制服を着た生徒に出会いましてねえ」


 それを言った途端、空気というのが少し冷たくなったのを感じたが、おそらく自分がその生徒を何かしたのではないかという疑心から来るものだろう。


 と理解した上で構わず答えた。


 「その生徒に頼んだのですよ…」


 そうして身振り手振りで、その人物の特徴を言うと、セルフィはその人物が思い描けたのか呆れた。


 「まったく、あの人はそんなところで何やってるのよ…」


 流石にセルフィも自分がボイスレコーダーと一緒に置いておいた『調べ物』には心当たりはあったのだ。


 「いや〜、まさかあの人が噂のアラバ君だとは思いませんでしたねえ」


 「まったく、あの人もあの人なら、アンタもアンタね。普通、敵対している組織に情報なんて提供する?」


 「おや、今回は協力すると言ったはずですが?」


 さすがにこの嫌味には、呆れたのかセルフィは『ふん』と言いながら携帯を締まって、また席に戻ると、取調べの内容を書き記す、調書用の原稿を一枚とった。


 最初は取調べをするのかと思って、声の濁った咳払いしたがセルフィは何を考えているのだろう。


 ペンを握ったきり黙ったままだった。


 「どうしたのですか?」


 「貴方に、これ以上、聞く事ってあるのかなって思ったのよ」


 「セルフィさん、何も怯む事はありません。貴女は、あの人の妹さんなのですよ?」


 そんな事を見慣れた取り巻きが、身体をクネクネさせながら自分を指して『いままでの悪事を暴くチャンスです』と言うが、セルフィの考えている事が何となくわかった。


 「そういえば、今までの悪事と言われましても、ほとんど、暴かれてますねえ」


 言うまでも無く『暴いた』というより決め付けたのは、この向かいに座っている姉の事である。


 「まったく…」


 そう言って、セルフィはその原稿用紙を裏返してペンを走らせていたが、やはり姉と妹、ましてや同じ『治安を守る』という事をしているため、比べられるのがやはり気に入らないのだろう。


 いらいらとしていたのが、こちらに伝わってきた。


 気まずい空気の中、とりあえず、書いているモノを聞いた。


 「それクレペリン検査でしたか?」


 時間つぶしのつもりなのだろう『そうよ』と頷いたまま、この一桁の数列の間に足し算の答えを書き込んでいた。


 そんなセルフィを見ながら、自分もやった事があった経験上、彼女の計算はとても速く、あっという間に三角形を作り上げていくので、素直に感想が漏れた。


 「計算、早いですね?」

  

 「漆黒の魔道士に褒められるなんて光栄ね、アンタもヒマならやってみる?」


 「どうもクレペリン検査をやると、頭の中がチリチリする体質らしいので、お断りしますよ」


 「あら、残念ね」


 少しにこやかになったが、隣にいた男が格好をつけながら言った。


 「結局、貴様と私達二人の頭は出来が違うという事だ。それにしても、さすがセルフィさんだ。伊達にお高いIQを誇ってはいませんね、このジ…」


 「こんなモノで『感銘した』なんて言わない方がいいですよ?」


 「何を言うか、三分足らずでこの15桁の数字で三角形を完成させる。


 こんな事は天才の頭脳を持ってしないと出来ない事じゃないか、この事に、感銘を覚えずして何を感銘したと言うのだ?」


 「良く知りませんがクレペリン検査というのは『出来すぎたら、危ない』って事らしいですよ。それに、こんな事が早くても、私は天才だとは思えませんね?」


 「随分と失礼な事をいうじゃないか、現にセルフィさんはインテリジェンス出身…」


 「その通りよ…」


 セルフィも頷いて答えるので、この男は調子に乗って続けた。


 「そして、何を隠そうIQ230の持ち主なのだぞ?」


 「私は天才ではないわ」


 「その通りですよ、セルフィさん、って、セ、セルフィさん?」


 「確かにアンタの言うとおり、自分を天才だとは一度も思った事はないわよ」 


 「何を言っているのですか、周囲は皆、貴女のことを『天才』だと言ってるではないですか、周囲が認めたという事は、世間が認めたという事ではないですか?」


 「毎回、テストの点数を100点を取り続ける人を天才とは言わない…でしたっけ?」


 前に『インテリジェンス』を特集していたテレビの内容を思い出すように答えると、セルフィは頷くように聞いて来た。


 「じゃあ、貴方は私に何が出来て天才だと思う?」


 「難しい事を聞きますね?」


 答えのない答えを聞いて来たのは明らかだったが、セルフィの顔が不思議と真剣そうに見えたので、自分は『ある人物』を思い描きながら答えた。


 「時と場所、その瞬間を見ていた人が決める事ではないでしょうか?」


 「その瞬間?」


 「難しい言い方をしたかもしれませんが、さっきのテストを100点を取り続ける人というのは『頭の良い人』と言い換える事が出来るでしょう?


 100m走が早い人は…『足の早い人』。


 本を見ずに、その内容をスラスラと間違う事無く朗読が出来る人は『記憶力のある人』とね。


 その中で、言い換える事の出来ない『瞬間』の事ですかね」


 「ふん、なるほど、それを見た人が天才というのなら、姉さんは間違いなく天才ね」


 だが、そうなると自分は姉に最初、この妹のことを皮肉を込めて『天才』と言ったが『そういう事だ』と頷いていたレフィーユも『その瞬間』を見た事があるのだろう。


 少し顔が笑ってしまったが、セルフィは何かに思い当たったか呆れながら言った。


 「そういえば、私、今回の事件で『その瞬間』に立ち会った事があったわ」


 「それは?」


 「今回、たった一人だけ、当時、情報の少ないというのに、プロファイリングだけで真相に辿りついた人がいたのよ」


 「へえ、そんな人がいたのですか?」


 そんな事は知らなかったので、セルフィに聞こうとすると、隣の男が自信たっぷりに胸を張っていたが、違うのか、もう、無視されていた。


 だが、セルフィは、その人の事が気に入らないのか、イワトを差しながらそっけなく答えた。


 「まあ、この人の友達の事よ」


 「ああ、なるほどのう」


 『ガハハ』と笑いながら、自分は知らないことだったので、少し『ムッ』としているとプリントを持った生徒が入って来てこういった。


 「セルフィさん、検査の結果が出ました。」

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