道春との話し合い
<道春との話し合い>
次の日・・・・・晴人は選手の練習を始めると、すぐに泳ぐ道春を止めプールサイドに上がらせた。そして、道春を自分の前に立たせると、弱気になっていた気持ちをもう一度叩き起こすように大きな深呼吸をした。
晴人「道春・・・・・・昨日、お前のお母さんとプールで話しをしたよ。それは知ってるか?」
予想通りの内容だったのか、道春は声も出さず晴人の顔も見ず、うつむき下を見たまま静かにうなずいた。
晴人「何を言いに来たのかも知っているよな?」
またゆっくりとうなずく道春。そのまま、焦らずに一つ一つの内容を順追って進めていく晴人。
晴人「まず、その事に対して道春がどう思っているのかを聞きたい。そこら辺はどーなんだ?」
晴人には自信があった。ずっと自分の練習を素直に続けてくれている道春。彩香の言う通り選手も絶対に自分の味方になってくれている!絶対に信頼関係を築けている!!そんな強い自信があったのだ。
道春「・・・・・・・・わかりません。」
すぐに自分の味方になってくれると思っていた道春の予想外な返事。その返答を聞いた晴人は、道春の奥底にあるその思い悩む気持ちをすぐに感じ取り見抜いた。
晴人「お前はいつも引っ込み思案で自分を出せないでいる。もっともっと自分の気持ちを出して、表現していいんだぞ!!わからないなんて事はないだろ?自分の気持ちを正直に言ってみろ!!」
少しきつめな言い方だが、もう数ヶ月も一緒にいる教え子だ。その性格も考え方も晴人には理解できている。だからこそ言える、きつめな言い方だ。
道春「僕、お母さんをけなしたくないし・・・・・・お母さん好きだから味方でいたい。でも水元コーチも信じています。」
優柔不断というか、はっきりしないというか、そんななよなよした態度で自分を主張できない道春。そんな姿を見た晴人が、更に強い言い方で怒鳴る。
晴人「道春はもう高校2年生だぞ!!!そんなんだからマザコンなんて言われてしまうんだ!!いつまでもお母さんお母さん言ってないで、自分で行動して自分で決めろ!!」
道春に味方になってもらって、母親を説得する。そんな展開を期待しての会話だったのだが、その内容が道春のはっきりしない態度に対する説教に変わってしまった。なんだか完全に話す内容がそれていっている。それでもその内容は、道春を水泳選手として成長させる為には絶対に必要な事でもあった。
引っ込み思案で自分を主張できない道春の性格。そんな弱気な性格の選手が水泳で結果を出せるとは到底思えない。上り詰めたトップスイマー達は、皆強い意志と精神を兼ね備えている。
晴人「もっと自分を強く持て!!こないだのレースで結果が出なかったのは、その性格にも理由があるのかもしれないぞ。道春にとって変えるのは、練習に取り組む姿勢でも泳ぎの形でもない、性格だ。速くなる為にも、目標・意思を強く出せる性格になれ!!」
晴人のストレートな言葉。それを聞いてももじもじしたまま、また弱さを見せる道春。晴人は大きなため息をつくと、軽く目を瞑り、残念そうに首を横に振った。
晴人「お母さんとの一件、それを解決する為に道春の力を借りようと思ったが・・・・・・・そんなんじゃ無理だな。後日、お母さんに会いに道春の家へ行く事にする。わかったか?」
『一度自分から母に話をさせて下さい!』そんな男らしい前向きな意見を期待した最後の賭けのような晴人の台詞だった。が、道春はそれを聞いても何も反応をせず、挙動不審にまで見える動きで小さく会釈をすると、すぐにプールの中に入って練習に戻ってしまった。
晴人はその姿を最後まで見送ると、道春に対する残念を込めた脱力の小さなため息をついた。




