【もう出ない 五・七・五の 在庫がない】第14話 関越道0ビヨンド~新潟×離島~ その14
「じゃあ、野生動物とか怖い生き物もいるって前提で、とりあえず旅初日は助っ人として円谷英雄さんがついてきます」
吉と出るか凶と出るかわからない圧迫助っ人。
「じゃあ、小林くんはこれに着替えろ」
ハイジさんが小林氏に黄色いパーカーを手渡す。
「エラくめでたいカラーリングの服ですなぁ。チャリティでもするんですか?」
サッカーできるとは思えないビールっ腹を晒してからお着換え。そしてフードを被ると……
「ピカチュウ!」
「ピカチュウなりきりパーカーだ」
ヒゲとメガネのビール腹の--留の大学生がピカチュウなりきりパーカー!
「なんの罰でしょうか」
「作戦だ。真剣な作戦なんだよこばやっちゃん」
「詳しく聞きたいです」
当然の権利だ。
「刺客でメシの化け物に遭遇し時は、悪いがお前に行ってもらう」
「……それは仕方ないことだと思っています」
メシの化け物とは!
佐藤佑樹&三枝千鶴の変食コンビである! 二人はインターネット中心の記者であり、旅で通常設置される刺客と違い、大学生ではなく完全なプロである。二人がメインに書いているジャンルは食、なのだが、よくある美食方向ではなく、変食の方にベクトルを向けており、普通は食べない変わった異国の料理や食べない食材(虫など毒のない生きとし生けるもの全て)を食べる“珍食”、そういった料理や通常の料理をコンセプトやテーマをつけてハシゴし続ける“大食”がメインである。特に佐藤さんの方はその道10年を超えるベテランであり、食えるものがあれば地球のどこへでも行き食べ、数か月前に挑戦状代わりか佐藤さんからその変食記事をまとめた本が送られてき、さらに最近佐藤さんは変食家としてテレビにも出始めている。しかしメディアでは披露しないもの、その大食漢っぷりは常識の範囲を超えており、マスカラスマンとの餃子対決ではペースを落とさず30分餃子を食べ続け、続くvs水原さんとの牛乳対決で2リットルの牛乳を即座に飲み干した。おそらくそういう体質なのだろうが、その副産物である食のスピード“速食”も相当なものであり、刺客史上最強の敵として三回戦ったが、ほとんどが対戦というよりもただの蹂躙であった。もはや“メシの化け物”と呼んで問題ないのだ。しかし、小林氏は佐藤さんに不幸なアクシデントがあったとはいえ大金星をおさめており、佐藤さんに苦い記憶を植え付けている。しかし難敵だからこそ勝利した時のアドバンテージが大きく、屋久島図鑑150種では、佐藤さんに勝つだけで図鑑110種を免除してもらうことができた。
「メシの化け物に勝つにはこばやっちゃんを使うしかない。しかし、そのこばやっちゃんが出オチとは言えピカチュウだったら。相手は集中力を欠く」
「欠く、でしょうね」
「さらに俺たちがお前を応援するときに頑張れピカチュウ! とでも言えば、また佐藤さんがむせる場合がある。もう真正面から化け物に勝とうなんて気はさらさらねぇんだよ。アクシデントをバレないように起こすしかない」
「起きる、でしょうね」
服が黄色いまでは、夏、それも8月だし、武道館で夜通しやるチャリティのアレ的なんかだと思ってテンションが上がっていた小林氏もピカチュウを着せられているとわかった瞬間激なえ。もう相槌が人間未満オウム以上のオウム返しの毛が生えた程度しかできていない。
「姑息ついでだが」
そしてハイジさんも姑息の自覚はある御様子。
「マスカラスマンもお前マスク被るな」
「何ィ!?」
「マスクを被っていないお前がマスカラスマンだとはマジでバレねぇんだよ。なぁ英雄」
英雄もブンブン頷く。
「マジで誰かわかんなかったよ」
「そういうことだ。今のお前はマジでいかついヤンキーだ。当然俺らはお前がドがつくほどの真面目だってことは知ってるが、一見いかついヤンキーだ。だから、刺客を見つけたとき、一旦お前は別行動にして、さも我々と関係のないいかついヤンキーかのようなふりをして絡んでもらって相手はビビるテンパる。その隙に対決を俺らが始めて、ビビった相手の脳天パッカァーン! ヘイ、俺らの勝ち」
変わっちまったな。ハイジさん、アンタ変わっちまったよ。前からちょっとクズなところはあったけど、一回卒業してから磨きがかかってるよ。余裕がある時はいい先輩いい兄貴分、可愛がられる俺らいつもいい気分。だけど追い詰められるととたんに変わる気分、学内一のクズに変貌いい御身分!
「でもマスカラスマンがいない、ってのは感づかれるんじゃないですか?」
良崎にしては冴えてる答えである。我々一行は見た目が派手だ。常に和装のハイジさん、人生のポテンシャルが顔面を中心にルックス全振りの良崎、見た目が中年の小林氏、そして極め付きに常にミル・マスカラスレプリカの覆面を被っているマスカラスマン。他の顔はうっかり忘れてもマスカラスマンの覆面という個性を忘れることはないだろう。
「フッ、まさか思い付きでやった罰ゲームがこんな形で役に立つとはな。雨宮!」
「はいっ!」
「マスカラスマンベリアルの用意だ」
「えっ!? エッ、ジャナイヨ、カンナチャン。群馬県デヤッタ、マスカラスマンベリアルニ、変身スルンダヨー!」
凡庸な返事からの裏声でトッピーにみんなちょっと反応に困る。これ、壊れちゃったのかな……。雨宮さんで遊びすぎて壊しちゃったかもしれない。もう、せめて願うことは、これを雨宮さんが面白いと思ってやっていることであるという事のみだ。雨宮さんが雨宮栞菜という人間でい続けることが辛すぎて、辛い感情を分散するために本当に雨宮さんの中にトッピーの人格を生んでしまった、或いは生まれてしまったのなら、我々はもう雨宮さんのご親族にどうやって雨宮さんの現状を報告していいかわからない。
「雨宮さん大丈夫?」
「桜井くん……大丈夫だよ。だよねトッピー? ウン、ボクモカンナチャンモ全然大丈夫ダヨー」
桜井が何か本当に悲壮な顔をしている。桜井と雨宮さんは幼稚園からの幼馴染。桜井曰く、幼い頃から優等生だった雨宮さんは、受験の本番を迎えるたびに失敗し、常に滑り止めの学校に入る羽目になり、雨宮さんにとって滑り止めの学校を本命にしている桜井と同級生になってしまったという。そういう雨宮さん悲壮行進曲を知っている上に、まだそういう辛いことを経験していない幼い頃の雨宮さんの顔でも思い出してしまったのだろう。まさか……。幼稚園の頃から優等生と思っていた同級生が、大学になって急にこんなんなっちゃうなんて……。桜井も、見たくないものを見せられているのだ。本当にこれ、雨宮さんのウケ狙いであってほしい。
「続けるぞ?」
「大丈夫です。ね? ウン、続ケテクダサイ陣内サーン」
それがもう大丈夫じゃないんだよ。
「えー、その、マスカラスマンベリアルがいれば、一瞬ならアレ? マスカラスマンいるな、と勘違いしてくれそうだろ? お前にしかできないぜ、雨宮!」
変な汗をかきながらグッとグータッチを求めながらハイジさんが雨宮さんを激励。
「合点です!」
とトッピーをはめているほうの手で返す雨宮さん。
「デモ、マスカラスマンサント、ベリアルニ変身シタカンナチャンヲ勘違イシテクレタラ、作戦通リダケド、ソレデ相手ニ、アレ? 雨宮ガイナイゾ! ッテ思ワレナイノハ、チョット寂シイネー!」
もう誰も次の言葉を言えない。痛いところをついて来たな、トッピー。しかし、このトッピーが雨宮さんの本当の心の闇なのか、それともウケ狙いなのかまだわからない段階では、良崎すらもツッコめない。雨宮さん自身が言いづらいことを、トッピーの声として言えるんなら、それはそれで雨宮さんの救いになるかもしれないが、あまりにも心底をさらけだしすぎると本当に聞きたくなかった心の声や闇も知ってしまいそうでそれはそれで怖い。
「えっとぉ、じゃあマスカラスマンベリアルに変身しますね! わたし、頑張りますよ!」
無言の空間に耐え兼ねて雨宮さんもどうとも言えない、なんか取り返しのつかないなんかをしちゃったような慌てた答え。違うんだよ雨宮さん。取り返しがつかないことしちゃったのは君じゃない! 俺たちだ!





