【エヴァに乗れ 乗らねば帰れ レイを呼べ】第8話 梅花の決闘
陣内さんが俺とマスカラスマンを回らない寿司屋に連れて行ってくれた。
最初は遠慮して玉子ぐらいしか食えなかった俺とマスカラスマンも、どんどん大トロ、ウニなどを追加していく陣内さん、さらには自分では食えない量の大トロやウニを頼んで俺たちに「食え」と促す陣内さんの姿に感動し、陣内さんの粋な計らいを完遂させてやるべく勘定は全て陣内さんに持たせてあげた。感謝しろよ、いい先輩ぶるためには、貧乏で卑しい後輩役が必要で、俺たちはそれを演じてやったんだから。なんてことはもう言えない。本当においしかったですお寿司。ありがとう。陣内さんも見たこともないような銘柄のお酒を飲んでいい気分、梅の花の咲く夜の公園で俺たち三人は酔いを覚ましていた。
「……そろそろ俺らも卒業すっからよ」
「ああ」
「お前と決着つかねーままではいられねーんだわ。預けといたあれ、どうにかすっぞ」
「おもしれぇ」
……。卒業シーズンも迫った夜の公園。金髪オールバックのヤンキーと韓流アイドルみたいなマッシュルームに学ランの一見優等生っぽいヤンキーが街灯と梅の花の下、にらみ合っているような笑いあっているような……。要は少年誌に掲載されている女の子向けの美化されたヤンキー少年二人。
「お前とバカやるのもここまでだ。行くぜっ、最後のケンカだ!」
おおっ、始まってしまうのか!? 便宜上のイケメンヤンキーがマイルドに友情を語って「昔はバカをやった」で美化する非行と友情が! 本当にやばくなってもこっちはまだほろ酔いで高校生ヤンキーよりは確実に強い大学生プロレスラーのマスカラスマンがいるから大丈夫だ。心配なのは泥酔している陣内さんの方である。陣内さんはまだ非行少年に気付いていない。
「あっ、そういえばさぁマスカラスマン。あれ知ってた?」
「あれ? なんのことだ?」
「これ本当はバラしちゃいけないのか。ここで俺から聞いたってことは内緒にしておいてくれ」
「だからなんの話だ?」
「だからこれから話すんだよ。ただしこの話はやべぇ。うかつに知られると大学女子寮と最大与党が動く」
「だからなんだよ」
「……ンフフ」
……。
気になるアオリ、ヒキ!
大学女子寮と最大与党が動くほどでかいネタを内緒で教えてくれるのか!? 陣内さんの声量はお酒でバグっている。これから「バカ」の決闘をするはずだった高校生にも聞こえてしまい、高校生たちも気になってしまったのか、「最後のバカ」が始まってしまうと終わりが来る寂寥か、しばしの間。
「……」
「おい気になるだろ、言えよ」
「えぇ? でもマスカラスマンはバラしそうだなぁ。本当に誰にも言うなよ? いくら相手が女子だって大人数に囲まれて殴られればケガするんだぜ」
「うん、うん、わかったから」
「リーベルトにも言うなよ?」
「わかった。言わない」
「雨宮と星野にも言うなよ」
「ああ、わかった!」
「もちろん鬼畜にも言うな」
「ああ、わかったって言ってんだろうが!」
これからケンカを始めるヤンキーがいるって言うのに、うかつにヤンキーを刺激するようなマスカラスマンの怒声。
「水原にもダメだ」
「ああ、もうわかったよ。お前が言いたくなったら言えよ」
金髪ヤンキー、甲子園最後の夏で伏兵にサヨナラ打を打たれて敗北したプロ注目のピッチャーのような爽やかさで腰に手を当て天を仰ぐ。春。梅の香り。終わりの始まりであるケンカ。
……。でも高校卒業は3月である。最後のケンカは3月でも出来るが、大学女子寮と最大与党が動くほどのビッグなネタの盗み聞きはここでしかできない。
うっすら思っていただろう。覆面プロレスラーのお兄さん、頑張れ、と。頑張って酔ってるお兄さんから早く話を聞きだしてくれ。しかし覆面プロレスラーのお兄さんは諦めてしまった。酔ってるお兄さん次第になってしまったのだ。
「よしっ、始めるか!?」
「あのさぁ、チアリーダーのサークルあるじゃん」
「ッッッ!!!!」
金髪の自制心と陣内さんの口の滑りが被る。一度は始めかけたケンカ、再び延期。
大学女子寮と最大与党が動くほどの!? チアリーダーサークルのネタ!?
「もう少し梅の香りを楽しもうぜ」
マッシュの方の高校生も気になり始めてしまったようだ。梅の香りが染み始めた。
「ウチのチアリーダーサークルって、でかい校舎のエレベーターガールもやってるんだけどさぁ。あっ! やっべぇ、今のなしで。今のなしで、ウチの大学のチアリーダーサークルの話なんだけど」
「エレベーターガールの件を忘れればいいのか?」
「それちょっとやばいから」
「……初耳だぞ。チアリーダーサークルがエレベーターガールをやってるのはみんな知ってる普通のネタだと思っていたが、それも知られるとやばいのか?」
「それについては忘れろ。国連とホワイトハウスが動く。まだ死にたくねぇだろ。ちょっと待て。情報を整理する。お前らに話す程度なら大丈夫なネタと絶対秘密のネタが混在しているから。えぇと」
チリンチリン。突然、俺たちは強い光に照らされた。
「ちょっとお兄さん、大丈夫ですか? まだ寒いから早く帰りなさい」
「へぇ、これが免許証と学生証です」
やべぇ、お巡りさんだ。しかも職質され慣れているのか、陣内さん、先手を打って身分証提出。
「今はそういうのいいから。ちゃんと帰れるかい?」
「すみません。俺が送り返します」
「何だ君は。酔っているからって。マスクは脱ぎなさい」
「すみません、覆面プロレスラーなんです」
「そういうのいいから。脱ぎなさい」
「すみません、覆面プロレスラーなんです」
「脱ぎなさい」
……。
お巡りさんが来たことで陣内さんが何かの秘密をばらすことはなくなったが、陣内さんの話が気になってたくらいなので高校生たちには深夜の謎の覆面プロレスラーも気になってたはずだ。興味は既に移っている! お巡りさんが来たことで、あの謎の覆面プロレスラーの素顔が!?
「ん? その学生証。なんだ陣内先輩ですか! お疲れ様です! 暗くてよくわかりませんでしたが、在学中は大変お世話になりました! オオシロです」
「ん? ああ、オオシロか。お前警官になったんだ」
「はい! 陣内先輩のお連れということは、彼がマスカラスマンですね。承知しました! まだ寒いので、お気をつけてお帰りください。では本官も失礼します」
どうやらお巡りさんも既に卒業した陣内さんの後輩だったようだ。
「ちょっと待てオオシロ」
「はい」
「もう23時超えてるのにあそこで高校生がケンカしようとしてたからそれだけ頼むわ」
それだけは誰にも言うなよ。





