【エヴァに乗れ 乗らねば帰れ レイを呼べ】第2話 おうち時間は筋トレを
「アレ? 陣内さん少し体、でかくなりました?」
「ふっふっふ、いいところに気づいたぞリーベルト! おうち時間でスゲェ暇だったから、筋トレグッズ買っちゃいましたぁ~!」
陣内さん、袖をまくって上腕二頭筋をアピール。確かに細腕のはずが結構がっしりしているぞ。陣内さんは和服なので分かりづらいが、洋服ならサイズが変わるくらいかもしれない。
「プロレス好きのお前に気づいてもらえるほどとなれば俺もなかなかだな。もうスゲェんだよ筋トレ。やらずにはいられない! もうガッシャンガッシャンやってるから! ポジティブになれるし。糸をつむぐような気持ちだよ。途切れさせてはならない。でも追われるような気持ちはなく、ひたすら楽しく結果が出る」
「へぇ、どんな器具を使ってるんだ?」
筋肉の専門家にしてプロレスラー、マスカラスマンも興味をひかれる。
「お前みたいな貧乏がペットボトルに水を入れてダンベル変わりしてるのとはわけが違うぜ」
陣内さんががっしりした腕でスマホをタップ。購入したグッズの写真を筋肉とプロレスに情熱を注ぐマスカラスマンと良崎に見せてやったのだ!
「……おぉお! でかい! なんだこれ!? 本当にジムにあるやつじゃないか! でもまだ陣内が細いな。これは買ったばかりのころの写真だな?」
「あたり前田のクラッカー。これから俺の筋肉の変遷を見せてやる。ここの目盛りが持ち上げた重さだ。これがどんどん上がっていくぞぉ」
良崎さん、なんだか今一つ乗り切れなかったようで、「しんかのきせき」を没収されたラッキーくらい神妙な愛想笑いに。
「……」
「どぉうしたリーベルト! 女子も美ボディの時代だぞ! お前はタッパもある。鍛えれば……」
「はい、はい、それはわかったんですけど」
「おう」
「陣内さん、これご自宅の写真ですよね?」
「ああ」
「陣内さんのおうちのネコちゃん、目つきいかついですね」
確かにスマホの写真では、ジムに置くような器具で溌溂とハッスルマッスルしている陣内さんの後ろに、浅尾・岩瀬が登板して以降にネクストバッターズサークルに立った“3代目ミスター・ドラゴンズ”の異名を持つ代打成功率と得点圏打率の鬼、立浪和義の目つきでアメリカンショートヘアのネコちゃんが眼を飛ばしている。陣内さんは気づいていないがネコの表情じゃない。
「ああ、ウチの愛猫、ルイ・ヴィトンだ」
「金持ちキャラもここまで来ると不快感も湧きませんね。ヴィトンちゃんはいいですけど名付け親は殴りたいです」
「名付け親は―――万の学費をもう9年も払ってるから」
「すみません、ヴィトンちゃんがあんまりにも可愛くなくてビックリしました」
「ヴィトンのことはどうでもいい。気にしているのはお前だけだ。今は器具と筋肉の話だろ。話は理性的に進めろ。マッチョって賢いんだぞ。アーノルド・シュワルツェネッガーはカリフォルニアの州知事にまでなった」
「シュワちゃんがやると全然賢く思えないです」
「ということで次の写真をドンだ!」
バァーン!
「おぉう?」
これはもう、マスカラスマンより筋肉と器具に興味を持ってない良崎じゃなくてもわかる。
目つきがすさまじいな、ルイ・ヴィトンちゃん! ヤクルトの江村にデッドボールを当てられて唸った“孤高の天才”前田智徳の形相で陣内さんの後ろからカメラを威嚇する。
「やっぱりヴィトンちゃんの方が気になっちゃうんですよねぇ」
「ヴィトンのことはいいよ」
「いえ、よくないです。さっきの写真と比べて、ヴィトンちゃんのガタイが明らかによくなっています。何歳ですか? 成猫に見えるんですけど」
「8歳だ」
「8歳!? 8歳の成猫が短期間でこんなに大きくなるんですか!? ……まさかねぇ。まさか?」
陣内さんの目を盗んでヴィトンちゃんが器具で鍛えているというのだろうか?
「……リーベルトの言うことも一理あるかもしれない。確かにヴィトンはこんなにデカくなかった」
「検証する方法が一つだけあります。それは陣内さんマッチョ化の歴史を写した写真の後ろには、ほぼ必ずヴィトンちゃんが映り込んでいるということです」
「何故だ?」
「トレーニング終了で写真まで撮っている飼い主はしばらく器具に触らないから、その間は好き放題鍛えられるからですよ。ヴィトンちゃんが陣内さんの後ろに映り込んでいるのは、器具の順番待ち! 夜中にふと器具に触ってくださいよ。陣内さんが使っていないはずなのにきっと温かいです」
「すわっ! 嘘だと言ってくれルイ・ヴィトン……。次だ!」
3枚目の写真に写っていたのは“ガッツ”“ミスターフルスイング”“北の侍”と恐れられた小笠原道大の闘志と静寂さを併せ持ったルイ・ヴィトンちゃんだった。そのバルクは最初の写真と比べれば一目瞭然! オスのネコは顔がふさふさする分、頭でっかちに見えがちなのだが、ヴィトンちゃんはもうバキバキ筋肉に顔が埋もれそうだ。
「……スゲェ」
マスカラスマンさん、思わず感嘆。
「アレ!? やっぱりヴィトンがマッチョになってるぞ! 気づかなかった……。一緒に暮らしてるとわからないもんだな。昔から鯖缶とササミが好きな子でそればっかり食ってたのに」
「ボディビルダーの食事だな」
「でもこの前、八天堂のクリームパンを勝手に食われたんだが? クイズ! スタービューコロシアムの時はリーベルトに食われて今度はネコに……。鍛えてるネコがそんなもの食うか?」
「減量で筋肉を絞った後、食い物でパンパンに膨らませるのにはクリームパンがいい。カーボアップというやつだ。炭水化物と糖質、その両方を満たしているのがクリームパンだ」
「日向ぼっこしてるだけのネコだと思ってたのに」
「ボディビルはよく焼いた体が必須だ。これに間に合わすために、専用の塗料を使用するボディビルダーもいる。オードリー春日がいい例だ。なんてこった! 陣内の言った通りにマッチョはネコまで賢いぞ! お前以上にトレーニングとボディビルの知識があるじゃないか! ほぉおおお……。人間とネコの運動神経には大きく差がある。人間は日本刀を装備してやっとネコと対等であるとあのマス大山も言っていた」
マスカラスマンはプロレスラーとしてはかなり華奢な体格だ。種としての筋肉の発達具合ではもう人間のマスカラスマンよりもネコのルイ・ヴィトンちゃんの方が上になっている。ルイ・ヴィトンちゃんが人間だった場合、立浪和義、前田智徳、小笠原道大の眼差しを持った、ブレーンバスターでリングまで壊したブロック・レスナー並みの巨大なボディビルダーが実現する。
「格闘家として手合わせ願いたい……」
最後に残ったのがそれか。





