【言ってみろ 俺か? 幹部か? 長州か?】第6話 再発見! 豊島園! その6
ユーズーロンの龍さんはスゲェよッッッ! あんなに手早く手広く的確にツッコめるなんでユーズーロンの龍さんは本当にスゲェッッッ! しかも本物のヤンキーなんてマジでスゲェッッッ! あまりにもすごすぎて“世界の獣神”獣神サンダーライガーの解説ぐらいボキャブラリーが少なくなってしまったがすげぇぇぇよぉぉお! 1月の練馬は寒いが、ユーズーロンの龍さんのお笑いセンスは超アツいぜェェェッ!
だが委縮してしまうんでお引き取り願った。
「ハァ……。再開しますか、陣内さん。……陣内さん?」
豊島園はまだ遠い。そろそろ旅を再開させないと冬だからすぐに日が暮れてしまう。だが良崎がリヤカーの方を振り返ると陣内さんが姿をくらましていた。
「え? 陣内さん……? 水原さん……? 星野……? 桜井……?」
いなかったのは陣内さんだけではないぞ! 水原さん、星野、桜井までも失踪してしまう。石神井公園は練馬区屈指の樹海。迷ってしまったのだろうか? 練馬区でも屈指の樹海だが真っすぐに歩けば20分で市街地には出られるが……。
「逃げたんですか? こんなに全然キツくない企画で!? 中止にしますかね!? アイツが逃げたんなら中止ですかね!?」
ボォウッ!!!
まだ大泉学園から石神井公園、隣駅だというのに! 逃亡!? 良崎が令和初にして女性初のスーパーサイヤ人になるくらい語気を荒げる。
「あっ、あのぉー、リーベルトさん、陣内先輩がコレ置いていきました……」
モゴモゴモタモタと雨宮さんが和紙に達筆の書置きを良崎に差し出す。
『弁当フェアに行ってきます。(陣内)』
「ッッッァァアアア!?」
「リーベルトさん落ち着いてください! 2枚目もあります!」
ペラッ。
『お土産買って帰るので期待して待っておけ』
「ァアァァッッッふぅん?」
即収まる。
「ステーキ丼とかすき焼き重とか?」
「そぼろ丼もいいですね! 錦糸卵も乗ってるような! あと北海道シャケ弁もいいですし、最悪たこ焼きでもいいですよ!」
「しかし雨宮、スッと出しなさいよ。もう少しでわたしは取り返しがつかないくらい陣内さんを罵倒するところでしたよ。本人がいなかったからいいですけど、“陣内さんを罵倒する”、これを宣言しても本人がいないんで不能犯ではありますが、言うと一番痛いのはわたしの心ですから。スッと出しなさいよ」
「すみません。どうします?」
「そりゃあ待つしかありませんよね? 勝手に進めないですし。でも何もせずに指をくわえては待てないんで、無許可でどっかに行ったことに対する抵抗を少しはしなきゃいけないんですよ」
「どうするんですか?」
「ええ、もうとりあえず……BUMP OF CHICKENの『supernova』のPVみたいに雰囲気を出して歩いておいて、帰ってきた陣内さんに見つけてもらって、リーベルトたちは何もしなかったんじゃなくてウォームアップはしてたっていう空気にします」
なんだこの頭が痛くなるような作戦。コイツ、こんなにバカだったか? 陣内さんがいないとこんなもんなのか?
「このメンバーでか?」
マスカラスマンさん、ご意見提出。
①リーベルト
②小林
③マスカラスマン
④雨宮
確かに微妙すぎるメンツだ。仲が良いかもわからないほど絡みがないメンツ。良崎とマスカラスマンは不仲を装っているが識者の間では密かに付き合ってる説も浮上しており、そのデタラメを匿名で囁いて回っている自称識者は小林さんだ。マスカラスマンは一時期、小林さんにハマっている謎の時期があったが今の関係は不明。マスカラスマンと雨宮さんは体育会系の上下関係だが仲は悪くない。
だがコイツら全員、陣内さんという誰にでも横暴な立場の人間と、水原さんという誰にでも優しい仏のどちらかがいないと考え方も行動のベクトルもまとまらない。全員を舐めてかかってる星野でもいれば多少違ったかもしれない。
「ランラァーラァーラァー、ヘイヘイヘーイヘェイ」
「ランラァーラァーラァー、ヘイヘイヘーイヘェイ」
だがやるしかないのだ! 腹も減ってるし、あの陣内さんが駅弁フェアでお土産を買ってくる。とっても腹がエンプティになってくる、しかしジィーっとはしていられないワクワク! 錦糸卵のそぼろ丼とか絶妙に俺のツボをついてくる具体例じゃあないか……。
「ランラァーラァーラァー、ヘイヘイヘーイヘェイ、ウォウウォウゥォオーイエェー」
「ンワォー」
歌と呼べるのかも怪しいような奇声をあげ! 石神井公園を練り歩く! ハーフの美女と覆面プロレスラー、中年にしか見えないヒゲメガネに普通の女子大生! 成人式の季節の訪れだな。しかもこれからこの集団は弁当食ってから豊島園に行くんだぞ!
【帰ってきたうぉくのふぉそみつ】
【帰ってきたうぉくのふぉそみつ】
30分ほどBUMP OF CHICKENの『supernova』を歌いながら練り歩いていたら陣内さんたちよりも先に刺客にあってしまった。
「フッフッフ。俺の名はギガントマッスル大帝アバランチャーエクシード!」
成人式も迫る寒い季節なのに古代ローマ風の布に草の冠の2m越えの化け物だ。
「……」
陣内さんという責任者、指導者がいない状態でこれは何もできない。陣内さんの言う通り、陣内さんがいなければ俺たちは何もできない赤子同然、烏合の衆に他ならない。しかも今いるメンバーはそれぞれのダメなところをそれぞれが知っているメンバーなので石のアーチのように支え合うこともなく、どこからどう見ても誰とも繋がっていない川底の無力な石ころだ。
「陣内さんが帰ってくるまで待っててもらっていいですか? 陣内さんがいないと刺客もおいしくならないんですよ」
「……」
冬の寒さを防げないギガントマッスル大帝アバランチャーエクシードも自分の着ている布ぐらい薄々気づいているのだろう。陣内さんがいないとおいしさ激減!
「わかった。じゃあ俺は昼飯を食って待つ」
ギガントマッスル大帝アバランチャーエクシード、ランチタイム。ビニールの手提げからプラスチックの弁当箱を取り出すが……?
「アレ? ギガントマッスル大帝アバランチャーエクシード、その弁当、弁当フェアのですか?」
「ああ、そうだ」
「あなたも行ったんですねぇ」
「ああ。俺のは極厚ステーキ重だ」
極厚ステーキ重……。
「おぉふ、この弾けるような肉の弾力! 脂が口の中で100万ワットの輝きだ! タレは甘っ辛くてしかも麦飯だ。プチプチとした触感がたまらんなぁ!」
ギガントマッスル大帝アバランチャーエクシードは眉を八の字にしてほくほく顔で弁当を食う。ギガントマッスル大帝アバランチャーエクシードには悪意はないだろう。こんなにいい顔で美味そうに飯を食うヤツが悪いヤツのはずがない。ギガントマッスル大帝アバランチャーエクシードも弁当フェアに行った、そして極厚ステーキ重を選んだ。
だが烏合の衆の我々の意見も一致する。
陣内さんよ! 極厚ステーキ重を買ってきてくれ! 何を買ってくるか期待したし、弁当のシェアだって考えた! だが目の前で極厚ステーキ重を食われると、極厚ステーキ重を食う方向に気持ちが向いてしまうのだ。
「おかわり食うか。おかわりももちろん! 極厚ステーキ重だ!」
「ふしゅる、るるる」
ギガントマッスル大帝アバランチャーエクシードが2つ目の極厚ステーキ重に手を伸ばす。良崎の目が卑しい。コイツも陣内さんがステーキ重を買って来たら自分のものにする気だろう。
「おぉーい帰ったぞ」
そしてギガントマッスル大帝アバランチャーエクシードがまだ2つ目の極厚ステーキ重を開けないタイミングで弁当班、帰還。
「弁当買ってきたぞぉ」
陣内さんが下げているビニール袋がでかいぞ! これは期待が持てる。しかも水原さんは飲み物を……。ホットの飲み物が冷めないように袋を抱えているが、自分でもキモいのわかっているが水原さんの体温で温もってるお茶が飲みたい。
「陣内さぁーん!」
「陣内ィィィ!」
良崎とギガントマッスル大帝アバランチャーエクシードの声が重なった。
「なんだお前は。刺客か? 関係ねぇ。黙ってろ! これから飯を食うんだよ!」
「ぬう!」
もうあと数年で中年に差し掛かるベテランのプロ大学生のメンチに怯んでしまうギガントマッスル大帝アバランチャーエクシード。
「それじゃあ土産のラインナップを発表する」
まぁパッと発表するとこんな感じだ!
①錦糸卵&そぼろ&グリーンピースの三色丼
②新潟カニ弁当
③北海道シャケとイクラの親子丼
④関越自動車道 横川SA名物 釜めし
⑤キャラ弁 無幻魔人 ジャグラス ジャグラー(魔人態)
⑥名古屋イセエビフリャァ
⑦カリフォルニアロール
⑧極厚ステーキ重
⑨イカご飯
「ハァーウゥー!!」
あった……。あったぞ極厚ステーキ重!! だが一つか。ここでランラァーラァーラァーヘイヘイヘーイをやってたメンバーは極厚ステーキ重を食べたくて……。弁当シェアシステムは一見平和だ。だが良崎のような人間……俺も含めて、独占したい気持ちもある。
「好きなもんを選べよ」
「ハイッ陣内さん! わたし、甲殻類アレルギーです」
「じゃあ雨宮はカニ、エビ、カリフォルニアロール以外にしろ」
アレルギーには勝てない。
「極……錦糸卵で……」
なんにも悪いことしてないぞ! 甲殻類アレルギーなんだろ!? だったら素直に極厚ステーキ重を選べよ。しかし雨宮さんの中では罪悪感が勝ったようだ。極厚ステーキ重を辞退して第二希望の錦糸卵に行く。
「待て陣内」
「あ?」
「……陣内さん。刺客のギガントマッスル大帝アバランチャーエクシードと申します。極厚ステーキ重をお持ちですね? 僕も持っています。そ、こ、で、なんですが、この対決に僕が勝ったら、陣内さんの極厚ステーキ重をいただけないでしょうか?」
「?」
余計なことを言うなギガントマッスル大帝アバランチャーエクシード。極厚ステーキ重が一番のアタリ弁当だと陣内さんにバレると陣内さんが権力で極厚ステーキ重を持って行ってしまう!
「なんで?」
「!!!」
リーベルトさん、鬼の形相。
ここで! ギガントマッスル大帝アバランチャーエクシードに負けると極厚ステーキ重をギガントマッスル大帝アバランチャーエクシードに強奪される恐れがある! だがこの流れなら、勝負に勝てば手つかずのギガントマッスル大帝アバランチャーエクシードのステーキ重を逆に強奪して極厚ステーキ重の数を増やすことが自然になる。だがそこまでして取りに行くと陣内さんにも極厚ステーキ重の価値がバレてしまい、陣内さんが権力と年功序列で極厚ステーキ重を一つ確保して、結局一つの極厚ステーキ重を奪い合うことになる。しかも勝負に敗れると極厚ステーキ重が増えない上に陣内さんが買ってきた分は陣内さんが確保して我々に可能性は0だ。
「陣内さん。陣内さん落ち着いてぇ。わたしがやります!」
リーベルトさん、立つ! これは素早い判断だ。ギガントマッスル大帝アバランチャーエクシードと戦って勝てば、戦利品の極厚ステーキ重は戦った本人がもらうのが普通だろう。腹の探り合いを強引に終了させ、良崎が極厚ステーキ重にリーチをかける。
「おおお! その代わりにわたしが勝ったら! お前のその手つかずの極厚ステーキ重はわたしがもらいますよ! ギガントマッスル大帝アバランチャーエクシード!」
「どうしたリーベルト。いつになく熱いな」
「何もいりません! 他には何もいりません! 何もしなくていい! 人生の喜びの全てを捨てる覚悟はとうにできています! わたしの願いはただ一つ、わたしに戦わせ続けてください!」
ビシィッ!
「リーベルト。いいだろう。やってやれ!」
よし、まだ陣内さんに極厚ステーキ重の価値はバレていない!
「よし、いいだろう! リーベルト! 貴様の事務能力を試してやろう!」
「ッッッ!!!」
リーベルトさん、大学三年生の1月……。事務……? 就職……? あばばばばば……
「リーベルト、ソの二人。こっちを見ろ」
陣内さんに呼ばれてふり見くとビシッと人差し指を向けられた。その瞬間に卒業とか……就職とかそういう将来の不安がブアッと吹っ飛んでなんだか気持ちがよくなってきた。大切な何かを忘れたような気がするが、何かから解き放たれたような気持ちよさだ。
「あへぇ。事務能力、いいでしょう!」
良崎の目が渦巻きになってる気がするがそれでいいんだろう! 今は大切な何かを忘れるべきのような気がする。
「事務の下っ端と言えばシュレッダー! ここでの勝負は、シュレッダー早がけ対決!」
~シュレッダー早がけ対決~
・シュレッダー→詰まりやすい。
・シュレッダー→詰まると場合によっては本格的に動かない。
・シュレッダー→ボックスがいっぱいになると動かない(手でぎゅうぎゅうに詰めるとしばらくは動く)
・シュレッダー→結構な枚数を一度にかけても意外といける。
なんてこった。事務員に求められる事務勘が試されるぞ!





