【このラオウ 涙はとうに 捨ててきた!】第3話 あわてんぼうのサンタクロース
今日は聖夜……。
「メリー! クリスマース!」
ドアの強度を全く考慮せずバァ~ンとバチ開き、ズタ袋を背負った三人のミニスカサンタが雪と一緒にやってきた。生足ミニスカのリーベルトサンタ、星野サンタ、雨宮サンタは出だしのテンションこそクリスマスにふさわしいものだったが……
「……」
「……」
「……」
中日ドラゴンズ史上、いや、日本プロ野球史上最強の抑えピッチャー“死神”岩瀬仁紀のスライダーのように三人のミニスカサンタのテンションが横滑りしながら落ちていく。もう谷繁じゃないと止められない落差だ。
「……さっさと閉めろ」
ミニスカサンタ、サプライズ失敗! サークルの会室には俺と、年末年始に孫とスマブラする予定で練習に来ていた権藤教授しかいなかった。
「バカかお前ら……」
スベった方じゃない権藤教授さえも声が消え入るこの大惨事! サプライズを仕掛けに来たのに、ターゲットが不在というこの冬の珍事に、三人のミニスカサンタは最高に悲しい顔で正座し、ちゃぶ台を囲って帽子を置く。
「何やってんだろわたしたち……バカじゃね?」
「ええ、本当にバカみたいです」
しかも普段パーカーやジーンズ、ジャージで露出度が低いってのに気張ってミニスカサンタと来た。徒労感は全マシマシだろう。
だがコイツらの気持ちもわからなくもないような気がする。確かに、最近『演劇サークル』男子陣はちょっとガンバっていた。
ハイジさんは再入学後から本格的に書道に力を入れ始め、ハイジさんらしくもなく真剣に書道の勉強をしたり字の練習をしたりしていた。
マスカラスマンも卒業を控え、プロレスラーになるためのトレーニングが本格化し、筋トレやロードワークのみならず、プロレスラーとしては華奢すぎる体格を補うために大食いでの増量を計画的に行っていた。
桜井はサークルの会室に来るなりその日の課題をハイジさんや小林氏に教わりながら最適・最速で片付け、その後はマスカラスマンやハイジさんとゲームをしたり、バイトに行ったり、ポケモンサークルのブログを書いたりレートに潜ったりしていた。事実、桜井は雨宮さんを超える優等生へと成長し、ポケモンの方も好調である。
小林氏も小林氏で、そろそろやる気にならないと社会人としてもプロ大学生としてもヤバイと感じ始めたのか、会長を務める『演劇部』の方の練習メニューを作成したり、サッカーノートをさらに厚くしたりしていた。
この冬、男子はかなりガンバっていたのだ! それに引き換え女子は何をした? 桜井のように成績を高めることもせず、「落ちなきゃいい」で通し、ハイジさんやマスカラスマンのように具体的なビジョンも持たずにダラダラ過ごした。小林氏のように危機感を持つこともない!
だからこそ、そんな男子たちに少しご褒美をあげたい。ミニスカサンタになってプレゼントをあげよう。この考えがもうダメなんだよ! “人”としてガンバっている男子たちにあげるご褒美がミニスカサンタという“ちょっと女を見せる”程度じゃ弱いのだ。今の男子たちに「ご褒美をあげよう」とある種の上から目線で接するのであれば、それと釣り合うほど頑張らなきゃいけない。普段あんまり女子らしさを出さない良崎と星野がここまでするのは少し頑張ったと思う。そこは認めなければならない。多少なりともコイツらは身を削ったのだ。それに、良崎と雨宮さんは見た目で勝負できるので、ミニスカサンタで興奮する男子は大学に少なくないだろう。だが俺たちはもう、いくら美人と称されるこの良崎と雨宮さんでさえ見飽きてるので……。こういうのは身近な女子にやられても実は嬉しくない。何故なら身近な女子は、そういう女子として観ているからだ。身近な女子にエロやセクシーを求めたり見出したりするのは違う。こういう「そぉれ見せまっせー」は、見た目では良崎や雨宮さんに劣っていても芸能の子たちがやったりする方がキくのだ。
弱いのよぉ。仕掛けが本当に弱い。この様子だと、この三人のミニスカサンタは完全サプライズなようだが、肝心の頑張った男子たちは一人も部屋にいなかった。ハイジさんのサプライズが成功するのはなぜか? 失敗したこともある(マスカラスマンお誕生日事件)が、基本的には事前の仕掛け、根回しがあってこそだ。真の強者は不意打ちを外さない。今回のターゲットは『演劇サークル』男子。ハイジさん、マスカラスマン、小林氏、桜井には内緒でも、今ここにいる何も頑張っていないのでご褒美をもらうご身分でもない俺や、権藤教授にはこのことを知らせて仕掛け人側に回すことだってできた。俺にはできないが、権藤教授なら男子たちをこの場に呼んだり、留めたりすることが可能だ。今日、権藤教授はフラッとやってきて「スマブラの相手してくれ」で俺しかいなかったが、権藤教授が昨日、遅くとも午前に「スマブラ練習会をするぞ」とLINEで教えてくれれば、女子たちはミニスカサンタのご褒美をあげることが出来た。
そのあたりに!
「男子たち最近頑張ってますね」
「そうだね。ご褒美をあげてもいいよね。雨宮とリーベルトでミニスカサンタでもやれば?」
「アハハハ。じゃあお前もやりなさいよぉ」
「しょうがないなぁ」
って会話をついさっきしました感が見えてる。
「……陣内は?」
「書道の個展の準備だ」
「マスカラスマンは?」
「朝霞の大型パチンコ店の駐車場で行われるプロレス興行の前座試合だ」
「小林さんは?」
「ガチめの草サッカーの試合の戦略担当だ」
「えぇい、桜井は!」
「デートだ」
撃沈! 全員、ミニスカサンタより優先される用事、いや、外せない用事だった。一方、女子たちにやれたことはミニスカサンタのコスプレで観てほしい人がいない部屋に行くことだった。
「お前ら本当に……」
こんな切ない権藤教授の声は初めて聴いた。ハイジさんが一回卒業した時以上だ。権藤教授ももう若くない。むしろ大ベテランの域だ。そりゃいろんな学生、そしてその珍プレー好プレーを観てきただろう。それで免疫がついているはずなのにこのやられっぷりだ。
「言わないでください権藤教授。わたしたちは、バカだ!」
患者死なせたときのブラック・ジャックみたいなテンションで「バカ」宣言。本人たちが一番わかっているのだろう。
「寒いだろう。ほら、毛布をやろう」
本人たち……ミニスカサンタはショックととるべきか? せっかく生足出したのに、即ひざ掛けを差し出される……。確かに今回のターゲットは権藤教授ではない。それに権藤教授に「グヘヘヘ! 女子大生ミニスカサンタの生足生足ィ!」などとテンションを上げられるのも困るだろう。だがそんなに価値ないか? そんなに空振りか? そんなにバカか?
情けを掛けられているその様をリアルタイムで観ると、バカさよりも哀れさが勝ってくる。頑張れよ、良崎、星野、雨宮さん。俺たちにはそんなに刺さらなかったが、どっかの誰かにはお前らの生足は刺さる。
「まずは説教してやる。お前ら三人は、男子たちをナメた」
権藤教授がコントローラーを置いて立ち上がり、腰に手を当て、毛布にくるまり国立科学博物館の恐竜の目より生気のないミニスカサンタを見下ろす。
「陣内のことを、普段からアペペペと遊び歩いているヒマ人とナメた。マスカラスマンのことを、マスク・ド・残念な空回りの三流プロレスラーとナメた。小林のことを、陣内の腰巾着をやってるだけのヒゲ印の笑い袋とナメた。そして桜井のことを、いざとなれば必要だが基本的に地味で冴えない埼玉県みたいな人間だとナメた。コイツらがヒマだろうと勝手に決めつけ、本当にヒマなお前らはクリスマスに何の予定もない自分のアリバイ作りのためにヤツらを利用しようとした。違うか?」
「……」
「……。違うと言え……。本当にそうなってしまうぞ!? 悔しくはないのか!」
「……」
権藤教授、困惑!
「いいか、俺は教員だ。そして『演劇サークル』の顧問だ。俺はお前たちを見捨てない。二択だ!」
ズビシッ! と権藤教授が指を二本立てる。
「一つ! 着替えて帰る。今ならまだ間に合う。女子三人で女子会でも開け。お前たちが言いだしづらいなら、明星を呼んでやってもいい。明星がヒマかはまでは保証できんがな。だが、明星なら、今回のこのことを話せば、次は成功するように知恵をつけてくれるだろう。二つ! やりぬけ、ミニスカサンタを! 生憎、ここには俺と曾根崎しかいないが、そこまでやる気を失ってしまったお前たちが再起できるよう、こちらが接待しよう。いいな? 曾根崎。『スマブラ』だってやろうじゃないか。『ポッ拳』や『マリオカート』でもいいぞ。そのズタ袋。プレゼントも用意してきたんだろう? それに、今そのテンションでミニスカサンタのまま、コネのある他のサークル……ポケモンサークルやセントラルお笑いサークル、『演劇部』、ルチャリブレサークルに行くのもキツかろう。コイツらさえいない可能性もあるしな。お前らが男子たちを労ってやりたい気持ちを持っているのはわかっている。だが肝心のそいつらはいない。このまま帰るもよし、リハーサルにでもなればいいと俺たちにプレゼントをくれてもよしだ。そこはもう任せる。だが俺は教員! 言わば大学生の相手をするプロだ。貴様らが何をしようと、貴様らの想像以上に俺が興奮することはない。むしろ、俺の接待はお前たちを励ます」
ボォウッ! と良崎の目が燃える。ここで! 退いては! 自分たちは本当にただのバカ! そして無価値の生足・ミニスカサンタで終わる! 毛布にくるまりに来たんじゃねぇ! 自分たちが最近「すごい」と思ってる男子たちに、「すごい」と思わせに来たのだ! 確かに良崎たちは空ぶった! だが! ここでもし! 権藤教授と俺を“仕留める”ほどのことが出来れば、当初の目的とは大きくかけ離れてしまうが、
「女子のミニスカサンタはすごかったぞ。用事があったお前らは残念だったな! グワッハッハッハ!」
「キィー! 俺も観たかったぜミニスカサンタァ! なぁマスカラスマン!?」
「そうだそうだー」
「ハハハ参ったなぁ、僕もですよ!」
「チェッ」
とでも後日言わせれば、良崎たちは真っ白な灰になるほどの完全燃焼こそ逃すものの、もう一度燃えることが出来る炭くらいには燃えたまま残れる。
「やりましょう。やってやりますよ。おぉい星野! 雨宮! やれんのか、おい!」
「やれますよ!」
「ならブチ破れよ! よし行くぞー! プレゼントです!」
良崎が毛布をバサッと捨て去り、ズタ袋から包装された箱を取り出して権藤教授に差し出す。
「受け取ってくださいよ! でもこれを受け取ったからには、みんなに渡すつもりだったけど空ぶったから権藤教授に渡したってことは伏せて、初めからサークルに渡すつもりだったってことにしてくださいよ!」
「うむ、良いだろう。開けるぞ」
良崎が持ってきたのは、紅茶のポットと茶葉数種! 意外にも女子らしく、値段も適度でクリスマスプレゼントにはちょうどいい!
「おおお、いいじゃないかリーベルト。最近、男子は疲れが溜まっているからな。癒しがあると喜ばれるだろう。よくやった」
リーベルトさん、本当に救われた顔。
「次、星野!」
「……」
「返事をせんか星野」
「ハイ……」
星野さん虫の息。そしてラッピングされていない何か小さなものを取り出す。
「星野……」
星野が所在なさげに差し出したのは、地元の商工会が祭で配ってるようなうちわ!
「本当にすみませんでした」
星野はネタを仕込んでいたのだ。完全にいらないうちわ、しかもこの寒い冬には絶対に必要のないうちわ……。ハイジさんかマスカラスマンからの「いらねぇものじゃねぇか!」のツッコミがあって成立する星野のボケだ。実際、ハイジさんならツッコむだろう。そして星野はそのツッコミと、盛り上がりに少なからず期待した。だが、空気は冷え切っているのだ。うちわだけに!
「星野、お前これいらないもの持ってきただけだろ! グワッハッハッハ一本取られた! 敵わん!」
教授にここまでやらせることになったのは学生として恥ずべきことだ。
「次、雨宮」
「はい」
雨宮さんが袋から取り出したのは、着物を着てプロレスのマスクを被り、メガネをかけたテディベア! ハイジさんの着物、マスカラスマンのマスク、小林氏のメガネを模したものだろう。残念ながら、雨宮さんでさえ桜井の個性は見いだせなかった。そしてメガネは自身と被っているぞ雨宮さぁん!
「ほほぉう」
権藤教授がテディベアの腕をつかんで持ち上げると、雨宮さんが手を出して口を殴られたジャッキー・チェンのようにアワアワさせる。
「どうした雨宮」
「いえ、強度が心配なので、丁寧に扱っていただけると」
「強度?」
「お恥ずかしながら、手作りです」
確かに、縫い目も少し荒く、左右も対称ではない。
「……」
「一晩ではそれが限界でした。ごめんなさい。もう一晩! もう一晩あれば!」
そして徹夜、垣間見える急感……。徹夜で空振り……。重ぇ。いろいろ重い。やっぱり良崎はこの不安定な後輩二人と比べれば、かなり精神面では……。
「……」
権藤教授も次の言葉を何とか探す。そして、テディベアを優しくテレビ台に置いた。
「いい出来だと思うぞ雨宮。……これ、陣内たちがお前らを使って俺をハメてるんじゃないよな? まぁいい。最後に記念撮影して終わるか」





