デスガールの誘い
サンライトキャッスルの司令室ではデスガールの笑い声が響いていた。
「アハハッ! 何あの女! まだくまちゃんパンツなんてはいてるの? 星史朗もあんな女のどこがいいのかしら? 胸についた無駄な脂肪の塊に騙されてるだけなんだから! 星史朗は私のものよ……そろそろ、星史朗の娘の3四朗の生き埋めになった姿でも確認しましょうかね」
上空を監視していたカメラから城内部のカメラに目を移した。
「――!? 何なの一体!?」
そこでは、竜史とカッパライダーの戦いが始まっていた。
※
城内部の通路では、静寂が満ちていた。そして、3四朗と輝は――。
「これで左足の止血は済んだな。こっちの方はどうだ?」
「コラッ! 胸に怪我などしていない!」
「ハハッ、そうかい」
3四朗の足の怪我の手当てをしていた輝は、ドサクサに紛れて胸を揉んだ。顔を赤く染めながら手にある携帯端末を操作する3四朗は、通路下にあった配電盤の奥にあるLANケーブルのコネクターを端末から抜いた。
「……これで完璧だ。この城はデスガールの思い通りにはいかない。全てが溶けるまで時間がかかる。地下から迂回して行くか」
言うと、ウォーターセメントを溶かす特殊な液体が天井から散布され始め、ウォーターセメントは溶け始めた。
3四朗は天井に設置される監視カメラを見上げ、
「聞こえるかデスガール。この城のメインコンピューターは俺が破壊した。すでに竜史の部屋とお前のいる司令室の場所も、この城全てのマップを頭に叩き込んである。諦めて出てきたらどうだ? この城の中央上部には決闘場もあるそうじゃないか。そこで決着をつけるのはどうだ? そこで夜天光もろとも太陽騎士団を叩き潰す!」
モニターに映る3四朗の顔を見つめたデスガールはバンッ! とタッチパネルを叩いて立ち上がり、
「ここのセキュリティはアタシが考えたのよ? アタシの声紋、指紋、静脈の認証がない限りはセキュリティは突破出来ないはず……! 一体どんな手を使ったのかしら3四朗……?」
「クククッ」
必死にタッチパネルを叩き、各種防衛設備を働かせようとするが、その一つたりとも作動しなかった。3四朗は遠くで聞こえるカッパライダーの奇声を耳障りに思いつつ、
「お前のセキュリティなど鬼瓦の前では無意味だ。何故なら、この施設全てのコンピューターは鬼瓦社製だからな」
「何ですって! まさか!?」
「そのまさかさ。世界の六割強のコンピューターは鬼瓦社製だ。最悪の事態に備えて、全てのコンピューターには特殊なコードを打てばどんなセキュリティも無効に出来る。お前個人の科学力は鬼瓦を凌ぐが、総合力では鬼瓦の方が上だ。二度と謀反を起こさず、星史朗を狙わないというならもう一度鬼瓦に雇ってやってもいいぞ?」
「バーカ! バーカ! ファザコン3四朗!」
「何っ!?」
キレたデスガールは、モニター映る3四朗に唾を吐き、暴言を吐く。
「こんな事でアタシが負けを認めると思う? アンタだって星史朗を横田なんかにとられてるくせに、生意気言ってるんじゃないわよ、このファザコン! いつまでも男の格好なんかしてるから娘と見られないのよ! アンタは隣にいるルナティックと仲良くしてればいいのよ! バーカ! バーカ!」
「殺す!」
「まぁ、落ち着け3四朗」
「ファザコンで何が悪い!」
「はい、はい。そーいや俺はショタコンだ。それでトントンだ? な?」
監視カメラ越しにケンカをする3四朗を輝が適当になだめる。
ふと、超直感が働き周囲に嫌な感覚を思い浮かべた輝は刀を抜いた。
「……それはそうと3四朗ちゃん、一つ面白い事を教えてあげる」
「何だ?」
「フフッ、隣の彼氏はわかってるみたいよ。アンタ達の末路をね」
デスガールは自分の胸を揉み、何かをつぶやいた――。
「……にゅ。余興は終わりよ。今度はアタシ自身と戦ってもらうわ。邪魔な3四朗はアタシ自身の手で葬る!」
自嘲気味に言うデスガールの声と共に、二人の目の前にはどこでもドアのような扉が開いていた。
「まぁいい。地下からは、竜史の気配が微かにする。カッパの野郎もそこにいそうだ。しかし、ここはデスガールに従って進むしかねーみてーだ。マイ・ハニー」
「誰がマイ・ハニーだ!」
怒る3四郎に、輝は突然キスをした。
その勢いのまま、どこでもドアをくぐり抜けた。
「おい! 待てっ! ったく、仕方ないやつだ」
まんざらでもない表情のまま、3四郎もくぐる。
しかし、扉をくぐり抜けると輝はそこにはいなかった。
※
「とにかく登るしかない」
どこでもドアを抜けた3四朗は、上層階を目指して階段を走っていた。
携帯端末から輝の現在地を調べようと思ったが、デスガールの魔力を浴びたどこでもドアを通ったせいか壊れたらしく、輝の現在地もサンライトキャッスル内の状況も調べられなかった。すでに疲労もピークに達してきており、一時的にどこかの部屋で休憩がてらもう一度サンライトキャッスル内の状況と、輝の状況を調べようと思い、近くの部屋にそっと侵入した。
(無人……か)
人の気配の無い部屋の中を、慎重に見て回る。
この部屋はサンライトキャッスルの研究員の部屋らしく、生活感がある室内だった。
冷蔵庫から缶ジュースを取りだし、机の下の椅子を引きだして座った。
そして、机の上のノートパソコンを立ち上げた。
「……俺の現在地は二十五階か。地下付近で無駄に暴れているカッパライダーを除けは、各階共に異常なし、か。……何だこのフォルダは? このデータはデスガールの秘蔵フォルダか。……何だこの写真は、星史朗との2ショット……! しかも、星史朗の上半身裸の写真まである! 全く仕方の無い奴だ、星史朗め……。横田もデスガールも魔女なんだから、あんなに相手にするなと言ったのに。俺だって後数年すれば、星史朗を虜に……だが輝もいるしな……」
デスガールの秘蔵フォルダを見て、ぶつぶつと独り言を言う3四朗は、輝の事を頭に思い浮かべると我に還った。そして、カタカタッとキーボードを叩くと、兵器開発書というフォルダを見つけた。
「何だこの機械は……機動兵器、ゴード・スター……?」
開いたフォルダには、デスガールが設計したと思われる機動兵器らしき設計書の図面が載っていた。その図面が載るモニターを凝視し、機動兵器に関する情報に目を通す。
「これは鬼瓦にいた時に開発していたものか。ここまで細かい設計図となると、この機動兵器は完成したようだな。だが、この城の中では使えまい。機動兵器は大空を自由に飛び回ってこそ真価を発揮するものだからな。そして、輝の足取りは……」
タタタンッとキーボードを叩いた。
すると、意外にも輝の発信器の反応は、同じ室内にあった。
「同じ室内だと……? となると、奥のシャワールームの方か? いや、デスガールの罠という可能性もあるな」
3四朗はノートパソコンの電源をシャットダウンし、室内の奥にあるシャワールームへゆっくりと向かった。
息を殺し、黒薔薇を一輪右手に持ち、シャワー音がするシャワールームに近づいていく。
「……」
スッと通路から顔半分をのぞかせると、男性らしき体型の人物がシャワーを浴びている姿が曇りガラスに映った。
(出て来るか?)
突如ガタッと曇りガラスの扉が開き、中から男が出てきた。
3四朗は一瞬身を引くが、勢いよく攻撃に出ようとすると、
「3四朗、タオルを忘れた。向こうの部屋からタオルを持ってきてくれ」
「は? 輝? シャワーを浴びてたのは輝だったのか……。て、お前何してるんだ!」
以外な人物と同じ室内に居た事に驚いた3四朗は、今後の作戦会議と休息をかねて、椅子に座り話をした。
「……あの魔女、デスガールは恐ろしい奴だ。しかも奴は自身が操る機動兵器の開発も成功させたようだ。この情報も奴がわざと見せている可能性がある」
「機動兵器……? んなもんこの狭い通路が多い城内では使えないだろ。つか、デスガールは戦う気あるのか?」
「わからん。横田もデスガールも百年以上生きている魔女の事は誰も理解出来ん。百年生きていても見た目は、二十歳過ぎにしか見えない事もありえないしな。……ん?」
コンッ、コンッ! と入口の扉が誰かによって叩かれ、二人はその扉を凝視した。
そして、敵の侵入に警戒しつつ、
「誰だ?」
扉の外の主は答えず、3四朗は先手を仕掛けるようにブラックウィップで扉を粉々に破壊した。
パラパラ……と、扉の素材が崩れて通路が見える。
しかし――二人は同時に眉を潜めた。
「通路が無い……?」
扉の外にあるはずの通路は無く、金色に輝く空間が広がっていた。
その空間の奥から、人の声がした。
「ごきげんいかが? お二人さん」
『デスガール!』
黄金色の空間全体からデスガール声がし、二人はデスガールの名前を叫んだ。
その黄金色の空間から、更に声は続いた。
「アンタ達なんでそこにいるわけ? ちゃんとドアをくぐった? 待ってたのに!」
「あぁ、くぐったが? ……その様子だと、魔法を失敗したな? そんなんじゃ星史朗には相手にされない」
「バーカ! 失敗なんてしてないわよ! 今度は間違えないわよ……ぷるるん、ぷるるん、ぷるるん、にゅ♪ 開けゴマ! じゃなくて扉!」
デスガールが胸を揉みほぐしながら呪文を唱えると、魔法は成功し金色のどこでもドアが現れた。
「さぁ、いらっしゃいアタシの空間へ。出入り口は一つしかないんだから、来るしかないわよ。アンタ達のいる部屋の周り全ては、すでにアタシの魔空間なの。アタシのシステムを乗っ取った罰は受けてもらうわよ」
その言葉に輝は、
「確かに俺達のいる周りの空間は、奴の魔空間って空間になってるらしーな。これは、奴の誘いに乗るしかないようだぜ」
「フンッ、デスガールよ。貴様の百年と星史朗との関係全てを俺が断ち切ってやる。ただじゃおかないぞ!」
目の眩む黄金色の魔空間に、二人は足を踏み入れた。
「魔法に成功してもどこでもドアかよ」
輝は微かにつぶやいた。




