議会の勝敗
年老いた議員達の声が議会内で密やかに上がる。
「やはり五分と五分か?」
「いや……この前の議会中継で星徒は世論を見方にしてる」
「だが、あの夜天光という奴。誰かを思わせる……」
「お前さんもそう思っていたか。何にせよ、今日が日本の運命の日だ」
あちこちでそのような推測話が持ち上がる中、星史朗と夜天光は議会内に現れた。
星史朗と夜天光はいつもと変わらぬ表情でいた。
日本だけではなく、世界中の話題となった鬼瓦ファミリーの内紛。
それは百年の歴史を持つ鬼瓦の崩壊として、日本経済そのものに波紋をもたらした。
この午前の議員による投票結果により、鬼瓦本社と子会社の立場が逆転する。
つまりは、日本の歴史が一つ終わるという事――。
「夜天光。議員への洗脳は完璧か?」
「?」
じっと見つめ言う星史朗に夜天光は、
「洗脳? この議会事態が特殊な結界によって包囲されている。仮にどんな魔法や技によって精神を乗っ取ろうとも、この議会の敷地内、いわばアークフィールドに入れば全ては解ける。これは日本国民とて知る事だぞ? 貴様等の味方の魔女とてアークフィールドの魔法浄化作用は破れない」
「我々の魔女? 何の事だ?」
「横田の事だ」
「オーガスティン横田と言わないと、奴は怒る。横田まで知ってるか。夜天光、お前はただ鬼瓦ファミリーを潰したいだけではないようだな。やり方が回りくどく、心に復讐の炎が感じられない」
「それはどうかな? 私は腐った鬼瓦ファミリーに変革をもたらす者。それ以上、それ以下でもない」
二人は互いに口元を綻ばせる。
見えない殺意が、周囲を取り囲む。
サッと星史朗は前髪をかきあげると、
「この議会内でお前の正体を看破する」
その言葉の後に議長が現れ、議会は始まった。
会場の外の空では、鬼瓦の魔女・横田がいた。
胸元が大きく開いた魔導師のような衣装を着た横田は、新聞紙のマントで空中に浮かびながら議会が行われている建物を眺めていた。風でスカートがめくれ、くまちゃんパンツが見えていた。
※
各議員による投票が行われていく。
それをただ、星史朗と夜天光は見つめる。
投票を行った議員達は自分の席に戻ると、皆この投票の当事者を見た。
今回は夜天光の提案でマスコミが本当の議員達と入れ替わりで入れないように議会入口で入館チェックを徹底させた。
星史朗は入る奴は入るだろうと考えていた。無論、裏では歴史がひっくり返る瞬間を一目見ようというマスコミ各社がこぞって議員達に掛け合ったが、どんな大金を積んでもそれはかなわなかった。
何故なら、普段は議会内で野次馬のように叫んでいるか、寝ているだけの腐った議員共も、歴史が変わる瞬間を当事者として見たいらしい。
圧倒的に星徒有利に進む状況化で、議員達は星徒を鬼瓦ファミリーから独立させる法案を通すか?
すでにサイは投げられている――。
「全ての議員が投票し終わるまで少し時間がある。世間話といこうか夜天光」
「? 貴様が男に自分から話しかけるとはな。まさに革命前夜だ」
「……お前と話してると何故か懐かしさを感じるよ夜天光」
「そうか。それは鬼瓦ファミリーが支配下の子会社に敗北するから感覚がおかしくなってるんだろう」
「それだけならいいんだがな」
星史朗は色白の夜天光の顔を見るが、やはり過去に会った人物達と比べても見覚えは無かった。
その配下である五人の精鋭を見ても、何も思い出す事は無かった。
(やはり思い過ごしか……嫌な予感は法案可決される方に回るか)
最後の一人の投票が終わり、集計作業へと移った。
そして、集計作業が終わり投票結果が出る瞬間になった。
場内は静まり返り、その場の全員が議長の頭上にある電光掲示板を見た。
刻が止まった――。
142対38。
夜天光は特別表情を変える事なくいた。
星史朗はじっと電光掲示板を見ていた。
会場がどよめき始めると同時に、議長の声が響いた。
「結果、142対38。よって、この法案を可決する」
議会は閉廷し、会場内の人間達は一斉に動き出した。
夜天光の部下は、夜天光の背後に回る。
パンパンパンッと星史朗は手を叩いた。
ポーンの駒のネクタイピンをした男が、前に出る。
「待て、挑発に乗るなポーン。頭に血が登って周りが見えなくなるのがお前の欠点だという事を忘れたか?」
「! ……すみません夜天光様」
多少歯ぎしりしながら、ポーンは退がる。
「他の者も殺気を消せ。私の通した法案を無にするつもりか」
『はっ!』
敬礼をしつつ、ポーン以外の四人も星史朗に対する殺気を解いた。
ゆっくりと夜天光の近くまで歩み寄り、
「行き届いた社員教育だ。その五人の殺気は一般人ではないな。一体どこから集めた?」
スッと夜天光は腰の後ろで手を組み、
「すでに答える義務は無い。現時点で星徒は鬼瓦からの呪縛から解かれた。これから、鬼瓦は星徒を象徴し崇める時代が来る。覚悟しろ鬼瓦星史朗」
一瞬、星史朗の唇が動揺し、また止まった。
「……まるで俺個人に言っているようだな。別に構わんが」
「フッ……では、ごきげんよう」
「次は戦場か?」
言う星史朗を見ず、踵を返した夜天光は議事堂を後にする。
星史朗は後ろで手を組む夜天光をじっと見た。
五人の護衛はその後に続いた。
しん、と静まり返る議事堂で星史朗は立ち尽くした。
「人の癖はそうそう変わらない。すまないな3四朗。戦いですら勝てる見込みは五分五分だ。夜天光……俺の勘が正しければ、鬼瓦史上最悪の戦いになるんじゃないか?」
ジャケットの胸ポケットからタバコを取りだし、ジッポで火をつけ吸った。
鬼瓦史上最悪の混沌とした状況を思い、つぶやいた。
「幕々としてきたな……」
その紫煙の揺れは、今の星史朗の心そのものだった。




