現在と過去
真のサンライトキャッスルを目の当たりにし、竜史達に逃げられた3四朗と輝は崩壊が進むサンライトキャッスルを後にし、夕暮れの砂漠の中を歩いた。
日が落ち、涼しいというより寒くなってきた環境の為、体力の落ちている二人は身体を休める場所を探した。少し歩くと、岩が群れを成している所があり、洞窟になっている場所に二人は入った。奥につくと火を焚き、腰を下ろした。
「……やけに容易に侵入出来、城の守りも大したことないと思いきや、あの城はカモフラージュだったとはな。自分達をあの城に在中させて俺達の目を欺くとはやってくれる……もっと冷静に行かねば。世界と鬼瓦の為に」
「まぁ、そう焦るな。今は日本の鬼瓦も世界の鬼瓦もバラバラでボロボロだ。竜史のサンライトの力をあそこまで使いこなし、まさかの中東消滅……こんなエネルギーを使うって事はそれなりの体力も気力も寿命も削るだろうよ。だから、中東消滅から3ヶ月近く奴らの動きが大きくなかったんだろ。戦ってみてわかったが、あれは間違いなく、炎神の儀の時に竜史に憑依した……鬼瓦の亡霊、夜天光だ……」
瞳を閉じる3史朗に、輝は続けて話す。
「夜天光……。たしか、元総帥の腹心の男。いや、少年だったか? 不慮の事故で死んだという事を聞いた事がある」
「そう。俺の祖父に当たる鬼瓦ファミリー創設者の鬼瓦元始朗の腹心の少年。ナーコ以前のロストナンバーズの実験体。ファミリーきっての成功作と言われていた奴だ。数々の人体実験を施され、異能力を得た。その力で鬼瓦が繁栄する礎を作ったが、いきすぎた実験が精神を歪め、暴走し、最後は元始朗に討たれた。信頼していたはずの元始朗に討たれた意識は死霊のように彷徨い、他人に憑依し鬼瓦に対して悪事を働く事から、いつしか鬼瓦の亡霊と呼ばれるようになった」
3四郎は、鬼瓦ファミリーの亡霊、夜天光と竜史の事を思い浮かべた。そして、
「竜史の左首筋から頬まであった黒い痣。あれは間違いなく、夜天光の痣だ。やはり、竜史の意識は夜天光に乗っ取られているだけという事だ。輝、お前なら夜天光を浄化出来るか?」
「俺と竜史は水と油だ。どうゆう結果になってもいーんなら、やってもいいがな」
「お前なら出来るさ。今の問題は夜天光である竜史から、どうやって夜天光を引きずり出すかだ。太陽竜史を影で操る主。はたしてどうするか……」
「チッ」
舌打ちをして、輝は洞窟を出た。
そして、星一つすらない真っ暗な夜空を見上げ、全ての始まりの日を思い出していた。
※
炎神の儀。
サンライトの力を持つ者がその年の終わりに行う儀式。
そこで、儀式炎に一年で溜まった悪しき様々な魂を写し、サンライトによって浄化する。月を司る力・ルナティックを持つ者は、年明けの真夜中に行われる。太陽竜史と月下輝。この太陽と月の安定を司る力を持つ二人は、その年の終わりに鬼瓦ファミリーから呼び出され、各々の儀式を行う。
炎神の儀式の最中、鬼瓦ファミリーの設立時、最強と呼ばれた開祖・鬼瓦元始朗の腹心の少年、鬼瓦の亡霊と呼ばれる夜天光が突然現れ、竜史は飲み込まれた。夜天光に飲み込まれた竜史は、己が内の悪の心を爆発させ、黒き太陽・ダークサンライトを太陽を媒介にして使い、その闇の太陽の炎で中東を一夜にして消滅させた。
そして、初めて竜史と戦った日の事も思い出していた。
つまり、太陽竜史と月下輝の出会いの日である。
※
雨が降る街を、竜史は傘を差し神社まで歩いた。
境内に入り、屋根がある賽銭箱の前に竜史は腰を下ろした。
すると、目の前に黄色の光が現れた。
その光に、待っていたとばかりに竜史は話かける。
「君が月の使者、ルナティックでしょう? まさか、自分の身体を持っていないの?」
「そうさ、俺の身体はまだ存在しない。だからお前の身体を奪ってやろうと考えていた所さ。なんせお前はサンライトだからな。俺のルナティックと対を成す、世界でただ一つの力だ。お前を支配すれば、俺は唯一無二の存在になれる。わかっててこんな人気の無い所まで案内したんだろう?」
その光は、嘲笑うような声で言う。
「最近、僕の背後の妙な殺気を感じていただけど、君の仕業だったか」
降り続ける雨に視線を当て、竜史は言った。
「そうだ。お前は俺に気付きながらも、気付かぬふりをしていた。何故だ?」
「……敵か味方かわからないルナティックと関わるのは、危険だからね。観察させてもらったよ」
フウッと溜め息をつき、黄色く発光するルナティックを見た。
「そうか、流石はサンライトというわけか。実際にお前の力、試させてもらうぜ」
突如、その発光体は更に輝きを増し、その形を変えた。
神社の境内に不穏な空気が流れる――。
そして、発光体は人間の形になった。それも、竜史にそっくりな顔をしていた。
それは、不気味な殺気を纏わせて近づいてくる。
誰が見ても、人間の姿だ。
「人間の姿になれるのか?」
「ほんの少しの時間だけだがな。ま、お前を倒すには充分な時間だ」
鬼瓦学園の制服を着たルナティックは賽銭箱の手前まで来て、止まった。
竜史はまだ、オレンジ色の傘で顔を隠している。
制服が雨で濡れるルナティックを見て、竜史は覚悟を決めた。
ザアアッ! と二人の間を、風に吹かれた雨が割り込んでくる。
ルナティックは何かを悟ったような顔をし、白刃を抜いた。
雨で濡れるルナティックの刀が、竜史の顔を写した。
スッと竜史は自身の刀に手をかけると、傘を投げ捨て、無表情で雨の中に出た。
二人は境内の中央で対峙した。
雨は二人の殺気に反応するが如く、強さを増した。
剣士と剣士の戦い。サンライトとルナティックの戦い。
雲が流れ、雨は勢いを増す――。
ルナティックの目がくわっと大きく開かれた瞬間、鯉口を切った竜史の刀が横一文字に薙いだ。
キィンッ! と上段から降り下ろされたルナティックの刀と激突し、激しい音を上げた。
竜史はルナティックの一撃に手が痺れ、後退した。
刹那――。
神速の突きがルナティックの左胸部を襲った。
「くううっ!」
死にもの狂いで、右に避けた。
すると、スパッ! と竜史の刀は突きから横薙ぎに変換された。
「化物がっ!」
歯を食いしばるルナティックは脇差しを半ばまで引き抜き、横薙ぎの一撃を防いだ。
そして左手の刀で竜史の首筋を狙った。
ピッ! と首筋が切れ、血が流れた。
が、当人は全く気にしていない。
「ルナティック! お前は凄い奴だ! お前を倒せば、オレは更に高みにいけそうだ!」
「ハハハッ、性格と言葉使いが変わってるぜ。お前、戦いが好きだな? それでこそ俺と対を成すサンライトだ!」
二人は鬼のような形相で剣を交わした。
ぐんっ! とルナティックの刀は大きく旋回し、雨飛沫を竜史の目に飛ばした。
「うっ……」
竜史の目は一瞬、視界を失った。
遠心力のついたルナティックの刀が、竜史の脳天を目掛けて迫る――。
ズバッ! と竜史は自身が投げ捨てた傘を蹴り上げ、ルナティックの刀に当てた。その傘が真っ二つになり、二人は同時に刀を一閃した。
キィィィンッ! 刀の物打ちから先が二つ、空中で回転している。
間髪入れずにルナティックは脇差しを抜こうとしたが、バッ! と竜史の手で脇差しの柄を封じられた。
そして折れた刀の先が落下し、ドスッ! と境内の地面に突き刺さった。
ゆっくりと竜史はルナティックの脇差しから手を離し、チラッと境内の入り口の方を見て、
「この続きは、また次の機会に取っておこう。君なら次の機会の日時を知っているだろう……?」
「……さあな」
折れた刀を鞘に納めると、不快そうな顔を浮かべ、ルナティックは境内から姿を消した。
ルナティックが姿を消すと、竜史も折れた刀を納め、真っ二つになっているオレンジ色の傘を見た。
(あれが、僕と対を成す存在、ルナティックか……。次は勝つ)
そう思っていると、境内に3四朗とナーコが現れ、
「竜史、びしょ濡れじゃないか!」
「アレレー、何かあったのかな?」
びしょ濡れの竜史に、ナーコは自分の傘を渡し肩を叩いた。
そして、受け取った傘の中にナーコを入れ、それまでのいきさつを話ながら、三人は神社を出た。激しい雨に晒される竜史の真っ二つになった傘は、鮮やかなオレンジを境内に発し続けた。




