鬼瓦生徒会
機体の震動が足下を揺らす。
二人は鬼瓦社製の飛行機の屋根の上にいた。
夜天光は刀を突き立てた。機体天井にかすかな穴が空く。
「夜天光。他人を巻き込むな。この戦いはオレとお前の戦いだろう?」
「違うぞ太陽。この戦いは鬼瓦と星徒の戦い。そしてこの飛行機は鬼瓦社製。私がこの機体を落としても当然の事だろう?」
「そんな戦いを望むのか? 鬼瓦元史朗ともあろうものがっ!」
「私の名は夜天光。星徒の夜天光だよ」
言うなり、夜天光は機体に突き刺さった刀をスーッと伝わせ、竜史に接近した。
(飛行機が真っ二つになるぞ……!)
中にいるパイロットや乗客達をどうするか考え、焦りつつ夜天光と刃を交えた。
剣に迷いがある竜史は防戦一方となり、勢いに乗る夜天光の剣は振り下ろした勢いで何度か機体の装甲を傷つけた。胸に蹴りをくらった竜史は機体の上を転がり、機首のコックピットの硝子部分にしがみついた。そして、コックピットの中のパイロットと目が合い、
「おいパイロット! この機体は墜ちる可能性がある! あの海にでも上手く着水させろっ! いいなっ!」
恐怖で顔がひきつる機長と副機長は竜史の声など無論聞こえていない。ある程度状況は把握しただろうと察した竜史は、翼をはためかせ夜天光の方へ向かって駆けた。
「なっ?」
グラッ! と足元が傾き、バランスを崩す。すると、その飛行機は胴体部分の真ん中で真っ二つになっていた。中にいる乗客達はすでにパラシュートを着けており、機体から投げ出された者はパラシュートを広げ地上へ落下していく。最後に飛行機の乗務員達もパラシュートで落下した。
「乗客は何とかなったか……これなら安心だ。夜天光は……」
キョロキョロと周囲を見渡すと、真っ二つになった飛行機の機首側の内部に入って行った。
「この機体はあの海に突っ込むな。夜天光! 乗客は人質に取れなかったぞ! 出て来い!」
「それはどうかな?」
コックピットの方から姿を現した夜天光は、一直線上の竜史に向かって言う。好機と判断した竜史は一気に仕掛ける。その竜史の耳に、赤ん坊の声が聞こえた。
「赤ん坊の声……? お前っ!」
目の前には赤ん坊を抱いた母親が夜天光に刀を突き付けられ、恐怖で顔をひきつらせていた。
(赤ん坊がいて逃げ遅れたか……)
竜史は歯軋りをし、夜天光を睨んだ。
「どうした太陽。こんな光景はよく有るだろう? 女子供の人質を捕り、相手の倫理観に訴える。さぁ、太陽竜史ならこの状況をどう打破する?」
じっと夜天光の瞳を見つめ、自身の左目に意識を集中させる。
「そうだな。この場合は……」
「時間稼ぎが見え見えだ太陽。朧は使わせん。夜天城のが最後だと思ったが、今のお前なら使えると思っていた」
「! 切り札だったけど、しょうがないな」
母親と子供を盾にし、顔を隠す夜天光に竜史は言う。
「ふぅ……」
そして、大きく息を吐いた竜史は刀にオーラを流し始めた。
「……殺すか? 私ごと殺すのか太陽っ!」
赤ん坊の泣き声が増し、母親の方も泣きながら竜史を見る。しかし、竜史はオーラの集中を止めない。
「安心してくれ。オレはあんたと赤ん坊を必ず助ける。少し、目を閉じていてくれ」
頷いた母親は、赤ん坊を抱きしめながら瞳を閉じた。
「この状態なら間違いなくこの親子も死ぬ。それでもやるのか?」
「お前の知っての通り鬼瓦の象徴とする色は黒。何物にも染まらぬ黒は、一つの信念を表している」
その目に迷いは無いと感じた夜天光は、
(……私ごと斬り、この二つの命の業を背負うつもりか。揺らぎの無い、いい覚悟だ)
バッ! とマントをはためかせた夜天光は、天井を突き破って空に出た。置き去りにされた母親にパラシュートを着けさせ、母と子を落下する機体から逃した。すぐさま竜史は夜天光を追撃した。
意外にも夜天光は黄昏の赤い夕日を背にし、竜史を待ち構えていた。
「最終戦だ夜天光。もう茶番劇は用意してないだろ?」
「茶番劇だと? 何を言ってるんだ太陽……」
「さっきの飛行機の乗客の脱出の手際のよさ、あの逃げ遅れた母親のパラシュートで空に舞う時の冷静さ。あれは訓練された者の動きだ。オレを試すのもいい加減にしろ!」
高らかと笑う夜天光は、
「何を言い出すかと思えばそんな事か。……そうだ。貴様の言う通りだ。察しがいいな太陽」
「お前がオレの中に侵入し、中東を焼き尽くした。それは、中東の石油王が鬼瓦から分派したマフィアに乗っ取られ、そのマフィア達は政府に干渉して核を大量生産させ、日本の鬼瓦を始末する為にプルトニウムをかき集めた。そこをお前はオレのサンライトを利用し、鬼瓦から分派したマフィアの野望を防いだ。そして、この戦いの意味は鬼瓦の過去の精算だ」
さっきとは表情が変わった夜天光は、竜史の言葉に耳を傾け続ける。
「……オレは倒した盤上騎士団達から流れ込んできた記憶の中でお前を見た。元史朗が襲撃され致命傷をおった時、夜天光は暴走した。その夜天光に元史朗は死ぬ間際なんとか憑依し、夜天光の人格を乗っ取った。そして、お前は鬼瓦の腐敗した内部を始末する事を決め、その過程で鬼瓦の亡霊と言われるようになった」
スッと夜天光の剣が伸びる。
竜史は反射的に受けた。
そのまま剣を交えつつ、二人は話す。
「まさか、私が命を与えた盤上騎士団から私の記憶がそこまで流出するとは……人とは未知の生き物よ」
「そうだな……。お前が鬼瓦の子会社の星徒の総帥となり、親衛隊としてチェスの駒から盤上騎士団を生み出した。彼等はお前の為に。お前は鬼瓦の為に動いた」
「私が鬼瓦の為にだと? 私はただ鬼瓦の腐敗を正していただけだ! 星徒の総帥として!」
「星徒の意味は星史朗を守る使徒と言う意味! お前が息子を思う気持ちから生まれた名前だろうが元史朗っ!」
竜史は剣圧で夜天光を吹き飛ばす。
空中で静止した夜天光は、白いオーラを夜桜に流し込む。
「……そうだ。全ては鬼瓦の為。これからの鬼瓦の未来の為に私は私の作った鬼瓦に挑戦した。鬼瓦の黒薔薇の意味を理解する君たちならばこの先も鬼瓦は安泰だろう。……終幕だ。――貴様等は狂を知らん! 狂なるは死、死なるは狂! これは表裏一体のもの! 仲間が死んだ事で死を知った貴様等だが、残念ながらまだ狂を知らん! 死を知った程度で、この鬼瓦元史朗に勝てると思うな! 私を倒してみろ、太陽竜史!」
夜天光の全身から目映いほどの白いオーラが溢れ出す。
正真正銘、最後の一撃である。
竜史も高杉幻覚から借りた幻無を構える。
一瞬の間の後、夜天光のはるか彼方にある夕日が朝日のように燃え始めた。
それに呼応するが如く、頭上にある薄く輝く三日月も存在を示すように黄色く発した。
その全ては竜史に還元される――。
両者は、胸ポケットに挿した黒薔薇を見据え、動いた。
「ホワイトロンド・アポカリプスーーーッ!」
「サンライト・ルナ・スラッーーーシュ!」
煌めく閃光を纏い交差した二人は、空中に止まる。
ゆらっとバランスを崩す夜天光の翼と黒薔薇が弾け、黒薔薇を落とした竜史は落下した。
その少し後に落下する夜天光は、
「……終幕は私の勝ちのようだな」
突如目の前に、一人の少女が目に映った。
その少女は大鎌を肩に担ぎ、ふてぶてしい態度でいた。
「ブリブリブーッ! 竜史は殺らせないわよ。竜史はアタシのダールン? いや、ダーリンだしね。まったくもー、ツッコミ役がおねんねだから、危うくスベる所だったじゃない! ちょーりゃーっ!」
ナーコは長いツインテールを揺らし、ダークネスエンドを放った。
「じ、実体だと!?」
直撃を浴びた夜天光はダメージよりも、ナーコの存在に驚いた。
攻撃を仕掛けようとすると、そこに居たナーコの姿は消え、幻覚の姿があった。
「いい加減消えるぜよ、夜天光。幻武幻影流・幻式・八卦一奏!」
「高杉幻覚!? この技は――ぐおおおっ!」
背中に八斬浴びた夜天光は、空中でよろめきながら幻覚を見た。
その姿は、何故か月下輝の姿だった。
「よう、夜天光。オメーはしぶてえよ。いい加減逝け」
輝は覇翔月破を放った。
「今度は月下か! 何の子供騙しか知らんが、貴様が消えろ!」
夜桜を振り、輝を消滅させた。
その風の中に、黒薔薇が一輪舞う。
先程から幻で無い光景に唖然とし――。
「俺を忘れては困るぞ元史朗」
竜史が落とした黒薔薇が形を変え、それはやがて人となった。
そう、それは鬼瓦3四朗――。
夜天光である元史朗は微笑んだ。そして刀を構える。
「3四朗ーーっ!」
「獅子狂い、我が道阻む、怯懦者」
3四朗のゼフィランサスが夜天光を斬った。
しかし、まだ意識がある。
「悪あがきだったな3四朗。お前が死んでないのは血が感じさせるものなのか知らんが、感じていた……」
「オレ達は負けない。お前の敗因は……」
いつのまにか意識を取り戻した竜史はゆっくりと幻無を構え――。
「教えてやろう……それは……」
3四朗も呟く。
刹那――。
3四朗と竜史の背後にナーコ、幻覚、輝が現れ――。
『鬼瓦生徒会に喧嘩を売った事だ!』
全員は夜天光に突っ込んだ。
二人の一撃は、夜天光の全てのオーラを切り裂いた。
全ての力を失った元史朗は意識を失う。3四朗はそれを抱きしめた。
すると、落下していた竜史が二人を背中に乗せた。
三人は雲を抜け、地表を目指す。
その地表には魔方陣が描かれ、星史朗、横田、デスガール、幻覚、盤上騎士団がいた。
「みんなっ!」
それを見た竜史は、その魔方陣の方向へ向かって飛んだ。
「元史朗め……夜天城のエネルギーを地表にいるみんなに使ったな。最後までやってくれる」
3四朗は復活した星史朗を見て微笑んだ。
その姿を、岩の影からカッパライダーは見つめ、どこかへ去って行った。
「全部終わったのね……。……? 暖かい光……あぁ、これはサンライトとルナテイックの光……」
消滅した夜天城が無くなった空を見上げ、横田はつぶやいた。
その場に居る全員は空を見上げた。
デスガールの機動兵器が舞う大空には、オレンジとイエローの暖かい光が満ちていた。
竜史の身体は薄く、最後の光を発した。
鬼瓦ファミリーの争乱は、これにて終結した。




