記憶の欠片
ズゴンッ! 後ろから追ってくるルークのバズーカが、竜史を襲う。
その時、壁が行く手を遮り、行き止まりになった。
「チッ……! 着地して応戦するか」
黒い煙の中から、ルークとナイツは現れた。
言葉を発せず、ルークはバズーカを放つ。
サッと右に避けた竜史の顔面に、ナイツのスピアが迫る。
「遅い」
余裕でナイツのスピアを防いだ。
「うかつっ!」
バリバリバリッ! とナイツのスピアに電撃が走るが――。
「弱い電気だ。はあっ!」
横一文字に、ナイツの胸を斬った。
シャキンッ! と鎧が横一文字に裂け、血が吹き出る。
その勢いでルークにも斬りかかろうとしたが、肝心のルークが見当たらない。
「――どこだ!?」
すると、自分の頭上に重圧のある殺気がのしかかった。
「死ね」
竜史とナイツの頭上に飛んだルークは、バズーカを撃った。
ズゴウンッ! 床を吹き飛ばし、大きな穴が空く。
「……! あの巨体でよく飛べたものだ」
爆風を受け、壁に激突した竜史は、左腕を打撲した。
その瞬間、キラッ! と砂煙の奥で何かが光った。
「――ぬうっ……!」
シュン! とナイツのスピアが竜史の眉間に一ミリ刺さった所で、両手を振るえさせながらスピアを受け止めた。
「最大電撃だ!」
バリバリバリッ! と電撃が身体に流れ、
「ぐっ!」
「終わりだ!」
ナイツはスッとスピアのもち手を引き抜き、何と剣を取り出した。
ドスッ! と竜史の心臓はナイツの剣に串刺しにされた。
「――!?」
ビクビクッ! と竜史の身体が一瞬動くが、ガクッと体の力が抜け、地面に膝をついた。
竜史の心音は停止した。
ナイツは剣を引き抜き、スピアに納めた。
竜史は両膝を地面についたまま、うつむいた状態で心臓から血が流れる。
突如、ナイツの視界に美少女の群れが映った。
その美少女達はナイツを誘惑する。
「何故ここに美少女が? 流石は夜天光様の城か。ハハハッ! 美少女パラダイスだ!」
いつの間にか宙に舞うパンツを、ナイツはかき集める。
「このパンツも、このパンツも私のもの……美少女のパンツだぁーーっ!」
興奮するナイツの瞳から、美少女達は歪んで消えた。
「――ぬうっ!? 腕が!?」
刹那――。
ナイツの両腕は飛んだ。
「月の力、朧だ。いい夢見れたか?」
竜史はナイツの心臓を刺し、呼吸が停止した。
「幻をナイツの脳に流し込んだのか……? 化け物め! だが今は任務遂行が優先だ! 私に美少女は効かんぞ!」
「じゃあ熟女?」
「巨乳だあっ!」
ルークはバズーカを連射すると、パアンッ! と撃ちだされた弾丸が弾け、散弾になった。
無数の散弾を軽快なステップで回避する。
全ての弾は後方へ虚しく消える。
竜史の表情に揺らぎは無い。
ルークはブルブルッとバズーカの砲身を揺らし、
「何なんだお前はーーっ!」
「お前と同じ、おっぱい星人さ」
バズーカを発射しようとした刹那――。
スパアッ! と袈裟斬りによって倒された。
コロンッとナイトとルークのチェスの駒が転がり、竜史は拾う。
また、先程と同じように記憶の風景が脳に流れこんできた。
「前の続きか……」
その真っ白い髪の少年は身なりも整い、精神的にも落ち着いたのか穏やかな表情をしていた。
洋室の室内にいる少年は、白髪の初老の老人と話していた。
二人は雑談をしながら、笑いあっていた。
そこに銃を持った男が現れる。
叫び声を上げ弾丸を放つ男の首を、一瞬にして少年は落とした。
老人は少年の頭をなでながら、室内から外を見つめた。
その広場では無数のスーツ姿の男達が物陰に隠れながら銃を発砲しあっていた。
老人が敵であろう男達を指差すと、笑顔で少年は窓から飛び降り、広場の戦闘に参加した。戦いは十分ほどで終結した。老人と少年は互いに見つめ合い、微笑んだ。
「……今の記憶の洋館は、鬼瓦の別荘に似ていたな。何となく物語の筋が見えてきたぞ……」
そして、行き止まりだった壁が開き、誘われるように竜史は侵入した。
※
竜史の翼がはためく。
がらんどうのような通路をひたすら進んでいく。
「――! ここは?」
すると、明るい大広間に出た。上部にはシャンデリアが飾られ、かなり豪華な部屋である。
スッと辺りを見回すと、金髪の女が祭壇の前にたたずんでいた。
両者の中央で、殺気の火花が散った。
「ここまで来てしまったのね、太陽竜史。ここまで来るという事は、他の盤上騎士団は全滅したようね。これは私も本気でいかないとヤバイようね」
そう言ったクイーンは、自身の鎧を脱いだ。
ガシャガシャガシャと床に鎧を脱ぎ捨てたクイーンは、体のラインがくっきり見える白いボディスーツ姿になった。首をグキグキッと鳴らしつつ、
「……行くわよ」
フッとクイーンの姿が消えると、竜史の眼前に白い扇子があった。
(――早い!)
目の前でバチッ! と幻無の柄とクイーンの白扇が激突する。
クイーンの動きが目で捉えられず、本能で反応した。
「さすがだな、クイーン。鎧をはずしただけで、ここまでスピードが上がるとは……倒すのもスピード決着といきたいが!」
「それはどうかしら?」
ヒュン! ヒュン! ヒュン! とクイーンは高速のステップを踏み、白扇を叩きこむ。
数発竜史は顔面に喰らう。
「ぐうっ!」
吹き飛び、床に転がる。
その倒れる竜史にクイーンは追い討ちをかける。
「そう何度も!」
神速の一撃が放たれるが、クイーンは白扇で防ぎ、直後に蹴りを繰り出すが回避された。
白扇をバッ! と広げたクイーンは、
「いい反応。まだ力は上がるはずよ、やりなさい」
ニッと笑うクイーンに、
「そう焦るな、必殺技のバーゲンセールはできないぜ……」
「つまらない男。――!?」
「サン・オーバー・ルナ」
腕をクロスさせた突如、竜史から太陽と月のオーラが交互に噴き出す。
オーラの勢いで髪も逆立ち、雰囲気が強化コードを使った輝の時とまるで違う。
「……素晴らしい輝きだわ。その途方も無いオーラをこの短期間で身に着けた方法を教えてもらいましょうか」
フッと竜史は笑い、
「枷の外し方を戦いの中で学んだだけだ。経験は創造を超える。それだけの話だ」
「なるほどね。危険な存在だわ、太陽竜史!」
開いた白扇を扇ぎ、
「ライトニングウインド!」
鋭利な白い突風を起こした。
スパスパッ! と突撃する竜史の身体を刻むが、気にも留めずクイーンに迫る。
「サンライト・ルナ・スラッシュ!」
「ぐっ……! まだよっ!」
(まだサンライトの力が強いか……それなら!)
竜史は意識をサンライトに集中させる。
幻無の先を掴み、クイーンはライトニングボールを放とうとするが――。
「サンライトイクスッ!」
十文字のサンライトスラッシュにクイーンは刻まれ、宙を舞う。
「……まだよっ! 我が命を対価に、紅の陣をひく!」
口から血を流しつつ、怒りで紅に変化を遂げた紅扇を投げた。
紅扇は、ブオッ! と広がり竜史を紅い球体の空間に包み込んだ。
「ライトニングネストッ!」
その球体の外観に炎が灯り、燃え上がる。
内部に閉じ込められた竜史は、
「……何だ? この空間は? ……のおっ!」
幻無が壁に炸裂するが、壁はビクともしない。
竜史はクイーンの創り出した炎の球体、ライトニングネストの中でもがく。
中の気温は千度以上になり、生物が生きていられる状況ではない。
「その空間は物理攻撃なんて無駄よ。なんせ、私の命がけの技なんだからね……」
床に座ったままクイーンは言う。
次第に、ライトニングネストの炎が勢いを増した。
「無駄だな……。太陽を司るオレに、炎など!」
命がけで作り出したクイーンの炎を竜史の炎が内側から焼き尽くす。
そして、内部から放たれたサンライトアローでクイーンの心臓は射抜かれた。
「……!」
グラッとクイーンが床に倒れこむと、ライトニングネストの炎が消え――。
ピキピキピキ……パアンッ!
クイーンの絶叫と共に、ライトニングネストは崩壊した。
スタッと現実空間の床に着地した竜史は、クイーンの姿を探した。
突如、目の前に滑らかな金髪が舞う。
クイーンは残る力で自慢の髪をショートにした。
「自慢の髪を……なんて覚悟だ」
その表情は、3四朗戦で見せた暴走状態になる。
殺意剥き出しのクイーンに対し、竜史は微動だにしない。
ケアが行き届いた柔らかな両手が竜史の首を絞めた。
おでことおでこがくっつき、鼻がぶつかった。
突然、ピクッとクイーンの唇が動き、
「……夜天光様に栄光あ……れ……」
そうつぶやき、クイーンは息絶えた。
倒れるクイーンを竜史は抱きしめるが、もう生命の鼓動は感じない。
「譲れないものがあるのは、お前だけじゃない。しかし、お前の意思はオレが夜天光に届けてやる」
同時に、クイーンのチェスの駒が転がり、竜史は拾う。
そのまま、竜史は力の強い方向へ向けて飛んだ。
「――」
記憶の風景を、竜史は見た。
少年は強かった。
強くなりすぎていた。
少年の保護者である老人の組織は少年の力で飛躍的に拡大し、世界規模になっていた。その組織内でも少年の力は異端で、突出していた。
組織とは個の集まりだが、あくまでも集団の力である。
その集団の力さえも凌駕する力や、少年の外見のまま老いる事なく強くなり続ける事などが、組織内の人間さえも疎ましいと思う人間が多くなってきた。
少年は自分が異端児である事を知っていたが、老人の愛情が全てを癒した。
認めてくれる存在がいる――。
それだけで、少年は辛い任務でも子供、女、問わずに殺す事が出来た。
老人の組織が世界のありとあらゆるマフィア、武装組織、人身売買などの人間の闇を象徴する組織を乗っ取り拡大した頃には老人は実権を後継者に譲り現役を退き、会長という立場で組織を第三者の目で見る仕事をしていた。
老人はバカンスもかねて、少年と山奥の別荘に来ていた。
そこで、悲劇は起こった。




