羽ばたく少年
「ぬおおおおおおっ!」
「くっ!」
地面を抉る、カッパライダーの歪な剣が竜史を襲う。
空に浮かぶ夜天光がゆっくりと成層圏に向けて昇る中、竜史は突如現れたカッパライダーとの戦いを繰り広げる。
「どうしたァ! 新しい力を手に入れた割には動きに精彩が無ぇなァ! その背中の羽根も飾りかァ? 右足をもらうぜェ!」
「ぬうっ!」
シュン! とカッパライダーの剣が竜史の右足に向けて降り下ろされるが、ズボンにかすった程度で逃れた。
「オラオラどうしたァ! たいそうなオーラを身にまとってる割にはさっきから動きが悪いぜェ! うらァ!」
「ぐはっ!」
ズゴウンッ! と竜史はカッパライダーの蹴りをみぞおちに喰らい、地面を転がる。
竜史は胃の中の物を戻しつつ、震える。ゆっくりとカッパライダーは竜史の方へ歩いて行く。
「くァ~ッ! おいおい、どうしたァ? もうおねんねかァ? お前にはその力は使いこなせないんじゃねーかァ?」
立ち上がった竜史は幻無を右手にだらりと構え、よだれをぬぐい、
「おいおい、どうしたぁ? やけにオレに親切な攻撃をしてくれるな。この力が使いこなせていない今が、オレを殺すチャンスだ。何故、チャンスを生かさない? それとも、お前はオレを殺す気なんて更々無いのか?」
一瞬、顔をこわばらせたカッパライダーは、
「たりめーだァ! 俺はお前を殺す為に今まで何度も地獄の淵から這い上がってきたァ! テメーもそうだったろう!? 夜天光がどうとか、この世界がどうとかなんざ関係ねェ! 戦いを楽しもうぜェ! サンライトのクソガキがァ!」
「そうだったな……オレはお前に何度も瀕死にされ、オレもお前を何度も瀕死にした。お前のおかげでルナテイックの力もだいぶ安定してきた。今は夜天光も世界の事も忘れ、カッパライダー……お前を倒す事以外考えねぇ!」
「くァ~ッ! そうだァ! そのイキだァ! 行くぞォ! サンライトのクソガキィ!」
カッパライダーは右腕の大剣に緑色のオーラを極限にまで流し込み、竜史に迫る。
幻無を鞘に収め、右手にサンライト・ルナを凝縮し――。
「サンライト・ルナ・クリムゾン!」
ブフォ! と竜史の右手から太陽と月のオーラを纏ったドラゴンが放たれる。大剣の先端を突きだし、カッパライダーはそのドラゴンを貫こうとする。
「ぬおおおおおおッ! どりゃーーっ!」
プシャ! と放たれたドラゴンがはじけた瞬間――。
「死ね――」
衝撃の余波に隠れ背後から現れた竜史の幻無が、カッパライダーの首筋を捉えていた。
「ぬうッ!?」
間一髪の所でカッパライダーは回避したが、首筋から血が吹き出た。
「いいぜ、いいぜェ。だが、まだまだだァ!」
「化物が。随分な出血の割に、余裕そうだな。安心した。今日こそ一年近い因縁にケリつけるぜ」
「くァ~ッ! 安心だァ? 安心とはどういう事だァ?」
左手で出血の止まらない首筋を抑えるカッパライダーに、
「もっと、もっと、お前を刻んでやりたいからその程度で死なれちゃ困るんだよ! カッパ野郎!」
「ガキがァ!」
地面に大剣を突き立て、カッパライダーは自身のオーラを流し込んだ。
ズゴゴゴゴゴゴ! と地面にヒビが入り、地震が起きた。その地割れの中から植物の蔦のような触手が伸び、竜史に襲いかかる。
「くっ! 植物!? 二段構えか!」
「いや、三段だァ!」
「――!」
地面を蹴り、空中に逃げた竜史は真上に現れたカッパライダーを視界に捉えたが――。
「ぐふっ……!」
腹部を貫かれた竜史は、そのまま地面に落下し、触手の餌食になった。
ドスン! と地面に着地したカッパライダーは、触手にやられる竜史を見、いつもの薄気味悪い声を上げ、大剣を構えた。
「くァ~ッ! とうとう終わりだァ、サンライトのクソガキィ」
言うと、カッパライダーは大剣を振り上げた。
竜史はカッパライダーの触手に腹部の傷口を浸食されたままで動けない。
「……!」
「死ねェ!」
迷い無き突きが、竜史の顔面に迫る。が――。
「調子にのんなよっ!」
身体を縛る蔦はなぜかほどけ、無数の突きをカッパライダーの全身にくりだした。
「ぐぎゃあああああッ!」
特攻を仕掛けた勢いのまま、カッパライダーは後方へ吹き飛んだ。
「お前の触手を利用させてもらったぜ。半身になって多少はダメージを減らせなければ、死んでいた所だ……」
腹部の傷口を抑えつつ、竜史は言う。全身を串刺しにされたカッパライダーは、なおも平然とした顔で立ち上がった。そして、コントロールの効かない触手を切り離した。
「月の調和の力で俺の触手をてなづけ、癒しの力へと変えたわけか――」
「いつまで冷静に戦ってる!? 熱くなれよカッパライダー!」
「くァ~ッ! くわっぱくわっぱァ!」
感情の赴くまま二人は刃を交える。
下段からの斬撃をかわし、カッパライダーは頭突きをかます。
よろける竜史に、大剣を顔面に繰り出す。
ピッ! と左の首筋が切れ、血が噴出す。
右に身体を倒しつつ、刀を振った。
ガッ! とカッパライダーは口で刀をくわえた。
「なっ!?」
驚く竜史は、地面に倒れる。
ドスッ! と竜史の胸を踏み――。
「オオオーーッ!」
「あああーーっ!」
必死の形相で竜史は胸に襲い掛かる大剣を抱くように抑えた。
両者の腕はプルプルと震え、瞳孔が開く。
血まみれの両手に更なる出血が溢れつつも竜史は力を振り絞り、
「おいカッパ! さっきの頭突きでてっぺんが皿になってるぞ!」
「くァ~ッ!? テメ~焼きやがったなァ!?」
「元からじゃなかったか? うおおおっ!」
その大剣を抱くようにつかんだまま、バックドロップを決めた。
首を抑えつつ、竜史は立ち上がる。
「この野郎。騙すとはやってくれるじゃねェか……」
フラフラッと脳天を触るカッパライダーも立ち上がる。
「サンライトアロー」
「……って、人の話を聞けェ!」
ブンッ! と竜史はオレンジ色の矢を放った。その矢は隙が出来たカッパライダーの左腕に突き刺さる。
「……最近のガキは人の話もろくに聞きゃしねェ。焦んなよサンライト。次の一撃で決着をつけるぜェ」
「焦ってはいないさ。オレと午後のティータイムでも過ごしたいのかと思って、デザートをあげたまでよ。ディナータイムまではお前の命はないがな」
「くァ~ッ! ルナティクのガキみたいな台詞を言いやがって。ごっつええ感じだぜェ! ……俺の命よ、爆発しろォ!」
突如、カッパライダーの全身の傷が再生した。カッパライダーの全身にはあり得ないほどの緑の輝きが満ちていた。
「生命力を武器にしたか……。流石は快楽戦闘者、気組が違うな。オレも行くぜ……」
カッパライダーの命の力に呼応するが如く、竜史もサンライト・ルナを全快にし、幻無を鞘に収め構えた。
ブオオオオオッ!と互いのオーラが天に向かって伸びていく。
横田はじっと竜史を見つめる。
そして戦う両者はこの状況を楽しむようにニヤッと笑い――。
「サンライト・ルナ・スラッシュ!」
「カッパ・ファントム!」
両者の攻撃は、すでに人間の目では見えない。
竜史の放つ、サンライトルナスラッシュが首筋一ミリまで迫る。が、カッパライダーはまるでその刃を気にせず、天に向かってファントムを振り上げた。
(――一撃目が残像だと気がついたのか! 流石だが、まだ――!)
(何だァ!? ファントムが無意識に上に上がりやがる!? いや、俺は俺の本能を信じるぜェ!)
カッパライダーは本能で目の前の竜史の放った一撃が残像だと察し、ファントムを振り上げた先に竜史を発見する。
そして――。
「うおおおおおーーっ!」
「死ねェ、サンライトーーォ!」
シュパッ! と二人は交差し、辺りに静寂が満ちた――瞬間。
ブシュウ! と上半身を袈裟斬りに斬られた竜史は、血しぶきを上げながらはるか上空に舞った。
カッパライダーは右腕の大剣を大砲に変化させ、無言でそれを放った。
ブフォーー! と伸びる緑色のエネルギーが竜史に直撃する。
「……」
意識を失っている為、防御の姿勢をとれない竜史は直撃の余波で更に上空へと昇る。
地上にいるカッパライダーはそれを見上げ、
「今回は引き分けだ……次は必ず勝つ。負けるなよォ……竜史……」
そう言うと、カッパライダーの全身は崩れさり、風と共に消滅した。
聞こえるはずの無い距離でライバルの声を、魂で受け止めた竜史は目覚め、
「あぁ、決着は次回だ。夜天光を倒したら、カッパライダー……お前を倒す」
その光景を見届けた横田は、空に舞った傷だらけの竜史を見た。
そこには、白と黒の翼で羽ばたく竜史の姿があった。
竜史は夜天城めがけて飛んで行く。




