一幕~サンライトキャッスル~
サンライトキャッスルの最上階は、砂煙が満ちていた。
「到着……ケホッ、ちとやりすぎたか。前が見えん……何だこの薄くて弾力性が無いのは?」
「あぁ……って、お前どこ触ってる!」
輝と3四朗が漫才のような事を繰り広げていると、砂煙の奥から殺気のある声が響いた。
「相変わらずのようだな。3四朗にルナティック」
『――!』
その声に反応した二人は、バッ! と勢いよく砂煙を払った。
そこには、古ぼけたワインレッドの玉座に座る悪意に満ちた魔王のような少年・太陽竜史がいた。
「竜史……」
3四朗は竜史を見ると同時に、鬼瓦学園時代の竜史を思い出していた。そして、
「三ヶ月ぶりか……。人が腐るには十分な期間だったようだな」
「腐る……ねぇ。腐ってんのは世界だろ? そして、鬼瓦がかざす正義だ」
竜史は玉座に肘をついたまま、淡々と答える。一歩前に出た輝は、
「俺がお前の身体にいた時とは本当に別人のようだな」
「身体を手に入れたという事は月の卵を使ったのか。この世に十ある内の一つの秘宝を無駄に使いやがって。だが、お前が俺の身体から出ていってくれてせいせいしたぜ、ルナティックよ。それより3四朗、まだ男の格好をしていたのか。まぁ、その貧乳じゃ仕方ないか」
「くっ!」
竜史に言われた3四朗は、顔が赤くなった。
「それは後継者の問題もあるし、仕方ない事だ。鬼瓦の後継者は男限定だからな。3四朗しか跡継ぎがいない以上、簡単に生き方は変えられないさ。知らないだろうから教えてやる、こいつは乳は無いが感度はいいんだぜ」
スッと輝は3四朗の乳を揉みながら言った。その手を焦りながら引きはがす3四朗を見た竜史は、
「ほう、抱いたのか?」
竜史は刀の鯉口を切った。
輝も同時に鯉口を切り、
「どーかな?」
ギインッ! と互いのいた中間で刀の鋭い激突音がし、二人の位置は入れ替わった。
すると、ビリビリビリッ! と竜史の右足に黒薔薇のムチが絡み付いた。
「ぬうっ!」
「散華しろ!」
空中に飛んでいた3四朗は両手に黒薔薇を持ち、腕をクロスさせ、
「ブラックハリケーン!」
「チィ!」
大量の黒薔薇の花弁が竜史を覆いつくし、襲った。間髪入れず3四朗は、
「あれで倒れる竜史じゃない! 仕掛けるぞ!」
「たりめーだ!」
二人が黒薔薇に包まれる竜史に迫ろうとすると、ピカァ! と覆いつくす黒薔薇からオレンジ色の光が洩れだし――。
「この技は!」
「まずい! 逃げろ3四朗!」
「サンライト・ユニバース!」
その竜史の声と共に黒薔薇の花弁はかき消え、黒色の球体が室内全体を包んだ。その球体は最上階の天井を破壊し尽くした。
パラッ、パラッと小石が崩れ、砂煙が立ち込める。
「……生きてるか3四朗?」
「まぁな。しかし、ここであの技を使うとはな……」
部屋の隅で座りながら二人は話す。
すると、二人の前に、ザッと足音がした。
「本気ではないとはいえ、サンライト・ユニバースに耐えるとはな。流石はオレの元仲間か。鬼瓦学園の頃が懐かしいぜ……。ところでお前達はオレを殺しに来たようだが、お前等にとって世界とは何だ?」
「世界……」
「だと……?」
竜史の問いに、3四朗と輝は言葉がつまる。
「わざわざ来たんだ、答えられるはずだぜ。貴様等にとっての世界とは?」
刀を肩に担ぎ問う竜史に輝と3四朗は、
「また、たいそうな話をするなぁ竜史よ。んなに気に入らねーか、この世界が?」
「世界は竜史の太陽騎士団と俺達鬼瓦ファミリーが二分している。これを一つにすれば世界は平和になる」
「世界って聞いてんだ――」
『――!?』
刹那――3四朗と輝の背後にナーコと幻覚が現れた。
「ぐふっ!」
「ぐはぁ!」
ズドン! と3四朗と輝は攻撃をくらい壁に激突した。
「3四朗久しぶりぜよ」
「ハッ、久しぶりねお二人さん。ご機嫌いかが?」
幻覚とナーコの言葉に二人は、
『絶好調だ!』
一瞬でナーコと幻覚の目の前に出た3四朗と輝は勢いのまま攻撃を仕掛ける。
激しくお互いの武器がぶつかり合う中、戦う四人は自分達に向かう殺意を感じ振り向いた。
「サンライトスラッシュ」
竜史の刀から放たれた一撃が四人の前に迫り――。
ズゴウンッ! と城の壁を破壊した。
「くっ、ためらいのない一撃だ――チィ!」
空中に逃れた3四朗は、同じく空中に逃れたナーコと幻覚と激突する。
半壊した玉座の前に竜史と輝が対峙していた。
シュウゥゥゥ……と生ぬるい風が流れる。
「やっとゆっくり二人で話せるな竜史」
「ゆっくり? おいおい、お前等はオレを殺しに来たんだろ?」
「そうだ。だが俺達は今でも竜史が昔の竜史であると信じている。正気に戻ってもらうぞ」
ズズ……と竜史の左目の下の黒い痣が広がり、
「サンライトとルナティック。お前と俺はすでに他人だ。昔は俺の身体の中にいたお前は俺の事を良く知っているようだろうが、所詮は表面的な事だけだ」
言いきる竜史に輝は、
「竜史が太陽騎士団を作ったのは最終的に世界平和の為なのだろう?」
「オレの目的は世界平和じゃない。オレはオレの正義があるのさ」
お互いはフッと互いを笑い――。
『わからず屋が!』
同じ言葉を発すると同時に、二人は刀を突きだし突っ込んだ。
ギインッ! と何度か刀が衝突し、竜史は輝の膝に蹴りを入れ、更に胸を蹴った。
「ぐっ、ぐはっ!」
輝は後方に吹き飛ぶが、後方の壁に着地し、
「我が剣は真夜の月光! 覇翔月破!」
「サンライトスラッシュ!」
ブオオオオオオオッ!
イエローとブラックのオーラが激突し、弾けた。
ズザァ! と二人は床を滑り、
「腕を上げたな、竜史」
「オレを誰だと思っているルナティック?」
「俺は月下輝だ!」
能力名で呼ばれた輝は、怒りの剣を竜史に繰り出す。
刀が衝突し、ググッと力押しの勝負の形になる。
「何が月下輝だ。貴様は俺の身体の中で死ねば良かったものを!」
「くっ……!」
少しずつ、確実に歪んだ表情の竜史の力は話す言葉と共に強まる。
その力と言葉に、輝は圧される。
「貴様は月の卵で得た自分の身体で、3四朗と世界平和という名目での鬼瓦ファミリーの植民地を増やしたいだけだろうっ!」
更に竜史の顔は歪み――。
「消えろ」
ザシュッ! と輝の身体を袈裟斬りに斬った。
「ぐあああっ!」
刀についた血をブンッと振って吹き飛ばし、悲鳴を上げる輝を見た。
「チッ、しぶとい奴だ」
床に膝をつき、肩で呼吸をする輝は竜史を見上げ、
「あの炎神の儀式の日、竜史の身体から追い出された俺は3四朗によって月の卵に魂を封印されて、それで得た自分自身の身体によって復活した。それは世界の為じゃなく、お前の為だ竜史よ」
「オレの為……だと?」
眉を潜め、竜史は言った。そして輝は続ける。
「俺と竜史は太陽と月。いわば、表裏一体のものだ。どちらかが消えれば、俺達の安定は無くなる……」
「オレ達に安定などいらん。戦いと同じく、不安定なものほど美しい。俺達が一緒だった日々、鬼瓦学園での日々……。戦いの中で得る快楽に勝るものが今まであったか? ルナティックよ?」
その言葉に衝撃を受けた輝は、無意識に竜史の言葉を肯定してる事に気付きつつ、過去の戦いの日々を思い返した。
その日々は、同じ事の連続の日常とは違い、生きている実感が、自分が存在している実感があった。あの頃の輝は竜史の中にいる存在だった為、主に戦闘でしか自分の存在を竜史以外に示す方法がなかった。
戦っている時は、何もかも忘れて目の前の敵だけを倒す非常にシンプルで途方もない快感を得るもの――。
そう、答えを導きだした輝は、いつの間にか竜史が指差している方向を見た。
その方向では、3四朗とナーコ、幻覚が激闘を繰り広げていた。
竜史は言葉をつむいだ。
「3四朗、ナーコ、幻覚。三人共良い顔をしている。こんな力を持っていたら使わざるを得ない。人の歴史は争いの歴史。それは何故か? 戦いの快感は何よりもの快感だからだよ」
「違う!」
否定する輝に対し、竜史は鼻で嗤う。
「竜史は戦いを好んでも、快感という快楽を得る奴じゃなかったはずだ。自分の有り余る力に呑み込まれるな。成仏できねーで現世をさまよう夜天光に呑まれるな。自分の意思を取り戻せ竜史!」
言いながら、輝は昔の竜史の顔を思い出していた。
そして、竜史は高笑いを上げ、
「オレは自分の意思で夜天光の力を得た。昔とは随分違う事を言うじゃねーかルナティック! どうやら、立場が逆転したようだな。ハハハッ!」
「どうやら、お前には力で教えるしかねーようだな……」
瞳を閉じた輝は、意識を集中し始めた。
「コード・ビャクヤノヨルニツキハカタムク……」
ブフォ! と髪が逆立ち、全身が月の加護を受けたオーラに満ちた。竜史は右腕に黒い炎を凝縮しつつ、
「月の加護か? くだらねぇ!」
飛び上がった輝と、下から見上げる竜史の視線が激突し――。
「一字三月!」
「ダークサンライトクリムゾン!」
一文字の下に三つの三日月の黄色いエネルギーと、黒く歪んだ顔のドラゴンが衝突する。
そのエネルギーの余波が、少し離れていた所で戦う3四朗達の方まで伝わり、
「輝っ!」
「自分の心配したらどう?」
「くっ!」
ナーコの冷たい声が響いたと同時に、3四朗に二人の技が放たれた。
「ダークネス・エンド!」
「幻武幻影流・乱れ髪!」
が、技の発動と同じタイミングで3四朗の姿は黒薔薇の花弁になり消えた。
『――!?』
二人は消えた3四朗を目で追う。
すると背後に声が響き、
「回避されたのが驚きか? 二人共俺を誰だか忘れているようだな。思い出させてやる……」
言うと、黒薔薇の血の剣を作った3四朗は、
「ゼフィランサス・ゼロ」
黒薔薇の血の剣の刃と黒薔薇の花弁の同時攻撃を受けた二人は倒れた。
すぐさま3四朗は輝のいる方向の爆風の中を走り、
「輝っ!」
「ククッ、二人を倒したのか3四朗?」
「竜史!?」
3四朗の叫び声に答えた竜史は口元を嗤わせつつ崩れて空が剥き出しになった場所から空を見上げ、
「そろそろ夜明けか……」
(くっ……コイツ、何を言ってやがる? 今はまだ竜史の意識の方が強いはず……何かする気か?)
立ち上がりつつ、輝は3四朗と共に不審な顔を浮かべる。
随分先の山の方向を見た竜史であるはずの男は、
「オレに一撃を入れたみあげだ。お前等に真のサンライトキャッスルを見せてやる」
「真の……」
「サンライトキャッスル……?」
3四朗と輝は竜史の言った言葉を繰り返すように言った。
そして、怪我を負うナーコと幻覚も竜史の左右に立つと、スッと右手を天に掲げた竜史は、指をパチンと鳴らした。
すると、ゴゴゴゴゴゴゴゴッ! という地響きと轟音と共に先の方角の山が崩れ、巨大な城のようなものが姿を現した。
『――!?』
二人は驚愕し、竜史達は不敵に嗤う。
そして、完全に山が崩れ、真のサンライトキャッスルが姿を現した時、竜史は二人に背を向け言った。
「驚いたか? オレは世界を敵に回してるんだ。いつまでもお前達二人に構ってる暇はない。闇の力は光を生み出す事だって出来るんだぜ? あの城はまぶしいだろ?」
動揺に屈せず、一歩前に出た輝は、
「やられたぜ竜史。お前が3四朗のような考えをするとはな。だが、3四朗のマネじゃ3四朗には勝てない。コイツは乳はねーが知恵はある」
「五月蝿い!」
ビシッ! と輝は3四朗に突っ込みをくらう。二人に背を向けたままの竜史は、一瞬振り返り、
「ククッ、楽しみにしてるぜ」
言うと、ナーコが床を爆発させ、竜史達は姿を消した。
3四朗と輝は体力の低下と精神的に参っていた為、すぐに追う事を諦めた。
次第に、太陽が東の空から顔をのぞかせた。
「朝日が登ってきたか……闇を照らす光。竜史の太陽はあれと同じものだ。純粋で暖かい。竜史は必ず取り戻す」
「そうだな……。日本にいる星史朗の議会の事も気になるが、とりあえず、太陽騎士団対鬼瓦ファミリー……」
輝はスッとまぶしい朝日を見つめ、
「初戦は、俺達の勝利だ」
3四朗は朝日を見つめ、大きく頷いた。




