【第6話】バッドラックジハード⑱
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「なあ、それ鞄に何入ってんの?」
歩くたびにジャコッジャコッと何かがぶつかる音を発する私のカバンを見て寧斗が怪訝そうな顔で尋ねてきた。
「ん? …ああ、これかな」
音の根源と思わしきドロップスのキャンディー缶をカバンから取り出す。
7種類くらいの色んなフルーツの味が入っていた缶だ。
「あら、懐かしいわね。最近食べてなかったわそれ」
花道がそう言って物憂げな表情を浮かべる。
「食うか?」
欲しそうにはしていなかったが聞いてみる。
「えっ、いいの?」
喜ぶ花道にドロップスの缶を手渡すとさっそく蓋を開けて一粒取り出した。
「…ハッカね」
「ハズレじゃん」
ハッカがあまり好きじゃないのかハズレ扱いする寧斗に対し「あたしは結構好きよ」と口に放り込む花道。
「華子もいるか?」
隣を歩いていた華子にも尋ねる。
「え、いいの?…ありがとう、杏ちゃん」
中身が割れないようにそっと揺らして華子がっドロップスを出すと、先ほどと同様に透明感のない白い飴が転がり出てきた。
「ふはは! ハッカばっかじゃねえか」
2連続のハッカに思わず寧斗が吹き出す。
「私も好きですよ、ハッカ」
お揃いですね、と花道に微笑んだ後に華子も飴を口に入れた。
「ほれ、お前も」
そういって寧斗にドロップスの缶を渡す。
「なんかこの先に起こることがなんとなく予想着いたんだけど…」
ドロップスの缶を見てそんなことをつぶやく寧斗。
「ちなみに何味が好きなんだ?」
「みんな大好きオレンジだろ!」
私の問いに胸を張ってそう答える寧斗。
勝手に大衆を味方につけているが、残念ながらその缶の中にオレンジ味はもう入っていない。
「ふふ…出るといいな」
精一杯の笑顔を張り付けてそんな小さな希望をもたせてやった。
「うおおおおおお!!!」
先ほどの華とは対照的に激し目に上下に振って中身を撹拌する寧斗。
「ちょっとちょっと!砕けちゃうでしょうが!」
花道が咎めるのも気にせずひとしきり振ってから中身を取り出す。
「あ…」
最初に視認できた華子が同情するような声を漏らした。
結果に満足いかなかったのかさらに追加でもう一つドロップスを出す寧斗。
「おい!なんだこれ!ハッカしか出てこねえじゃねえか!?」
「だってハッカしか残ってないもん」
何を隠そう、あまりハッカが好きじゃない私はハッカが出てきそうになったら戻してを繰り返した結果こうなった。
「じゃあ最初からそう言えよ!」
「ふっ…」
負け試合を組まされた寧斗を鼻で笑うとしばらく不貞腐れていた。
カロカロと4人でミント味のドロップスを口内で転がしながらそれぞれの家路についていた。
「楽ちゃん大丈夫かしら…? 私たちより先に帰ったと思ったんだけど」
放課後になってからラムサール部のメンバーで合流したのちに私たちは保健室から直帰したという楽の家に様子を見に行った。
しかしインターホンを押しても反応がなかったの日を改めることにしたのだった。
「また明日の朝迎えに行こうぜ。疲れて寝てんのかもしんないしな」
寧斗の提案にみんなで明日の集合時間を決めて別れた。
「さて…と」
楽の家から一番近いため一番最初に別れることとなったが、なんだか気分が落ち着かなかった。
このままおとなしく家に帰ってもいいのだが、折角だしもう一仕事するとしよう。
楽の様子がおかしくなったのは間違いなく帝麗との合併の話が出てからだ。
「まあ…無理もないか」
誰に言うわけでもなく独り言をつぶやく。
楽のアパートに向かっていると、途中の自販機で面白そうな飲物を見つけた。
アルティメットボンバイエ!と書かれたサイケデリックな色合いのドリンクを買うことにした。
細かいのがなかったので千円札を入れてボタンを押すと、有名な某プロレスラーの「いくぞっ!!!」という音声がなりガコン!とジュースが落ちてきた。
「…?」
おつりが出てくるのを待っていたが一向に出てくる気配がない。
いや…まさかな。
恐る恐る先ほど自分が押したジュースの値段を見ると……まさかの1000円だった。
よく見もせずに購入しなかった自分が悪いが、なんだかとんでもない衝動買いをしてしまった気持ちになり若干凹む。
「まあいいか」
声に出してはみたが自己暗示に近いものがあった。
エナジードリンクの類なのだろうか…明らかに500mlではきかないほどの大きさの缶を抱きかかえて再び楽の家を目指すことにした。
決着をつけよう。
心のどこかでそんな思いを抱きながら。
不思議と心はどこか軽やかだった。




