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【第5話】しんぎゅらりてぃですとらくしょん⑦


実験室での覚醒ゴキブリさん事件を経て、僕たちは帰路についていた。

僕、絵入さん、寧斗、御手洗さん、花ちゃんの5人できらめき商店街を歩く。


「そういえば西園さんたちってどっかから通ってるんだっけ?」

ふと気になったことを誰にというわけでもなく聞いてみた。


「実験室のすぐ隣の特別宿直室っていうところで普段は生活してるらしいですよ」

依然二人のどちらかに聞いたのだろうか、御手洗さんがそう答えた。


「なんだよそれ。絶対遅刻とかしなくて済むじゃんよ」


「ふふっ。確かにめったに遅刻はしなさそうですね」

羨ましがる寧斗を見て御手洗さんが笑っている。


「VIP待遇よねぇ。んまぁ、ふうちゃんにはそれでも容認されちゃうくらいの才能があるってことよ」

キテ〇ツ並みになんでも作ってしまう西園さんを花ちゃんが褒める。


「あんたたち知らないでしょうけど、あの学校のセキュリティとか授業のプログラム関係とかほとんどふうちゃんが管理してんのよ?」


「ええっ!? そうなの!?」

それはやばい。


一介の学生が管理することではない気がするが、きっといろいろな大人の事情があるのだろう。


「まぁ、といってもほぼ自動操作で管理できるようになってるから今は自由に研究に時間を割けるって言ってたけどね」

いずれにせよその技術力の高さにはすごいとしか言いようがない。

そんな話をしながら歩いていると、商店街の半ばに差し掛かったところで絵入さんが何かに気づいて僕の制服の裾を引っ張った。


「ん? どうした?」


「福引き。またやってる」


……。

瞬時に先日の僕の痴態が脳裏にフラッシュバックする。

ぬか喜びをさせられた挙句、さながら世紀末闘士の必殺の掛け声のようなものを発してしまったあの苦い日を思い出す…。


「抜戸さん! リベンジのチャンスですよ!」


「くっ…!」

悪気のない分、屈託のない御手洗さんの可憐な笑顔が古傷に突き刺さる。


「今日もアタアタ言うのか?」


「おお~い! それは悪意があるなぁ!!」

若干にやけている絵入さんに精神を逆撫でされて思わず食って掛かる。

そもそも福引をするにも肝心の福引券がない。

ここ数日通っていたが、こんなキャンペーンの予告なんてあっただろうか…?


「ん」

そう言って絵入さんが内ポケットから数枚の福引券を取り出した。


「へ? なんで持ってんの?」


「さっきガチャガチャやったら近くにいたおじさんが交換してくれた」

そういって太眉でこちらを指さしながら何かを怒鳴っている蝶人間らしきキャラクターを見せる絵入さん。

大分割愛されているが、どうやら絵入さんがガチャガチャでダブったやつを欲しがっていたおじさんが福引券と交換してくれたらしい。


「ふーん…。で、ちなみにだけどそのキャラクターは何ていうの?」

一応気になって聞いてみる。


「激情物申すマン」


「また何とも言えないネーミングだねえ」

若干呆れる僕とは対照的になぜかちょっとドヤ顔で見せびらかす絵入さん。


転校してきたての頃に絵入さんと帰宅したときも同じシリーズのガチャガチャをやっていた気がするが、まだ続けていたのか。

絵入さんのキーホルダー事情はさておき、すぐそこにある福引会場へ足を運んだ。


「いらっしゃあい! 豪華景品が当たる今日限りのプレミアム福引だよ!」


どことなく大阪の食い倒れ人形を彷彿させる格好のおじさんが陽気に声をかけてきた。

おじさんの後方には大型テレビや最新のゲーム機・家電が大量に掲示してあり、前回の福引なんて目じゃないほどの景品のグレードアップを遂げていた。


「すげえな。どこにこんな予算があったんだってくらい豪華じゃねえか」

思わずそのラインナップに寧斗が目を丸くして驚く。


「こういうのって大体母数がとんでもなく多くて豪華な方は当たらないんだよね」

前回の経験も相まってひねくれた意見が思わ口をつついて出てくる。


「まぁタダで引けるんだし当たったらラッキーぐらいに思ってやればいいんじゃない?」


「そうですよ。ポケットティッシュなんかもいくつあっても困らないですし」

花ちゃんの提案に御手洗さんも気負わない口調で続く。

ってあれ?なんかまた僕が福引を引く流れになってないか?


「絵入さん、せっかく福引券交換してもらったんだし自分で引いたら?」


「ん? ああ…」

絵入さんも僕が引くと思っていたのか急に自分に振られたよう反応を示した。


「私でもいいが、さっきガチャガチャでシークレットのやつ当てたからもう運がないぞ」


「えっ、運の残量わかるの?」


「わかる」

謎に自信たっぷりにそんなことをいいながら僕の手に大量の福引券をねじ込んでくる絵入さん。

さながら孫に明らかに不相応の高額なアイス代と称してお小遣いを渡してくるおばあちゃんのようだ。


「前回のぬか喜び事件の汚名挽回のチャンスだな!」


「…汚名は挽回しちゃだめじゃない?」

寧斗が間違いに気づいていない様子で僕を鼓舞してくる。


「はぁ…やるか」

別にお金を取られるわけでもないの早速引いてみることにした。


「はぁ~い! 合計で3回引けまぁ~す!」

僕のテンションとは真逆を突っ走る食い倒れカラーのおじさんがさっそく福引きマシンにかかった赤布を取り払う。


「全部ポケットティッシュでも大目に見てね絵入さん」

そんな予防線を張ってから一回目を回す。

ジャラジャラと大量の玉がぶつかる音とともに何度か回したところで福引きの機械から玉が飛び出す。

色は白。


「はい日用品~!」

そういっておじさんが案の定のポケットティッシュを手渡してきた。

別に動じはしない。こっちの母数のほうが多いんだから当然だ。


「あと2回…。抜戸さん頑張ってください!」

御手洗さんがそんなエールを送ってくれたがどう転んでも運任せ。正直頑張りようがない。

特に何も考えずに再度福引を回す。


「気合いだ!」

寧斗が根性論で僕の運気を操作しようとしているのが聞こえる。正直気が散るからやめてほしい。

上手く一個が抽選されないのかなかなか玉が出てこない。


「おじさんちなみに一番いいのって何色なの?」

前回金色でぬか喜びさせられた身の上として念のために確認してみた。


「そりゃあ金色に決まってるでしょ! まぁ一個しかないから滅多には出ないだろうけどね!」

まぁ普通はそうなんだけど、前回がイレギュラーすぎたのに違いなかった。

そんな会話をしているとやっとのことでポトリと中から玉が出てきた。


「なんだ…また金色か」

前回のトラウマがまだ拭い去れてなかったのか特賞が出たにも関わらず素で乾いたリアクションを取ってしまう。


「えっ! 嘘!? 金色ですよ抜戸さん!」

御手洗さんが信じられないような表情で驚く。


「おめでとうございまあああす! 出ました! 特賞の温泉宿泊券でございまあああす!」


「え!? ほんとに特賞!?」

おじさんの歓声が嘘ではないことを物語っている。


「ちょっと! すごいじゃないの!」

花ちゃんも興奮冷めやらぬ様子で僕の肩をバシバシと叩く。


「いたっ! とりあえず落ち着いて!」

特賞が当たったのは嬉しかったが、当たったのは旅行券だ。

こういうのは大概ペアでの案内と相場が決まっている。


「みんなで行けたら楽しいだろうけど、ペアチケットだろうから二人までしか行けないんじゃないかなぁ?」

そんなことをつぶやく僕におじさんが振り子のように指を揺らしてチッチッチとドヤ顔で諭す。


「テレビやゲーム機を差し置いて特賞なんですよ? なんと7名まで自由にご参加いただけまぁす!」


「えっ、そんなに!?」

人数が中途半端なことに若干疑問を抱いたが、実験室の二人も含めたいつものメンバーで行くことが出来そうだ。

いつの間にか集まっていたギャラリーに拍手されながら福引きおじさんから旅行券の入った封筒を受け取る。

実物が手に収まるサイズだからか妙に実感がわかない。

旅行への話題も尽きぬまま一人、また一人と自分の家の方向へと帰っていく。

最終的に絵入さんと二人きりになり僕たちも方向が同じ自分たちの家へと歩みを進める。


「なんかいまだに実感がわかないんだよね。ちなみに温泉旅行って言ってたけど行先どこか聞いてなかったな」


「温泉と言えば指宿だろ」

完全に偏見のある絵入さんの予測候補地を聞かされる。


「指宿って砂風呂のところだよね? あれ確か九州とかじゃなかったっけ」


「砂風呂入ってみたい」


「さすがに指定の温泉宿だし近場なんじゃない?」

一応所持者は僕なので封筒は開けて確認してもいいのだろうけど、どうせならみんなで開けようと思う。


「なんかちょっと疑問に思ったことがあってさ…」

旅行に行ける人数が狙ったかのようにおなじみメンバーの人数と一緒だったことを絵入さんに話してみる。


「でもみんなで行けるんだし良かっただろ」


「まぁ…それはそうなんだけど」

誰もあぶれずに行けるということを素直に喜んでおくか。

指宿に行くと決まったわけでもないのに砂風呂に入った時のイメトレを繰り広げる絵入さんを見ながら家に帰った。



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