表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジャン負け村人転生しようぜ  作者: リア
第二章・冒険者育成教室
20/78

人間の心

話の切れ目に違和感があったため、修正しました。それに伴い、前話の最後を加筆しております。未読の方は是非。

平成30年8月9日

〜二日後・シャルルとフランの部屋〜



「っ! はぁ、はぁ」



 早朝。フランはベッドから飛び起きた。



「あぁもう。夢見悪いわぁ」



 どうやら悪夢を見たようである。



「あれ、シャルちゃんがおらん」



 フランはベッドから降り、桃色に染まった部屋を見渡した。生憎と暗闇ばかりで、何もハッキリとは見えない。



「真っ暗やけど、シャルちゃんの髪、目立つからわかるはずやのにな」



 シャルルのベッドを探っても、もぬけの殻。


 本格的に探そうと思い至ったフランは寝間着のまま、ランタンを持って外へ出た。



〜訓練場〜



 この日もロキとシャルルは、朝の運動をしていた。


 実際の刃物や魔法を使う、危険度マックスの運動であるが。



「神を害するなんぞ百年早い」


「ふぃー。疲れた」



 いつものタンクトップに短パンのシャルルは、その場に座り込んだ。


 ロキはその隣に腰を下ろす。



「最近、体力がもつようになったな。速さも活かせるようになってきた。着実に上達している」


「え、何。どうしたの急に。今日雨とか降る?」


「どういう意味だ」


「そんなに褒めるなんて、今まで一度も無かったじゃん。まさか、卒業とかないよね?」


「ねえよ未熟者。思い上がるな」


「言い方きつくない?」


「弱いところだけでなく、自分の強いところも知っておくべきかと思っただけだ。あの白髪にも及ばない癖にいきがるな」


「え、だいぶ口悪くない? というか、あの人に勝つのって相当厳しいんじゃないの?」


「そうでもないぞ。実力はあの黒髪と大差ない。現役時代どうのという言い訳もあるかもな」


「へぇ、変わらないんだ。そんなのよく分かるね」


「一度手合わせしたからな。分かるだろ」


「うん、わかんない」



 互いに薄着で歓談する二人の元へ、ピンクの影が現れた。フランである。



「シャルちゃん、それにロキ君も。こんなとこで何してんの?」


「あ、フランちゃん。ごめんね、起こしちゃった? あれくらいの物音なら起きないと思ってたよ」


「おいシャル、訓練に来るのはいいが、他のやつを起こすなよ」


「ああ、ちゃうねんちゃうねん。うちが勝手に目が覚めただけ。二人とも訓練しとったんやな」


「え、そうなの? いつも時間ギリギリまで全然起きないのに」


「今日はたまたま悪い夢見てん。それでちょっと不安になってシャルちゃんを探しとったんよ」



 桃色一色のパジャマ姿のフランが甘えたような声を出す。


 シャルルは心を撃ち抜かれた。



「ふふふ。おいでおいで。私が隣にいてあげるよー」


「ありがとうシャルちゃん」



 まるで甘える猫のように、フランはシャルルに近づいた。



「えへへ。ね、どんな夢を見たの? あ、話したくなければ全然いいんだけど」


「えっとねぇ、両親の夢。あのときのこと、たまに夢に見るんよ」



 フランは、少しだけ悲しそうな表情で真っ暗な空を見上げた。


 シャルルは何か言おうと口を開きかけるが、フランの放つ雰囲気に口が重くなる。


 そこで話し出したのはロキであった。



「どこかの国の思想でだな」


「ロキ君?」


「夢の中にある人が出てくると、夢を見た当人はその人に想われている。そんな考え方があった」



 天上界での教育課程にあった人間世界の情報の中で、ロキが覚えている数少ない事柄の一つである。



「つまりうちは、パパとママに今も愛されてるってこと?」


「そういうことだ」


「そうなんや。なんかちょっと、元気出たかも」



 フランは笑顔を作った。



「おぉ」


「シャルちゃん、どうしたん?」


「いや、ロキが気を遣ったことに驚いて」


「おいシャル、もうちょっと訓練するか? 次は俺も叩きに行っていいよな」


「すみません、勘弁してください。地面のシミにはなりたくありません」


「あはは」



 フランは少し笑って、もう一度空を見上げた。



「うちな、もっかいパパとママに会うのが夢やねん。冒険者になって、色んなとこを回って、奴隷になっとるかもしれへんパパとママを探し出すんや」


「きっと見つかるよ。むしろ、向こうの方から会いに来てくれるんじゃない?」


「そうかもな。夢に出てくるほど近くにいるのかもしれん」


「そうやとええなぁ」



 フランは視線をロキたちに戻した。



「シャルちゃんたちは、なんで冒険者になろうと思ったん?」


「私はねぇ、故郷の村を栄えさせるためかな」 


「俺たちの村は魔物のテリトリーに囲まれていてな。周りとの交流は絶望的な中で、自給自足の生活をしている」


「そうなんや。親孝行っていうか、故郷孝行?」


「あはは。その言い回し好きかも」


「まあ、俺はそこまで熱心ではないがな。シャルに付き合ってやっているだけだ。俺には高尚な目標なんぞない」


「ロキ君は自由だもんね」


「ロキの夢はこれから見つけるんだよ。いわばこれは自分探しの旅だね」


「シャルに引っ張られて来ただけの旅だがな」


「あれ? でも、魔物に囲まれてる場所からよう出てこれたね。やっぱりロキ君が道を拓いたん?」


「ううん。うちの村の特産品っていうか、よく取れる植物で、魔物避けっていうのがあるんだ。それがあると魔物が寄ってこなくなるんだよ」


「効果範囲は小さいがな」


「えっ、何それ! すごいやん! それがあれば世界が変わるで!」


「あれってそこら辺に生えてるものじゃないの?」


「クルス村では見飽きるほどに生えていたが、そういえば最近見ていないな」


「そらそやで! そんな植物聞いた事ないわ! それがもし流通したら革命やで!」



 フランは鼻息を荒くする。



「そうなんだ。なら尚更頑張らないとね」


「上手く行けば、クルス村は一気に億万長者だろうな」


「んふふ。あんな田舎の村がって思うと、面白いね」


「想像すると、父さんも母さんも、まったく似合わないな」


「ザ田舎者って風貌だもんね。うちもだけど」


「シャルちゃんの夢が叶ったら、一番に教えてな。冒険者辞めて魔物避けで生計立てるわ」


「うん。一緒に億万長者になろうね」


「なんだそのフレーズ」



 ロキたちは立ち上がった。もうすぐ夜があける。日が昇ると同時に授業が始まるのだ。



「なあロキ君。明日からうちも訓練に参加してええ?」


「フランちゃんも来るの? やったあ!」


「夢を叶えるには強くならなあかんから。旅をしてパパとママを探すにも、どっかから取り戻すにしても」


「ああ。歓迎だ。シャルルに魔法の使い方でも教えてやってくれ。俺はよくわからん」


「任しといて」


「じゃあお返しに剣術を教えてあげるよ!」


「ライバルが出来るのは良いことだ。お互い頑張れよ」



〜日中・A教室〜



 今日も今日とて、冒険者育成教室では訓練に明け暮れる。はずだった。



「雨だと訓練は休みになるんだね」


「訓練場は野ざらしだからな。視界が悪い中での訓練も為にはなるだろうが、風邪をひいては元も子もない」


「それもそっか。だから今日は座学なんだ。嫌だなぁ」


「同感だ」


「そう? 冒険者に必要な知識ばっかりやし、為になると思うんやけど」


「理屈ではそうかもしれんが、気分としては良くない。まあ、天上界での勉強漬け生活より遥かにマシだが」


「またロキが何か言ってる」


「ロキ君、たまにそういうとこあるやんな」


「信じたくなければ信じなくて構わん。好きにしろ」



 ロキは、シャルルたちのいつもの反応に不貞腐れたようだった。



〜授業中〜



 今は社会の時間。女史が黒板に何事か書き連ねている。



「獣人というのは、このように人間の形をした獣よ。知能は低いけれど、労働力としては人間以上の働きね。彼らは一般的に奴隷として飼育されるわ。稀に犯罪を犯した人間も奴隷に落ちることがあるけれど、奴隷は専ら獣人ね」



 今日は獣人の授業らしい。いつも熱心に授業を聞くフランであったが、この授業ばかりは俯いていた。



「この国では獣人の奴隷化が推奨されているわ。軍隊を使って、獣人の村から獣人を連れてくるのよね。では、ここでクエスチョン。一番最近に軍隊が突入した村はどこかしら?」



 当然、教室内は静寂。また女史は嫌な汗をかいていた。



「獣人の村の名前はさすがに分からないかしら。でも一応聞いておくわね。じゃあ、フラン。答えてくれる?」


「はい」



 フランはゆっくりと立ち上がった。



「サモン村、です」


「正解よ! よく知っていたわね!」



 フランは俯いたまま、ゆっくりと席についた。その拳は固く握られ、体はワナワナと震えている。


 フランのノートには水玉が出来ていた。最前列で俯いているため、見える人は限られているが。


 そこで、フランの後ろに座っていたロキが立ち上がった。


 そのさらに後ろに座っているシャルルが驚いたような表情で、ロキを見上げる。



「なあ」


「ロキ? どうしたのかしら?」


「フランの具合が悪そうだ。医務室へ連れて行って良いか?」



 女史は最前列で俯くフランの様子を見た。



「ぐすっ。いえ、大丈夫、です」


「いいえ。無理はしない方が良いわ。ロキ、悪いけど、フランを医務室までお願いできるかしら」


「ああ。任せろ」



 ロキは、フランを連れて教室を出た。


 そこで手を挙げたのがシャルルである。



「私も心配です! ついて行って良いですか?」


「シャルル。付き添いは一人で十分よ。あなたは授業を受けなさい」


「はい」



 撃沈。シャルルはロキに思いを託すのみとなった。



〜医務室〜



「ロキ君、ほんまに、大丈夫やから」


「大丈夫なものか。少し寝ていろ」



 ベッドを一つ借り、ロキはフランをそこへ押し込んだ。


 フランの涙に濡れた顔が顕になる。



「辛かっただろう、今の授業。お前にとっては拷問だ」


「それは、そうやけど。授業は受けな」


「あんな授業を聞く必要はない。お前の心の方がよっぽど大切だ」



 柄にもなく真摯に訴えるロキ。フランは諦めて横になった。



「なあロキ君。我儘言うてもいい?」


「言ってみろ」


「ちょっとだけ、話し相手になってくれん? うちが寝るか、授業が終わるまででええねん」


「ああ。もとよりそのつもりだ」


「ありがとう」



 フランは涙を拭いた。



「サモン村ってな、うちの故郷やってん。国に滅ぼされてもうたけど」


「それは、ご愁傷さま、だな」


「うちのことを散々な扱いしてきた村やったし、愛着なんてあれへんと思っとったんやけどな。実際はちゃうかった。この街でその報せを聞いたときな、めっちゃ悲しかってん」


「ああ」


「そんで今。もっかいあのときのことを思い出したら、なんかもう込み上げてきて。我慢できひんかった」


「仕方ないことだ。故郷が無くなれば、悲しくなる。それが人間の心だ。どいつもこいつも、獣人をもの扱いするが、そんな奴らよりお前の方がよっぽど人間らしい」


「そうやろか」


「人間の特徴はな、考えることだ。過去を記憶し、未来を予想する。それが人間だ。知能が低いだかなんだか知らんが、それだけ出来れば立派な人間なんだよ」


「ロキ君、そんな哲学的なこと言えるんやね」


「シャルみたいなこと言うなよ」


「あはは。ごめんな。元気づけようとしてくれてありがとう」


「どういたしまして。じゃ、さっさと元気出せ。神の弟子が人間如きの考え方に振り回されるな」


「うん。そうやね。なんたってうちは神の弟子やもん」


「おい、今馬鹿にしなかったか?」


「してへんしてへん。気のせいやって」



 フランは微笑んだ。



「さて、話はこのくらいにしてもう寝ろ。何かを忘れるには寝るのが一番だ。いつも俺はそうやって物事を忘れてきた」


「なにそれ。自慢出来ひんやんか」


「まあな」


「ロキ君、今度はロキ君の話聞かせてや。うちが寝るまでの間でええからさ」


「構わないが。どこから聞きたい? この世界に生まれてからか?」


「せっかくやし、天上界のお話にして」


「わかった」



 ロキは話し出した。


 そう長く語るつもりは無かったのだが、目を瞑ったフランを見ていると、次から次へ言葉が生まれてくる。


 そんな不思議な感覚を、ロキは味わっていた。

お読みいただきありがとうございます。

アドバイスなどいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ