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ジャン負け村人転生しようぜ  作者: リア
第二章・冒険者育成教室
18/78

フランの秘密と復讐未遂

「寝起きドッキリと授業」の投稿を忘れていたことに気が付きました。申し訳ございません。

〜アビスブルク郊外・森林地帯〜



 死体運びという労働に項垂れるフランの元へ近づく足音。


 ガサゴソと草むらをかき分けてやって来たのは、先程と同じホーンディア。


 それが、気を抜いていたフランへと真っ直ぐ進んでいく。



「フランっ!」



 いち早く反応したのはロキだった。神速の踏み込みでフランの元へ駆けつけ、そのままの勢いでフランをはじき飛ばした。



「きゃあっ!」


「ロキ! 危ない!」


「ちっ!」



 いくら他の魔物に比べて遅いと言えど、魔物は魔物。もうロキに、ホーンディアの突進を避ける推進力は残されていない。



「やってやろうじゃねえか! ぅらあっ!」



 ロキは回避を捨てた。向かってくる棘付きの角に対し、真っ向から拳を当てにいった。


 当然、吹き飛んだのはホーンディアである。飛ばされた先で木にぶつかり、そのまま息絶えた。



「いってぇ!」


「ロキ! 血が出てるよ! もう、無茶するから!」


「やっぱり無理だったか」


「はい、包帯。巻いてあげるから手を出して。一体何をしようとしたの?」


「棘の間を縫って殴れないものかと」


「そりゃ無理だよ! 見たら分かるじゃん!」


「いける気がしたんだ」


「えぇ。何その自信」


「結果は失敗だったがな。棘をへし折って殴っちまった」


「いや、普通それも出来ないって」


「それに出血までしたからな」


「怪我は重くないから良かったけどね。棘の形に穴が開いてたらどうしようかと思ったよ」


「いやいや、それなら指がもげて転がってただろ」


「生々しいこと言わないでよ怖いなぁ!」



 シャルルは包帯を巻いたロキの手を気味悪そうに離した。



「はぁ。あいつを相手取る度に出血したんじゃ世話がないよな。やっぱりガントレットは必要か」


「うぅん」



 ロキの言葉に返事をするような呻き声が、草むらから届いた。



「そうだフランちゃん! ロキ! 女の子を手荒に扱っちゃダメだよ!」


「状況が状況だろうが。仕方なかったんだよ」


「後で謝りなよ?」


「分かった分かった」



 包帯を巻いた手をプラプラと振りつつ、ロキは死体を一箇所にまとめだした。


 フランの回収はシャルルに任せるということだろう。


 それもそのはず、押し出したフランはスカートがめくれており、中からドロワーズが覗いていたのである。



「フランちゃーん、大丈夫?」


「ぅん? シャルちゃん?」


「どこか打ってない?」


「うん、大丈夫やで。びっくりしすぎて意識飛びかけたわ」


「もう。大袈裟だなぁ。心配させないでよ」


「ごめんごめん」



 あははと笑うフラン。その笑みは、スカートの惨状からすぐ赤面に変わってしまったが。


 シャルルはフランにつられて笑っていた。スカートのめくれを気にしたフランの、恥ずかしがる様子も面白がっていたのである。


 しかし、立ち上がったフランを見てシャルルの笑いが消えた。


 そしてシャルルの表情は驚愕へと変わっていく。



「フランちゃん、耳」


「耳? 耳がどうしたん?」


「頭のとこに、耳がある」


「へっ?!」



 フランの声と連動し、円形の耳がビクリと動いた。


 そして、何事も無かったかのようにフランの髪へ擬態し直す。



「見間違いちゃうか? 頭のとこに耳なんて生えるわけないやん。おかしいこと言うなぁシャルちゃんは。はははは」



 わざとらしい笑み。



「いや、見間違いじゃないって! たしかにあったもん! ほらここら辺に!」


「やっ! やめてぇ! 乙女の髪を勝手に触ったらあかんよ!」



 迫るシャルルの手から、棒読みの言い訳を述べて逃げるフラン。その態度はますますシャルルに火をつけた。



「良いではないか、良いではないか!」


「ちょっ、シャルちゃん、スキル使うのあかんって!」


「つっかまえたっ!」


「びゃー! やめてぇ! ほんまにこれだけはぁ!」



 羽交い締めにされ、暴れるフランだが、ロキと訓練を続けているシャルルにとっては痛くも痒くもない。



「ロキーっ! ちょっと来て!」


「ん? どうした?」


「いや! やめて! 来んといて!」


「フランちゃんの頭に耳があるか確認して」


「は? 何を言っているんだ。頭に耳って、言葉大丈夫か?」


「ロキ君帰って! ええから帰って!」


「あのほら、動物みたいな感じに耳があるの。確認して、ロキ」


「へぇ、そうなのか」


「そないなことない! 全然そないゆうことあらへんから!」



 ついに言葉まで荒れ狂ったフランである。



「ロキ君? その手をこっちに向けんとって? な? 友達やろ? ほんまに頼むから」



 無言で手を伸ばすロキ。



「分かったってロキ君。頭以外やったらどこ触ってもええからほんまに勘弁して」



 涙目のフラン。しかし、無言のまま頭へ手を伸ばそうとするロキ。



「おっぱいも触ってええから! 奥さんではちょっと物足りひんやろ? せやから頭だけはぁ!」


「ちょっ、フランちゃん! 聞き捨てならないんだけど!」


「たしかにシャルの胸は俺と変わらないな」


「ロキぃ! 後で覚えといてよ!」


「ロキ君ストップ! 止まって! この際お尻でも何でも触ってええから! だから止まって! お願い! 止まれ!」



 誘惑や叫びも虚しく、ロキの手はフランの頭へ届いてしまった。


 そしてロキは、愛玩動物にするように優しく撫で始めた。



「あっ。んんっ。ダメっ」


「この辺か?」


「そうそうそこそこ」


「ダメ、やってばぁ。はぁんっ。ダメっ」


「ダメと言われるとやりたくなるのが人間だからな」


「ん、はぁっ。ダメっ。もう出ちゃうっ」


「よーし、ロキ、ラストスパート!」


「あっ、ああっ! ダメダメダメっ! 出る出る! 出ちゃうからぁ!」


「出しちまえ」


「出ちゃうぅ!」



 ぴょこん。



「あぁ、ああぁ」


「すごーい! もふもふ耳だ!」


「耳だな。それも動物の」


「出ちゃったぁ」



 シャルルが羽交い締めを解くと、フランは崩れ落ち、泣き始めた。


 これにはロキとシャルルも困惑である。



「もぅ、うち生きてかれへんのやぁ」


「ちょっ、ごめんフランちゃん! そんなつもりじゃなかったの! 泣かないで!」


「調子に乗りすぎたな。悪かった」


「うっ、ううっ」



 フランは耳を出したまま、わんわん泣いていた。



「ごめんなざぁい! パパ! ママ!」



〜数十分後〜



 どうにか泣き止んだフランは、耳を伏せ、いつもの姿に戻った。



「ごめん、フランちゃん。そんなに嫌がるとは思ってなくて」


「悪かった」


「ええんよ。元はと言えばうちの失態やもん。煮るなり焼くなり好きにして」



 フランは地に身を投げ出した。目は固く閉じられ、端にはまだ涙が浮かんでいる。



「ロキ君、シャルちゃん。最後に一つだけ悪あがきをさして。それでもし同情してくれるんやったら、今回の件は見逃して欲しいねん」


「よくわかんないけど、わかった」


「それで詫びになるならなんでも聞いてやる」


「ありがとうな。最後の情けでも嬉しいわ」



 フランはうっすらと目を開けて、語りだした。



〜数年前〜



 人間からは見つかっていない、獣人たちが住む辺境の地。そこに、限りなく人間に近い獣人の少女がいた。フランである。


 獣人の村において、見た目がほとんど人間である彼女は差別を受けていた。



「なんだよ! 来んな! あっちいけ!」



 小さな嫌がらせから、陰口、直接的な罵倒など、数えきれないほど。



「人間怖い! お姉さんこっち来んとって!」



 小さな子供にまで避けられる始末である。


 そんな彼女でも、両親だけは味方であった。二人はいつも、娘が受ける仕打ちに心を痛め、彼女を慰めていた。


 そしてある日のこと。



「フラン、話がある」


「どうしたん、パパ?」


「あんな、フラン。落ち着いて聞いてや。あなた、人間の街で生活する気はない?」


「え?」



 フランは恐れた。両親まで、自分を遠ざけようとするのかと。



「パパ、ママ、私、邪魔なん?」


「そんなわけない!」


「言い方が悪かったわ。フラン、あなたがこのままここで生活しても、きっと幸せにはなれへん。やから、パパとママと一緒に人間の街まで行かへんか?」


「パパもママも一緒なん?」


「そうや。一緒にこの村を出よう」


「でも、人間って怖いんやろ? うちらのこと、奴隷としか見てへんって」


「そんなことあらへん。きっと分かってくれる人もおる」


「フラン、どうやろ。一緒に行ってみいひん?」



 フランには人間への恐怖があった。しかし、それ以上に、幸せな暮らしへの憧憬があったのである。



「うん。行く」



〜過去・アビスブルク・ゲート〜



 獣人の親子は、当然ゲートで止められた。


 それだけではない。兵士は槍を構えていた。



「おい獣人! その子を離せ!」


「待ってください! 俺たちは別に」


「この獣人が! 口答えをするな! 人間を攫ったんだろう! これだから獣人は!」


「違うんです!」



 フランの両親は必死で訴えかけたが、兵士は聞く耳を持たなかった。


 彼らの脳裏にはこんな考えがあった。


 奴隷の獣人が、人間の子供を攫ってきたのだ。と。



「取り押さえろ! 少女を傷つけるなよ!」



 気がついたときには、兵士に取り囲まれていた。


 そして、フランの両親は、諦めたような表情になっていた。元々覚悟していたかのような。



「フラン、元気でな」


「幸せになるのよ」



 フランの両親は、こうなることが分かっていたのだ。


 分かっていて、フランを幸せにするために身を投じたのである。


 両親の眼差しからそれを察したフランは、涙を堪え、何も言わなかった。



「獣人は奴隷に流せ! 少女は上に判断を仰ぐ!」



 兵士に連れられる両親を、フランは棒立ちで見ていた。


 隣に立つ兵士が見ていない隙をついて、涙を流しながら。



「パパ、ママ。絶対また会いに行くから」



〜現在・アビスブルク郊外・森林地帯〜



 フランの目からは再び涙が流れ出していた。



「人間として頑張ってきたのになぁ。もう、パパとママに会うのも叶わんのかなぁ」



 シャルルは寝そべるフランの元へ近づき、頭を撫でる。



「そんなことないよ。私はフランちゃんの味方だから」


「獣人がいるということは知っていたが、まさか奴隷扱いとはな。はぁ。よくわからん差別もあったものだ」


「二人とも、うちのこと売り飛ばさへんの?」


「当たり前じゃん。私、そんなふうに見えてたの?」


「シャルは何かと残忍だからな」


「そんなことないでしょ!」


「ほんまのほんまに? 獣人って売られるもんなんやろ?」


「俺は初めて聞いたな」


「安心して、フランちゃん。私たちは獣人だろうと気にしないから。耳しか違わないのにどうもこうもないよ」


「ありがとぉ。ありがとうな」


「ふん。女々しいな。俺たちのことを友人だと言ったのはフランだろう」


「友だちを売るなんて考えられないよね」



 フランは起き上がり、二人に笑顔を浮かべ、抱きしめた。



「二人とも、大好きや!」



〜数時間後〜



 ホーンディアの死体を数多引きずり、ロキ班は森を出た。


 フランの目元は赤くなっているが、涙は完全に止まっている。



「ロキ班、遅いぞ!」


「すごい量の獲物だけれど、時間は守って欲しいわね」


「すまないな」


「ごめんなさい」


「うちのせいです。ごめんなさい」


「まあ良い。では、終礼を始める」



 この実戦訓練は、泊まりがけで行うことが出来る。自由参加であるが、教官が見てくれるとあって、参加する者は多い。



「獲物を換金する者は冒険者ギルドへ向かうように」


「付き添いには私が行きます」


「残る者は魔物の警戒を怠るな。では解散!」



 ロキたちはもちろん、魔物の換金である。


 しかし、そこに立ちはだかる者がいた。


 ロキたちの帰り道を塞ぐ二つの影。その眼光は魔物をも凌ぐほどだった。



「やいロキ! よくも置いていってくれたな!」


「数多くの同志たちを手にかけて掴んだロキ班への切符をふいにしてくれやがって!」


「お前らがさっさと決めないからだろ」


「というか、手にかけたって何したんよ」



 野郎どもの女子への執念に、シャルルとフランは引き気味である。



「今日こそは一発殴らねえと気がすまねえ!」


「この恨み、晴らさでおくべきか!」


「ちょっとちょっと。二人ともストップ! ロキは今怪我してるんだから、無理させないで!」


「そうやで。怪我人に手を上げるのは関心せんわ」


「なにっ?!」


「ロキが、怪我?!」



 愕然。その言葉が似合う驚きっぷりである。


 引きずっているホーンディアを持ち上げ、ロキは頷いた。



「これを素手で殴ったからな。その気になれば、刃物を素手で粉砕するくらいいけると思っていたんだが」


「いや、無理だろ」


「馬鹿じゃねえの?」


「それに関しては同感やわ」


「ちょっと頭が悪いとは思ってたけど、ここまでとは思ってなかったよ」


「酷い言い草だな」



 とはいえ、少し自覚が出てきたロキであった。



「それなら復讐は次の機会に取っておいてやる!」


「命拾いしたな!」


「そうしてあげて」


「ロキ君、またどんな無茶するかわからんからね」



 美少女二人の説得もあり、少年二人はロキたちを見送った。



「はぁ。別に相手をしてやっても良かったんだがな」


「こら。怪我人が見栄を張らないの」


「安静にしとき」


「わかったわかった」



〜約一時間後・冒険者ギルド〜



 両手に花、それから死体を携えて、ロキたちは冒険者ギルドへ戻ってきた。


 夕暮れ時ということもあって、同じ建物内の酒場は盛り上がっている。



「揃いました。お願いします」


「では、手早く鑑定を済ませるので、順番に獲物を持ってきてくださーい」



 買い取り受付の女性が声をかけた。


 育成教室のほとんどは、キャンプ道具と共に森林地帯で残っている。売却に訪れた生徒は、ごく少数だった。


 すぐにロキ班の順番は回ってくる。



「あら。三人でこれだけ狩ったの? 凄いじゃない。素質があるわね。買い取り価格は、金群一つってところかしら」


「そんなに?」


「ええ。何せ死体の状態が良いもの。一滴も血を流していない個体が半分もいるでしょう。そこがポイントね。毒でも打ち込んだのかしら?」


「そこは秘密技術だ。教えてやれない」


「それもそうね。不躾なことを聞いたわ。はい、金群一つ」


「ありがとうございます」



 付き添いの女史から「まあロキだものね」という視線を頂きつつ、ほくほく顔で寮舎へ戻るのであった。

お読みいただきありがとうございます。

アドバイスなどいただけると幸いです。

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