屋上で
暗い部屋に無機質な目覚ましの機械音が響く。
それをいつも通り叩きつけるようにして止め、いつも通り起き上がり布団から出て顔を洗う。いつも通り服に着替え、いつも通り部屋を見わたす。
机、椅子にベッド。引き出しの付いた棚と本棚に使った形跡がほとんどないキッチン。住み始めてから殆ど何も変わらないほぼ何もないと言っていい部屋。
そしていつも通り何もない部屋を掃除し、椅子に座り日記を付ける。いつも通り戸締まり出来ている事を確認すると棚の引き出しを開け【遺言書】を置く。
家でのいつも通りを終えるといつも通りの時間に家を出る。
家を出るといつも通りの道を歩く。真っ暗で街灯すらない道を歩き、いつも通りだなぁ、なんて思いながら歩く。
いつも通り真っ暗な道を歩いて目的の建物に入る。
「今日は死ねるかな。」
いつも通りの言葉を呟き、ちょっとだけ希望を持って誰もいない屋上に向かって階段を上る。上り切り屋上に出ていつも通り飛び降りる。
そう、いつも通りのはずだった。
屋上の扉を開き前を見ると、いつも俺がいるはずの場所に知らない奴が立っていた。
「は...。」
その少女は此方に気付いたのか振り返った。
月明かりに照らされるその姿は何処か寂しげで儚くて。
すぐにでも消えてしまうのではないかと思わせる程、綺麗だ。
形の良い唇が開いた。
「私、死にたいんです。」
綺麗な鈴を転がしたような声が響いた。
いつも通り。
そう思っていた日々が、今日が
名前も知らない
初対面の奴に真顔で死にたいと言うフェンスの向こう側の少女によって
一瞬にして崩れた。




