第40話 チート加速
俺は職業の書物を誰にどう使うかを悩んでいた。
普通に考えれば、俺が全て使って職業を取得し、まだ使った事はないが【技能付与】でナナとあんずに技能を与えて強化する。それが妥当だろう。
しかしこの世界、HPや腕力等の数値は職業のレベルアップにより変化・上昇する。つまりナナとあんずを純粋に強化するには職業に就かせないといけないのだ。技能だけでは基本的な強化にはならない。
俺の固有技能は確かに自分も強くなれると思うが、奴隷の強化に長けているようだ。
異世界物ラノベでよくあるパターンに主人公が最強で奴隷やヒロインからちやほやされるハーレム状態ってのがあるけど、俺の場合はハーレムにはなるかもしれないが奴隷に守られながら美味しいとこだけ貰って成り上がっていく、そんな感じになるんじゃないか?
いかん、なんか話が脱線してきた。
問題の職業の書物へ思考を戻す。
その時、俺の頭の中に1つの考えが閃いた。それは職業取得条件についてだ。
この世界に来てからいくつか職業を取得したが、それは何か条件を満たしたからだと考えている。この世界の人達と俺や勇者大吾のような異世界人では取得条件が同じか分からないが、条件を満たせば職業を取得するという事は同じだろう。
例えば魔法使いの取得条件は何だろう?と考えてみる。ナナは魔法が特別珍しいわけではない、魔法職でなくても魔法技能を持つ人もいると言っていた。
それにより俺が導き出した答えは、「魔法を使う=魔法使いになれる」という事ではないだろうか。魔法攻撃を受けるっていう条件も考えとして浮かんだが、それでは誰でも魔法使いになれてしまうのでないだろうか考え、ないと判断した。
魔法を使うという条件を満たす為に考えた案は2つだ。
1つ目はナナかあんずに魔法の巻物を使わせて魔法使いを取得させる。
2つ目は俺が書物で魔法使いになる。そして魔法技能を【技能付与】でコピーしてナナかあんずに与える。その魔法技能で魔法を使い、魔法使いを取得する。
成功するのかまったく分からないが、どちらも使い捨てのアイテムだ。
もったいない気もするがとりあえず試してみよう。
「ナナ、あんず、今から試したい事があるから協力してくれ。」
「何をですか?」
「あらっ亮助様、ようやくHなお願いですか?」
「違うよ!!!」
まったく、ナナはいつもいきなり突拍子もない事を言い出す。性格を除けば完璧だと思うんだけどなぁ。
美人でナイスバディな彼女に迫られたらそこら辺にいる男は大体落ちるだろう。
結婚という枷がはずされた俺はこの先耐えられるのだろうか?
ナナとあんずどちらで試そうか考えたが、あんずだと子供を使って実験してると変な罪悪感にかられて心が痛むのでナナを選んだ。
まずは巻物を試すことにした。
流石に馬車の中で魔法を使うと大変な事になりそうなので外で使う事にする。
「ナナに試すから外に移動するぞ。あんずは待っててくれ。」
「分かりました。」
「野外プレイですか!?初めての経験・・・」
「だから違うってば!!!」
しっかりと否定ながら2人で外に出てウィリアム達や御者に見られない位置まで移動した。
人目につかなそうな所に着くと俺は鞄から巻物を取り出して、どれを使うか考え始めた。
どれを使っても危なそうだ。色々悩んだ結果、ウォーターカッターの巻物を選んだ。理由はファイアボールやパラライズサンダーとは違い、火事になる危険はなさそうだからだ。
「ナナ、これを使ってみてくれ。」
「いいんですか?」
「大丈夫だ、実験だから。」
ナナは不思議そうにしながらも巻物を広げて呪文を唱えた。
「ウォーターカッター!」
巻物が淡く光ったような気がした。
するとナナの目の前の何もない所から水でできた刃が現れ、ヒュンッと高速でまっすぐ飛んで行き、少し離れた所にあった木をスパッと真っ二つに切り裂いて倒れた。それと同時に巻物が消えていった。
「すごいな、これが魔法なのか。」
「これで良かったですか?」
「ああ。」
俺はナナのステータスを覘いたが、残念ながら変化はなかった。
変化がなかった事は残念だが、魔法を見れたのはすごい感動だった。元の世界でも本物がいたかどうか分からないが魔法使いという概念はあるし、ゲームやアニメ等にもよく出てくる。実際に魔法を使えたらこんな感じなんだろうなぁって思ってた通りの事が目の前で起こったのだ。気のせいだろうか?何だか少しずつこの世界の魅力に取り込まれていく自分がいるような気がする。
感動の覚めぬまま次の書物を試す。
俺は魔法使いの書を開いた。
読めばいいのか?と思ったら書いてある文字はサッパリ読めなかった。すると書物が淡く光り出し、書いてある内容が頭の中にスーッと入ってくる・・・様な気がした。それと共に書物がゆっくり透明になっていき、消えた。
使い捨てのアイテムは消えるのか?でもポーションは使うと瓶が残る。使い捨てのアイテムの中でも更に分類が違うのだろうか?不思議だ。
チロリ~ン♪
○下級職業【魔法使い】を取得しました。
【魔法使いLv.1】
【職業技能】
中級技能【攻撃魔法】下級攻撃魔法を使う事が出来る。職業レベルによって使用できる魔法が増える。
【使用可能魔法】
フレイム 消費MP1 火を出す
ウォーター 消費MP1 水を出す
ファイアボール 消費MP3 火の玉を飛ばす
ウォーターカッター 消費MP3 水の刃を飛ばす
【パーティー効果】なし
【パラメータ恩恵】魔力+3 知力+3
【パラメータ成長】LvUP毎にHP+1 MP+5 魔力+1 知力+1
俺はステータスを開いて魔法使いをサブ職業に設定した。
そして【技能付与】を発動させて【攻撃魔法】をナナに付与する。
付与した【攻撃魔法】は赤字に変わっていた。1種類に付き1度までだから表示が変わったようだ。
「ナナ、今【攻撃魔法】を君に与えたから確認してくれ。」
ナナは自分のステータスを見て嬉しそうに言った。
「亮助様の技能は本当に素晴らしいですね。まさか私が魔法の技能を習得するなんて思ってもみなかったです。」
「とりあえず、、、そうだな、ウォーター使ってみてくれ。」
「はい。ウォーター!」
ナナが腕を前に伸ばして手をかざし呪文を唱えるとその先から水が発生した。
おそらくコップ1杯分程だろうか、水はそのまま落ちて地面に染みていった。入れ物を準備しとけば水を貯める事が出来るだろう。
俺はナナのステータスを見て職業を確認すると、魔法使いを取得できていた。
サブ職業に設定しておく。
するとまたあの音がなった。
チロリ~ン♪
奴隷に付与していた【攻撃魔法】は対象が同じ技能を取得したため付与はキャンセルされました。
どういう事だ?ステータスを確認すると赤字に変わっていた【攻撃魔法】が元に戻っていた。
この事態は俺の想定外だった。技能を付与した対象が同じ技能を取得すると、付与がキャンセルされる。という事は、今回の事で言えば俺の奴隷は全員魔法使いになれるって事になる。
俺は驚き興奮しながら魔法使いになった事実をナナに伝える。
「ナナは今魔法使いになったから。」
「えっ!?どういう事ですか?」
「だから魔法使いの職に就いたんだよ。」
ナナは自分のステータスを確認するとプルプル震えていた。
「まさか私が魔法使いになるなんて・・・」
そりゃそうだよな。この世界では複数の職に就くのも珍しいのに、近接戦闘タイプだったナナが魔法使いになって魔法も使えるんだから。
主人公がチートってのはよくあるパターンだが、仲間の奴隷までチートってのは流石にビックリだ。
「ナナ、もう1つ試すから。」
「あっ、はい。」
ナナはこの状況に驚いたままだが俺はもう1つ、僧侶の書を使った。
チロリ~ン♪
○下級職業【僧侶】を取得しました。
【僧侶Lv.1】
【職業技能】
中級技能【補助魔法】下級補助魔法を使う事が出来る。職業レベルによって使用できる魔法が増える。
【使用可能魔法】
ヒール 消費MP3 対象のHPを回復する
アンチポイズン 消費MP5 毒を癒す
ライト 消費MP1 一定時間周りを明るくする
ガード 消費MP5 一定時間対象の耐久を上げる
【パーティー効果】なし
【パラメータ恩恵】魔力+3 知力+3
【パラメータ成長】LvUP毎にHP+1 MP+5 魔力+1 知力+1
僧侶が使えるのは回復魔法ではなく補助魔法という括りのようだ。
先程と同じ様に俺はステータスを開いて僧侶をサブ職業に設定する。
そして【技能付与】を発動させて【補助魔法】をナナに付与する。
「ナナ、今度は【補助魔法】を君に与えたから確認して使ってくれ。そうだな、ヒールを使え。」
「分かりました。」
ナナが自分にヒールを唱えると少し緑色に光った。HPは減っていなかったので何も起こらなかった。ステータスを確認すると僧侶を取得していたので、サブ職業に設定しておいた。
すると先ほどと同じ様に、
チロリ~ン♪
奴隷に付与していた【補助魔法】は対象が同じ技能を取得したため付与はキャンセルされました。
また付与した技能の表示が赤字から元に戻った。
「ナナは今僧侶にもなったから。」
「えっ!?またですか?」
「そう、魔法使いの次は僧侶を取得したんだよ。」
ナナは驚きに驚きを重ね、プルプル震えすぎて腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。
俺はナナの体を抱き寄せ、肩を貸して馬車に戻った。
その後、あんずを連れ出してナナと同じように魔法使いと僧侶を取得させた。
腕力の上昇もさせたかったので、戦士の書もあんずに使わせる事にした。
「すごい!すごいよ!!亮助様!」
あんずはナナと違い興奮してぴょんぴょん跳ねて喜んでいた。
単純だが子供らしくて可愛い。その揺れているたわわな胸を除いて・・・
こうして俺達のチート具合は一気に加速したのだった。




