第27話 説教
就寝する事にしたはずだった俺は正座させられていた。
何故こうなったのか?振り返ってみる。
「さて、俺が先に火の番をするから2人は先に寝てくれ。」
「亮助様、その前に大事なお話があります。」
「何?」
「とりあえず正座して下さい。」
「えっ?」
「正座!!」
「はいっ!」
「お母さん、どうしたの一体?」
「あんずは黙ってなさい!」
「亮助様、どうして私が怒っているか分かりますか?」
「分かりません。」
「本当はすぐにでも話をしたいと思ってましたが、状況が状況だったので落ち着いた今話す事にしたんです。サイクロプスから攻撃を受けてあんずが気を失ってる時、亮助様は私の前に立ちあんずを連れて逃げろと仰いました。その事で怒ってるんです!」
「でもあれは助けなきゃと思って。」
「あんな事は二度としないで下さい。私は奴隷になりました。亮助様の為なら喜んで死ねます。私のせいで亮助様が死んだら、私は死んでも死にきれません。」
「でも大切な仲間だし・・・」
「二度としないで下さい!!!!!」
「はい!分かりました!」
という訳で現在に至るわけだが、ナナの怒り方が半端ない。
いつの間にか話にのまれてあんずも正座している。
奴隷と言ってる割に主人に正座させるとかどうなの?とか突っ込もうとしたが怖いのでやめておいた。とにかく精一杯謝ってナナをなだめた。元の世界でそうだったが俺は亭主関白ではなかった。尻に敷かれたくもないが、女性に強い態度で向かってくのも無理だ。
あんずはまだ少しビビっていたが、ナナは落ち着きを取り戻してきた。すると見る見る顔が青くなり自分がした事の重大さに気付いたみたいだ。
「申し訳ありません、つい頭に血が上ってしまって奴隷という立場を忘れあんな事を!」
「いいんだ、ナナは俺の事を思って怒ったんだろ?大丈夫だよ。」
「優しいですね、亮助様。」
後であんずに聞いた話だがナナは昔から感情に任せて行動する節があるようだ。特に好意を寄せている相手には激しいらしい。
お父さんが苦労していたと言っていた。もっと早くその事を教えて欲しかった。
ナナをアポ村で助け、奴隷にして連れてきたのは間違いだったか?と一瞬考えてしまった。これから先注意しなければ、と本気で考えた。
寝る雰囲気ではなくなってしまったので少し話をする事にした。
「実は勇者大吾に元の世界へ戻り方を聞いたんだけど・・・」
「分かったのですか?」
「いや、方法はないと言われた。」
「そうですか。」
なんかナナが若干嬉しそうだ。
「ああもハッキリないと言われたらショックだよ。」
「どうするんですか?」
「とりあえず帰る方法は探すけど、予定通り迷宮都市へ行ってレベル上げ、それと収入を確保して生活基盤を作るのが目標かな。」
またいつ強いモンスターに遭遇するか分からない。その為にはもっとレベルを上げないといけない。それに加えて安定した収入が必要だ。今はまだお金に余裕があるが、いつ底をつくか分からない。
「ある程度強くなれば迷宮でも十分に稼ぐ事が出来るようになります。お金を貯めて家を購入して拠点にするのもいいかもしれませんね。」
「それもそうだな。」
何か迷宮都市に永住みたいな流れになってないか?
いつの間にかあんずが眠そうにしているので俺が火の番で2人は寝させるようにした。
数時間後、あんずが装備を着け直してテントから出てきた。
「亮助様、交代です。」
「分かった、何かあったらすぐ呼ぶんだぞ。」
そう言って俺は装備を外してテントに入り、ナナの隣に寝た。
数分後、お腹のあたりが苦しい。あれ?前にもこんな事があったぞ。目を凝らすと服を脱いだナナがお腹の上に跨がっていた。
「ナナ、何してるの?」
「夜伽です。先程は申し訳ありませんでした。どうぞ私を好きにして下さい。」
あれだけナナに注意しなきゃと思ったばかりなのに。
「いやいや、俺には妻がいるからダメっ言ったじゃないか。」
「もう元の世界には戻れないのですよ?奥さんの事はもういいんじゃないですか?」
「勇者にはそう言われたけどまだ決まった訳じゃないだろ?」
「私は亮助様と楽しみたいのです。」
ポロッと、本音が出たようだ。こんな状況になるのに不自然さを感じなかった。あんずも共犯だろうか?前に何で私じゃないんですか?って怒った事があったし。
「もしかしてあんずも共犯か?」
「共犯だなんて悪い言い方よしてください。村を出発する前の日に娘と話し合って色々決めたんです。」
「色々って?」
「秘密です。」
あんずも共犯でした。
「ダメだ!とにかくダメだ!!」
俺はナナを強引に退かして服を着るように命じた。渋々だったが命令を聞いてくれた。
危なかった、本当に危なかった。俺も男だ、いつまで我慢できるか分からない。勇者大吾の言う通り元の世界に戻れないならもう楽しむ事を考えた方がいいのだろうか?
いや、まだ可能性があるかもしれない。俺は考えを踏み留まって心の中で妻に謝って謝って謝りまくっていた。
何度か交代しながら火の番をしてようやく朝になった。




