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2-3 リリナの決意

~東の塔の番人・グァムの支配地 〈クルダブラ〉~


 ファンヴュリ村を出てから1時間が経ったくらいだろうか。辺りの景色は木々が茂っていた豊かな自然から、木も草も生えていない寂れたものへと変わっており、魔人の支配地である〈クルダブラ〉に入ったのだと予想できた。

「それにしても、こんなにファンヴュリ村から近いだなんて」

 これじゃあそう遠くない未来、あの村がグァムの被害を受けてしまうかもしれない。そう考えると、平和そうに見えたあの村は全く『平和』なんかじゃなかったということが分かり、余計に価値観の違いを痛感させられる。

 と同時に、一刻も早く魔族を倒して俺が思うような『平和』な世界にしなくてはという気持ちになる。

「そうすれば少しでも……」

 あのリリナという優しい子のように、辛い思いをする人がいなくなるかもしれない。

 あの王様のことだ。ここ以外の他の3箇所の支配地へも“調査隊”を派遣している可能性はある。そしてきっと、そこでもあの村のような目にあっている場所があると思う。

 俺には、そういう場所にいる人たちを元気づけることすら出来ない。だからこそ、俺に出来るのはそういう目に合う人が増える前にその原因を消すこと――つまりは魔族を倒して王様の“調査隊”のような連中が暴れる機会を作らないようにすることくらいだ。

「まだお昼前か」

 空を見上げる。太陽が真上に来るにはまだまだ時間がかかりそうで、どのくらい距離があるかはわからないけど日が沈む前には東の番人のもとにはたどり着けるだろうと予想する。

 ただ、魔人との戦闘にどのくらい時間がかかるのかは不明なので、どこかで一度野宿することになるかも知れない。なんとなくだけど、夜は魔人が強くなってそうなイメージがあるため夜に戦闘はしたくないのだ。

「――っと」

 考え事をしながら歩いていたせいか、クルダブラに入ってから凸凹(でこぼこ)していた地面に躓いてよろける。

「……セーフ」

 なんとか踏みとどまり、転ばずに済んだ。キボウノ丘で転んだせいで罪人になってから、絶対転ばないようにと意識してたおかげかな。

 まあそれに――


「きゃっ」

 可愛らしい声とともに後ろの方でドサリと人が転んだような音が聞こえる。


 ――『勇者』が人前で転ぶだなんて無様な姿は見せられないからな。

「いたた……」

「ったく、しょうがないな」

 俺は振り向くと、尻餅をついている空色の髪の少女に近づき

「大丈夫か、リリナ」

 そう言って手を差し伸べた。

「はい、大丈夫です、勇者様。……あ」

「そうか。とりあえず怪我とか――」

「あ、ああ、あああああっ!」

「な、なんだ、どうしたんだ急に大声だして」

「あ、ごめんなさい――じゃなくて、あの、えっと、これは、違うんです!」

 リリナが両手をバタバタさせる。前にテレビでアイドルが同じような動きをしていた時はとてもわざとらしく見てるとイライラしてきたが……なんだこれ、すげー可愛いぞ。美少女だからなのか、いかにも素っぽい感じだからなのか。どちらにせよ可愛すぎてやばい。何がやばいのかはわからないけど、とにかくやばい。やばすぎてやばい。

「違うって、何が違うんだ」

「えと、その、別に私は勇者様の後をつけていたわけではなくて――いえ、つけていたんですけど、それは違いまして……」

 自分でも説明しているうちに混乱してきたのか、リリナが「あうあうあう……」と鳴き始めた。

 尻餅をついた状態で手をバタバタ+あうあうという鳴き声のコンビネーションは正直ずっと見ていたいほどやばかった。が、しかし。俺の中に残っていた僅かばかりの良心が痛み始めたので、ここいらでリリナに助け舟を出す。

「とりあえず落ち着けリリナ。深呼吸だ」

「あう……?」

「はい、吸ってー」

「(すぅー)」

「吐いてー」

「(はぁー)」

「落ち着いたか?」

「……はい。すみませんでした勇者様」

「いや、気にすることはない」

 いいものを見させてもらったし。

「ほら、掴まって」

「あ、お手を煩わせてしまい申し訳ありません」

 先程と同じように手を差し伸べる。今度はちゃんと掴まってくれたので、そのまま引っ張り立たせる。

「気にするな。それで、何が違うのか――はなんとなくわかったが」

「わかったんですか!?」

「まあな。リリナが理由もなく後をつけていたわけじゃないってことだろ?」

「す、すごいです! 流石です勇者様!」

 後を付けるのには理由がある、というのは「あたりまえ」レベルで誰もが分かることだとは思うんだが……まあいちいち突っ込んでいたらいつまでたっても先に進まないしスルーしておくか。

「それで、なんで俺のあとなんかつけて――いや、ついてきたんだ?」

 俺がこれからグァムのもとへ向かうってのはリリナもわかっているはずだ。

「それは……」

「?」

 リリナは腰につけていたウエストポーチのようなところから何かを取り出す

「これを、お返ししなくてはと思いまして」

「赤い本……」

「昨日、勇者様から貸していただいたものです」

「ああ、そういえば」

 すっかり忘れていたが、俺は王様からもらったこの本を、この魔法使いの素質を持ったこの子に渡していたんだ。

「俺としてはそれ、あげたつもりだったんだけどな」

 俺が持っていても使えないし。

「いえ、こんな国宝を頂くことなんて出来ません!」

 驚きの新事実。あの王様が俺に国宝を渡していた!

 にわかには信じられないが……確かに、この世界のあらゆる魔法が記された書物《魔法書》。国宝であったとしてもおかしくはない代物だ。

「そうか、そういうことならこの本は返してもらっておく」

「はい」

「それにしても、わざわざこれを返すためだけにここまでついてきたのか? ここはもうクルダブラ、グァムの支配地なんだぞ」

「いえ、厳密に言えばここはまだクルダブラではありませんが……」

「え、マジで?」

「はい」

 どうやら既にクルダブラに入ったと思っていたのは勘違いだったようだ。つーかこんなにあたりがそれっぽい景色なのにまだなのかよ。

「いや、それでもここが危ない場所には変わりないだろう?」

「そうですね。ここは村長から危ないから近づくなと言いつけられている場所になっています」

「だろ? そんな危ない場所に一人で来るなんて……もし何かあったらどうするつもりだったんだ」

「ご、ごめんなさい勇者様!」

 リリナが頭を深く下げて謝ってくる。その姿は朝食の時にも見たもので――そのあとの出来事を思い出し、またモヤモヤとした気持ちになり

「とにかく、危ないから村に戻るんだ。ここまでの道のりでモンスターの気配は感じなかったし、この辺りに詳しいリリナなら一人でも戻れるだろ」

 つい素っ気ない態度でそんなことを言ってしまう。

 いつもの俺だったら、村までついて行ってあげるくらいのことはしたはずなのに……心底自分が嫌になる。

「…………」

「ん? どうしたリリナ。急に黙って」

 俺がそんなことを考えている間に何かあったのか、リリナの様子がおかしい気がする。

 いつもならどんな時でも『勇者』である俺の言葉には何かしら反応したというのに。今はうんともすんとも言わない。

「もしかして、一人で戻るのが怖いのか?」

「…………」

「そうなら、まあリリナは本を返しに来てくれたんだし、そう手間でもないから俺もついて行ってやるが」

「…………」

 反応はない。

「……あの、何か言ってくれないか?」

「…………」

 やっぱり反応はない。

 ああ、もう! いきなりどうしてしまったんだよ、リリナは。

 ……もしかして、俺が急に素っ気ない態度で戻れなんて言ったからショックを受けたのか? あの村でリリナと最後に会話したとき、この子は俺が本当は優しい人だと言っていた。それだというのに俺がこんな態度で接したから。

「あー、その、なんだ。リリナよ」

「…………」

「なんか俺、ちょっとどうにかしてたみたいで」

 なんで言い訳をしているんだ、俺は。

「悪かったな」

「……なんで」

 反応あり。

「ん?」

「なんで、勇者様が謝っているのですか」

「いや、急にリリナが黙ったから……俺の態度が悪かったかなって」

「そんなことありません! いえ、そもそも勇者様はなにも謝ることなんてされていません」

「だったら、なんで急に黙るんだよ。……もしかして、体調が悪いのか?」

 そうだ、その可能性があったじゃないか。俺も、俺の友達や家族ももう長いこと体調不良とは縁がなかったからすっかり忘れていたが、体調不良の時は声を出すのも辛い時がある。

 そうか、体調が悪かったのか。そう納得しかけていたが――

「大丈夫です。むしろとても元気なくらいです」

 ――どうやら違うようだった。

「それに私は村でみなさんの怪我や病気を治すのが仕事です。そんな私が体調を崩してしまってはいけないので、体調管理は完璧です」

「そ、そうか。……ならどうして急に黙ったりなんか」

「それは……」

 リリナは目を閉じ、数秒後、再び目を開けた。

 その表情はとても凛々しく、何かを決意したように見え

「勇者様、お願いがあります」

「……なんだ」

 俺は真面目に答える。

「私、勇者様が家から出て言ったあと、ずっと考えていたんです」

「…………」

「勇者様は私のことを許して――いえ、最初から責めていませんでした。けれど、私はずっと自分のことを責めていました」

「…………」

「だから、私、どうしても罪滅ぼしがしたいんです」

「……なにが、したいんだ」

「足手纏いになって、迷惑になることは重々承知です。それでも――」

 なんとなく、このあとリリナが言うであろうセリフが予想できた。

「それでも、私を魔人討伐に連れて行ってください!」

 彼女は深々と頭を下げる。その姿は真剣そのもの。俺もきちんと考え、答えないといけない。

「あの王様は、魔人討伐だけは本気でやろうとしていた。でも、この世界での最強部隊を持ってしても魔人を倒すどころか近づくことすらできなかった」

「…………」

「俺がこれから行くところは、そういうところだ。俺も実際に戦ってみるまでは相手の実力を測ることはできないが、きっと君が危険な状態になっても助けることができないくらい切羽詰まった戦いになるだろう」

「…………」

「それでも、リリナ。君は魔人討伐についてくるのか?」

「……それでも、私はついていきたいです。我儘なのは分かっています。迷惑をかけてしまうのも分かっています。それでも、私は行きたいんです!」

「…………」

「いざとなったら私を見捨ててもらっても構いません。むしろ、勇者様の盾にでもなります。だから――」

「ダメだ」

「――えっ。そ、そんな……お願いします、勇者様!」

「ダメなものはダメだ。そんな、自分の命を軽く見ているような奴を連れて行くわけには行かない」

「私は……自分の命を、軽くなんて……」

「いや見てる」

「っ!」

「……俺はこれ以上犠牲者が増えないために魔族を倒しに行くんだ。それなのに、その道中で、俺がそばにいながら犠牲者を出してしまうだなんてそんなこと、許せるわけがないだろう」

「……それじゃあ、私はどうすれば」

「『今すぐ村に戻れ』……と言いたいところだけど、リリナの覚悟が本物だというのは伝わってきた。俺としても、その覚悟は無駄にしたくはない」

「勇者様……」

「だから、俺は君が魔人討伐に同行することを許可しようと思う」

「!」

「ただし、条件付きだ。その条件を守れるならついてきてもいい――が、守れないというのならダメだ」

「守ります! どんな条件だって絶対に守ってみせます! だから、私も連れて行ってください!」

「……いいだろう」

 ニヤリ、と心の中でほくそ笑む。

 おっと、勘違いしないで欲しいが、別にいやらしいことは考えていない。断じて、本当に。

「それじゃあ、条件を言おうか。……もう守るって言ったんだから、聞いたあとで文句言うなよ?」

「言いません」

「ならいい。で、その条件だが――」


「自分一番。仲間――『勇者』の俺を犠牲にしてでも生き残ること」


「――だ!」

 どやぁ、と効果音がついていそうな感じで言う俺。

「そ、そんな、勇者様を犠牲にしてまでだなんて」

「おっと、文句は言わないって」

「そうですが……」

 これぞ、この自分の命を二の次にするリリナに対して俺が考えに考えた(3秒くらい)条件。『勇者』様からの命に代えても守らなくてはいけない絶対厳守の条件だ。

「リリナは罪滅ぼしがしたいから魔人討伐について行きたいって言ったんだよな? 我儘で、迷惑だと知りながら、それでも」

「……はい」

「さあ、どうする? リリナの覚悟は本物だと思うけど――この条件で、ついてくるか?」

 1秒、2秒、3秒。間が空き

「……分かりました。勇者様、私を魔人討伐に連れて行ってください!」

 決意のこもった表情でリリナが言い放つ。

「じゃ、仲間もできたことだし、さっさと魔人グァムのところへ向かうとしますか」

 俺は再び心の中でニヤリとほくそ笑んだ。



 異世界に来て2日目。

 こうして、俺には一時的に村娘リリナが仲間に加わり、勇者パーティーが誕生した。

今更だけど、サブタイと内容はそこまで関係してない


どもども木葉っす!

プロットでは2-1あたりで既にリリナが仲間になってるんすけど、なんでこんなに時間がかかったんすかね

それに、いろいろと設定を加えていってるせいで最新話を書くのにいつも投稿済みの話を一通り確認しなきゃならないっす。面倒くさいっす

でも、少しずつでも話が進んできているのを実感できるので、そこは楽しいっす!

まあ本当に少しずつで、次回なんて進むどころか丸々回想予定なんすけどね

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