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2-2 優しさという名の勇気

異世界生活 2日目 朝 ~ファンヴュリ村・リリナの家~


「ふふっ、勇者様。たくさん食べてください。おかわりもたくさんありますからね」

「ど、どうも」

 リリナの母であるルルカさんの案内で席に着く。

 食卓に並べられているのは日本でも見たことのあるようなものから、初めて見るものまで多種多様な料理の数々。それら全ては見た目もさる事ながら匂いもとても素晴らしく良いもので、この部屋に入り料理を目にした瞬間から俺のお腹は早く食べさせろと言わんばかりに鳴りっぱなしだった。

「いただきます」

 まずは目の前にあった唐揚げのようなものを一口。

「(もぐもぐ)」

 鶏肉のような食感に、経験したことのない味。しかし、肉汁が溢れてきてとても濃厚で、それでいて全く胃がもたれる気がしなく、いくらでもいけそうで――めっちゃうまい。

 俺は様々なスーパーやコンビニの唐揚げを食べてきたが、これはレベルが違う。流石異世界、俺を驚かせてくれるぜ! ……しかしなんの肉なんだろうか、これ。

 まあ深く考えても答えは出なそうなので、次の……そうだな、このサラダのようなものでも戴くとしよう。

「(もぐもぐ)」

 葉っぱぽいのはレタスだろうか、とてもシャキシャキしている。赤いのは……トマト? にしてはとても甘く、まるで果物を食べているようだ。まあ普段からそこまでサラダを食べないから、比べることはできないけれど、サラダってきっとこんなものだろう。

 そう思い、次の料理に移ろうとしたところで、向かい側に座って食事をしていたリリナの姿が目に入る。リリナも俺と同じようにサラダを食べていたが、俺のとは違い何か――ドレッシングのようなもの――がかかっていた。

 そういえばサラダって普通ドレッシングとかをかけて食べるものだっけ。そんなことを考えながら美味しそうにサラダを頬張っているリリナを見ていたら、目があった。

「(もぐもぐ……ごくん)あの、勇者様、私の顔になにか付いているでしょうか? そう見られていると食べづらいといいますか、恥ずかしいといいますか……」

「ああ、悪い。あまりにもリリナが美味しそうに食べていたからさ。……そんなにうまいか?」

「はいとても美味しいです! ……あ、もしかして勇者様のお口に合いませんでしたか!?」

「そうなんですか勇者様! でしたら今すぐ作り直し――」

「いえ、大丈夫! とてもうまいぞ!」

「そうですか……ほっ」

 リリナはホッとした様子で胸を撫で下ろし、ルルカさんはやたらとニコニコしていた。

 今のは完全に俺の言い方が悪かったな。そう反省し、今度はきちんとリリナに聞いてみた。

「そうじゃなくてさ、リリナは毎日ルルカさんの料理を食べているんだろ? なのにそんなにうまそうに頬張って食べてるのはなんでなのかと思ってさ」

「そんなの、美味しいからに決まっているじゃないですか!」

「うおっ」

 ダンッ、とリリナは机を叩きながら勢いよく立ち上がる。そして、拳を握り話し――語り始めた。

「いいですか、勇者様。この世界には大きく分けて二つのものしかないのです。それは『食べられるもの』と『そうではないもの』、この二つです」

「ほとんどが後者に当てはまりそうだな」

「そんなことはありません。食べようと思えば大抵のものは食べることができます」

「え」

「そして、食べられるものというのは、その全てが美味しいものであり、無限の可能性を秘めているのです」

「は、はぁ」

「しかし、とても美味しい食べられるものも、それを扱う人によってはその真の美味しさを発揮しきれない。残念なことに、この世界の人たちの殆どはその真の美味しさを発揮できない人たち。そのため、この世界の人たちは本当は美味しいものがこんなにたくさんあることを知らないのです……」

 リリナは目の前にある料理の数々に目を落とし、悲しい顔をした――のも一瞬のことで、すぐにキリッとした表情になると、再び机をドンッと叩く。

「でも! ママは違います! ママは全ての食べられるもののことを思い、真剣に向き合い、愛を持って料理し、食べられるものを『食べ物』に変えてくれるんです! その無限の可能性を引き出せるんです!」

「あらあら、リリナちゃんにそこまで褒められると、ママもちょっと恥ずかしいわ」

 頬を染めるほど熱を持って語っているリリナの言葉に、ルルカさんは別の意味で頬を染めている。

「そんなママが作る料理が、美味しくないわけ無いです! 勇者様、先ほどその唐揚げをお召し上がりになりましたよね」

「あ、ああ、食べたけど」

「どうでしたか?」

「うまかったぞ。元いた世界では食べたことのない不思議な味がしたけど、だからこそ新鮮で良かったというか……とにかくいくらでも食べられそうなほどうまかった」

「そうでしょう、そうでしょうとも。ママが作ったものですからね! ……それで、勇者様はそれがなんの唐揚げかわかりますか?」

「いや、さっぱりだ。たぶん肉だとは思うんだが」

「実はそれ『オオニクヅキ』と呼ばれるこのくらいの足がいっぱい生えた虫の肉なんです」

 リリナは手でこのくらいと大きさを作ってくれる。だいたい……30センチ前後といったところか。

 かなりでかいな。それで足がいっぱい生えている虫なんだろ。想像しただけでも気持ち悪い――ん?

「リリナ、今この唐揚げが虫の肉だとか聞こえたような気がしたんだが……」

「はい、いいました」

「~~~~!?」

 突然今食べたものを吐き出したいという衝動が湧き上がる。

「いけません勇者様! 一度食べたものを吐き出すのは、生命に対して失礼です! 流石の勇者様でもそれは許すわけにはいきません!」

「そ、それはわかっているんだが……でも虫だと思ったら……うえっぷ」

「『虫だから』という理由でそうなるのは間違っています! 勇者様がいた世界では虫を“チャクショクリョウ”というものに使っていたそうではないですか」

 リリナの言葉でハッとする。そういえば、日本でも虫――それもだいぶ姿が気持ち悪いものから作られた着色料があった。でも俺はその着色料の入った食べ物を特に気にすることなく食べている。

「それに、オオニクヅキは食べられないものではありません。畑の作物を荒らすことで有名なオオニクヅキは、確かにその見た目の気持ち悪さと肉の硬さや苦味から食用には向かないと、捕獲されたあとはそのまま殺処分にされてしまいます。しかし、豚や鶏のような家畜の肉よりも栄養が豊富であり、この村よりも貧しいような所では主な栄養源として重宝されているのです」

「へー」

「それに、ママみたいに真の美味しさを引き出せる人が料理すればその唐揚げのようにとても美味しく食べることもできるのです」

「確かに唐揚げはうまかった。……そうだな、虫だからとか、そんな理由だけで嫌悪感を抱いて悪かったな。それに、オオニクヅキとやらの肉の硬さや苦味を全く感じさせないこの料理を作ったルルカさんがいかに美味しい料理を作れるかというのもわかった」

「わかっていただけてよかったです!」

 リリナがえっへんという感じで胸を張る。

「とりあえず、リリナがうまそうに料理を食べてる理由もわかったし、そろそろ俺もそのうまい料理を食べるのを再開してもいいか?」

「もちろんです。勇者…様…あ」

 リリナの動きがぴたりと止まり、顔が真っ赤になったと思ったら、今度は真っ青に。

「あ…ああ…ああっ! す、すみません勇者様! 私、食べ物に関することになるとつい語って……いえ、それよりも、勇者様に生意気なことを言った上にお食事の邪魔をして申し訳ありませんでした!」

 リリナは机にぶつからない程度に後ろに下がると、深々と頭を下げてきた。

 正直、俺はまったく気にしていなかった。『勇者』とは言っても、俺も昨日剣を抜くまではこの子と同じ――いや、罪人扱いされていたそれよりも立場がしたの人間だったのだ。『勇者』になって偉くなったからといって王様のような人になったわけじゃない。

 それに、謝るのはむしろ俺のほうだ。意図的ではなかったにしろ食事にケチをつけたようになってしまったし、吐こうともしてしまった。――けれど、ここで俺が頭を下げてしまえばこの子はもっと謝ってきそうだし……だからといってこの子に頭を下げさせたまま食事を続けるわけにも行かない。

「気にしなくていいから頭を上げてくれ」

「しかし、私がしたことはそう簡単に許されることではありません!」

 一体誰が許さないのか。王様か? 確かにあの王様ならこんなことした相手は死刑にするだろう。だがここに王様はいない。ここにいるのは俺とリリナとルルカさんの3人。リリナ本人以外は許してくれる――というかそもそも責めてすらいない。

 が、本人がこうである以上無罪放免で納得してくれるとは思わない。リリナは真面目で、優しい子なのだ。昨日出会ったばかりの俺ですらわかるくらい――。

「わかった。なら『勇者』の名においてリリナに罰を与える」

「! なんなりとお申し付けください」

「では……リリナよ。君は持てる知識の全てを使い、俺がこの食事を美味しく完食できるようにしてくれ」

「はい! ……はい?」

「なんだ、聞こえなかったのか? 俺は異世界人だからこの世界の料理の美味しい食べ方がわからないと言っているんだ。リリナは食べ物に対して多くの知識と愛を持っていそうだからな、それを使って是非俺に本当に美味しい料理を食べさせてくれ」

「そ、そんなことでいいのですか……?」

「そんなことって、食べることは三大欲求の一つで避けられないことなんだぞ。それを満足にこなさせることはかなり難しいことだ。……なんだ、あまりに難しすぎてできないというのか?」

「い、いえ! 出来ます!」

「だったら、早く席に戻って。そして俺に実演付きで教えてくれ」

「勇者様……」

 リリナがこちらをうるんだ瞳で見つめてくる。空色の瞳が潤んでいると、まるで澄んだ海を見ているようで、とても綺麗だ。

 ……なんて言って、少し恥ずかしい気持ちを紛らわす。ちょっとわざとらしい演技をしてみたものの、想像以上に――もう二度としたくはないな。

「ありがとうございます……」

「なんでお礼を言うんだ? きつい罰を与えたのに」

「それは……いえ、なんでもありません」

「そうか」

「それでは失礼して……ごほん。勇者様にはこれからママが作ってくれた美味しい料理の数々、それをさらに美味しく食べる方法をお伝え致します」

「頼んだ」

 こうしてリリナレクチャーのもと、美味しい料理をさらにうまくする食べ方を学びながら食べ進めていき



「ごちそうさまでした」

「お粗末さまでした、勇者様」

 食卓にこれでもかというくらい並べられていた多種多様な料理の数々は、綺麗さっぱりなくなっていた。……7割くらいはリリナが食べたのだが。

「どうでしたでしょうか、勇者様」

「ああ、とてもうまかった」

「その……私は美味しい食べ方をきちんと伝えられていたでしょうか」

「バッチリだ。リリナのおかげで更に美味しくなったよ」

「本当ですか!」

「ああ」

 本当に、うまかった。確かにルルカさんの料理の腕はすごく、どれもが元々うまかったのだが、リリナの言った通りの食べ方で食べると更に美味しさが増した。特に、ルルカさんの料理の中では普通だなと思っていたサラダも、リリナの他の料理と組み合わせて食べるという食べ方でいま食べた料理の中でもかなり上位に食い込むほどうまいと感じるようになった。

 普段そこまで大食いでもない俺が、あの量の3割でも食べたというのが信じられない。それくらいルルカさん、そしてリリナの食べ物に対する思いが作り出した料理が美味しかったということだ。

「よかった……」

「いやぁ、うちの娘も結構食べるほうだけど、勇者様も中々の食べっぷりで」

「ルルカさんの料理がうまかったから、普段ならこんなに食べれません」

「勇者様にそう言ってもらえると、作ったかいがあったってものだよ」

 安堵しているリリナの隣で笑いながらそんなことをいうルルカさん。

 ルルカさんもリリナと同じように空色の瞳と髪を持つなかなか綺麗な人で――そんな二人に囲まれて朝食をとっていたんだと考えると、やはり高校2年の思春期男子としてはなんだかドキドキしてきた。

 しかし俺は常に完璧で冷静と評判の男。なんとしてもこのドキドキは表に出ないうちに収めなければ。

 と、そんな地味な葛藤を心の中で繰り広げていたら、いつの間にかリリナがすぐ隣にまで来ていて

「ん? なんだそんなにじっと見て。俺の顔になんかついてたか?」

「いえ、その……」

「?」

「こんなこと、言ったら勇者様は怒ってしまうかもしれませんが、どうしても言わなきゃいけないと思ったんです」

「俺が怒ること……? 俺は滅多に怒るような人間じゃないし、怒らないから遠慮しないでいってくれ」

「やっぱり、勇者様は……」

「?」

「……昨日、勇者様と初めて出会ったとき、私とても失礼なことを思ってしまったのです」

「失礼なこと?」

「そうです。以前、〈ルルカブラ〉の方から調査隊が来たことがありまして」

「調査隊……もしかして東の番人についてか?」

「はい。現在、どのくらいまで魔人・グァムの支配地が広がっているのか、被害がどのくらいなのかを調査しにこられたんです」

「あの王様、敵わないからって放置していると思ったけど、一応国民のことを考えてたんだな」

「いえ、王様はちっとも私たちのことなんて考えていませんでした……!」

「え?」

「調査隊……とは名ばかりで、その実態は罪を犯した罪人たちの集団」

「それって……」

「王様はきっと、調査する気なんて最初からなかったんです。だけど、国民の不安を取り除くには『塔の番人』の調査をしないといけないわけで……それで王様は危険な目にもあっていいと罪人たちを調査隊に仕立て上げました」

「あのクソ王様が……。あれ、でもなんでそんなことを君が知っているの?」

「それは……私がまだ幼い頃、そうやってやってきた調査隊――罪人の方に直接聞いたからです」

「!」

「彼らは罪人。例え王様からの命令を遂行したところで罪が軽くなることはありません。それならばと、調査報告は『行(おこな)った』という風にでっち上げて、しばらくは自由を満喫しよう。そう言って罪人たちはこの村に数週間滞在し、その間この村をめちゃくちゃに荒らしていきました」

 酷い。俺の中に生まれたのはたったそれだけの感情だった。

 別に何も思っていないわけじゃない。むしろ、この話を聞いて怒りが沸いてきたり、王様に対して殺意が芽生えたりと湧き上がってきたものはいくつもある。しかし、それらは全て形を変え、酷い、ただその一言に変わり俺の中に留まった。

「だから、勇者様が……あの伝説の『勇者』が王様の命令でやってきたと聞いたときに、私はすぐあの時のことを思い出し、同時に勇者様に対して『早く出て行け』と。そう思ってしまったのです」

「そうだったのか……」

「でも、勇者様と言葉を交わし、そしてなにより食事を共にしたことで、勇者様は私が思っているような酷い人ではないということが分かりました。――むしろ、とても優しい方なんだと」

 リリナは胸のあたりで両手をギュッと握り締める。少し俯いてはいるが、座っている俺にはその表情がよく見えた。

 目を瞑って、唇を噛んで。城で俺の死刑が執り行われていた時に鎧の人がしていた表情と同じ。悔やんでいるような、自分を責めているような。そんな見ているこっちまで苦しくなってくる表情。

 リリナは優しい子。それは、俺に嫌悪感を抱きながらも表に出さず、今の今まで普通に接しようとしてくれていたのが何よりそれを証明していた。

 俺は初めてあった人を心の底から信用できるほどの善人じゃない。むしろ、長く付き合った人でさえ俺の知らない嫌な一面があるではないのかと疑ってしまうほど、俺の心はひねくれている。もちろん相手かとびっきりの美少女でもだ。

 でも、そんな俺でも、この子が心の奥底ではそんなことを思っていたのだと気が付けなかったのは、その思いと同じくらい――いや、それ以上に俺に対して優しい心で接してくれていたからだろう。誰かを恨んでも、恨みきれない、そんな根っからの優しい子。そうじゃなければ、わざわざ『勇者』に対してこんな失礼なことを言えやしない。

「勇者様……私は……」

 リリナが顔を上げ、こちらをまっすぐ見つめてくる。

 罪悪感で押しつぶされそう――それは、リリナの表情から伝わってきた感情であり、そしてリリナにこんな表情をさせてしまっているのにどうしようもできないという俺の想いでもあった。

「過去にそんな思いをしていたんだ、リリナが俺のことを警戒していたのもしょうがないことだ」

「でも……」

「リリナは俺にそれを話してくれた。そして今ではきちんと俺が警戒すべき相手じゃないってわかってくれた。それで十分じゃないか」

「それでは、私は……」

「俺はそんなリリナに対し怒りは湧いてこないし、だから罰とかを与える気もない」

「…………」

 本当にどうしようもない。この状況も、無責任なことしか言えない俺も。

「…………」

「…………」

 食事の時はあんなに楽しかったのに。こんな美少女と食事ができて嬉しかったのに。

「……じゃあ、俺はそろそろ行くよ。のんびりしてたら王様に怒られそうだから」

「あっ……」

「ひと晩泊めてくれてありがとう。うまい料理まで食べさせてもらえたし」

「いえ……」

「……じゃ、そういうことで」

「…………」

 俺はこの空気に耐えられなくなって、荷物を手にすると早々に立ち去る。

 その場から逃げ出すかのように外に出ると、子供たちの笑い声が聞こえてきて、村のまったりとした空気が伝わってきて。

「…………」

 なんだかモヤモヤとした気分になる。この世界の『平和』は俺が日本で感じてきた『平和』なんかと全然重みが違うもので、そう思うと自分の場違い感をひしひしと感じ――俺はまた逃げ出すかのように村を出た。


 俺は『勇者』。勇者とは勇気ある者という意味であり、この世界では魔族を倒す使命を負っている存在。

 しかし、俺には勇気なんてものは全くなく、『勇者』であるためには魔族を倒すという使命を果たすくらいしかその存在理由を示すことができそうになかった。

ちゃーっす木葉っす!

なんでこんな内容になったのか、自分でもわかってないっす

そもそもリリナにはこんな設定は付いてなかったはずですし、この物語でこんな真面目な雰囲気を出すつもりなんてなかったはずなんすけどねぇ……

一体どうしてこんなことになっちまったのか。謎っす


まあでも書いちまったものはしょうがないっすよね

今後も気にせずに書いていくっすよ

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