1-1 魔法陣の先
落ちる。落ちる。落ちていく。
どこまで続いているかわからない、どこまでも続いているかもしれない、闇の中を落ちていく。
そもそも落ちているのかもわからない。時折闇の中で見かける淡い光の玉が、前から来て後ろへと消えていく。それと、感覚的に落ちているように感じるので、俺はきっと落ちているんだろう。
魔法陣に飲み込まれてからどれくらいが経ったのか。もう長い間落ちているような気もするし、先ほど飲み込まれたようにさえ思える。
「魔法陣に飲み込まれる」だなんて、なんてファンタジックなことを言っているのかと自分でも思うが、それが俺が体験した本当のことなのだから仕方がない。そしてそれを簡単に受け止めているのは、きっと飲み込まれることよりも落ちている今の状況の方が俺の感情の大半を占めているからだな。
ファンタジックな展開に対する困惑、落ちている恐怖、そして永遠に続きそうな先の見えない不安。
『一体俺はこれからどうなってしまうのだろう』
そんなことを先程から繰り返し考える。しかし、答えは一向に出そうにもなかった。
答えが出るとき、それはこの状況から脱した、まさにその時だろう。
「…………」
落ちる。落ちる。落ちていく。
どこまで続いているかわからない、どこまでも続いているかもしれない、闇の中を落ちていく。
魔法陣に飲み込まれてからどれくらいが経ったのか。もう長い間落ちているような気もするし、先ほど飲み込まれたようにさえ思える。
『一体俺はこれからどうなってしまうのだろう』
先の見えない不安が、俺の思考をそれで埋め尽くしていた。
その答えが出るとき、それはこの状況から脱した、まさにその時。
先程から繰り返し考えていて、それでも答えは出そうにもなかった。
しかし、どうやら答えが出る“その時”がきたかもしれない。
「……眩しい」
俺が落ちていくその進行方向に光の玉が見える。それは先程から見かけていた淡く光る玉と似ているが、それよりも大きく、何よりとても輝いている。
近づくにつれその光はどんどん強くなっていく。長い間暗闇の中にいたせいもあってか、その光が眩しすぎて目を開けていられない。
このままではあの光の玉にぶつかってしまう。そうとわかってはいるのだが、この状況ではどうすることもできない。俺は何が起きるか色々と想像しながら光の玉と衝突するその時を、目を瞑りただ待つだけ。
落ちる。落ちる。落ちていく。
先程まではどこまで続いているのかさえわからなかった闇の中を。今はぶつかればどうなってしまうのかさえわからない光の玉に向かって。
「っ!?」
全身に言葉では表せない不思議な感覚が走る。暖かかったり、冷たかったり、痛かったり、気持ちよかったり、硬かったり、柔らかかったり。そんなちぐはぐな様々な感覚が一度に襲ってきたかのような不思議な感覚。
そういえば、魔法陣に飲み込まれた時もこんな感じだったような気がする。……ってことは、また別の不思議な空間に飛ばされたのか?
恐る恐る目を開けてみる。眩しさで目を再び瞑ってしまいそうだったが、それも一瞬のことですぐにその眩しさに目が慣れた。そうして、俺が目にしたのは
「……へ?」
足下には青い空のようなものが、頭上には緑色が広がっている草原のようなものが。遠くには建物のようなものが立っていたり、さらにその奥には海のようなものがあったり。……まあ“ようなもの”じゃなくて、きっと“そのもの”なんだろう。つまりは
「う、うわああああああああああああああああああああ」
おそらくあの光の玉でどこかの国の空高くに放り出された俺は、現在地面に向かって落下中というわけだ。
先日クラスメイトに「何があっても冷静に淡々と対処してつまらなそうな人だよね」となぜかいきなり酷いことを言われたくらいなんでも冷静に完璧にこなせる俺だが、今回ばかりは流石にダメかもしれない。
とりあえず現実から目を背けるように目を閉じ、一応頭を守るように体を丸め、いずれ来るであろう衝撃に対して備えておくことが、今俺ができる精一杯だ。
実際は数秒後、でも体感的には数時間後。何かが崩れるような大きな音とともに俺の体には衝撃が走った。
「うっ……くっ……」
全身が痛む。しかし、その痛みはだんだん薄れていき、意識がはっきりして何が起こったのかを理解できるようになった頃には消えていた。
「……あれ、もう痛くないぞ……? てか俺、生きてるのか……?」
体の上に乗っていた木の板のようなものを退け、体を起こし、立ち上がる。
右手、左手、右足、左足、腰、首。軽く動かしてみたが、どれも問題なく動くし痛みもない。よく見れば擦り傷もないし服も汚れてすらいない。
だいぶ高いところから落ちたと思うんだが、怪我一つないとは落ちた場所が良かったのだろう。俺は一体どこに落ちたんだ?
それを確認するために俺はその時初めて辺りを見渡す。
「…………」
「…………」
元々何かが建っていたのか、足元には木の板が散乱していて、その中心に立つ俺。それを囲むように立っている大勢の人間たちは何人かはわからないけど、見た限り日本人ではなさそうだ。だって、今時鎧を着て武装している人なんて日本にいないだろうし……って、もしかしてこれは危ない状況なのでは。
「…………」
「…………」
誰も声を発さない。しかし、明らかに鎧を着た奴らはこちらに近づいてきている。
ま、まずいぞこれは。どうにかして俺が危険な人物じゃないということを説明しなくては……殺されるかもしれない!
「えーっと……はじめまして……?」
「…………」
反応はない。というか、そもそも日本語が通じるのだろうか?
「あー、日本語、わかりますか?」
「…………」
「えー……Do you know Japanese?」
「…………」
反応はない。日本語も英語も通じない国なのか、もしくは通じているけど反応がないのか。どちらにせよ会話できるような状態ではないな。
さて、どうしたものか――
「――っと」
考え事しながら、鎧から遠ざかるように下がっていたら何かに躓き尻餅をついてしまった。
「……!」
「ストップストップ! 転んだだけだから!」
それを見ていた鎧の奴らが手に持っていた槍のようなものをこちらに突き出してきたので、手を前にだし慌てて危険がないことを伝える。……まあ伝わったかどうかはわからないけど、一応鎧の奴らは槍を突き出したままそれ以上近づいて来ることはなかった。
次また何かしてしまったときは間違いなく攻撃されると思っておいたほうがいいかもしれない。
「ったく……一体何に躓いちまったんだ」
ただでさえ危険な状況を更に危険にしてくれた原因であろう、足元に転がっていた棒のようなものを拾いながら立ち上がる。
「なんだこれ? 木の棒……にしては重いし、なんか見たことあるような……?」
「! キサマ、ヤハリソレガネライダナ!」
「え、ええっ!?」
鎧の奴らの向こう側からそんな声が聞こえたかと思うと、鎧の奴らが先程までとは明らかに違う、殺意むき出しの戦闘態勢に入ったように感じた。
一体いきなりどうしたんだとか、それよりも今の日本語っぽかったとか、このままじゃ確実に殺されてしまうとか。いろいろなことが頭の中を駆け巡り――とりあえず今はこの場から逃げるのが最優先という結論に至った。
「ニガスナッ! トラエロ!」
が、最初から囲まれていたわけだから、当然逃げられるわけも無く
「キサマ、ジブンガナニヲシタカワカッテイルナ?」
「いや、さっぱり……」
「キサマハ、シロニツレテイク」
「お城……」
「ソコデ、バツヲウケルノダ」
「えぇ……」
鎧の奴らにあっさりと捕まった俺は、どうやらお城に連れて行かれ裁きを受けるみたいだった。
どうも木葉っす!
数ヶ月ぶりに続きを書いたっす!
そのせいで自分が何を書きたかったのかすっかり忘れてしまったんで、思い出しつつなんとなく書いていきたいと思うっす