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第五十一話 普通が一番



二十五層へ降りてから、十分ほどが経った。


「右、二体!」


神代の声が、白い洞窟に鋭く響く。


視線を向けた瞬間、結晶柱の陰から二頭のフロストハウンドが飛び出した。


白い毛皮は景色に溶け込み、口元から漏れる吐息だけが青白く揺れている。


「しえる!」


「はい!」


しえるが杖を突き出す。


先端に赤い光が集まり、一瞬遅れて火球へと膨れ上がった。


《ファイアボール》。


放たれた炎が一頭の顔面へ直撃する。


ドォンッ!


冷気に満ちていた洞窟へ熱風が吹き抜け、白い毛皮が炎に包まれた。

だが、もう一頭は爆炎の横をすり抜ける。

狙いは――俺。


「浩介!」


透の声。


「分かってる!」


《身体強化》。


牙が喉元へ届く寸前、身体を半歩だけ横へ滑らせた。


目の前を鋭い牙が通過する。

その脇腹へ短剣を突き込む。


ザシュッ!


「ギャウンッ!」


浅い。


骨に当たった感触が手に返ってきた。

それでも一瞬だけ動きが鈍る。

その隙を埋めるように透が横から踏み込んだ。


「そこ!」


刃が前脚を切り裂く。

体勢を崩したフロストハウンドが床へ爪を立てた――その直後。


「どけ」


迅が大剣を振り抜いた。


ドゴォンッ!!


「それ剣の音じゃないっすよね!?」


ルカの叫びと同時に、フロストハウンドが数メートル吹き飛んだ。


背中から結晶柱へ激突し、そのままずるりと崩れ落ちる。


迅は何事もなかったように大剣を肩へ担いだ。


「倒れたろ」


「そういう問題じゃないっす!」


「剣は斬るものだと思うんすけど!」


「殴って倒せるなら同じだ」


「絶対違うっす!」


思わず笑ってしまった。

その声が、自分でも少し意外なくらい自然に出た。


敵が現れる。


神代が指示を出す。


しえるが魔法で動きを止める。


俺と透が前へ出る。


ルカが隙を狙い、迅が力で押し切る。


いつもの戦闘。

いつもの攻略。

ただ、それだけだった。


「……普通って、ありがたいな」


俺がぽつりと呟く。

隣で短剣の血を払っていた透が眉を寄せた。


「ダンジョンの二十五層で魔物倒しながら言う台詞じゃないだろ」


「最近が最近だったからな」


「まあ……それはそうだけど」


何者かが突然、人間ではなくなったり。

身体から黒い何かが生えてきたり。


知らないシステム表示が勝手に浮かんだり。

目の前で誰かを失ったり。


――そして。


戻ってきたり。


俺は横目で透を見る。

生きている。

普通に立って、普通に喋っている。


それだけのことが、今は妙に嬉しかった。


「……なんだよ」


透が怪訝そうな顔をする。


「いや」


「また俺の顔見てただろ」


「安心してただけ」


「重いわ!」


「愛が重いっすねえ」


ルカがニヤニヤしながら口を挟む。


「違うから!」


「僕には分かるよ」


後ろからレンが優雅に髪をかき上げた。


「美しい者というのは、どうしても視線を集めてしまうものだからね」


「お前の話じゃねえよ」


「なぜ!?」


本気で理解していない顔だった。


そのさらに後ろでは、黒崎レオが無言で歩いている。


いつの間にか一緒に行動することが当たり前になりつつある。


それも十分異常なのだが、今は深く考えないことにしていた。


神代が小さく息を吐く。


「余裕があるのは結構ですが、警戒は解かないでください」


「了解っす!」


「僕は常に周囲へ気を配っているよ」


「さっき鏡代わりに結晶見て髪直してましたよね?」


「それも大切な確認だ」


「何の確認なんですか……」


神代が額を押さえた。


◇◇◇


二十五層。


二十六層。


攻略は驚くほど順調に進んだ。


氷の鎧をまとったホワイトボア。


結晶柱へ擬態するアイスバット。


床下を這い、足元から襲いかかってくるフロストワーム。


決して弱い魔物ではない。

だが、今の俺たちは以前とは違う。


「上です!」


神代が叫ぶ。


天井の結晶から、三体のアイスバットが同時に剥がれ落ちた。


しえるが杖を振る。


「《ストーンウォール》!」


地面から石壁がせり上がり、一体の突進を正面から受け止めた。


鈍い衝突音。


その横を抜けようとした二体へ、ルカが走る。


「一体もらうっす!」


《クイック・シフト》。


一瞬で距離を詰め、短剣が翼を裂く。

残った一体が急上昇しようとする。


「逃がすか!」


透が地面を蹴り、低い位置から刃を振り上げた。


それでも届かない。


その瞬間。


黒い影が透の横を抜けた。


レオだった。


一歩。


本当に、それだけに見えた。


次の瞬間にはアイスバットの真下にいて、黒い短剣がその翼の付け根を正確に断ち切っていた。


魔物が落下する。


「……相変わらず速いな」


俺が言う。


レオは答えず、そのまま下がった。


落ちてきた魔物を迅が大剣で叩き潰す。


「だから最後それ必要っすか!?」


「確実だ」


「原形なくなってるっすよ!」


その後も。


神代が全体を見て敵の位置を割り振り。


しえるが遠距離から援護し。


迅が正面を崩し。


俺と透が互いの死角を補う。


ルカが小さな隙を拾い。


レオが必要な時だけ刃を出す。


そして。


「そろそろ僕の美しさを見せようか!」


レンが飛び出した。


「普通に戦え!」


俺が叫ぶ。


《プリンス・ステップ》。


金色の髪が白い景色へ線を引いた。


ホワイトボアが突進する。


レンは正面から避けるのではなく、わずかに横へずれた。


巨体が通り過ぎる。


その瞬間には、すでに背後。


短剣が後脚を切る。


ボアが振り返る。


また消える。


今度は反対側。


「どうかな?」


「強いのは認めるっすけど」


ルカが呆れた顔をする。


「毎回言わないと戦えないんすか?」


「美しさは伝えなければ損だろう?」


「意味分かんないっす」


そう言いながらも、ルカは笑っていた。


この二人。


口では好き勝手言っているが、戦闘中は意外と互いをよく見ている。


神代が地図を確認し、ふと足を止めた。


「……やはり妙ですね」


「何が?」


「魔物の数です」


周囲を見渡す。


確かに敵はいる。


だが、事前資料に記載されていた遭遇数より明らかに少ない。


最初の階層ほど極端ではない。


それでも、攻略速度は異様に速かった。


「また誰か先に通ったとか?」


しえるが言った。


一瞬だけ視線がレオへ集まる。


「俺じゃない」


「まだ誰も何も言ってねえよ」


「顔に出てる」


透が吹き出した。


「浩介も前それ言われてたな」


「最近みんな俺の顔読みすぎだろ」


神代はしばらく考えたあと、地図を閉じた。


「今は推測しても答えは出ません。警戒だけ強めて進みましょう。おそらく24層の影響だとは思います。」


誰も反対しなかった。


分からないものに、その場で答えを求め続けない。


必要になれば立ち止まる。


今は進む。


それでいい。


やがて階段の先に表示が浮かんだ。


【WHITE GATE】


【27F】


「二十七層っすね」


ルカが軽く屈伸する。


隣でレンが長い金髪を払った。


「そろそろ本格的な僕の見せ場が欲しいところだね」


「さっき散々あったじゃないっすか」


「足りないな」


「どんだけ見てほしいんすか」


その会話を聞きながら、俺たちは階段を降りた。


そして。


二十七層へ足を踏み入れた瞬間。

景色が一変した。


「……広っ」


白い洞窟が途切れている。

目の前に広がっていたのは、巨大な氷原だった。


乳白色の氷床が遥か先まで続き、左右の壁も遠い。


天井から伸びた青白い結晶が淡い光を放ち、その輝きが氷面へ幾筋も反射していた。


遮蔽物はほとんどない。

足音さえ遠くまで響きそうな、静まり返った空間だった。


ルカが短剣を抜く。


「こういう場所って、速い奴が出てきそうっすよね」


「やめろよ、その予想」


言った直後。


――ヒュン。


白い影が視界を横切った。


「っ!」


ルカが反射的に身体を逸らす。


頬に細い傷が走った。


赤い血が一筋、白い肌を伝う。


「ルカ!」


「平気っす」


親指で血を拭いながら、ルカが前を見る。


氷原の中央。


一頭の魔物が立っていた。


狼に似た細身の身体。


異様に発達した後脚。


頭部から後方へ反る二本の角。


【ブリンク・ジャッカル】


表示が浮かぶ。


次の瞬間。


消えた。


「右!」


神代が叫ぶ。


全員が振り向く。


すでに十メートル以上先。


「……瞬間移動?」


しえるが杖を構える。


「違う」


レオが短く答えた。


「ただ速いだけだ」


「ただで済ませていい速度じゃないだろ……」


透が顔を引きつらせる。


再びジャッカルが走る。


白い残像。


今度は背後。


「しえる、撃つな!」


神代が止める。


「味方を巻き込む可能性があります!」


「はい!」


迅が大剣を構えるが、敵は射程へ入る直前で消える。


俺も身体強化で目を追う。


見える。


だが。


身体が追いつかない。


そこでルカが一歩前へ出た。


「なら」


腰を落とす。


「追いつけばいいだけっす」


《クイック・シフト》。


ドンッ!


床を蹴り、赤い髪が氷原を駆け抜けた。


ジャッカルも走る。


白と赤。


二つの影が一気に遠ざかる。


「速っ……」


ルカが追いつく。


「もらったっす!」


短剣を振る。


直前。


ジャッカルが右へ切り返す。


ルカも即座に追う。


《クイック・シフト》。


一度目の方向転換。


ついていった。


だが。


ジャッカルはそこからさらに左へ折れた。


「なっ――」


ルカの身体は右へ流れる。


追えない。


ジャッカルが再び距離を取った。


戻ってきたルカは、悔しそうに奥歯を噛んだ。


「……二回曲がるんすか、あいつ」


戻ってきたルカの足元が、わずかに震えていた。

ただ悔しいだけじゃない。

自分と同じ「スピードタイプ」の敵に、完全に先手を取られた焦りが瞳に滲んでいる。


「クイック・シフトだと、一回が限界か」


神代が呟く。

その時、背後から大袈裟なため息が聞こえた。


「まったく」


レンが流れるような手つきで金髪をかき上げる。


「どうやら今回もまた、僕の見せ場だね」


一歩前へ出たレンの横顔を見て、俺は思わず訊いた。


「レン、逃げなくていいのか?」


「……浩介君」


レンがピタリと動きを止める。


「なに?」


「失礼な! 僕をなんだと思っているんだ!」


「誰よりも早く逃げる人」


「事実をそのまま言うな!」


透が腹を抱えて吹き出す。


「自分でいつも言ってるだろ!」


「危険から素早く離脱するのは知性だ!」


「そこは否定しないんだな」


レンは胸を張ると、不敵な笑みを浮かべてルカを横目で見やった。


「だが今回は逃げる必要がない。——それに、後輩にだけ無茶をさせるほど、僕は不粋じゃない」


ルカがハッとしてレンを見る。

いつもの軽薄な態度の中にある、透き通るような本気。


「この僕に任せたまえ」


「……なんか不安っすけど」


口ではそう言いながらも、ルカの表情から焦りが消え、引き締まった笑みが戻っていた。


「頼むっすよ、レン先輩」


「任せなさい」


直後、ブリンク・ジャッカルが動いた。


「来るぞ!」


俺が叫ぶ。


レンも走る。


《プリンス・ステップ》。


姿が消えた。


次に見えた時には、ジャッカルの進行方向へ回り込んでいた。


敵が方向を変える。


レンも消える。


さらに先へ。


真正面から追っていない。


相手が向かう場所を読んでいる。


ジャッカルが飛びかかった。


レンは紙一重で身をずらし、そのまま身体を回転させる。


ザシュッ!


白い毛皮から血が飛んだ。


「おお!」


透が声を上げる。


レンが氷の上へ着地する。


「どうかな?」


ツルッ。


「……あ」


ズザザザザザッ!!


そのまま尻から滑った。


一直線にこちらへ向かってくる。


「ちょ、待っ――」


ドンッ!


俺の脚へぶつかって止まった。


沈黙。


レンがゆっくり立ち上がる。


何事もなかったように髪を整えた。


「……今のは忘れてくれ」


「無理っす」


「ルカ」


「格好悪すぎたっす」


「忘れてくれ」


しえるが口元を押さえている。


透は完全に笑っている。


レオまで僅かに顔を逸らした。


「レオ、お前いま笑った?」


「笑ってない」


「絶対笑っただろ」


「来るぞ」


強引に話を切った。


だが、本当に来ていた。


「二人とも!」


神代の声が飛ぶ。


「遊びはそこまでです!」


「遊んでないっす!」


「僕は少し滑っただけだ!」


「どちらでもいいです!」


神代が二人を指差す。


「ルカ、左! レン、右! 追いかけるのではなく、進路を限定してください!」


「了解っす!」


「分かった」


今度は二人とも真剣な顔になった。


ジャッカルが走る。


右にはレン。


左にはルカ。


敵が右へ向かえば。


「こっちは駄目だよ」


レンが先回りする。


方向転換。


左。


「待ってたっす!」


ルカが追う。


さらに正面には俺と透。


「抜かせない!」


透が左。


俺が右。


逃げ道が狭まる。


それでもジャッカルは速い。


反転し、俺たちの間を強引に抜けようとした。


「しえる!」


「はい!」


しえるが狙っていた。


《ストーンウォール》。


進路上へ石壁がせり上がる。


ジャッカルが急旋回。


その先。


「遅ぇ」


迅の大剣が振り下ろされた。


ジャッカルは紙一重で回避する。


だが、その一瞬だけ速度が落ちた。


「ルカ!」


レンが叫ぶ。


「分かってるっす!」


ザシュッ!


ルカの短剣が肩を裂く。


ジャッカルが跳ぶ。


着地点にはレン。


さらに刃が脇腹へ入った。


少しずつ。


確実に。


敵の速度が鈍っていく。


「……すげぇ」


思わず声が漏れた。


レンは次の進路を読む。


ルカは逃げた先へ食らいつく。


同じ速さじゃない。


速さの使い方が違う。


だからこそ。


赤の鋭角と、金の軌跡。二つの異なる速さが、美しく噛み合っていた。


予測外の攻撃に驚愕したジャッカルが、反射的に向きを変え、再び大きく跳躍した。


「来るっす!」


ルカが踏み込む。


《クイック・シフト》。


激突寸前。ジャッカルが右へ。

ルカも右へ。


一度目。追いついた。

だがジャッカルは、そこからさらに左へ切り返す。


二度目。


「っ!」


ルカの身体が右へ大きく流れる。

身体強化の慣性が殺しきれない。追えない。

だが——その進行方向に、すでにレンが滑り込んでいた。


「こっちは通さないよ」


『プリンス・ステップ』の速度と予測で、レンが完全に退路を塞ぐ。

ジャッカルが急停止し、弾かれたように向きを変えた。

もう一度、ルカの方へ。


(逃がさない——!)


ルカの目が限界まで見開かれる。

今なら届く。だが《クイック・シフト》の反動で足の軸は流れている。

ここから強引に向きを変えれば、膝も足首も無事では済まない。


(レンがつくってくれた隙だ……絶対、無駄にしないっす!!)


「ルカ! 止まれ!」


神代の悲鳴に近い制止。

それを振り切るように、ルカは左足を氷盤へ叩きつけた。


ガチィンッ!!


悲鳴のような衝撃が足首から腰へと突き抜ける。

骨が軋み、筋肉が引きちぎれるような痛みが走った。

それでもルカは歯を喰いしばり、視線を敵から逸らさない。


流れる身体を、気合いと意志だけで強引にねじ伏せる。


——曲がれ!!


一筋の赤い影が、不可能な角度で氷原を切り裂いた。



【条件を達成しました】

【スキル派生条件を確認】

【《クイック・シフト》から派生スキルを獲得】

【《ダブル・シフト》】



ルカは、笑った。


衝撃を置き去りにして、跳ぶ。


一回。


二回。


赤い軌跡が二度折れ、ジャッカルの予測を完全に置き去りにする。


跳躍して逃げようとした敵の背後には、すでに金の髪をなびかせたレンが待っていた。


「見事だ、ルカ!」


「はいっす!!」


レンの一撃が視線を誘導し、出来上がった決定的な隙へルカが潜り込む。


視線が交差した、その刹那。


「——捕まえたっす」


ザシュッ!!


交差する二つの刃。断ち切られた喉元から鮮血が舞い、巨大な影が滑らかな氷面を滑っていった。


十メートル。


二十メートル。


やがて。

止まった。


静寂が戻る。

ルカが着地した。

荒い息を吐きながら、ゆっくりと短剣を引く。


直後。


「いっ……!」


片膝をつく。


「ルカ!」


俺たちは一斉に駆け寄った。

左足を押さえている。


「大丈夫か!?」


「……めっちゃ痛いっす」


「そりゃそうだろ!」


足首はすでに腫れ始めていた。

無理な方向転換を二度。


身体が新しい動きを覚えても、肉体そのものが急に強くなるわけじゃない。


「動かさないで!」


しえるがすぐに横へ膝をついた。

杖を置き、両手をルカの足へ添える。

柔らかな光が掌から溢れた。


《ヒール》。


淡い光が足首から膝へ広がっていく。

苦痛で歪んでいたルカの表情が、少しずつ緩んだ。


「……おお」


恐る恐る足首を動かす。


「痛くないっす」


「完全に治るまでは無茶しないでね」


「ありがとうっす、しえる」


しえるがほっと息を吐く。


ルカは立ち上がると、目の前へ浮かぶ表示をもう一度見た。


【《ダブル・シフト》】


「……覚えたっす」


その声には、隠しきれない喜びがあった。

レンが歩いてくる。


「見事だったよ」


ルカが振り返る。


「レンのおかげっす」


「当然だね」


即答。


「そこは謙遜するところじゃないんすか?」


「僕のおかげなのは事実だろう?」


「まあ……そうっすけど」


レンが髪をかき上げる。


「それに最後の動きは美しかった」


ルカが少しだけ照れたように笑う。


「レンに美しいって言われると、なんか変な感じっすね」


「最高の褒め言葉だよ」


「じゃあ、もらっとくっす」


二人が拳を軽く合わせる。

一人では捕まえられなかった敵。

二人なら。

捕まえられた。


◇◇◇


二十八層。


二十九層。


そこからは、さらに攻略速度が上がった。


レンが先回りする。

敵が逃げる。

ルカが追う。


ただし、しえるに念を押されたため、ルカも無茶はしない。


神代が全体の動きを調整し。


しえるが魔法で敵の退路を狭め。


俺と透が正面を押さえる。


迅が大型を力ずくで止め。


レンとルカが逃げ道を潰す。


たまに抜けた魔物だけを、レオが無言で処理する。


気づけば。


俺たちは一つのパーティとして、ずいぶん形になっていた。


「そっち行ったっす!」


「分かってる」


「ナイスっす!」


最小限の声だけで二人の動きが繋がる。


俺はその姿を見ながら呟いた。


「……俺たち、いらなくない?」


透が真顔で頷く。


「奇遇だな。俺も思ってた」


迅が大剣を肩へ乗せる。


「追いかけるから面倒なんだろ」


「何が?」


「ああいうのは――」


近くへ飛び出してきたホワイトボアへ向けて。

大剣を振る。


ドゴォォン!!


魔物が壁まで吹き飛んだ。


「最初から吹っ飛ばせばいい」


「だから参考にならないっすよ!」


ルカが遠くから叫ぶ。


笑い声が響く。


ダンジョンの中だというのに。


ほんの少しだけ。


それが嬉しかった。


やがて。


二十九層を抜けた先。

長い白い通路の向こうに、巨大な扉が姿を現した。


高さは十メートルを優に超えている。

表面は無数の白い結晶で覆われ、その中央に赤い文字が浮かんでいた。


【30F】


全員が足を止める。


「……三十層」


透が呟いた。


長かった。


本当に色々あった。


俺は隣を見る。


しえる。


ルカ。


神代。


迅。


レン。


透。


そして。


黒崎レオ。


全員いる。


その事実を一度だけ胸の中で噛み締める。


俺は巨大な扉へ向き直った。


「行こう」


ホワイトゲート第三十層。


今回の探索。


最後の階層へ。


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