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第十二話 異変。

第1章最後のお話になります。

 

ゴゴゴゴゴ。


重低音が玉座の間に響く。


部屋の奥だけが青白く光っている。


テレビには、

『世界を震え上がらせる◻︎◻︎◻︎』

とテロップが映っていた。



玉座には、一人の男がだらしなく腰掛けている。


目の前には、魔法で映し出された画面。



「ねぇー! だからその銃弱いって言ったじゃん!」


男はヘッドセットに向かって叫ぶ。


「え? ウィークリー終わってるよ。」


カチカチと指を動かしながら、画面に夢中だ。

その背後では、一人の美女が困ったように立っていた。


「あの……___様。」


返事はない。


「あの……。」

まだ返事はない。


「あのぉぉぉぉぉ!!」


「うわっ!」


___は飛び上がる。


「もぉー! メディシラ、びっくりさせないでよ!」


「五分前から呼んでおります。」


呆れたようにため息をつく美女。

彼の秘書を務めるメディシラである。


「あの、先の件はどのようになさいますか?」


「そうだねぇ〜。」


___は腕を組み、首を傾げる。


「えー、うーん。でもぉー! あいつ強いしぃ。計画通りにいかないしぃ。」


「……___様。」


メディシラがじっと見つめる。


「ごほん。」


咳払いを一つ。


さっきまでの軽い口調が嘘のように消えた。


「このままなら、人類は東西南北のダンジョンを、そう遠くないうちに攻略する。」


「はい。」



___はゲーム画面を消す。

部屋から光が消えた。


「人類の成長速度は予定より二十三・七パーセント速い。」


「はい。」


「チュートリアルを終了する。」


この決定が、世界を揺るがす大きな転換点になることを――

まだ、人類は誰も知らない。


◇◇


その空間には、


焼け焦げた匂いだけが漂っていた。


しばらく誰も動かなかった。


荒い息だけが静まり返ったダンジョンに響く。


焼け焦げた匂いと焦土。


さっきまで命を奪い合っていたとは思えないほど静かだった。


先ほどまでウルフが存在していた場所には、宝箱が置いてあった。


「おっしゃあぁぁ!!」

俺と透は思わず叫んだ。



「大丈夫か?」

満身創痍の透に駆け寄り、ポーションを

飲ませた。


ブォーン。


緑色の光と共に透の傷は、みるみる見えなくなっていく。


「流石に英雄の俺でもきつかったぜ」

少し苦しそうに、それでも嬉しそうに透は、笑う。


「やりましたね!!」


しえるも透に近づきみんなで喜びを分かち合う。


「宝箱…。」


ゴブリンを倒したときの宝箱より一回り大きく、淡く光を放っていた。


「これは、透があけようぜ」

「いいのかよ、俺で」


しえるに向き直り、目配せをする。

しえると俺は、小さくうなづく。


「あぁ、もちろん。」

透に肩を貸し、宝箱の前まで一緒に行く。


透は、ごくりと唾を飲み込み

ゆっくりと宝箱に手をかける。


ギギギギィ……


重い蓋がゆっくり開く。


透の表情が固まった。


「……え?」


俺としえるも中を覗き込む。


そこに入っていたのは――

一冊の魔導書だった。


「まじかよ……。」


「……これが。」


透の手がわずかに震えていた。 


ニュースでしか見たことがない。


数人しか手にしたことがないと言われる代物。


「本当に出るんだな……。」


誰もすぐには手を伸ばせなかった。


やがて透は、そっと両手で魔導書を抱き上げた。


俺たちは、静まり返った部屋を後にした。


透は魔導書を胸に抱えたまま、何度も表紙を眺めていた。


「これ……どうやって使うんだ?」


恐る恐る表紙を開こうとする。

しかし――


「開かない。」


「え?」


俺も手を伸ばす。


「貸してみろ。」


透から受け取り、力を入れてみる。

だが、まるで一枚岩のように表紙はびくともしない。


「鍵でも掛かってるのか?」


「そんな感じには見えませんけど……。」


しえるも不思議そうに首を傾げた。

魔導書には鍵穴どころか、留め具すらない。


「ニュースじゃ、魔導書を手に入れたって話ばっかりで、使い方までは言ってなかったよな。」


「はい。情報もほとんど出回っていません。」


透はもう一度、大事そうに魔導書を抱き締める。


「……帰ったら調べるか。」


「ですね。ギルドなら何かわかるかもしれません。」


俺たちは顔を見合わせ、小さく頷いた。

そうして、魔導書を抱えたままダンジョンを後にした。


◇◇


その頃、世界は少しずつ姿を変え始めていた。


冒険者という職業が当たり前になり始める。


学校では探索者向けの授業が導入され、動画配信者はダンジョン攻略を配信し、武器屋や魔道具店には見たこともない装備が並び始めた。


天宮ギルドは全国へと支部を広げる。


そして――

「魔導書を手にした探索者が、また一人現れました。」


「ここ数日、東西南北すべての初級ダンジョンで攻略報告が相次いでいます。」


ニュースキャスターの声が全国へ流れる。


その映像を見つめる玲は、小さく息を吐いた。

「……またか。」


世界が、確実に動き始めている。


そして、その瞬間だった。


ピロン。


突然、世界中の探索者の前にステータスウィンドウが開く。


「チュートリアルを終了します。」



その日を境に、世界は「チュートリアル」ではなくなった。

そして、その最初の犠牲者が現れるまで――



あと数日。

これにて第1章終了になります。

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