いつの間にかに
遅くなりました。年越してしまいました…。
大学校内の庭は一部を除き解放されている。私のお気に入りは柔らかな芝生の広場である。端には木も植えてあり、他の生徒にも人気がある。私は木陰で図書館で借りた本を広げていた。図書館だと、色々本を広げるのは憚られるので、外でやっている。一応、借り物なので、本の下にはクロスを敷いている。
「何を読んでいるんだ?」
後ろから声をかけられた。例の公爵家の坊っちゃんである。あれから剣術の時以外でも話すようになり、それなりに仲良くしていたのだ。
「見ればわかる。」
「法律書?しかも五か国の。帝王学取ってたっけ?」
「趣味だよ趣味。法律も国によって違う。何がそこで求められるのか、正義なのか、それを見比べるのが面白いんだ。」
「ふーん。」
「例えばさ、この国で違法とされるこの薬品はこっちの国では使用できる。更にこの国で昔使われていた法律は今では人道に反すると撤回された。」
「これが正しいって中々決まらないよな。」
「あぁ、そういうのを考えるのが楽しい。」
「お前は将来法律家にでもなるつもりなのか?」
「いいや、さっき言ったように趣味だ。私はもっと家庭的に生きたい。」
「そうなのか?」
「そうなんだ。」
「ふーん、まぁいい。ところで、相談があるんだが。」
やつはそう言って私の横に座って、居住まいを正した。私はそれに合わせてそちらを向く。
「どうしたんだ一体?」
「今度、一緒に夜会に行ってくれないか?」
「はい?」
「絶対参加しなければならない夜会があるんだけど、パートナー同伴が条件で、自分は婚約者もいないし男兄弟で親戚もパートナーにちょうどいい人がいないんだ。」
「そこで私か?」
「貴女です。」
「わざわざ私に頼まなくても、あんたならご令嬢達がよって来るだろうに。」
「来るさ!家柄目当てのやつが。中には純粋に私に好かれたいやつもいるかもしれないけど。だけどね、あくまで今回のパートナーは一時的なものだから、これを期に私に近付こうとしている輩は同伴できない。だからといって下手に同伴者を選ぶことも出来ない。」
「なるほど、下心もなく、あんたの家の力を借りずとも成長でき、且つ同伴しても問題がなくいい意味で話題になれるほどの人物っていったら私くらいだろうね。」
「そうはっきり言われると変な感じだな。」
「まあ、気にすんなよ。私はこの国の知り合いを増やしたかったところだからちょうどいい、頼まれよう。」
「ありがとう、助かるよ。」
「こちらこそ、エスコートは任せたよ。」
そうやってすんなり私は彼に同伴して夜会に行くことが決まった。
私は結構呑気に考えていたけど、親に報告したら顔を青くされた。公爵家の嫡男に釣り合うようにするのがいかに大変か語られた。どうしたら良いのかと家族がバタバタしていると、公爵家から夜会に行く前に家に来いと招待された。
行けば、出迎えてくれたのは彼のお母様。いきなり息子がパートナー決めたので彼女も驚いたようだ。私は有名だが、ほとんど名前だけなので、どんな人間か知りたかったそう。マナーやらなんやらの確認をしてもらった。ドレスはお母様が昔仕立てがあまり気にいってない物を今風にアレンジして仕立て直して貰えることとなった。
至れり尽くせりである。