12 コタロウの 忍術
ベッド作りは、僕、ノウミィ、コタロウ、クーノの4人でやった。コタロウとクーノが人型に変身できるようになったおかげで、人間と同じ指を持って手先が器用になっているからだ。ベッド作りは多少細かい作業があるから、コボルドの指のままではちょっと難しい。そのため、人間と同じ指を持つメンバーでベッド作りに励んでいる。ノウミィはサイズが小さいけど。
ブゥとコウガには、僕のぷつぷつの実を取りに行ってもらうというトレーニングをしてもらっている。うん、トレーニングのためだよ?コウガもコタロウに負けないようにって張り切ってたしね?ちょっと申し訳ない気持ちももちろんあるけどね?
コウガには、クーノがこの洞穴に来るときに背負っていた鉄板などを入れていた籠を、中身を空にさせて持たせている。その籠にぷつぷつの実を入れてもらうのだ。最初から気付ければよかったんだけど、今思いついたのだから仕方ない。これで、きっと一度にたくさんのぷつぷつの実を運ぶことができるだろう。
ベッドは割と早く出来上がった。まあクオリティが低いからこそ早く出来上がるんだけどね。最初は地面に寝るのと比べてめっちゃいい!って思ったけど、前世に比べるとどうしても寝心地が悪いように感じてしまう。それに、植物で作ったベッドだから、一週間ほどですぐボロボロになってしまう。もっとちゃんとしたベッドが欲しいなー…。単なる我が儘だけど。
けど、クーノもコタロウも喜んでくれたみたいだから、よしとしよう。
「じゃあコタロウ。コタロウのできる忍術を見せてもらえるかい?」
ベッド作りも終わり、少し空き時間が出来た。ノウミィとクーノにはモグロースとチョコの実を取りに行ってもらっているが、僕はコタロウに忍術を見せてもらうことにした。さっき見たのは水を噴出するものだったけど、他にもいくつか出来る技があるようだ。
「人間のカッコウになって、少し難しいけど…やってみる!」
そう言って、コタロウが見せてくれた忍術は3つ。
水の代わりに、火、泥を噴出する術と、少しの間影に身を潜める術だ。
火や泥を噴出する術は、コタロウが最初に見せてくれた忍術と原理は変わらないようで、体内で変化させる魔気の性質を水ではなく火や泥に変えているだけのようだ。しかし、変化させる性質によって得意不得意があるらしく、泥は水と同じように噴出できたが、コタロウは火の性質が苦手のようで、噴き出した火は1メートル先の木に届かなかった。
…というか、何木に向かって火を吐いてるんだ。火事になったら割と大変なことになるよ、この森。
コタロウが火の性質が苦手で助かった。もしもっと強力な忍術だったら、たちまち森中に火がまわっていただろう。
コタロウには、火の術は森の中でなるべく使わないように注意しておいた。子どもの火遊びを放っておくと、大変なことになりかねないからね。
そして、もうひとつの忍術、影に身を潜めることができる術は、コタロウはまだまだ使いこなせていなかったが、とても強力な術だった。
コタロウが両手を胸の前で合わせて目を閉じると、コタロウの体が一瞬で真っ黒になり、その体が影の中にトプンと音を立てて吸い込まれていった。と思ったら、次の瞬間、コタロウが咳き込みながら影の中から這い出てきた。
どうやら、全身の魔気を影の性質に変化させて自身の影と同調させることで、影の中に身を潜めることができるようになる忍術らしい。
しかし、影の中にコタロウがいた時間は、約2秒。全身の魔気を影の性質に保つことは相当難しいようで、すぐに術が解けてしまうようだ。
それにしてもすごいな。影の中に入れるなんて…忍術って、そんなこともできるのか。
「ハンゾウ様は、お前は才能があるからって、僕に影の忍術を教えてくれたんだけど、すっごい難しいんだ、これ。けど、ハンゾウ様が言うには、まだまだ簡単な忍術なんだって。」
へー、これがまだまだ簡単な忍術ねー。
僕は、口に手を当てた。ニヤついているのを隠すために。
コタロウはまだまだ子どもなのに、こんなに術が使える。確かに、まだそこまで威力はないけどコタロウが成長したらもっともっと強力になっていくはずだ。
吐き出す水の威力を上げれば鉄砲のような威力になるだろうし、火は吐き出す量が増えるだけで相当使える技になる。そして、一番注目すべきは泥だ。これは、ノウミィと力を合わせればすごい技になるんじゃないか?ノウミィは土の性質や動きを操ることができるから、2人の力を組み合わせればいろんなことができるんじゃないだろうか?
それに加えて、これらの術がまだまだ序の口だと言うなら、今後はもっとすごい術が使えるようになるかも?
うぉーー!夢が広がるね!
…といっても、とりあえず、成長を待つしかないんだけどね。
なんてことを考えていると、ノウミィとクーノが帰ってきた。僕らは合流して、晩御飯の支度を始めた。
すると、突然ノウミィの体がビクっと震えた。
「っ!」
「…ん?どうかした?ノウミィ。」
「やっと来たわ!次の成長!これを待ってたのよ!」
ノウミィは嬉しそうに空中を円を描くように飛び回った。
どうやら、また花の中で一段階成長できる時がやって来たらしい。これでノウミィが成長するのは4回目だな。
けど、ふと疑問が浮かぶ。今までノウミィが成長するタイミングは花がぼんやりと光っているから気がついていたのかと思ってたけど、今は花を見ることなく突然ノウミィが喜び出した。ノウミィはなぜ自分の成長のタイミングがわかるんだ?
「私とあの花は一心同体よ。私が食べた分のエネルギーを毎晩あの子にあげて、それがあの子の中で一定量吸収されると、貯めていた力を使って私の体を成長させてくれるの。養分の吸収には多少時間がかかるけど、あの子の中に養分が溜まりきったら、私にそれを知らせてくれるのよ。」
自慢するように腰に手を当てて胸を張った。なるほど、そんな仕組みだったのか。それにしても花がノウミィに知らせてくれるって、どういうことなんだろう。
ま、細かいことは気にしないようにしよう。それよりも今はノウミィの成長を喜ぶとしよう。
「おめでとう、ノウミィ。たくさん食べた甲斐があってよかったね。」
「ふふ、今回の成長は、今まで以上に楽しみにしているといいわ。普通はこんなに早くできることじゃないんだけど、これもあなたのおかげね。」
「これ以上に?どういうことだい?」
「明日まで待ちなさい!すぐに分かるわ!」
嬉しそうに笑いながら、ノウミィがぼんやりと光る花の中に入っていくと、花が閉じて蕾の状態になる。ノウミィの成長が始まったようだ。
きっといつものように丸一日経ったら出てくるだろう。その時まで、今回はどんな成長があるのか楽しみにしておこう。
・・・
「それではみなさん、いただきます。」
晩ご飯の時間です。
今日はブゥとノウミィを除いた4人で円になってご飯を食べている。ブゥは夜は血を飲まないから、朝と同じように水入りバケツでトレーニングしている。最近は頭の上に乗せたまま小走りぐらいはできるようになっているから、もっとトレーニングを続ければいつかはバケツを乗せたまま全力で走ることもできるようになるだろう。そうなったら、バケツよりもっと重いものを用意しよう。ブゥには速さだけじゃなく、力もつけてもらいたいからね。
「そういえば、このあたりには凶悪な害獣ってのはいないのかい?僕は見たことないけど。」
ぷつぷつの実を頬張りながら、気になっていたことをコウガとクーノに聞いてみる。
このあたりで一ヶ月以上生活しているけど、未だに凶悪な害獣というのとは一度も出会ったことがない。ただの害獣ですらモグロースしか見たことないし、このあたりには中々近づかないのかな?
「そうですね、このあたりには害獣は住んでいないようです。凶悪な害獣たちは個々の存在が強力であるために、それぞれが縄張りを作ってバラバラに生息しています。ここにはたまたま害獣が住み着いていないのでしょうね。」
「しっかし、そろそろあいつらも食べるもんを探して縄張りの外に出るんじゃねぇか?あいつらが暴れるせいで魔物が森の外に逃げてってんだしよ。」
「けど、強い力を持った種族がある程度は討伐してくれてるんじゃないかしら。彼らはもともと凶悪な害獣たちを狩ってそれを食料としていたのだし。」
ふむふむ、なるほどねー。
それじゃあ、このあたりにはもともと害獣が住んでいなかったか、もしくは害獣を倒すほど強力な種族が住んでいるかのどちらかということだ。
今までそんな魔物は見たことないし、おそらく前者だろう。
害獣を倒すほど強い魔物…いつか仲間にしたいなー…
僕はそんなことを呑気に考えながら、ぷつぷつの実に齧りついた。




