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噂のマモノ育て屋さん  作者: なすたまご
異世界での目標
14/34

7 食事中の ハプニング



「あー、心配しないで!育てられないという意味ではないわ!」


ショックを隠せず口を大きく開けた僕に、ノウミィは慌てたように言った。


「ただ、この実は大きな木に実る果実でしょう?この実の小さな種から果実を実らせるほどの大きな木に成長させるには、それなりの時間が必要なのよ。」


なるほど。それもそうだ。

ノウミィの能力が土の栄養を調節して植物の成長を促進できるものだとしても、さっき見た通り、妖精の力はそこまで強力ではない。種から大きな木になるのにはそれなりの時間がかかるだろう。


「んー、この実だと…私の今の能力では最低でも1年はかかるわね」


1年。そうかー、そんな簡単にできるわけないよなー。

でも、もしノウミィが今より更に成長したら、もっと早く実ができるってことだよね?


「私はこの1年間まったく成長できていないの。私が成長するより、この実が実る方が早いでしょうね。」


がっくし。ダメかー。期待してたんだけどなー。

そりゃあ1年後に楽になるなら今始めてた方がいいんだろうけど、そうすると、あと365日ほど無休でブゥにあのきついランニングメニューをこなしてもらうことになるわけだ。

それはあまりにも可哀想だ。ブゥだっていつかは実を取りに行くのが面倒になるはずだ。できるだけ早めにブゥの仕事を軽くしてやりたい。

もしここに赤い実がなる木があれば、自分で実をとることができる。


僕があの場所に自分で取りに行くって言っても、絶対行かせてくれないしなー。


僕がまた失敗してしまうのが心配なのか、それとも僕の血=大切な餌を大切に保管しておきたいだけなのか。真意はわからないが、前者の方だと信じておこう。うん。そっちの方が嬉しい。


この場所にいつまでいるかわからないし、1年後もブゥと一緒に暮らしているかも定かではないけど、とりあえずこの実を植えておこう。ここに植えて損するものでもないし。


「お願いするよ、ノウミィ。時間が経っても構わないからこの実がなる木を育ててほしい。」


ノウミィは、わかったわと言って頷くと、赤い実に手を伸ばした。

この赤い実は、小さな粒がたくさん集まって1つの果実になっている。前世でいうところのベリー系の果物によく似ている。ただサイズが前世で見たことのない大きさをしているけれど。

ノウミィは、その赤い実から1つの粒をもぎ取るとそれを土に埋めはじめた。どうやら、果実の粒をそのまま植えればいいようだ。


「私は土の妖精だから、そんなに植物について何でも知ってるってわけではないの。だから、見たことのない植物の育て方なんて知らないけれど…。」


そう言って、ノウミィは空中で逆さまになって、さきほどのように土に潜る構えをとった。


「この子が喜ぶような土を作ることはできるわ。」


そう言って、羽を身体にキュっと巻きつけて勢いよく土に飛び込んで行く。

どうやら土の栄養分を調整する作業に入ったようだ。

その様子を眺めながら、僕はこっそり手に残る赤い実に齧りついた。



それから暫く待って、ブゥが3つ目の実を届けてくれたころ、ノウミィが土から這い出てきて、そのまま地面に突っ伏した。体力の使う作業を連続で行ったため、相当疲れたようだ。


「ごめんなさい、1日に2回もやったら、ヘトヘトになるの。明日、また2、3粒植えましょう。」


もう少し、休憩させてからお願いすればよかったかな…。


ノウミィはゴロンと仰向けになり、僕の目を見てニコリと笑った。どうやら、土の調整はうまくいったらしい。


「ありがとうノウミィ。少し休憩して、昼ご飯にしようか。」


人数も増えて、少しばかり賑やかになった僕たちの暮らし。やはりご飯はみんなで顔を合わせながら食べたい。そっちの方が賑やかで楽しいだろう。

ブゥは日に一度の食事(ブゥの場合は吸血、といった方がいいのかな?)が楽しみなのか、ぴょんぴょん跳ねて、んぶぅと鳴いた。



「それじゃあ、いただきまーす」


ノウミィの息も整ったところで、3人向かい合って食事を始める。

僕は赤い実に大口で齧りつく。うーん。やっぱり美味い。


さっきつまみ食いしたばかりだけど、まだまだ食べ足りないな。


そんなことを考えながら赤い実を食べる僕の向かい側では、ノウミィがビー玉ぐらいの大きさに丸めた土を一生懸命頬張っていた。この土の塊は、ノウミィが持つ土を操る能力によって集められた、石などの不純物を取り除いた土である。

ビー玉ほどの大きさと言っても、ノウミィにとってはとても大きな塊だ。人間のサイズで考えると、バスケットボールぐらいの大きさの食べ物に食らいついていることになる。


「ノウミィ、そんなに食べられるのかい?」


少し心配になって聞いてみると、ノウミィは口の中でもぐもぐと食べていた土を飲み込み、土を睨め付けるようにして言った。


「私は早く成長したいから、いつもこのぐらいを目標にしているの。もしかしたら、この量も食べきれるかもしれないでしょう?」


でも、いつもこの半分も食べられないんだけどね。


そう言って、何かに挑戦するようにまた土を口いっぱいに頬張る。

僕から見たらビー玉ぐらいの小さな塊でも、ノウミィにとってはバスケットボールだ。僕だって、バスケットボール並みの大きさのおにぎりを出されると、それを完食するのはちょっと厳しい。

聞いたところ、土の妖精は土しか口にすることはなく、他のものを食べたり水を飲んだりする必要はないらしい。ノウミィにとって、土は味も食感もいい最高の食料なのだそうだ。しかし、ノウミィの食事の様子を見ていると、美味しそうに食べている、というよりは、少し無理をして限界の量を食べているように見えた。それほど、早く成長したいのだろう。


確かにこんな小さい体のままじゃ、いつ命を落とすかわからないからね。


そんなノウミィの食事を見ていると、ブゥが鼻を鳴らしながら僕の腕を前足で叩いた。


「あぁ、ごめんねブゥ。うん、吸っていいよ」


袖を捲って腕をブゥに差し出す。すると、ブゥは嬉しそうにガブッと腕に噛み付いた。噛み付いたと言っても、ブゥには小さな鋭い歯が2本あるだけだから、痛みはあまり強くない。それでも痛いのは痛いんだけどね。

例えるなら、注射のような、我慢できないほどではないけどしっかり感じる痛みって感じかな。


ブゥは血を3秒ほど吸うと口を僕の腕から離し、けぷっと息を吐き出した。んぶぅ とご機嫌に鳴いて、口の周りについた血をベロで舐めとっている。満足したのか、とても幸せそうな顔をしていた。


「驚いたわ。血を吸ってこんな風になるラビット族は初めて見た。」


ブゥの様子を見ていたノウミィは、食事の手を止めて目を丸くしていた。


ん?ブゥは何か特別な感じで吸血してるのか?


ノウミィが言うには、ラビット族が血を吸った後こんな表情をしているところは見たことがないらしい。ラビット族の子どもは力が弱いため、大人が狩ってきた動物や死んで間もない動物の死体から血を吸って生きている。ノウミィはそんなラビット族の子どもを何度か見かけたことがあるようなのだが、こんな嬉しそうな表情をしているものなんていなかったという。


「そもそも、別の種族のものと一緒に暮らしながら一個体の血を吸い続けるラビット族なんて、聞いたことがないもの。」


本当、不思議ね。

そう言ってノウミィはブゥを見た。ブゥはノウミィの言葉がわからないようで、何か気にするようもなく口元を前足で拭っていた。


「お前がとっても美味しそうに僕の血を飲むんだってさ。お前は本当に僕の血が好きなんだなー。」


ブゥの頭をワシャワシャと撫でると、ブゥは嬉しそうにんぶぅと鳴いた。

あー癒される。このもふもふ。僕にとても懐いてくれるとこも果てしなく可愛い。ずっと撫でていたくなるな、こいつ。


「…ねぇ、あなたの血って、そんなに美味しいのかしら?」

「え?」


驚いて顔を上げると、ノウミィが僕の腕のところまで飛んできていた。そして、僕が止める間もなく、ブゥの噛み跡から滲む僕の血を小さな指で掬い取り指をパクッと口に入れた。


「ノ、ノウミィ!?」

「…っ!これは…!」


ノウミィは指を口に入れたまま驚いたように目を見開いた。


「あなた、これって…」


ノウミィが何かに言いかけたその時、下からブワッと風が吹いた。ブゥが驚いて僕の隣でぴょんと跳ね上がる。


これは、もしかして…。


恐る恐る周りを見ると、予想通り僕とノウミィの周りを囲むようにして光の輪が現れていた。

ブゥに初めて血を吸われた時にも現れた、謎の魔法陣だ。


「うっわ、また出てきた!」

「こ、これはなに!?なにが起きてるの!!」



ノウミィが焦ったように声を上げる。

けれど、僕もこの現象がなんなのか、さっぱりわからない。ブゥも慌てて僕らの周りをトコトコと走り回っているが、どうすればいいのかはブゥにもわからないらしい。


そうこうしている間に、光の輪は光を強めながらぐるぐるとまわる。そして、カッと強く光ったかと思うと、僕とノウミィとの間に光が集まっていき、その光が小さな褐色の石へと変わって空中に浮かぶ。

すると、地面から吹き上げていた風がフッとおさまり、石が地面に落ちた。


まーただよ…。これはいったいなんなんだ。


ノウミィは先ほどの光景に呆気にとられたのか、口をポカンと開けたまま固まっている。ブゥが心配そうに僕の体にすり寄ってきた。


「大丈夫だよ、ブゥ。なんともないから。」


ブゥの頭を撫でてやり、地面に転がった石を拾う。それは、宝石のように美しい褐色の石だった。

ローブのポケットから前に魔法陣が出た時に手に入れた黄色い石を取り出して見比べてみると、2つの石は異なった形をしていた。

黄色の石は丸みを帯びた平たい円形をしているのに対して、褐色の石はひし形を立体にしたような八面体だ。しかし、指の爪ほどの大きさで、表面は磨かれたようなつるりとした手触りはどちらの石も同じだった。


「今のは、いったい…」


放心状態だったノウミィが、少し気を取り直したのか、ぽつりと呟いた。

んー、僕もなんて説明したらいいのかわかんないんだけどな。

なんて説明しようかと頭を悩ませていたその時。

ぐうぅーーっ、と空腹を知らせる腹の音が盛大になった。


「…えっ?」


ノウミィは驚いて自分の腹に手を当てた。

するとまた、大きく腹が音をたてた。



「…私、お腹が空いたわ。」



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