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『まだ慣れない』


 姫だった。私、姫だった。


「姫って言われてもピンと来ないと言うか……。作法とか厳しいの!? 屋敷に閉じ込められたりすんの!?」


 そんな生活、私耐えられないからな! もしそうなら、意地でも咲山さんに元の世界に戻る方法も見つけ出させて、さっさと元の世界に帰ってやるから!


「ああ、大丈夫です。御子様は俺の授業以外、決められてすることは特にないですし、長家と直家の中でしたら好きに歩いて構いませんから」


 南雲は縁側に座ってのんびりと言う。

 そう、なの? なんか、ここの……仙狐族だっけ? 仙狐族の姫って随分ゆるいんだな。さっきもあっさりと連れ出されたし。

 

「……俺の授業?」

「はい。教育係ですからね、俺」


 そういえば、そんなことを言われた気もする。ナツも……誰だっけ、誰かの授業が始まるって言ってたわ。ナツと私の教育係は別なのか。


「で? 教育係って何教えてくれるの」


 すると南雲は、そうですねぇ、と考える素振りを見せて、私の前に手のひらを差し出した。

 何、教えて欲しけりゃ金払えってか。


「金なんて持って……」

「ここ、見ててくださいね」


 南雲の手のひらの上が白く霞み始める。

 なんだ、金じゃ……、っ!?

 ぽっかーんと口を開ける私の前で、白い霞は集結を始め、やがて手のひらと同じくらいの大きさの雲が、そこに現れた。

 南雲がくいっと中指を曲げると、雲は生き物のように動いて形を変え、白い九尾の狐になった。


「これが俺の秘術で、雲の力です。南、雲。ほら名前に雲の字が入っているでしょ? 仙孤族は自分の名前に入った文字の、秘術の力を使うことができるんです」


 狐型の雲の上に、新たに現れた雲が《南雲》の文字を作る。

 まだ訳がわからないという顔をしていた私に、南雲は次々に文字を作ってみせる。


「火夏様は火、咲山様は今は違いますが嘗ては山の力をお持ちでした。それと火夏様の教育係の李雨は雨の力ですね」


 火夏、咲山、李雨の文字がそれぞれ宙に浮かぶ。


「じゃあ私の名前も……」

「はい。……えっと」

「は、る、かっ!」


 ほんとにこいつは人の名前を覚えないなっ!

 ふいっとそっぽを向いてみせると、南雲は一瞬悲しそうな顔をした……? が、すぐにへらっと笑って名前の形の雲を全て消す。


「御子様の秘術は火夏様と同じ。火の力です」


 ……なんだったんだろう。

 あ、いやいや、南雲のことなんてどうだっていいんだけど!


「私の秘術、ね」


 火の力。南雲の説明だと、春火だから火か。

 ナツと同じったって、ナツが秘術を使っているところを見たことがないから、全くイメージが湧かない。

 私がピンときていないのがわかったのだろう、南雲は軽く笑って、今日はまだ秘術は使いませんよ、と言った。


「秘術の使い方もいずれ教えます。今日はその前に、仙孤族の正式な挨拶の仕方、ですね」

「正式な? 挨拶?」

「はい。御子様、俺が咲山様の前で御子様にした挨拶、覚えてます?」


 挨拶、挨拶……。あの時は南雲の存在感がとにかく強くて、その他のことはあんまり覚えていないというか。


「あー……あれだよね、雲のなんたらってやつ」


 すると南雲はにっこり笑う。

 

「そうです。俺の場合……あ、見たほうが早いですね」


 そしてパッと狐の姿になりやがった。

 出かかった悲鳴を必死に押し殺す。慣れろ、慣れるんだ。帰れないのなら、なんとか慣れてしまうしかない。

 巨大黒狐の南雲が私の方へ顔を近づける。ちょ、寄るな。怖い怖い怖い怖い。


「仙孤族の本来の姿はこっちで……」


 きっと体格差があり過ぎるから屈んでくれている状態なんだろうけど、近い! 牙が!


「仙孤によって尾の数が違うんです。御子様の尾は9つですが……ほら、俺のは6つ、六尾です」


 恐怖に負けてへちょっと潰れていた子狐な私は、薄眼を開けてなんとか確認する。

 ふさふさの黒い尻尾は……いち、にぃ……確かに6本だった。


「九尾は長の家系にしか現れず、それ以外の仙孤はそれぞれ1から8の尾を持っています。一般的には、尾の数が多いほど秘術の力が強いとか言いますね」

「じゃあ、あんたは微妙なとこじゃん……」

「五尾より上はほとんどいないんですっ。だからいいんですっ」


 いや、あんたが拗ねて見せたって、ちっとも可愛くないし。

 

「で、この尾の数と秘術とを使ってするのが、正式な挨拶です。俺の場合だと、雲の六月」


 また雲が空中に文字を書く。

 南雲のこの秘術ってちょっと便利だよな。漢字があるとわかりやすい。


「六月……ああ、雄が月で雌が華だっけ? なんかそんなこと言ってたな」

「はい。さすが御子様です。よく覚えてましたねぇ」

「まあ、ついさっきだしね」


 ふむ、今まで南雲が話したことをまとめると、正式な挨拶ってのは、自分の秘術とその強さを相手に証明する手段ってとこか。

 

「じゃ、私だと火の……きゅう、はな?」

「惜しい。九の華で九華くかですね」

「ぬ……」

 

 そこで南雲が人の姿になったので、ほっと息を吐く。この姿の南雲は腹が立つだけでちっとも怖くはない。

 くか、くか、と繰り返す私に、南雲は目を細め、なんだか少しほのぼのとした空気が流れていた。


「んー、それじゃ、ナツだったら」

「南雲っ!」


 突如、襖が勢いよく開かれるまでだったけど。



説明回になってしまいました。

主人公が動物嫌いなせいで、なかなかもふもふ要素が出てきませんね…。

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