プロローグ
第2章開始です
彼がこの世界、コーズエフェクトに来る前のお話し。彼はとある世界のとある小隊の隊長だった。401独立小隊。今ではもう薄れてしまった記憶に色濃く残るリザと静乃、2人の女。リザの居場所はわかっている。〈フリージア〉の中だ。じゃあ静乃は? きっとこの世界のどこかにいる。そんな予感がした。
○
「戦力の増強。拠点の確保。エージェントの用意。フリージアと俺の記憶。課題が山積みだな」
〈フリージア〉パイロットの霧島奏は溜息を吐きながらソファの背にもたれかかった。
「この際君に関する事は除外しよう。現時点でも特に問題は無いしねえ」
奏の目の前のソファに腰掛けていたラナが資料を指さしながら言った。
奏の目の前に座るラナ・アークライトはいわゆる天才と呼ばれる人種だった。およそ彼女に出来ないのは運動くらいのものだった。
25才とは思えない程の小さな身長に似合わぬ巨乳。ダボダボの白衣を纏った姿はアンバランスだったが彼女を的確に表現しているように思えた。
「そうするか。だが、義経とレオリオが仲間に加わってくれたの嬉しい誤算だった」
レオリオと義経は先日行われたラインの乙女作戦に急遽参加した2人だった。
魔法生物と呼ばれる人類の敵に唯一対等以上に渡り合えるオリジナルジャンパーと呼ばれる異世界からの転移者。オリジナルジャンパーと呼ばれる者はオリジナルと呼ばれる人型機動兵器と共に転移してくる。それがオリジナルジャンパーと呼ばれる所以だった。それ以外の転移者はノーマルジャンパーと呼ばれていた。
「そうだねえ。片桐君達が相当やつれてたよお」
片桐鳴介は奏達が所属する組織ラケナリアの交渉人だった。彼が主に他組織からの任務を請け負い等、組織の様々な問題を解決していた。
「おまけにオーディエンスとはお互い仲良くしましょう協定まで結んできてるしな。片桐さまさまだ。これで実質アヤも俺らの仲間だ」
アヤ・オルコットはオーディエンスのオリジナルであり、先の作戦で奏の仲間になると口約束した間柄だった。
「おおむね君の思い通りに進んでると言えるねえ」
「まあな。グラジオラスはお釈迦になったけどな」
「ふっふっふっー。君は私を誰だと思ってるんだい?」
「ちんまい巨乳女」
「君は本当に失礼な人間だな。まあいいや。だいぶ前にダニガン君の機体を接収しただろう?」
「あーあったな。3流パイロットに3流機体。ほとんど記憶から消えていたぜ」
「あれね、バラしたんだよね。それでー使えるパーツだけよって、新しい機体を作ってみたんだよお。アザミ用に調整してある」
「え? 私?」
奏の隣に座り、その豊満な肉体を押し付けていたアザミがいきなり話しをふられた事に少々驚いた様子で言った。
「そうだよお。君用に後方支援武装をたんまり積んである。ほとんど新開発の装備だよお」
「へえ。ラナの開発した機体なら期待出来そうだな」
奏がテーブルに置かれたトロピカルジュースを飲みながら言った。
「ありがとう。機体名は?」
「ナハティガル。汎用性を重視したから補給用にも前衛用にも支援用にもなんでも対応出来るよお」
「流石ね。ラナ」
「じゃあ私はやることあるから戻るよお。近い内に誰かにミッションが言い渡されると思うから今の内に休暇を楽しんだ方がいいよお」
「そりゃ素晴らしい。レオリオと遊んでこようかな」
「あ、そうそう。君には龍之介との会談が残っているのを忘れずにい」
「だってよ、アザミ」
「あなたの話しをしてるのよ」
「ちっくしょう。そんなに俺の代わりにおっさんと話しがしたいなんてな。しょうがない、ラナ、今回はお前に譲ってやるよ」
「その内機動隊が君を捕まえに来るよお」
「問題無い。全員返り討ちにする」
「奏。行かなきゃだめよ?」
アザミが子供に言って聞かせるようにして言った。
「やだよお。僕おじさんのとこ行きたくないよお。ヤダヤダヤダ」
奏は床に寝転がってジタバタした。
「……君はそんな事をして恥ずかしく無いのかい?」
「死ぬほど恥ずかしいに決まってんだろ」
「アザミも大変だねえ」
「私はもう慣れたわ。ほら、ちゃんと起き上がって。ほこり取ってあげるから」
奏はアザミに言われた通り立ち上がった。
「嫌でも行かなきゃダメでしょ」
「へいへい。そんじゃ行ってきますよーっと」
そう言って奏は部屋を出て行った。
○
「あれ? なんでお前らまでいるんだ?」
龍之介のいる執務室を訪れた奏は、先客がいた事に驚いた。執務室にはレオリオと義経がいたのだ。
「お前こそ」
レオリオは気の抜けた表情をしながら言った。
「俺が呼んだんだ。まあ座れ。話すことは山程ある」
龍之介は奏に席に座る事を促した。
「まずは、霧島」
「あん?」
「てめえのせいでこっちは大変だったんだぞ」
「そりゃよかったな。俺のために仕事出来て幸せだろ?」
「ふざけやがって……! まあいい。オリジナルを3機も手に入れてきたんだ。それでチャラにしてやる」
「寛大な措置だな」
「今回お前らを呼んだのはこれからの話しをするためだ。俺達は国獲りをする」
小川龍之介はラケナリアの代表だった。彼がこの組織の最高責任者であり、ラケナリアの行き先を決めていた。
「嫌だ。俺は縛られるのが嫌いなんだ。いい加減この世界にも慣れてきたしな。好き勝手やらせてもらう」
「最後まで話しを聞け。これは取引だ。俺達はお前達にミッションを言い渡す。それを達成すれば今度はお前達の要求を俺達が聞く。どうだ?」
「……自分は魔法生物を討伐出来ればそれで問題無い」
義経がさして興味が無い風に言った。
「1つ聞きたい。要求はどの程度まで聞き入れられる?」
「可能な範囲でだな。もちろん俺達も最善は尽くすが無理な事もある」
「オーケー。取引成立だ。アザミ達には俺から伝えておく」
アザミとメリダがこの場に呼ばれなかったのには訳があった。2人は奏がやると言えばやるし、やらないと言えばやらなかったからだ。
であれば、無用に人員を増やして話しを混乱させるよりも奏という代表を納得させれば話しは収まると龍之介は理解していた。奏もまた龍之介のその考えを理解していた。
「え、ちょ、オレは?」
「レオリオの意見は誰も聞いてない。どっちみちお前は俺につく予定だったんだろ?」
「そりゃそうだけどよ。もっとなんかあっただろ」
「例えば?」
「オレを動かしたかったらこれを用意しろ、とかさ」
「だから今話してただろ」
「そうじゃねえよ! オレもやりたかったんだよ!」
「ああ。わかったわかった。今度機会があったらお前にやらせてやるよ」
「ホントだな?」
「ああ。ホントだって。機会があればな」
恐らく訪れないであろう機会に思いをはせているレオリオを横目に、奏はこの取引を最大限に活かす方法を考えていた。義経もまた、刀を手に目を閉じ、自身の身の振り方を考えていた。
ブックマークが消えて涙がちょちょぎれそうになりました。




