エピローグ
パーティに参加する気になれず、かと言って後処理をする気にもなれなかった奏は、ほとんどを高坂に押し付けて格納庫に来ていた。
整備員を含めた組織内のほぼ全ての人がパーティに参列していたため、ほとんど人の姿は見られなかった。
奏は直立不動の姿勢で固定されている〈フリージア〉を見上げた。確かに折られたはずの左腕は修復されていた。それどころか、機体には損傷と呼べる損傷は無く僅かに汚れているだけだった。
AIであるリザと奏の記憶に在るリザ。いきなり上がった機体の出力。機体が勝手に直っている事。一度疑問を持つと消える事は無く次々と湧き上がっていった。
リザはどうしてあそこにいるんだ? 記憶の中の最後の姿は共に〈フリージア〉に乗って出撃した所だ。その後、きっと何かが起きたはずなんだ。どれだけ頭を捻っても奏は思い出す事が出来なかった。
「リザ……」
「哀愁漂う背中をしているねえ」
奏は後ろから聞こえてきた声に気づくと振り返った。ラナだった。
「戦闘ログを見たよ。大方リザの事だろう?」
「まあな……」
「安心したまえ。ログは私以外見ていない。アザミにも口止めをしてきた所だ」
「そうか」
「らしくないねえ。フリージアにリザがいた事がそんなにショックだったのかい?」
「俺だって考えこむ時ぐらいあるさ。特に記憶関連じゃな」
「チップはもうほとんど直ってるはずだ。後は君が心理的ブロックを掛けているんだろうね」
「心理的ブロックねえ」
「何か思い出すのに必要なきっかけがあるのか。あるいは……」
「……」
「大きなトラウマを抱えているとかね」
「……」
「アザミがやられそうになった時の君の取り乱し様は尋常じゃなかった。冷静な判断が出来ていなかったと言い換えてもいい。私にはそれがどうも……」
「もういい」
「おっと、何か気に障る事を言ったかなあ」
「……」
「何にせよ、今回の出来事はフリージアの事を知る上でとても大きな分岐点だ。そして、恐らくこの世界にとってもね」
「……」
「何か反応を返してくれないと寂しいじゃないかあ」
「いいから続き、話せよ」
ラナは一度肩をすくめてから再び話し始めた。
「この間の輸送車両の護衛任務。あれと今回の出来事は間違いなく繋がっている。そして、多分ここもね」
ラナは下を指さした。
「ここ、何かを隠してるよ。代表とそれに近しい誰かしか知らない何かがあるはず。そうじゃなきゃ魔法生物は訪れない。魔法生物にしたってそうだ。君がこの世界に転移してきてから初めて知性があるらしき行動をとった。それまで一切そんな素振りは見せていなかった。少なくとも記録上はね」
「全部俺が関係してるっていうのか?」
「そこまでは言って無いよ。だけど、君は既に事態の中心では無いにしろその環に囚われている。君の周りに集まっているオリジナルジャンパー達。いいや、私も含めて君と深く関わっている人間は間違いなく本来とは違う道を歩んでいるような気がする」
「例えば、アザミはあの時騎士型に殺されていたはずだった、とかか」
「流石に頭が回るね。今の段階では全てが仮説に過ぎない。でも、私は思うんだ。本当はこの世界は既に滅んでいたはずだったんじゃないかってね」
「もういい。沢山だ。楽しい話しをしよう」
「ふふふ。私に楽しい話しを求めるとは君はやはり面白いねえ」
「だろう? つっても、お前と俺が話す事なんて限られてるけどな」
「そうかなあ? 私が君のハーレムに加わるって言ったらどうする?」
「もちろん大歓迎だ。チビで巨乳でおまけに天才とくれば言う事は無い」
「まあ元々私は君に付いて行く気だったけどねえ」
「そうだったな。だがもう少しだ。まだ足りない。情報に、戦力に、何よりも拠点が必要だ。今回の戦闘でわかった。魔法生物はオリジナルが束にならないと滅ぼせない」
「君が3大組織のどれかを貰ってきてくれた少なくとも拠点の問題は解消するけどねえ」
「まだ無理だな。しばらくはせせこましくしょぼい任務をこなすさ。お前を頼りにしてる」
「愛してるよお。霧島奏君」
ラナはダボダボの白衣ごと手を差し出した。奏は差し出された手を握り返し、こう言った。
「俺もだ」
第一章完結です。
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