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ランページコンプレックス~君のいた世界~  作者: アキノタソガレ
awakening
27/37

私を信じて

ブックマークが増えたり減ったりします。何故なんでしょうか?

「なんだ? 後方から敵が流れてきているな」


 最初に異変に気付いたのはメリダだった。次いで義経、補給を終え戦闘を開始していたアヤ、オペレーターの高坂と異変の気付きは流れていった。


「どうなっている?」

 メリダが高坂に言った。


「後方にいる霧島さん達と連絡が取れなくなっています。今何度もコンタクトを試みているんですが、ダメです」


「レーダーにも障害が出ている。新種か?」


「その可能性があります」


「私が行こう。騎士型の数も減った。肥満型相手ならイミテーションでもなんとかなるはずだ」


「わかりました」

 言って高坂が通信を全体通信に切り替えた。

「マニュアルに従い、この時より指揮権は私に移ります。作戦変更! エウラリアはフリージアの援護に、残ったオリジナル及び量産機部隊は後退しつつ残敵の掃討にあたってください!」


「了解!」

 各機から声があがった。


 第一線を離れ、まばらに散らばる魔法生物を切り捨てながら奏の許へと向かっているメリダは言い知れぬ不安を抱えていた。否、恐怖と言ってもいいかもしれない。


 自身の知る内でもっとも強く正義感に溢れる男性である霧島奏が万が一、あり得ないとは思っているが万が一撃墜されていたとすれば? 自身では敵うはずが無い。


「ん?」


 レーダーが友軍機の反応を捉えた。〈グラジオラス〉と〈ナルキス〉だった。メリダは急いで2人の許へ向かった。


「メリダ!」

 アザミがメリダの姿を確認し、安堵したように言った。


「そちらも無事のようだな。連絡が取れなかったのだが、何かあったのか?」


「未確認の魔法生物が現れたの。危険だからって、私とレオリオを下がらせたんだけど、さっきから連絡が取れないの。私が行くわ。ここは任せるわよ!」


「わかった。気を付けろ。レオリオ、前方部隊に敵が流れ始めている。食い止めるぞ」


「あいよ! 姐さん!」


 メリダとレオリオが魔法生物に切りかかっていった。


 交戦中の2人を尻目にアザミは可能な範囲で敵を避けて奏の許へと向かっていた。


 近づけば近づくほどレーダー障害は酷くなり、ついにはメリダ達とも通信が取れなくなった。


「待っていて……奏」


  ○


 奏は眼前の魔法生物を油断無く見据えていた。新種の魔法生物だった。恐らくはタワーから出てきたのは今回が初めてだろう。


 人型に近いシルエットは騎士型や武者型に似ていた。スラリと伸びた手足の先には鉄を容易に切り裂きそうな鋭い爪が生えており、ヌメっとっした尾は妙な光沢があった。両の手には有機的なハンドガンを構え、腰には漆黒の刀がぶら下げてあった。この魔法生物を呼称するならば武装型がというのが一番しっくりくるだろう。


 武装型は奏の姿を確認してすぐに背中から粒子を振りまいた。それが何なのかはわからなかったが、何を意味して振りまかれたのかはすぐにわかった。通信の妨害とレーダーノイズ。武装型は奏に仲間と連絡を取れない状況に置いたのだ。それは確実に知性がある事を意味していた。


「おーおーいっちょまえに武器なんて持っちゃって。ボスの風格漂わせてんな」


 奏は軽口を叩いていたが、その目は油断無く武装型の一挙一動を観察していた。その証拠に、奏は武装型に遭遇してすぐにレオリオとアザミを逃した。酷だが、彼らでは自身の足手まといにしかならないという事を一瞬で察知したからだ。


『奏。わかっているとは思いますが』

 リザが言った。


「みなまで言うな。悲しくなる。どうして俺はいつも強敵と戦う時武装が貧弱なんだ……」


 武装型が現れたのは〈ナルキス〉が換装を終えた直後だった。〈フリージア〉も換装を行おうと補給ヘリに乗り込もうとした瞬間にヘリが撃ち落とされたのだ。


 いち早く危険を察知した奏は、レオリオからエネルギーショットガンを受け取ったが、当然補給ヘリが無い状況でレオリオから武装を全て奪う訳にもいかず〈フリージア〉の装備は現在、エネルギーショットガンとシールド機能付きのレーザーブレードだけだった。


「ホント……ヘビーな状況だぜ。あの時と違って撤退も出来ないしな」


 武装型がまるでこちらの力量を図るかのごとくその黄色の目を細ませながら手に持った有機的なハンドガンを構えた。奏もそれに(なら)いゆっくりとエネルギーショットガンを構えた。お互いの武装がお互いを狙っていた。


 先に仕掛けたのは武装型だった。左側にサイドステップをしながらハンドガンを撃った。発射された弾は到底金属とは程遠いもので、例えるならば貫通力を持った水だった。もっとも、着弾した地面が融けている辺り水では無いのだろうが。


 次に仕掛けたのは奏だった。武装型の攻撃を右側のサイドステップで避け、エネルギーショットガンを放った。しかし、距離が遠かったのか、それとも武装型の外殻が硬いのか、いずれにせよ武装型は傷ひとつ負っていなかった。


「ひゅーう。流石。リザ、増加装甲全パージ」


『了解』


〈フリージア〉の体から灰色の増加装甲が消えてなくなり、白と青を基調とした機体が現れた。


〈フリージア〉がブースターを吹かした。武装型の周りを旋回しながら、徐々に距離を詰めていく。旋回速度を一時的に遅める。武装型がその作られた隙を狙って両の手に持った有機的なハンドガンを放った。


 それこそが奏の狙いだった。放たれた黒色の弾丸を紙一重で回避し、一瞬にして距離を詰める。限りなく接近する事に成功した。


「ねんねの時間だ」


 奏はトリガーを引いた。エネルギーショットガンを連射する。砲身を通って発射されるエネルギーの粒が命中するたびに視界を遮る光が発生した。だが、何かがおかしい。確かに当たっている音はしている。しかしこの音は何だ? まるで受け流されているかのような……。


 連射をした事によって砲身が熱を持ってしまった。このままでは熱で砲身がひしゃげてしまう。奏はトリガーから指を外した。


 光が無くなり視界が広がった。そこにいるはずの融けた武装型の姿しかし――

「無傷!? そんなバカな!」


 たじろいた奏に武装型は蹴りを入れた。スラリと伸びたキックボクサーの脚を彷彿(ほうふつ)とさせるそれから発せられた威力は〈フリージア〉を吹き飛ばすには十分過ぎる程だった。


「がはっ!」


『腹部装甲半壊』

 リザが冷静沈着に今の攻撃による損害を告げた。


「一撃でこれか。なんでだ、なんで効いて無いんだ」


 吹き飛ばされ、地に横たわっている機体を起き上がらせる。


 当たりどころが悪かっただけ、今度はそうはいかない。そう自身に言い聞かせ、奏は先程と同じように武装型の周りを旋回し、徐々に距離を詰めた。そして、今度は背中にエネルギーショットガンを連射した。が、結果は同じ。それどころか限界越えた使用によりエネルギーショットガンの砲身がねじ曲がってしまった。


 武装型も何度も同じ手を食らう気は無かったのか、攻撃自体は避けなかったが、先程とは比べ物にならない早さで反撃に移った。


「まずい!」


 とっさに砲身の曲がったエネルギーショットガンを盾にしたが、武装型の肘打ちはそれを破壊するに留まらず、右腕の装甲を破壊しながら再び〈フリージア〉を吹き飛ばした。


「ゴッホゴホ。クソが! なんつー衝撃だ。リザ、レーザーブレードにありったけのエネルギーを回せ。壊れてもいい」


『了解。使用リミットは30秒。それを超えるとレーザーブレードが破損します』


 許容量を超えるエネルギーが供給されたレーザーブレードが赤熱し始めた。


 奏は被弾覚悟で正面から武装型に突っ込んだ。武装型はハンドガンを脚のホルスターらしき場所に挿し、ゆっくりとした動作で腰から漆黒の刀を抜き取った。


 奏が武装型に斬りかかる。武装型もそれに合わせ、漆黒の刀を振るった。レーザーブレードと漆黒の刀がぶつかり合った。


 周囲の空間が歪んだ。漆黒の刀が徐々に赤く熱せられ始めた。後少し。漆黒の刀にヒビが入った。


(行ける!)


 ブースターを吹かすと漆黒の刀が折れた。勢いそのままにレーザーブレードが武装型に接触した。だが接触しただけだ。刀よりも硬い外殻は赤熱する事も無かった。


 奏は懸命にレーザーブレードを武装型に押し付けたが、どれだけブースターを吹かしても外殻にヒビを入れるどころか、武装型をその場から動かす事すら出来なかった。


 やがてレーザーブレードが限界を迎えた。各所から煙が上がり、徐々にその刀身が細まり、ついに消えた。


 それを確認した武装型は〈フリージア〉にヘッドバッドをかまし、上体が仰け反った〈フリージア〉を足払いで地に組み敷いた。


「終わり……か……。すまんな、皆。ここで終わりみたいだ」


 武装型が刀を構えた。漆黒の切っ先が〈フリージア〉のコックピット部に突き立てられる。武装型が腕を上げた。漆黒の刀身が〈フリージア〉に飲み込まれるかと思われたその瞬間、横から放たれたバトルライフルがそれを阻止した。


「奏!」


「アザミ! なんで来た! 早く逃げろ! お前じゃ無理だ!」


「そうね。あなたが勝てないんだものね。でも……!」


〈グラジオラス〉が右腕のバズーカを放った。同時にバトルライフルも武装型目掛けて撃つ。全弾命中した。が、やはり当たっただけだった。爆風から悠々と歩いて姿を表した武装型は傷ひとつ負っていなかった。


「っ! 厳しいわね」


〈グラジオラス〉が両手のバズーカとバトルライフルを連射した。背中に背負った誘導ミサイルも後の事を考えずに全弾発射した。


「無理、よね……」


 アザミは武装型を倒す事を諦め、奏が逃げる時間を少しでも稼ごうとした。が、機体の出力が上がらない。


「そんな!? こんなタイミングで!」


 先の戦闘で〈ダーナ〉に傷つけられたジェネレーターが停止したのだ。時間を置いた事でなんとか騙し騙し使える程になっていたのだが、ついに限界を迎えたようだった。


 アザミはジェネレーターの再起動を試み、計器類を操作したり、レバー類を引いてみたが、願い虚しく〈グラジオラス〉は一切の反応を返さなかった。


 武装型が黄色い目を光らせながら近づいて行く。


「やめろ……やめてくれ!」


 奏がアザミに近づいて行く武装型に殴りかかるが、一切相手にされなかった。


 ついに武装型が〈グラジオラス〉の許へとたどり着いた。刀を振り上げる。振り下ろされる腕を奏は懸命に押しとどめた。関節が悲鳴をあげていた。


 嫌な音がした。武装型を押しとどめていた左腕が肘から逆の方向に折れ曲がった。


 刀が振り下ろされた。最初は脚。次いで頭。〈グラジオラス〉が見る間に破壊されていく。


「いやああああああ」


 アザミの悲鳴がこだました。


「やめろおおおおお」


 奏が折れた腕を顧みず武装型の腰に抱きついた。武装型が鬱陶しそうに刀のつばで〈フリージア〉を地面に打ち付けた。


 衝撃が走った。コックピット内のホロウィンドウが様々な警告を表示していた。


 武装型が〈グラジオラス〉のコックピット周辺の装甲を(もてあそ)ぶように剥がし始めた。


 瞬間、奏の時間は普段の何倍にも増幅された。人は生命の危機に陥ると今までの記憶を高速で振り返り、事態を好転させる方法を探す。今まさに奏の身にそれが起こっていた。


「言ったでしょ。私を信じてって」


 奏の目の前に在りし日のリザが現れた。それはいつかのリザの言葉だった。


『事態をレベル1と判断。モードをサブステンショナルゴーストに切り替え。バディドライバ、イニシャライズ』


「何だ? 何が起きてる? 答えろ、リザ!」


〈フリージア〉が1人でに立ち上がった。〈グラジオラス〉の装甲を剥がしている武装型の腕を握る。肉と骨がひしゃげる音がした。あれ程硬かった外殻を物ともせず、簡単に武装型の腕を握りつぶしたのだ。


「クシャアアアアアア」

 武装型が悲鳴を上げた。


〈フリージア〉は腕を握りつぶすだけでは飽きたらず、握りつぶした腕を引きちぎり、蹴り飛ばした。


「奏。久しぶり。会いたかったわ」


 それは記憶にあるリザの声そのものだった。


「リザ!? どういう事だ。説明しろ。なんでお前の声がする? それになんでフリージアが勝手に動いた?」


「説明は後。そこにいる子を急いでコックピットに収容して」


「くっそ! 後でちゃんと説明しろよ!」


 奏が〈グラジオラス〉のコックピットからアザミを掬い出し〈フリージア〉のコックピットへと導いた。


「お疲れのところ悪いんだけど、奏の後ろの席に座って」


「え? あなたは?」


「リザよ。いいから早く。あいつが動き出すわよ」


 アザミが奏の後ろの席に座った。


「いい? あなたは何もしなくていいわ。ただそのレバーを握っていて。後は私がやる」


「え、ええ」


 リザに言われた通りにアザミがレバーを握った瞬間機体の出力が大幅に上がった。


「いいわ……シンクロ値が高い。奏! ポテンシャルを調整するから、極力機体を揺らさないで!」


「そうは……言っても。敵さんやる気満々だぜ?」


 武装型は痛みに怒りを露わにしていた。蹴られた腹部の外殻はヒビだらけになりへこんでいた。おまけに右腕も肘から先が無いのだ。恐らくは相当な痛みを感じているのだろう。


「あなたなら出来るでしょ! いいからはいって言う」


「はいはい」


「はいは一回!」


 武装型が刀を手に高速で接近してきた。本来であればサイドステップやブレード等で応戦するのがセオリーだが、今はそのどれもが出来ない。であればやる事は1つ。敵に背を向けて全力で逃げる。


 アザミが乗り、出力が2倍以上に上がった〈フリージア〉の速力は異常とも言えた。圧倒的なスピードで武装型を振り切り、立ち止まって振り返る余裕すらあった。


「調整完了! いいわよ、奏! やっちゃって!」


「やっちゃってって言われても武装がねえんだよ」


「あなたそんな事まで忘れてるの? いい? 2人共息を合わせて」


 アザミと奏が深呼吸をした。〈フリージア〉も2人に合わせるように胸を上下させた。


「イメージを固めて。敵を倒す武装の」


〈フリージア〉の背中に青い光の翼が生まれた。不思議な事に奏とアザミは同じものをイメージしていた。


「レバーを握って……押し出す!」


 青い光の翼から大量の線が武装型に向かって放たれた。翼から発せられた青い光の線は真っ直ぐに武装型に吸い込まれた。


 光が晴れた向こう側には、何1つ残っていなかった。


「すごい……」

 アザミが言葉をこぼした。


「当たり前よ。フリージアだもの」


「リザ、約束だ。どういう事か説明してもらうぞ」


「ごめんなさい。時間切れだわ。いずれまたきっと会う事になる。その時まで待ってて。もちろん奏が思い出す分には構わないわよ?」


 ホロウィンドウが現れた。文面にはこう書かれていた。『フリージア、ちゃんと直しておいたから。それと、リザに聞けば機体の事少し教えてくれるはずよ。また会える日まで。リザ』


「……」

 奏は何も言えなかった。


「ねえ。彼女、一体何なの?」


「……俺が一番聞きたい」


「……ん……さん!……霧島さん!」

 雑音まじりの通信が聞こえた。高坂からだった。


「良かったやっと繋がった。そちらの状況を教えて下さい」


「未確認の魔法生物を撃退。グラジオラスは大破。スクラップだ。アザミは生きてる」


「魔法生物達が撤退していってます。作戦は成功。私達の勝ちです!」


「りょーかい。通信全域で繋げ。俺が締める」


 高坂が奏の通信を全機に回した。


「作戦完了! 各機帰還しろ! 帰ったらパーティだ!」


恐らく次で第一章完結です。

メリダとイチャコラの方も書き進めています。

ブックマークしてくださっている方々に最大限の感謝を

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