【木彫りのハニーベア・終章:3】
ウルフェン族の村があった。
いやむしろ、村だったもの、といった方が正しいか。
もうもうと土煙が立ち込めている。建物は倒壊し、あたりには壊れたカゴや踏みつぶされた果物、ソレに戦いを仕掛けたのであろう、叩きつけられたモンスターの死骸などであふれている。
ウルフェン族たちの姿は死骸となってその骸を月の光に晒している。
村人たちは突如として現れた先祖返りに対抗するすべもなく、惨たらしい死を迎えた。
それをもたらした存在は、そこにいる。
一陣の風が吹き、土煙が晴れると、その破壊の中心にいる巨大な獣の姿を月の光が映し出した。
巨狼。
その体躯は村の建物ほどもある。
毛は長く、月の光を受けて白銀に輝き夜風にそよいでいる。
その隆起した筋肉に縁どられた肉体は迫力がありながらもどこか優美だ。
周りが瓦礫だらけになり、視界を遮るものがなくなったのを確認するかのようにぎょろりとした目で周囲を一瞥すると、満足げに遠吠えをあげる。
かつて神とされたヒヒイロカネのそれと同じく、それだけで瓦礫は細かく破砕されて砂になってしまった。
口は血にまみれ、牙にかつての同胞の残滓があっても。
それはロウガと呼ばれた者だった。
そんな、美しくも残酷な死へ近づくものが一人。
コゲツだ。
「美しい……やはりあなたこそ特別な存在なんだ。」
コゲツは耳から血を流し、それでもその表情は晴れやかだ。
今。ようやく自分はこの人のヒーローになれるのだから。
高々と腕を掲げる。その手には薬瓶が握られている。
「さあ!!」
巨狼は目の前の存在を一瞥すると、目を細め、その腕を食いちぎった。
「手前はこれであなたのヒーローになれる」
……その後は、まあ。
結局のところ、こういう物語というのは結末が決まっている。
他の何かを代償に何かを得ようとしてきた者は、最後に得ようとしたものすら支払うことになる。
マウスがコゲツに渡した薬はもちろん万能薬ではなく、毒薬だったし。
そもそもロウガのそれは毒でも呪いでも病気でもなく、まぎれもない体質なんだから、万能薬が救いになるわけがなかった。
すなわち苦しみが終わることを救いと呼ぶのならそれは死以外になかっただろう。
ロウガ自身はそれをよくわかっていたし。マウスも知っていた。
それを知らなかった、いやわかりたくなかったのはコゲツだけだ。
「なぜだ」
冷たく照らす月光の下。
残った片腕でもう動かないその人を抱きながら。
涙すらこぼれない。
「――」
コゲツは何か叫んでいる。
だが、その声を聞き届けるものはいない。
観測者はおらず、この物語はここまでだ。
もう終わったのだ。
この物語はこういう結末なのだと。
納得してほしい。
これ以上はない。
先はない。
実に合理的で、因果応報で、勧善懲悪で。
世界が頷くバッドエンドだろう。
さあ、これにて語り部は眠りにつこう。
悲しい、悲しい、報われぬ恋の物語――。
『それは間違っている。』




