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20/20

【サーモントラップは恋の味?!】ヨガとフリンジと私、愛する誰かのため、毎日監視していたいから~

前回のあらすじ:遂に始まった、昭和を全部乗せしたロコモコ浜田とパジュの異色デート!

花臣の「誘拐疑惑」から始まり、二人を尾行することになったラジたち。


果たして二人は、本当にお熱いデート中なのか!?

何だか面白くないラジと、静かに見守る規律、そして今日も今日とてピザに夢中なピ川さん。


個性大爆発の尾行チームは、パジュに気付かれることなく無事に捜査を完遂できるのか!

さらに、花臣の淡い想いも大爆発して……?!


波乱とときめきが混ざりに混ざった、ハーフハーフの第20話。どうぞお楽しみください!


「えっ、ここって……?」


 花臣の絶望に満ちた声で幕を開けた、最初のデートコースの目的地。

 三階建ての小さな商業ビルの二階部分、そのガラス窓にはでかでかと『ヨガ教室・米田(よねだ)』の文字が貼られている。


 おしゃれ女子の象徴のような『ヨガ』という文字の横に、英語でもカタカナでもない、日本古来の生活感あふれる『米田さん』の文字が肩を並べる。

 そのネーミングセンスからして、十中八九、高校生のピュアピュアな初デートには適さないインストラクターが待ち構えていると予測されるだろう。


 そんな怪しさと切なさと心強さをはらんだ場へと、先頭を行くロコモコ浜田から一歩ほど距離をあけ、パジュも淡々と足を踏み入れていく。


 そしてセンスという点では全く引けを取らない『フリンジヨガ誘拐事件・捜査一課』こと尾行チーム(ボス花臣・焼き場担当ピ川・解説者規律・その他ラジ)が、大通りを挟んだ向かいにあるバス停のベンチ、その背もたれの隙間から、立てこもり現場へと侵入していくターゲットの姿をジッと見張っていた。


「ねぇ、やっぱりどう考えても、これっておかしいよ……! 誰が初デートに早朝ヨガ無料体験レッスンを予約するの?! 常夏バカンス以外で、起き抜けヨガデートは、銃刀法違反だよ……」


「あのぉ……まぁ……チョイスの気持ち悪さは犯罪級ですけどぉ……。浜田君がヨガを習ってて、己の柔軟性とかでいい所を見せたいって線も、あるかもですしぃ……」


「……えぇ? ピシッと曲げた肘の角度が、九十度すぎて『L字定規みたい! 素敵! 好き!』ってなるってこと? いくら浜田君が下卑(げび)で、浅薄(せんぱく)で、凡愚(ぼんぐ)な人間だとしても……流石にそんなこと考えるかなぁ……」


「……どうでしょうか……ねぇ……」


……花臣さん、物凄いピュアな目で、致死量レベルの物凄い悪口を言ってるですぅ……!


しかも全然フォローになってないですぅ!

むしろ、そんなことを考える人間だと思ってもらった方が十億倍マシなくらいのヘイトですぅ……!!


「まぁ、あのぉ、黒瀬君はどう思いますぅ?」


 花臣の銃刀法違反どころではない、研ぎ澄まされた鋭利すぎるピュアヘイトにたじろいだのか、規律は助け舟を求めるように右横でしゃがみ込んでいるラジへと視線を向けた。その言葉につられるように、規律の奥にいた花臣もラジを見やる。


「…………」


 二人の視線の先、当のラジ本人は回ってきた解答権に気づいていないのか、気だるそうに立てた右ひざへ腕を乗せ、そのまま頬杖をつき、どこか遠くを見つめていた。

 いつもの無愛想で温度を持たないその瞳には、方向から察するに、ヨガスタジオへと伸びる外付け階段を上っていくロコモコ浜田とパジュの姿が映っているのだろう。


「…………」


……パジュ、ちゃんとついて行ってんな。


変異も変異だけど、あいつ、ただでさえ初めての場所は苦手だってのに。

一緒にいるのがよりによって、ミルクさんや俺でもない浜田だしな……。


いや、まぁ、あいつが浜田と出かけたわけだし、そこは大丈夫なんだろうけど。


 ラジは、その切れ長の目を細め、パジュの状態を把握する手がかりとなる特徴的な口元、そして手元へと視線を流す。


くそ、こっからだと遠すぎて、内弁慶ってるかどうかもよく分かんねぇな。

……うん、まぁ、普通に歩いてるし、手も――うん、服とか鞄の紐でモジモジしてる感じもねぇし、大丈夫か――。


「……あのぉ、黒瀬君、聞いてますぅ?」


「……え? あ、わりぃ」


 規律の二度目の呼びかけで、ようやくこちらへと意識が引き戻されたラジ。

 彼が左側を見やると同時に、花臣のピュアオーラに包まれた純真な笑顔と、訝しげに眉をひそめた規律の顔が視界へと入り込んでくる。


 再度、花臣より現在の重要項である『早朝ヨガデートの誘拐性』について問われ、そもそもヨガというものが映画館や水族館、遊園地といった定番デートスポットの候補地と同じ棚に陳列されるものなのか……という確かなる疑問がラジの脳裏に浮かんだ、まさにその時。


 花臣の右肩越しに、張り込みの必需品である飲み物などを買いに行っていたピ川がこちらへと歩いてくる姿が見えた。


「お待たピッツァ~! 腹が減ってはマルゲリータも焦げる~」


 筋という筋がグギッと隆起した両腕の先には、ガテン系の成人男性の四日分の食料が詰まっているであろう、みっちみちのパンッパンに膨れ上がった巨大なコンビニ袋が掲げられていた。

 彼女はそれを、まるでフリスク一個でも買ったかのような軽やかさでブンブンと振りながら、満面の笑みでこちらへと駆け寄ってくる。


「ピっちゃん、こっちこっち! ありがとう!」


「……ふぅ、まぁ、浜田くんの罪状は置いといて。とりあえず彼らが出てくるまで、ここで待つとしましょうか」


 ピ川の帰還と規律の言葉を皮切りに、捜査一課はわらわらと隠れ蓑から姿を現す。そして、これから始まる尾行に備え、そのベンチへとピ川、花臣の順番に各々腰を下ろし始めた。


 ピ川の膝の上に置かれたコンビニ袋を覗き込み、楽しそうに話している彼女たちの後方。背もたれの向こう側で、ラジは一人立ち上がったまま、無意識に心の糸を引かれていた。

 ロコモコ浜田も、そしてパジュも、もう誰もいないあの階段へ。


「……黒瀬君、今は座りましょう」


「……あぁ」


 花臣たちに気付かれぬよう、彼の心をそっと現実に呼び戻す、規律の小さな声と腰あたりにポンッと添えられた手。誰のどの思いをどこまで把握しているのか。規律のさりげない気遣いに促されるように、ラジと規律も静かにベンチへと腰を下ろした。



***



「それにしても浜田君は全く理解不能ですぅ! あの服装といい、デートプランといい、僕の中の最悪を全てにおいてアップデートしてますぅ」


 左から規律、ラジ、花臣、そしてピ川と横一列に腰を下ろし、左端に座る規律の膝の上には、ピ川から伝承されたであろうヘビー級のコンビニ袋がドンッと鎮座している。


 目の前の通りは人の往来もまばらで、ましてやバスを待つ客など来る気配すらない。四人で堂々とベンチを占領し、左斜め向かいのビルを監視するには、まさに打ってつけの場所といったところだ。


「恋愛アドバイザーである僕に事前にもっと相談すべきですぅ! ほんっとに信じられないですぅ! もぉっ……あ、では僕はこの鮭おにぎりで。はい、黒瀬君どうぞ」


「……あぁ、サンキュ」


 選び終えた規律から袋を受け取ると同時に、ラジはそのまま右横へと身体を流す。


「花臣とピ川は、どれ? ってか、割り勘つってもピ川が買ってきてくれたんだし、先に選んでいいよ」


「ピっちゃん、どうぞどうぞ、先に選んで!」


「えぇ~何でもいいピッツァけど~ならこれに――」


「あのぉ!!!!!!! ちょっと!!!!!!!!」


 袋へと伸びたピ川の右手を強制フリーズさせるように、規律の絶叫が高速で鼓膜を駆け抜ける。


「あのぉ、黒瀬君!!!! さっきジャンケンで左から順番に選ぼうってなりましたよねぇ!?!? そんなことされたら真っ先に取った僕が、ただ鮭に目がくらんだ『鮭ラブ・ノンデリ男』みたいになるじゃないですかぁ!!」


「……何だよ、『鮭ラブ・ノンデリ男』って。好きなもんあるなら、先に選べばって話だろ、別にお前に嫌がらせとか――」


「わざとですかぁ?! わざとこの僕をサーモントラップ、略してサモトラにはめたんですかぁ?! だったら、僕もキャッチ&リリースで、鮭おにを返納しますぅ!!」


 ラジの言葉を鉄壁のディフェンスで跳ね返し、怒涛の勢いで言葉を被せてくる規律。そのまま己の魚眼レンズを突き破らんばかりの凄まじい眼力で、ラジの顔面数センチの距離までグイグイと詰め寄ってくる。


「このサーモン事件ごときで、デリカシーの有無を問われるのは、前代未聞! 言語道断! 迷惑迷惑迷惑ですぅ!!! 圧倒的迷惑トリプルアクセルですぅ!!!!」


「…………」


……ックソ、どこでブチ切れてやがんだ!

ついさっきまで『良い男オーラ』ムンムンに醸し出しといて、激むずピンポイント地雷で爆発してんじゃねぇぞ!!!


おめぇの声量と怒りスイッチこそ前代未聞の言語道断だ、ボケェ!!


ってか、ピ川が可哀想だろうが!!! 見ろ、あの顔!!!

あんな優しいピっちゃんに、こんな切ない顔させんな!! 伸ばした手も――。


……あ、いや。ゴソゴソやってんな、これ。

ピっちゃん、悲しい顔を免罪符に指の感触で中身物色してんな……これ。


「私、鮭はいらないピッツァ~! このお水と塩おにぎりとクリームチーズ照り焼きマヨカツ・サンドイッチにするピッツァ~」


 ピザをはじめとした小麦系以外はあっさり派を貫くピ川の極端な嗜好に、ラジは若干驚かされつつも、「皆さんが鮭を選ばないことを知った上での、鮭おにぎりなんですぅ!」とブツブツ拗ねている規律を軽くなだめるように、足元にあった別袋から緑茶を一本取り出し、サッと手渡す。


「……ほら。って、あぁ、そういや、確か花臣も魚苦手だったよな?」


 規律の言葉をきっかけに過去の記憶が呼び起こされたのか、ラジはいつもの淡々とした表情と動きで、右隣の花臣へとコンビニ袋ごと体を向ける。


「……あぇ、うん、えっとね。えっと……」


 彼と視線がぶつかりそうになったその一瞬、花臣は瞳を宙に泳がせると、差し出された袋の口へと逃げ込むように、バッと勢いよく顔を伏せた。


「えっとね……その……。もう、食べられるようになったんだよ~」


 彼女の顔にかかる柔らかなおくれ毛。その奥に覗くのは、淡く甘い桃色に染められた頬と、こみ上げる想いを堪えるように、やんわりと噛まれた下唇。


 小学生の頃の給食で知ったであろう、自身の魚嫌い。それが他意のない記憶だとしても、彼の頭の片隅にある小さなひとピースを今日まで占めていたという事実が、彼女をたまらなく嬉しくさせたのだ。


 そして、その気持ちと同時に脳裏をよぎったのは、勢いよく袋を覗き込んだことで食い意地が張っている奴だと誤解されたかもしれないという羞恥と、その『報酬』でもあるかのような、ラジの右腕との近すぎる距離感への戸惑い。


 様々な感情が彼女の心の中をぐるぐると駆け巡り、もはや朝ごはんを選ぶどころではない花臣は、そのまま袋から顔を上げられずにいた。


「へぇ。いっつも泣きながら残してたからさ、食えるようになるんだな。――あ、俺、本当どっちでもいいから。花臣が好きなほう選んで」


 袋から一向に浮上してこない花臣を見て、彼女の寛厚な性格ゆえに、残った二つのサンドイッチのどちらにすべきか迷っていると思ったのだろう。

 そんなラジのぶっきらぼうな配慮に背中を押されるようにして、彼女は静かに右手を伸ばした。


「……あぁ、うん、そうだね。えっと、なら、この玉子サンドにしようかな」


 久しぶりに会えた二人だけの思い出と、今をあと数秒でも伸ばすかのように、花臣が言葉を紡ぐ。


「……ラジ君は、確か茄子と……。えっと、えっと……」


「あ、グリーンピース!!!!」


 記憶の底に保管してあったあの頃を探し当てたように、右手で玉子サンドを掴み取ると同時に、勢いよく顔を上げる。


「……ッハハ、よく覚えてんね。俺、まだグリーンピースは苦手」


 突然顔を上げた花臣の勢いと、予想だにしないその単語に、一瞬驚いた表情を見せたラジ。だが次の瞬間、彼女の瞳を埋め尽くしたのは――いつもの無愛想な顔から不意にこぼれ落ちた、柔らかく無邪気な笑顔だった。


 永遠のような静寂の三秒を心に溶かすと、ハッと我に返った彼女は「あ、お茶、忘れちゃった」と照れを誤魔化すように、足元の別袋から慌てて飲み物を取り出す。

 そしてそのまま、火照る顔と想いを隠すようにサンドイッチとお茶をギュッと抱きしめ、足元をジッと見つめていた。


 そんな花臣をよそに、ラジはすっかりいつもの無愛想な顔で残りのサンドイッチを取り出すと、淡々とした手つきでガサガサとその包装を剝がしていく。

 と同時に、数十秒前からその身に突き刺さる規律の視線にしびれを切らしたのか、静かに左へと向き直る。


「……足りねぇの?」


「……いえ、ご心配なく」


……ハァ、黒瀬君って人は、もう。

花臣さんとファオリオさん、あの二人は友達なんですよ?


分かってないんでしょうね、ったく。


 休日の午前中にだけ流れる、スローモーションのようなまろやかな時間。強さを増す前の、まだ穏やかな日差しと、ぽつぽつと通りすぎる車の音が溶け合い、辺り一帯を優しく包み込んでいく。


「……ヨガって、あんな部族みたいに縦飛びすんだな」


「……ですね」

「だね~」

「ピ~」


 四人は、ターゲットが潜む向かいのビルの窓――ロコモコ浜田のものであろう毛先が、ぴょんぴょんと見え隠れするのを眺めながら、摩訶不思議な朝食の時間を過ごすのだった。



***



「あ、出てきたみたい! みんな、行こう!」


 花臣の風鈴のような透き通った、どこか威勢のいい声を合図に、一斉に臨戦態勢となって立ち上がる規律とピ川。それに続き、ラジもゆっくりと腰を上げる。


 彼らの視線の先、ビルの階段から意気揚々と降りてきたのは、ロコモコ浜田と、その数歩後ろを歩くパジュだ。


「…………」


……なんだ、あの動き。


 一人焼肉にサウナまで決め込んだとしか思えないほど、心身共にプルップルに潤い尽くされた様子のロコモコ浜田が、満面の笑みでフリンジを無駄に跳ね上がらせながら降りてくる。


 が、その後方では、明らかにご機嫌斜めどころではない『ご機嫌直角』なパジュが、不満がパンッパンに詰まったしゃくれ顎を突き出し、彼の背中へ「あ? あ? やんのか? あ?」と言わんばかりにガニ股でメンチをきっているではないか。


「……ファオリオさん、中で一体何を見たんでしょうね……」


「……俺らも知らねぇ、浜田の新たな一面、だろうな」


 ファーストキスならぬファーストヨガが、『ロコモコ浜田の縦型(やり)飛び』という珍技のせいでトラウマ級の悲劇となったであろう事実に、規律とラジが心を痛めている頃。

 誘拐疑惑のほかに新たな罪状が追加されるべきロコモコ浜田は、次の目的地らしき方向を指差すと、そちらへとパジュを誘導していく。


 大通りを挟んだその向かいの歩道を、花臣・ピ川チームを先頭にして二人の後方をつける捜査一課たち。ターゲットが次に立てこもったのは、様々なフレーバーが楽しめる夏の定番、『フォーティーワン・アイスクリーム』の店だ。


「……ここ、ですかねぇ」


 早朝ヨガからのアイスクリームという、『女子高生 好きな物』で検索した結果をそのまま詰め込んだようなコースに絶句する規律たち一同をよそに、ロコモコ浜田とパジュは注文する列へと並ぶ。

 先ほどのヨガスタジオとは異なり、道路に面した一面ガラス張りの店舗ということもあって店内の二人の動向は監視できるものの、肝心の会話まで聞き取ることは不可能である。


 しかし、アイスクリーム屋さんという明らかにデート感満載の場所。加えて、ロコモコ浜田とパジュという異色の組み合わせに対する野次馬的な好奇心もあり、尾行がバレる危険を冒してでも、やはり会話の内容は探らざるを得ないだろう。


「みんな、私たちも中に入ろう! このままじゃ、パジュちゃんの命が危ないよ!」


「……まぁ、あのぉ、命は置いといて。そろそろ気温的にも涼しい建物の中には入りたいところですけど……何の策もなくこのまま入ったら、一発で僕たちだってバレちゃいますよぉ?」


 太陽の位置が上昇すると共に、じりじりと突き刺さりだす熱気と紫外線。こちらの手持ちの水分量と状況を加味すれば、会話が聞ける涼しい位置からアイスでも食べつつ、穏やかに監視したいというのが本音だ。


 話し合いの結果、メンバーのうち誰か一人をおとり(偶然アイスクリームを買いに来た同級生)として先に店内へ侵入させ、ターゲットが気を取られている隙に残りの三人が潜り込む、という作戦になったはいいものの――。


 もしもこの誘拐疑惑が純粋なデートだった場合、彼の友達である規律、もしくは学年マドンナの花臣をおとりにすると、浜田を激しく動揺させてデートを邪魔する恐れがある。パジュの居候先であるラジがおとりの場合も同様だ。

 全員の脳内に「……となると……残りは……」と、一人のビッグシルエットが浮かび上がったその時。


「私が行くピッツァ~」


 ホームランなど朝飯前だと言わんばかりの貫禄で、右腕を上空へと掲げるピ川。


「……あ、いや、でもピ川って確か、浜田と同じ中学出身だったよな?」


 中学時代の同級生でありつつも、そこまで親しい関係ではなかった、現クラスメイトの女子にデートを見られるという気まずさを配慮してあげたのか、ラジは同意を求めるように左斜め下の規律をチラッと見やった。


「そうですねぇ。同じ男性として、そこは同意し――」


「大丈夫ピッツァ~! 浜ちゃんとは、昨日も電話で恋バナしながら寝落ちしたッツァ~。私の元カレのアレッサンドロとも浜ちゃん、仲良しッツァ~」


「「…………」」


 浜田とピ川が、想像の五百倍は濃厚な関係性を築いていたことにひと驚き、そしてピ川の初出しの恋愛事情にふた驚き。

 極めつけには、その名からそこはかとなく漂うトマトとチーズの香りに、お金目的ならぬ『イタリアの本場ピザ目的』での交際だったのではという疑惑まで重なってさん驚き。


 急激な情報過多に加え、十七歳男子の小物感溢れる配慮をしてしまった恥ずかしさと、『思ったよりも女子は大人だ』という事実にラジと規律の目は完全に光を失い、過去どの例にも収まらない謎の静寂が流れた。


「よし! じゃあ、決まりだね!」


 先ほどの情報をすでに知っていたであろう花臣の穏やかな笑顔と、パチッと愛らしい手拍子を合図に、おとり役であるピ川がターゲット捕獲に向けて、進行方向をぐるっと変える。


「ピっちゃん! ピっちゃんが二人と話している隙に、私たちも上手く潜り込むから! アイスの注文だけ、四人分、お願いね」


「ラブポーション~」


 アイス用にフォーマット変更されたその口癖を最後に、花臣とグッドラックポーズを交わし、いざ出発とばかりに起動する。

 その勢いのまま、彼女のチャームポイントでもある二十七・五センチの足を大きく使い、ズンズンと物凄い速度で店舗へと消えていった。


 そしてそんなピ川の後を追うように、最終決戦の地『フォーティーワン・アイスクリーム』へと向かう花臣と虚無ブラザーズ。先行したピ川と携帯でやり取りしているのか、画面を気にしながらも先を急ぐ花臣と、その二歩後ろを歩く規律。


「……規律、さっきの――」


「ん? 何ですぅ?」


 後方から届いた声に振り向くと、二人の視線が一瞬だけ交わったものの、ラジはすぐにいつもの無機質な表情を取り繕い、左へスッと目を逸らす。


「……いや、やっぱ何でもねぇ」


「もぉ、何ですか。早く行きますよ」


 プイッと前を向きなおし、サクサクと歩を進める規律の背中を一瞬眺め、彼もまたいつもの温度で歩き出す。

 その脳内には、先ほどピ川が放った「昨日も電話で恋バナしながら寝落ちした」というフレーズが思考の網に引っかかっていた。恐らく彼女は、今回のデート(疑惑)の件に関しても、何かしら事情を知っているに違いない。


 ここにきて浮上した本件の重要参考人。しかし、今回の尾行はあくまでロコモコ浜田の誘拐からパジュの身を守るためであり、デートの真相など二の次である。ましてや、ラジ自身の真の目的はパジュが『変異』しないかどうかを見張ること。


「…………」


……規律に話して、どうすんだよ。

俺は、あいつが変異して暴れたり、人の脳を勝手にチョイチョイしたりしなきゃ、どこで誰と何してようと、別にどうでもいいんだよ、そもそも。


それに、浜田のことをピ川に聞くってのも、普通に失礼だしな。


大体、俺の仕事はあいつの変異を見張って、無事家に帰還させることであって……それ以上でも以下でもねぇ。


 自身の違和感、そして肩に乗っかる様々なわだかまりを払いのけるように、ラジは首を鳴らし、右手で左肩を軽くさする。


……ハァ、暑ちぃし、色々とめんどくせぇな……。


 目的地付近に到着した花臣のあどけない笑顔と小さな手招き。道路を映していた瞳に彼女の姿を捉え、静かにコクンと頷く。

 気持ちを切り替えたのか。それでもどこか不機嫌そうに、気だるげな足取りでパジュのいるその場所へと向かっていった。



(第21話に続く)


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

ラジはともかく、ロコモコ浜田から始まり、花臣ちゃんにピ川さん、規律など、今回は個性大爆発の回となりました(笑)


彼らが大暴れするので、削りに削りに削りに削って、ようやく第20話が完成しました……!

ロコモコ浜田のフリンジエアロビクス衣装や、ピ川さんの元カレ事情など、いつか日の目を見ることを信じて……!(笑)


ちなみにピ川さんの元カレ『アレッサンドロ君』は、イタリアからの留学生だったとのことです。現在ピ川さんに彼氏がいるかは、不明です。


そして今日は、特別ゲストとしてヨガ教室・米田にてロコモコ浜田たちのインストラクターを務めた「マチコリーヌ先生」にインタビューしてきました。

以下は、その内容です。


Q:ロコモコ浜田とパジュのヨガは、どうでしたか?

マ:実にエレガントでしたよ。特にフリンジ君は、たくわんのような艶、ぬか漬けのような深み、そして浅漬けのようなフレッシュさ!まさにパーフェクトゥ!


Q:パジュさんはどうでしたか?

マ:そうねぇ、しば漬けのようなお顔で可愛らしい感じでしたわよ。


Q:マチコリーヌ先生は漬物がお好きなんですか?

マ:いいえ、嫌いですけど。


【読者の皆様へ! ラジから切実なお願いです】


「最近、課長にサモトラされて、悔しかったっす」

「俺も初デートは無料体験レッスン派!」

「私の家の窓からヨガ米田の縦飛びが見えます」


……と、少しでもクスッとしていただけたそこのあなた!

ロコモコ浜田のヨガレッスン代として、ぜひページ下部の【星(★★★★★)】をタップして評価していただけると嬉しいです!


【ブックマークの追加】や、毎話の【いいね】も、作者とラジの生きる希望になります!


次回、ついに最終決戦の地『フォーティーワン・アイスクリーム』へ突入!!

おとり役・ピ川はターゲットの二人を上手く誘導し、無事に捜査一課を店内へ引き入れることができるのか!?


花臣とラジ、そして浜田とパジュ。

それぞれの想いが交差する中、この異色デートの結末やいかに――!


※次回は【来週月曜日の18時】に更新予定です! お楽しみに!


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